機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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すれ違い

 時刻は深夜を回り、誰もが寝静まっていた。雨宮宅も例外ではなく、夕香やシオン達が規則正しい寝息をたてながら眠っている。だがただ一人、例外はいた。

 

「……」

 

 一矢だけは違った。真っ暗な部屋で机の上のデスクライトのみを頼りにパーツのスジ彫りを進めている彼の姿があった。目の前にはフレーム状態の素体があり、これに組み込むパーツを作成しているだろう。机の上には大小様々なパーツが並べており、どれもかなり手を加えられているのが分かる。

 

 まさに今の一矢を表現するのなら一心不乱という言葉が当てはまるだろう。今、目の前のパーツのみに集中しており、今の自分を刻み付けんばかりにジッとパーツを見て作業を進めていき、夜は更けていく。

 

 ・・・

 

 今日も今日とてガンプラバトルを行っている彩渡商店街チーム。今は休憩をとっているようでベンチに腰掛けていた。

 

「へえ、ネバーランドが再オープンするんだ」

 

 ミサは携帯端末を見つめながら呟く。どうやらメールか何かのようだ。一矢にも聞こえるように言ったのだが反応はない。

 

「……聞いてる?」

「……あぁ……? ……」

 

 反応がないためにミサが隣の一矢を見れば、ベンチに身を預けてコクリコクリと頭を揺らしている一矢の姿があり、やはり徹夜での作業が身体に響いているようだ。

 今、体を近づけたミサに改めて声をかけられた一矢はビクリと体を震わせて目を覚ますが、寝ぼけているのか鈍い反応を見せる。

 

「……咲ちゃん達がネバーランドの再オープンするから一緒にどうかって誘われたんだけど……」

「そう……」

 

 ウイルスの一件でワークボットなど大損害を出してしまったネバーランドだが、ようやく立て直す事が出来たようで、近々再オープンする予定らしい。そのことで今、咲から誘われたらしいのだが、生憎、まだ寝ぼけている一矢の反応は鈍い。

 

「……ねえ、一矢ってさ……」

「……うん……?」

 

 眠気が勝っている為に先程から鈍い一矢の反応にミサはどこか複雑そうな表情で何かを尋ねようと声をかける。一体、何だろうと一矢は眠い目を擦りながらミサを見やる。

 

「……ううん。なんでもない」

 

 しかしミサから質問は来なかった。首を振って一矢から離れると、質問の内容そのものは気になるものの今は眠気の方が強いため、追及することはせず、なんとも微妙な空気が流れる。

 

「ねえ、この後一矢の家に行っても良い?」

 

 すると空気の入れ替えるようにミサから別の話題を振られる。それは一矢の家に訪問していいかと言う事であった。

 何だかんだで一矢はミサの家にちょくちょく顔を出しているもののミサが一矢の家に来るという事はなかった。丁度、眠気もある為に一矢は了承して、ミサとロボ太を引き連れて自身の家に向かっていく。

 

 ・・・

 

「おっじゃまっしまーす!」

 

 暫くして一矢達は雨宮宅に到着した。一矢に促されて家に入ったミサは靴を脱ぎながら初めて訪れた一矢の家に周囲を見渡しながら声を弾ませている。

 

「あれミサ姉さんが来るなんて珍しいね」

「これはイチャコラフラグですの?」

 

 玄関から聞こえて来たミサの声に気づいたのだろう。

 リビングの扉が開き、そこからひょっこりと夕香とシオンが顔を出すと、二人に手を振っているミサを他所に一矢はロボ太を連れてスタスタと自身の部屋がある二階に向かっていき、ミサは慌ててその後を追う。

 

 ・・・

 

「これが一矢の部屋かあー」

 

 一矢の部屋に到着したミサは小奇麗な室内を見渡しながら目を輝かせる。

 ガンプラや作業ブースと化している机など自分とあまり変わらないが、置いてある本など違いは当然あり、全てが新鮮に感じる。

 

「……適当にくつろいで」

 

 薄手のパーカーを脱いだ一矢はミサをくつろぐように声をかけると、一応来客の為にと、お茶菓子を用意しようとするのだが……。

 

「一矢、いますの?」

「あ?」

 

 数回のノックと共にシオンの声が扉の奥から聞こえてくる。夕香の部屋ならまだしもシオンが一矢の部屋に訪れるのなんて非常に珍しい。

 

「飲み物とお茶菓子を用意しましたわ。では、ごゆっくりー……。うふふふっ」

(……お母さんかアイツは)

 

 扉を開けてみれば、そこには確かにシオンがおり、その手に持ったトレーの上にはアイスティーと彼女が見繕ったであろうクッキーなどの洋菓子類があった。

 一矢にトレーを押し付けるように渡したシオンは奥のミサを一瞥すると、何を想像しているのかどこか目を輝かせており、口元に手を添えて足早に去っていく。その後ろ姿を見ながら一矢は頭が痛くなるのを感じる。

 

「あっ、これ新しい一矢のガンプラ?」

「……まだ完成には遠いけど」

 

 シオンから受け取ったアイスティーの類をミサと自分の前に置いている一矢だが、ミサの関心は机の上に置かれているフレームと所狭しと並べられたパーツ類に注がれている。とはいえ、まだ一矢からしてみれば、完成には程遠いのかシオンが持ってきたアイスティーを飲みながら苦い表情を浮かべている。

 

「楽しみだなー……」

 

 一矢はそのままアイスティーを飲み干して、机に置くとそのままベッドに腰掛ける。そんな中、ミサはこの新たなガンプラが完成した時の事を想像する。今、自分はアザレアリバイブを、そしてロボ太はプレゼントしたスペリオルドラゴンを使用してくれている。一矢もまた新たなガンプラを駆使した時、一体、どれだけのガンプラバトルが出来るのだろうかと思いを馳せる。

 

「あっ……」

 

 するとそのまま視線を動かしたミサは何かに気づいてポツリと声を上げる。

 

「懐かしいなぁ……」

 

 そしてそのまま懐かしんで目を細める。

 そこに飾られていたのは一矢と初めて出会った時に彼が使用していたガンダムブレイカーⅢとジャパンカップの時までずっと共に駆け抜けたゲネシスガンダムだ。

 やはりこの二つは一矢にとっても思い入れが強いのだろう。他に飾られているプラモデルとは違い、この二つは特に目立つ位置に飾られている。

 

「ねえ、一矢」

 

 ふと今までの出来事を思い返していたミサはそのまま一矢に振り返る。これまで色んな事があった。その事に話を咲かせようと明るい表情を向ける。

 

 しかし振り返った先にいる一矢は先程まで腰掛けていたのだが、もうベッドに寝転がっており、目も瞑って寝息をたてている。やはり遅くまで行っていた作業にガタが来たのだろう。

 

「一矢は変わんないなぁ……」

 

 先程まで明るい表情を浮かべていたミサではあるが、眠ってしまった一矢を見てその表情は見る見るうちに何とも言えないものに変わっていく。そのまま一矢の近くに歩み寄ると、指先で彼の長い前髪を掻き分けてその寝顔を見つめて寂し気に呟く。

 

「……ん?」

 

 しばらく一矢の寝顔を見つめていたミサだが、やはり一矢が眠ってしまっては彼の部屋でやる事もなくなってしまい暇を持て余してしまう。そのまま何か退屈しのぎにはならないかと室内を見渡していると、箪笥と本棚の間に何かある事に気づく。

 

「んんっ!?」

 

 隙間に落としてしまったのだろうかと手を伸ばすミサは隙間にあったものを取り出して見やれば、それは成人雑誌であった。正確に言えばシュウジから預かったものではあるが。

 しかしまさか一矢の部屋でそんなものを見つけるとは思っていなかったミサは目に見えて狼狽えてしまっている。

 

「な、なんでこんなものが!? それに何より……」

 

 エロ本を手に取って顔を真っ赤にして慌てている。

 それは確かに一矢とはいえ男なんだし興味があるだろうし、興味があって然るべきなのだがそれでも衝撃は大きい。そしてミサの視線は煽り文に注がれる。

 

「きょぉぉぉぉにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!?」

 

 そのまま憤怒を表すような恐ろしい声をあげる。ロボ太がピクリと反応するなか、それでも一矢は熟睡して起きる気配はない。

 

(……一矢の好みなんだよね)

 

 二本に結んだ髪を揺らし、わなわなと震えてエロ本を握る手に力を込めていたミサだが、途端に沈下していくと一矢を一瞥し、あった場所にエロ本を戻すと、そのまま立ち上がって部屋から出て行く。

 

 ・・・

 

「あれ、ウィルからメールだ」

 

 リビングで夕香とシオンの二人がシオンが作ったであろうピーチティーを飲みながらティータイムを過ごしていた。そうしていると夕香の携帯端末にウィルからの連絡が入る。内容は今度日本に訪れたついでに夕香を遊びに誘おうと言うものであった。

 

「あの金持ちのパツキンの事ですから、貴女に何をしようとするか分かったものじゃありませんわ」

「アンタもその金持ちのパツキンでしょうが」

 

 何気なく携帯端末を覗き見て、内容を知ったシオンはふっと嘆息しながら呟くもその美しい姉譲りのナチュラルブロンドの髪を見つめながら呆れた目で見つめる。

 

「あれどったの、ミサ姉さん」

「一矢が寝っちゃってさ」

 

 そうしているとミサがリビングに訪れる。ミサに気づいた夕香が声をかけると、苦笑交じりの返答にどうしようもないね、と呆れている。

 

「そ、それで? おふたりはなにかあったのですの?」

「だからなにもないって」

 

 折角だからとシオンがミサの分のピーチティーをカップに注いで、ソーサーの上において出すと、妙に上擦った声を上げながら変な口調で尋ねるとゲーセンでも似た事を尋ねられた時と同じように否定する。

 

(ない、か……)

 

 男女が二人っきりの一室でなにもないなんてありえませんわ! と真っ赤にした顔を両手で覆って首をぶんぶんと振っているシオンに、いやロボ太もいんでしょと宥めている夕香を他所にミサは先程のエロ本を思い出しながら自身の胸を撫でる。

 

(私って魅力ないのかなあ……)

 

 一矢と付き合ってからずっと感じてきたことがある。今日もそうであった。今も部屋で眠っているであろう一矢を想い、ミサは人知れずため息をこぼすのであった。


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