「よーし、今日も頑張っていこうーっ!」
「……ん」
今日も今日とて彩渡商店街ガンプラチームはガンプラバトルを行っていた。
モニターに軍事基地内を模したバトルフィールドの光景が広がるなか、景気づけにミサが声かけると一矢は言葉短めに返事をする。
「……ロボ太?」
しかしいつまで経ってもロボ太からは返事がなかった。声かけをすれば率先して応じる筈のロボ太だが、いつまでも返事がない。怪訝に感じたミサが通信を入れると……。
≪……うむ? いや大丈夫でゴザル≫
「ゴザル!?」
ミサの呼びかけに我に返ったのか、返事をするロボ太がその口調は騎士の見た目に反してのものであった。初めて聞いたロボ太の語尾に一矢達は驚き、ミサは素っ頓狂な声を上げる。
≪あ……いや大丈夫だ! なんでもない!≫
驚いている一矢とミサの反応を見て、まずいと感じたのか慌てて取り繕いながらこれ以上の追及はないようにとバーサル騎士は先陣を切って、NPC機達へ向かっていき、残されたゲネシスブレイカーとアザレアリバイブは顔を見合わせるのであった。
・・・
しばらくバトルを続けていると、レーダー上に表示されていたNPC機達が瞬く間に消滅していく。一体、なにがあったのか、もしかしたら他のプレイヤーが現れたのか、ゲネシスブレイカーはすぐさま最後に反応があったポイントへ向かう。
「あっ……いた!」
NPC機達を破壊したであろう機影を見つけたミサは声を上げながら、アザレアリバイブで指差せばそこには跪いて動かないウイングガンダムゼロの姿があった。
「……どこかでバトルをしていれば……会えると思ってた」
「アンタ、確か……」
ウイングゼロを操るガンプラバトルシミュレーターにいたのはリーナであった。
その口ぶりから派手にNPC機達を破壊して一矢達を待っていたのだろう。一矢達はまんまと陽動させられてしまったわけだ。通信越しで聞こえるリーナの声に一応の面識がある一矢達は驚く。
「今のガンダムブレイカーを……今の私に感じさせてほしい」
今、この瞬間だけは何も考えず、感じるままに生きたい。きっとそれこそが自分の考えるヒトの生き方だと思うから。
だからこそ自分に初めて温もりを灯したガンダムブレイカーのその新たな新星の力を感じたい。ゆっくりと立ち上がったウイングゼロは左右のウイングに収納されたツインバスターライフルを両手に装備すると、ふわりと浮き上がりゲネシスブレイカー達を待ち構えるかのように翼を広げる。
「やる気満々みたいだな」
「じゃあ、早速行ってみよう!」
あまりにも美しく堂々たるウイングゼロの姿を見てニヤリと楽しそうな笑みを浮かべる一矢とミサは早速飛び出し、遅れてロボ太のバーサル騎士も後を追う。
迫るゲネシスブレイカーとアザレアリバイブに出力を調整して連射性を高めたツインバスターライフルを発砲して牽制するが、一矢達は難なく回避してウイングゼロへ距離を詰める。
しかし一人とはいえ相手はリーナだ。
すぐに牽制の手段を変え、ツインバスターライフルの威力を上げるとゲネシスブレイカーとアザレアリバイブの前方に着弾させることによって爆風と破片を巻き上げ、ゲネシスブレイカー達の動きを鈍らせるとすぐさま飛び出しながら左右のウイングにツインバスターライフルを収納し、マシンキャノンを発射する。
ただやみくもに弾をばら撒く様な撃ち方ではなく、関節やスラスターといった機動性を損なうような個所に狙ったマシンキャノンの弾丸はゲネシスブレイカー達の動きを妨害させ、あっと言う間に近づいたウイングゼロはビームサーベルとウイングを薙ぎ払うように叩きつけ、ゲネシスブレイカー達はあっと言う間に吹き飛ばされる。
「やるな……。やっぱり翔さんの知り合いだからか?」
「うん、ずっとバトルをしてたいくらいだよ!」
物の数分で実力差を見せつけたリーナだが、それでも一矢達は強敵の出現にガンプラファイターの誇りが疼いているのか、楽しそうに声を弾ませるとミサのずっとという言葉にロボ太が反応する。
≪……主殿≫
「……ん?」
再びバトルを続けようとした矢先、不意にロボ太から一矢に通信が入る。特に指示を仰ぐわけでもない神妙な様子に不思議に思いながらロボ太の言葉を待ち、リーナも動きが止まった三機を見て、なにかあったのかと動きを止める。
≪主殿はこの先もガンプラバトルを続けるのか? 今のように毎日のようには無理かもしれないが、その……週に一度……いや、月に一度……≫
「いきなりどうしちゃったの?」
いきなり深刻そうな話を振られて反応に困っている一矢。それはミサも同じようで、今日ずっと様子のおかしいロボ太に通信をいれる。
≪ミサはどうだ? ずっとガンプラバトルを……≫
「そんなの分かるわけないでしょ、来年受験だし。もー……やな事、思い出させないでよ、盛り下がるなぁ」
先程の問いかけは今度はミサに向けられる。どこか縋るかの物言いだが、それよりもミサは目先の受験という嫌な記憶が出てきてしまった為、ロボ太の変化に気づかず、思い出させたロボ太を非難するように文句を言う。
≪あっ……すまない……。今の私はどうかしている……。カドマツにメンテナンスを頼んでくる≫
「え、ちょっとロボ太!?」
ミサの非難するような物言いにトイボットである自分が楽しかった筈の雰囲気を壊してしまったと自責の念のようなものに駆られたロボ太はそう言い残して、一方的にログアウトしてしまいミサや一矢は唖然としている。
「ロボ太、どうしちゃったのかなあ?」
「……なんだろうな。俺達のこれからのことを気にしてたみたいだけど……」
ここ最近、どこかギスギスしていたミサと一矢だが、流石にロボ太の様子がおかしいともなれば、いがみ合っている場合ではなく、互いにロボ太を心配する。
「ねえカドマツのところに行ってみない? ロボ太が心配だよ」
「……そうだな。流石に見過ごすわけにもいかないだろうし」
しばらくロボ太について考えるが、答えは出ず、たまらずミサが提案すると一矢も頷き、先程までバトルをしていたリーナに悪いが今回はこれで、と通信を入れようとするが……。
「……私も付いて行っていい?」
「えっ……なんで?」
一矢が通信を入れるよりも先にリーナから通信が入り、同行を求めるその言葉に一矢達は驚く。リーナとはあくまで面識はあるが、そこまで互いを深く気にするほどの仲ではないからだろうからだ。
「……アナタ達が言うロボ太……。動きがおかしかったのはバトルをしている私にも分かる。もしも何かを抱えているのであれば……私も力を貸してあげたい」
先程のバトルもゲネシスブレイカーとアザレアリバイブが専横するばかりでバーサル騎士の動きは拙かった。もしも悩んで苦しんでいるのであれば、かつての自分がそうしてもらったように今度は自分が力を貸したかった。リーナのその言葉に、なら、と了承する。
・・・
「……もしもし」
ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢達は早速ロボ太が向かったカドマツの自宅へ向かおうとするが一矢の携帯端末に着信が入る、相手は夕香であった。
≪もしもしイッチ? あんね、今裕喜やシオンと一緒にいんだけどさ。さっき、ロボ太を見かけたんだよね≫
「お前たちが?」
≪うん、流石に周りに誰もいないトイボットがあんなに急いでどこか行こうとしてたらだと目立つし。気になって後を追っかけてんだけどさ、なんかあったの?≫
それは三人で遊び歩いている夕香達がロボ太を目撃したというものであった。ロボ太だけが行動しているのを不思議に思ったからロボ太を尾行しつつ一矢達に連絡したようだ。
「俺達に分からない……。でも……今から知りに行く」
≪オーケー。んじゃ、アタシ達はこのまま追ってるから≫
ロボ太が今、何を考え何を抱えているのかは分からない。だがそれをそのままにして良い訳がない。
ロボ太を心配する想いを乗せながら口にすると、近くにいるミサやリーナは頷き、電話越しでもその想いを感じ取った夕香達も兄達にとって大切な存在であろうロボ太の後を追うことにする。夕香の言葉に「分かった」と口にした一矢はミサとリーナと共にカドマツの自宅へ向かう。
・・・
≪トイボットである私が楽しいはずの時間に水を差してしまった!≫
一方、そのロボ太は夕香達に後をつけられているとも知らぬまま、カドマツの自宅へ駆け込み、仕事部屋で製作者であるカドマツの前で彼の所有品であるスピーカーを通じて懺悔するかのように先程のミサ達とのやり取りを伝える。
「そんなこと気にしてんのか? 作った俺が言うのもなんだがお前は本当によく出来た奴だな」
≪……作ったカドマツに言うのもなんだが……私はきっと不良品だ! 工業製品は与えられた仕事をこなさなくてはならない!≫
「まあ確かに工場のワークボットなら決められた仕事をすることこそが仕事だ」
話を聞き終えたカドマツは苦笑交じりにまるで我が子を褒めるかのようにロボ太を称賛すると、ロボ太は俯き加減で首を振りながらあくまで工業製品のカテゴリに入る自分が和を乱すような事をしてしまったと思い、己を不良品とまで主張する。ロボ太の工業製品の言葉に一理はあると頷いている。
「でもお前はワークボットじゃない。トイボットの仕事とはなんだ?」
≪持ち主と共に楽しく遊ぶことだ≫
だがロボ太はワークボットではなくトイボットなのだ。同じロボットのカテゴリでもその意味は大きく異なる。カドマツの問いかけにロボ太はトイボットにとっての仕事を答える。
「楽しければいいのか?」
≪それは違う。社会性を伴って正しく健やかに楽しまなければ! だからこそトイボットには周囲の環境を学び、自身が社会性を獲得できるように設計されている≫
だがただ楽しければいい、なんて言うのはトイボットの仕事とは反することだ。それは何よりロボ太自身が一番分かっている事であり、トイボットの設計思想について話す。
≪持ち主と共にトイボットも成長しなければならない!≫
「そうだ、一緒に遊び一緒に学ぶ。それが俺が目指すトイボットなんだ」
強くトイボットについて言い放つ。その言葉に大きく頷きながらエンジニアとしてこれまでトイボット開発にこめた想いを口にする。
「ヒトの世界でそういう存在をなんて言うか知ってるか?」
≪む?≫
そしsて何よりそんなトイボットを人間の世界で的確に表せる言葉がある。
それこそが何よりカドマツがトイボットへ込める理念なのだ。ロボ太はそれが分からず、カドマツをじっと見る。
「ともだちだ」
カドマツのその言葉はロボ太の記憶回路に強く刻み込まれた──。