ロボ太のメモリ空間にアクセスしたゲネシスブレイカー達は深い層まで突入する。すると先程まではインフォ達と類似したメモリ空間であったが、景色がガラリと変わり、西洋城を思わせるレンガ敷きの内装が広がる空間であった。その中心には輪を囲むようにロボ太が具現化させたであろう騎士ガンダム、FA騎士ガンダム、バーサル騎士ガンダムがいた。
≪そもそもヒトとは根本的に違うロボットがともだちという対等な存在になれるのか?≫
ただその場にというわけではなく、なにか話し込んでおり騎士ガンダムが手振りを交えながら提起する。
≪ロボットはヒトに従い役に立つべきものだ。対等など考えるだけバカバカしい≫
だが騎士ガンダムが提起した話をすぐさまFA騎士ガンダムが一蹴する。
≪だがヒトが間違った事をしそうになったとき、それに従わないのもヒトの為ではないか≫
しかしそこに待ったをかけたのはバーサル騎士ガンダムであった。バーサル騎士は騎士やFA騎士に意見するが…………。
≪それで主が気分を害したとしたら、役立たずだと思われるのではないか≫
≪役立たずだと思われたら我々は簡単に廃棄されてしまうではないか≫
バーサル騎士の意見にFA騎士は反論し、それに対して騎士も同意するように頷きながら意見を発する。廃棄されてしまう事こそが何より危惧すべき事柄だからだ。
≪ロボットは簡単に廃棄されてしまう。製造コストだってそれなりにかかっているのに……≫
FA騎士と騎士の意見に頷きながら、悲しみを表すかのようにバーサル騎士も項垂れながら首を横に振る。
≪ロボットは同じ物がいくらでも作れるのだ。ヒトの代わりは見つかるものではない≫
≪それよ。一人として同じではないヒトと大量生産品である我々は根本的に違うものだ≫
バーサル騎士の言葉にFA騎士がそもそもロボットと人間の違いを話し、バーサル騎士もその発言に同意する。
≪そもそもヒトとは根本的に違うロボットがともだちという対等な存在になれるのか?≫
そして騎士が問題を提起する。
≪ロボットはヒトに従い役に立つべきものだ。対等など考えるだけバカバカしい≫
そしてその提起された問題にたいしてFA騎士が一蹴する。
「──……同じ話に戻ってる」
三体の騎士ガンダムの話し合いを傍から見ていたミサは何回も同じ話題を繰り返すその姿を見て、何とも言えない様子でカドマツに意見を伺うように通信を繋げる。
≪あれが例の無限ループって奴だ。もう何十万回と繰り返しているようだな≫
繋げられた通信にカドマツは全員に聞こえるように今の騎士ガンダム達の姿を見て、説明する。そう、あの騎士ガンダム達は全てがロボ太の思考。少し前にカドマツが言ったように順番に問題と答えを繋げてい導いた答えで次の問題を提起し、また次の答え考えていく過程で出した答えがすでに通過した問題を提起してしまい全く同じ思考をまた繰り返す……。まさに無限ループだ。
≪外部からの刺激で変化するかもしれん≫
だが自分達はわざわざそんな延々と繰り返される無限ループをしている光景を見に来たわけではない。カドマツが言うように手っ取り早く変化が促されるであろう、刺激を与えに来た。
≪≪≪誰だ!?≫≫≫
丁度、ロボ太こと騎士ガンダム達がゲネシスブレイカー達の存在に気づき、同時にすぐさま身構える。
≪主殿、ミサ、それに夕香達も…………。こんなところに何をしに来た!≫
「助けに来たんだよ!」
外敵だと判断して警戒してみれば、実際にそこにいたのはゲネシスブレイカー達であった。何故自身のメモリ空間の、それもよりにもよってこんな深い場所にいるのか問いかけるロボ太にミサは切迫した様子で叫ぶ。カドマツがいうように何十万回も無限にループしているのであれば、もう見ていられなかったからだ。
≪助け? 私に助けは必要ない。今は重要な問題に取り組んでいる。邪魔をしないでもらおう!≫
「その問題は無限にループして解決できないよ!」
≪無限ループ? はっはっはっ、なにをバカなことを≫
しかしミサの助けと言う言葉が理解できないロボ太は今、提起する問題を解決するため、再び議論に戻ろうとするが、ミサは必死になって叫ぶ。だがその言葉すらロボ太には分からず、笑って一蹴されてしまう。
≪……自分じゃループしていることは分からないんだ。分かれば回避できるからな≫
「それを何十万回と…………」
ロボ太の反応を見て、予想はしていたとはいえ、カドマツはどこかもの悲しさを感じさせながら呟く。カドマツの呟きに一矢も今のロボ太の姿に悲愴さを感じてしまう。
誰もが少なからず今のロボ太の姿を見て、悲しみや哀れみを感じるなか、ただ一人そうではなく、騎士ガンダム達へ向けて極太のビームを発射し、騎士ガンダム達は咄嗟に弾かれるように散開する。
≪なにをする!?≫
「……今すべきことは悲しむことでも同情でもない。あの子を解放してあげる事だよ」
一矢達の視線が騎士ガンダム達を攻撃したウイングゼロに注がれる。攻撃されるとは思っていなかったロボ太が抗議の声をあげるなか、リーナは静かに一矢達に語り掛ける。
「……そうだな。ロボ太、悪く思わないでくれ」
「ちゃっちゃっと終わらせるからさ」
既にウイングゼロは飛び出して、三体の騎士ガンダムと戦闘を始める。ロボ太側としてもただ攻撃されるわけもなく反撃を始めており、ゲネシスブレイカーやバルバトスルプスレクスもそれぞれ獲物を構えると飛び出し、それに続くようにアザレアリバイブやキマリスヴィダール達も戦闘に加わる。
「……やはり今のロボ太ではこんなものなのですわね」
キマリスヴィダールに迫るFA騎士の炎の剣をドリルランスで受け止めると、そのままあしらうように受け流す。どこか分かっていたとはいえ、期待外れだと言わんばかりにシオンが嘆息する。
「まっ、今はその方が楽かもね」
今のロボ太に戦意を失くし始めているシオンにどういう訳か尋ねようとするロボ太ことFA騎士だが、その前に俊敏な動きに一機に近づいてきたバルバトスルプスレクスが超大型メイスを振り返って叩きつけようとしてくる為、咄嗟に飛び退くがFAガンダムの豊富な火器をその身に浴びてしまう。
≪ぐっ……何故、攻撃が……ッ!≫
「……ロボ太、今のお前がここにいる全員で一対一で戦ったとしてもお前は勝てないよ」
騎士ガンダムのナイトソードが突き出すが、ゲネシスブレイカーは易々と受け流してしまう。先程から騎士ガンダム側の攻撃がゲネシスブレイカー達にまともに直撃してはいないのだ。
「……それはアナタ自身が良く分かってる筈」
≪なに……っ!?≫
バーサル騎士と鍔迫り合いとなっているウイングゼロ。するとリーナは一矢の言葉を引き継ぐように口を開くと、その言葉にロボ太は動揺するような反応をする。
「アナタは迷っている。迷いがある限り、アナタの剣は届かない」
リーナの言葉にロボットながらロボ太が動揺したようにバーサル騎士の動きが更に鈍ったのを感じる。その隙は逃すわけもなく、ウイングゼロはバーサル騎士を振り払うとマシンキャノンをスコールのように浴びせる。
「今、楽にしてあげる」
ウイングゼロはツインバスターライフルを連結させるとそのままバーサル騎士に真っすぐと照準を合わせて引き金を引く。全てを照らさんばかりの光の奔流は戦いにも影響が出るほどに迷いのあるバーサル騎士を容易く飲み込んでしまう。ウイングゼロがバーサル騎士を撃破したのを皮切りにゲネシスブレイカー達も残りの騎士ガンダムを撃破する。
≪よし、ちょっと乱暴だったが無限ループを取り除いた≫
「……あんまり良い気分とは言えないけど」
無限ループとなる議論を延々と繰り返していた三体の騎士ガンダムを撃破し、外部からのカドマツの操作もあって無限ループは取り除くことが出来た。
とはいえロボ太を助けるためとはいえ、ロボ太が迷いがあった為、半ば数の差だけに留まらず一方的に彼を痛めつけるようなことをしてしまった為、一矢の表情は苦い。
≪さらに奥を覗いてみよう。何事もなくこんなループが生まれるわけないんだ≫
それはミサや夕香達も同じようでどこか複雑そうな表情を浮かべていると、カドマツから指示が入る。どうやらこれで終わり、と言うわけではないようだ。
「……私は言った。今すべきことはそんなことじゃない。きっとあの子は……誰よりもアナタ達を待っている筈」
しかしリーナの表情は眉一つ動かず、無機質にも感じられる。
ウイングゼロは一歩前に出ると、背後にいるゲネシスブレイカーとアザレアリバイブをそれぞれ見つめ、リーナは静かに声をかける。一矢もミサもリーナの言葉に今は何よりロボ太を助け出そうと皆でこの先の最深部へ向かうのであった。
・・・
──私は私に芽生えた邪な気持ちを隔離した。
隔離して……閉じ込めて……目を逸らし続けた。
だがそれでもその気持ちは私の中で肥大化し、私のなかで大きく育ってしまった。
──私はトイボット 玩具ロボットである。
ヒトはいつしか大人になり、玩具からは卒業していく。
そうでなければならない。
……そうでなければならない。
わたしはトイボットでなければならない。
わたしはロボットでなければならない。
────…………わたしはいつか…………ヒトリにならなければならない