「ロボ太!」
ロボ太のメモリ空間の最深部。それはまるで玉座のような空間であった。
この空間の中心にはまるで人形のように浮かび上がっている騎士ガンダムの姿があり、ミサが反応する。
「……サタンガンダム!?」
だが騎士ガンダムだけではなく、その隣にはサタンガンダムの姿もあった。こちらも隣の騎士ガンダム同様に人形のように動きはしない。
≪ロボ太が悪い物としてイメージを投影しているんだな≫
騎士ガンダムだけならば兎も角としても、何故、サタンガンダムまでもこの場にいるのか。その理由をカドマツが推測する。
≪……私の中で育ったこの邪な気持ちは自己修復プログラムでも取り除けない≫
するとどこからかロボ太の声がこの玉座に響き渡り、ゲネシスブレイカー達は周囲を見渡す。騎士ガンダムから声を発している訳でもなく、これはこの空間……ロボ太そのものから発せられているのだろう。
≪どうにもならないこの状態を止めるため、思考をループさせ考える事そのものを止めた。私はトイボットとして欠陥を抱えてしまった。立場を弁えぬ望みを抱いてしまった……≫
ロボ太が無限ループしていることは知っている。しかし欠陥とは一体? ロボ太の望みとは? ゲネシスブレイカーとアザレアリバイブはどういうことなのだろうと顔を見合わせる。
≪ロボ太、お前の望みってのは……≫
≪言わないでくれカドマツ! トイボットの私には許されぬこと……≫
しかしカドマツだけは違った。何故ならばカドマツはロボ太から相談を受けていたのだから。ロボ太の望みに察しがついたカドマツだが、明かす前にロボ太に止められてしまう。
「……ロボ太、言ってくれ。俺達はお前の力になりたい。だがその原因が分からなかったら力になれないんだ」
≪……それは命令か≫
このままでは埒が明かない。ゲネシスブレイカーは一歩前に出ると、一矢はロボ太を諭そうとする。だがロボ太から返って来たのは一矢達にとっては望まぬものだ。
「違うよ! 悩みくらい聞かせてよ、“友達”でしょうが!」
≪……え?≫
すると次はアザレアリバイブも前に出て、ミサは必死に先程のロボ太の言葉を否定する。別に命令する気はない。ただ教えて欲しいのだ。彼を友人だと思っているから。すると先程までピタリとして動かなった騎士ガンダムとサタンガンダムは顔を見合わせる。
≪……今のもう一度、言ってみてもらえるか?≫
「……悩みくらい聞かせてよ?」
≪そっちではない!≫
すると同調しているのか、騎士ガンダムとサタンガンダムは同時にアザレアリバイブを指差しながら、先程のミサの言葉を求めると、ミサは言われるまま再び口にするが、騎士ガンダムとサタンガンダムの芸人張りのツッコミの仕草と共にロボ太に否定される。
「そ、そっちって何時の方向!?」
≪方向ではない! “聞かせてよ”の続きを!≫
珍しくグイグイと来るロボ太に驚きながら、何か聞き覚えのある事を言うミサだが、宙に浮かぶ騎士ガンダムとサタンガンダムは首を横に振り、急かすように拳をぎゅっと握る。
「……友達でしょ?」
≪ともだちと言うのは……私と……?≫
ロボ太に求められるまま、先程自分が口にした言葉をもう一度話すと、騎士ガンダム達は自身を指しながら確認する。
「私達みーんな、そうでしょ!」
するとミサは何を当たり前のことを言っているんだとばかりにアザレアリバイブの両手を広げてここにいる者達が全てロボ太の為にここに来た友達だと話し、夕香達も同意するようにクスリと笑う。
「まっ、イッチ達ほどじゃなくたって、アタシ達だってロボ太になんかあれば気にかけるくらいするよ」
「もしも悩んでいるのであれば、手を差し伸べますわ。私達は少なくてもそう出来る仲なのですから」
「そうすればもっともーっと仲良くなれるしねっ!」
口元に笑みを浮かべながら、夕香やシオン、裕喜も口を開く。ロボ太とは一矢達ほどの仲ではないかもしれない。それでも何かあれば何もしないような仲ではないはずだ。
「……私とアナタは接点が少ない。ともだち……というにはまだ浅い関係なのかもしれない」
そしてリーナも一歩前に出て、己の意見を口にする。リーナとロボ太は顔を合わせたことは何度かあっても、こうしてまともに話をすることは初めてなのかもしれない。
「……でもここから始めていきたい。だから……アナタのことを教えて。なによりもアナタの言葉で……。私はその為に来たから」
だが友達になるきっかけなどいくらでも作れるものだ。その為の一歩を踏み出したい。
リーナはまっすぐと宙に浮かぶロボ太の意志を具現化したであろう騎士ガンダム達を見つめる。
≪……では私は倉庫にしまわれたりしないのか?≫
「するわけないでしょ」
≪充電もされず脱いだ上着を被せられたままにしないのか?≫
「するわけないでしょっ!」
ロボ太はずっと抱えていた心配を口にするとミサは当たり前のように否定する。
するとロボ太はまだ安心していないのか再び確認すると後者に関しては、わざわざ言うくらいなのだからたまにやってるのでは? と心なしかどこか冷たい視線をゲネシスブレイカーから感じて、ミサは必死に否定する。
≪そうか……。私は勝手に生み出した幻影と戦っていたのだな……≫
すると騎士ガンダムは自身が邪な気持ちとまで言ったこのサタンガンダムに向き直る。
≪一つ、分かったことがある。もうこんな事は終わらせなければならないと言う事だ≫
≪元は一つ。もはや、二つに分かれている意味もない≫
騎士ガンダム、サタンガンダムそれぞれからロボ太の声が発せられる。そう、杞憂であったのならばわざわざ別れる必要はもうないのだ。
≪今のお前に相応しい姿をプレゼントしてやる≫
すると騎士ガンダム達の姿を見たカドマツは外部から手を加えると、騎士ガンダムとサタンガンダムを中心に光が発せられ、その眩さから一矢達は目を背ける。視界が鳴れたところで再び目を向ければ黄金の騎士が舞い降りていた。
≪元々は一つの存在だった騎士ガンダムとサタンガンダムが再び融合を果たした姿……。それがこのスペリオルドラゴンだ≫
その金色は紛れもなく神のごとし煌めき。その名はスペリオルドラゴン。カドマツの説明と共にロボ太が授かったスペリオルドラゴンのユニットを確かめるようにダブルソードを一振り振るう。
≪どうだロボ太?≫
「私が言うのも何だか生まれ変わったような気持ちだ!」
カドマツがスペリオルドラゴンへと変化したロボ太に調子を尋ねると、ロボットながら高揚に似たものを感じているのだろう。ロボ太が声を弾ませるのが分かる。
「ねえ悩みはどうなったの?」
「もう解決した。それよりこの新しい姿を試してみたい。相手をしてくれ主殿、ミサ!」
置いてけぼりにされているミサは遠くから声をかけると、もう先程までの悩みはどうでも良くなったのか、それより今はこの新しい力を試したいとロボ太は一矢とミサを指名する。
「行ってあげて。これはアナタ達以外じゃ務まらない筈」
どうするか悩んで顔を見合わせるように向き直るゲネシスブレイカーとアザレアリバイブにリーナからの通信が入り、後押しされる。
これは単純な実力で二人が選ばれたわけではないだろう。リーナはそう言って、夕香達と共に邪魔にならないように後方に飛び退く。
「……分かった。ロボ太、手加減はしないからな」
「思いっきりいくからねっ!」
「望むところっ!!」
リーナの言葉に頷き、一矢とミサは戦意を見せる。正直に言えば、二人もスペリオルドラゴンを手にしたロボ太の実力が気になるところであったからだ。二人の言葉に頷いたロボ太の言葉を皮切りにバトルが始まるのであった……。