機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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JUST COMMUNICATION…?

 ──私はトイボット 玩具ロボットである。

 

 ハイムロボティクス商品開発室で初めて起動したことを覚えている。

 右も左も分からぬ若輩ながら彩渡商店街のとある玩具店にて【ロボ太】というパーソナルネームも授かった。

 ロボットであることをそれとなく主張しつつ古風な響きで大人の覚えよく、短くて子供にも覚えやすいなかなかの名前だと思う。これが製造番号のまま呼ばれていたら私の毎日は今より色あせたものだったのかもしれない。

 

 名を授かり、それと同時に主と出会い多くの強敵とガンプラバトルを戦う日々……。

 ヒトと共に遊ぶために作られたトイボット冥利に尽きると言うものだ。

 

 

 

 ──しかし……私は知っている。

 

 

 

 この素晴らしき日々は永久に続くものではないということを。

 ヒトはいつしか大人になり玩具からは卒業していくということを……。

 

 

 ・・・

 

「おらおらー! 悪い敵はいねえがーっ!? 出てこいやコラァーッ!!」

 

 今日も今日とてイラトゲームパークにてガンプラバトルを行っている彩渡商店街ガンプラチーム。しかし今日のミサはえらく荒れており、バトルが開始されたからというもの鬼のような言動と荒々しさをもって次々に現れるNPC機達にぶつかっていく。

 

≪……頭でもぶつけたのか?≫

「そんなんじゃない!」

 

 あまりに荒れているミサを見かねてロボ太が通信を入れると不機嫌さを隠さずに答える。

 

≪どうした、そんなにイライラして≫

「昨日、父さんに怒られた。店番サボっただけなのに……」

≪ミサが悪い≫

 

 ではなにがあったのだろうか。何かあるのであれば力になろうとロボ太が原因を探ると、どうやら先日、ロボ太に店番を任せてイラトゲームパークで女子会をしていた事をこっぴどく叱られたらしく、ぶすくれながら答えるミサに内容が内容なだけあって即答でロボ太に切り捨てられてしまう。

 

「なんだよもぅ! ロボ太もそっち側か!」

≪そっちとは何時の方向だ?≫

「方向じゃない! 父さんの味方なのかってこと!!」

 

 バッサリと言われてしまったので今度は矛先がロボ太に向かってしまう。

 だがロボ太も天然じみた返答をすると、ズッコケそうになりながらも吠えるように問いかける。

 

≪そもそも店番という役目を放棄したのだ。罰を受けるのも仕方あるまい≫

「大人の意見か! そんなことは聞きたくない! 花も恥じらう17歳が大人しく店番なんてしてられるかー!!」

 

 別にこの場合、どちらかの味方と言うわけでもないし至極真っ当な意見なのだが怒りの収まらぬミサはさながら駄々をこねる子供のように叫んでいる。

 

「大体、一矢は鈍感だしさ!」

「……またそれかよ。だから何なんだよ」

「一矢にはもう少し女心ってのを理解してほしいってこと!!」

 

 今度の矛先は一矢に向けられる。どうにも先日の電話のやり取りがまだ根に持っているようだ。しかし鈍感だと言われたところで意味の分からない一矢は顔を顰めながら不機嫌そうに尋ねるが、それをわざわざ説明する事は出来ないのか、遠回しながら言い放たれてしまい首を傾げる。

 

「どうせ後少しで呑気に遊んでられなくなるのにさー」

≪む……?≫

 

 今は時間があるのだ。だが何れはこんな風に自由でいられる時間はなくなってしまう。その事に触れるミサにロボ太が反応する。

 

「来年の今頃は受験勉強かぁ……。あぁ……辛い時が見える……」

「人間の知恵はそんなもんだって乗り越えられ……るかなぁ……」

 

 そう、彼はまだ学生の身。いつまでも遊んでいる訳にはいかないのだ。これからの事を考えて憂いているミサに先程まで彼女と剣呑な雰囲気すらあった一矢は頭の片隅に追いやっていた現実を突き付けられ項垂れてしまっていた。

 

 ・・・

 

 如月翔が住んでおり、そして今では異世界の住人達が揃って居候しているこのマンションの一室。リビングではリーナが窓から差し込む輝く太陽の日差しを浴びながらソファーで雑誌を読んでいたが、ふと何かを考えるように窓を見やる。

 

「どうかしたのかしら、リーナ」

 

 しばらく窓から見える空を眺めていたリーナに気づいたレーアが声をかける。手には人数分のコップと飲料水などが載ったトレーがある。リブングから遠巻きにルルやヴェルとカガミの話し声が聞こえており、今から昼食をとるところだ。

 

「……私とお姉ちゃん達が初めて出会ったのはこのくらいの季節だったかな……って」

「そう言えばそうね」

 

 リーナが翔達と出会ったのはパナマ。確か季節は夏だったはずだ。あそこでちゃんとお互いを知り合ったわけではないが戦場で接触した。

 あれから年月も経ち、レーアは懐かしみながらテーブルにトレーを置き、後から簡単な昼食を作り終えたルル達三人が料理を持ってくる。

 

「……私は空っぽな人形だった。でも今は違う……。今のは私は心から笑う事も泣く事も出来る。それはお姉ちゃん達に出会えたから。感謝してる、私の心を満たしてくれたことを」

 

 かつて触れたようにリーナはかつて代わりを求められた人形であった。空っぽであった彼女はさながら殺人マシーンのように戦場でその猛威を振るったが、今では違う。今は心から言う事が出来るのだ。

 

「それは私達も同じことよ。どんな理由であれあなたが生まれて来てくれたことを感謝してるわ。これからもアナタの人生を……そうね、アナタの良いパートナーが見つけられるのを楽しみにしているわ」

 

 だがそれはレーア達も同じ事だ。リーナがいたからこそ感じた事も考えた事もある。ハイゼンベルグ姉妹の真っ直ぐな言葉にヴェルやカガミ達も互いの顔を見合わせてクスリと笑う。

 

「……そうだ、その事なんだけど……。私もあれから恋のことを調べてみたんだ」

 

 ふとレーアの言葉に何かに気づいたリーナは声を上げると、何だろうとレーア達は僅かに首を傾げる。恋について知りたがっていたのは知っているがわざわざ調べる事ではないと思うのだが、折角なのだからとその後の言葉を待つ

 

「愛し合うと性行為をするんだよね、この雑誌に載ってるみたいに」

 

 レーア達の背後に落雷が落ちる。

 衝撃的な言葉と共にリーナから先程まで彼女が何気なく読んでいた雑誌を向けられる。その雑誌とは成人雑誌。俗に言うエロ本であった。

 

「色あせない熱い想いを身体中で伝えるんだよね? その肩を温めるように抱くんだよね?」

「リ、リリリリ、リーナぁっ!? そんな雑誌をどこでぇっ!? 買ったの!? 買ってきてしまったのかしらぁ!?」

「おおおお、落ち着いてください、レーアさん!! ひっひっふー! ひっひっふうぅぅぅぅぅ!?」

 

 どこまで無垢な表情でエロ本を向けてくるリーナと相対しているレーア達はよもやこんな行動をとるとは思っていなかった為、錯乱しており、リーナに問い詰めるレーアにグルグルと混乱しながらルルは静止している。

 他にもヴェルはあわあわと慌てふためいており、カガミに意見を求めようとするがカガミは石のように固まって一ミリも動かない。

 

「この雑誌ならこの家に隠されてあった。恋をすればこういった行為をするんだよね」

「そ、それ以上読むのは良くないと思うなぁっ! リ、リーナちゃんにはまだ早いしね? だからまじまじと読むのはやめてぇぇぇ!!!」

 

 錯乱しているレーア達を知ってか知らずかこの雑誌の出所を明かしながらペラペラと雑誌を読んでいるリーナにそんな姿は見たくないのか、ヴェルは顔を真っ赤にしながら引っ手繰るようにエロ本を取り上げる。

 

「誰がこんな雑誌を……まさか……」

「翔君……もしくは……シュウジ君……?」

 

 ようやく我に返ったカガミはこの雑誌を買って来たであろう人間について触れる。少なくとも今この場にいる女性陣ではないのだ。であれば今この家に長くいる男2人しかいないだろう。

 

「……どっちにしろ……で、でもこういうのが好みなんだよね……!? これがもしシュウジ君のだったら……!?」

「か、考えたくはないけれど翔だって男性なのだから、興味があっても不思議ではないのよね……!?」

 

 ペラとリーナから取り上げたエロ本を捲りながら、その内容を見て顔を真っ赤にするヴェル。その呟きに、これがもし想い人の好みなのであればと、レーア達もヴェルが持つエロ本を中心に囲みながらゴクリと息を飲みながらその内容に目を通す。

 

「……結局、恋ってなにをするの?」

 

 顔を真っ赤にしながらこれがもし想い人の好みなのだとしたらと悶々としているレーア達の姿を見ながら、答えの得られなかったリーナは黙々とヴェル達が作った昼食を一人食べ始めるのであった。

 

 ・・・

 

「そう言えばシュウジ……。お前、給料は何に使ってるんだ?」

 

 ところ変わってブレイカーズ。翔はショーケース内のプラモデルの整理をしながら近くで品だしをしているシュウジに声をかける。働いている分、ちゃんと給料を渡してはいるが、その使い道はどうしているのだろうか。

 

「基本、たまに一矢達に奢ってやるかくらいっすかね。あんまり使い道はねぇんで」

 

 これまでも何度か一矢達に奢ってはいるが、その理由はやはりこの世界の金なのでこの世界でしか使い道がないと言うのが大きな理由であろう。

 

「あっ、でもこの間、エロ本を買いました」

「は?」

「いや俺達の世界じゃ物珍しいんですよね、紙ってのが。なんだかあのアナログな感じに惹かれて他の雑誌と一緒に買いました」

 

 しかしその後、何気なく放たれたシュウジの言葉にショーケース内を弄っていた翔の動きが止まり、怪訝そうにシュウジを見ると彼は軽く笑いながら答える。その口ぶりから内容どうのと言うより、単純な物珍しさから買ったようだ。

 

「……買うのは自由だが、レーア達の目の届く場所にないだろうな? 特にリーナには悪影響になる可能性が……」

「そりゃ俺だってそこら辺の気は使いますよ。リーナに変な知識を覚えさせたらレーアさんどころか他の奴らにも殺されそうですし」

 

 一瞬、頭が痛くなるのを感じながらそこはあくまで個人の自由と割り切り、それでもまだ自分にとって幼いリーナに悪影響にはならないようにと尋ねる翔にシュウジもちゃんと隠していると堂々と答える。まぁ、そのリーナにはもう既に見つかっている訳だが。

 

「って言うか、お前にはヴェルがいるだろ……」

「……ヴェルさんってガードが固いし、そういう流れに持ってくのが難しくて……。お陰でまだキスも出来ちゃいねぇ」

 

 いくらアナログ感に惹かれたからと言って彼女がいるのだから不必要だとは思うが、付き合ったからと言って、すぐに何でもできるわけではなく、シュウジはどこか遠くを見ながら答える。

 

「付き合ったらゴールって訳じゃないんだな……」

「……寧ろ始まりでしょ。翔さんだって相手が見つかりゃ分かりますよ」

「……あぁこのことに関してはお前や一矢君の方が先輩だな」

 

 そんなシュウジの姿を見て、悶々とした日々を送っているのを感じ取った翔の呟きにシュウジはぼやくように答えると、翔も似たように答える。

 もっともこの二人はまさか女性陣が自分達のどちらかがエロ本を買って、そういった性癖があるのかと自分に照らし合わせて妄想しているなどと思いもしていないわけだが。


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