機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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自分というマニフェストを掲げて

 遂にお台場を舞台にしたゲネシスブレイカーとがガンダムブレイカー0の戦いの火蓋が遂に切り落とされた。既に二機の周囲には解き放ったスーパードラグーンとフィンファンネルが縦横無尽に駆け巡り、バトルをより一層、苛烈に引き立たせる。

 

(……っ……。流石に遠距離でのバトルは分が悪いか)

 

 ゲネシスブレイカーのスラスターウイングからは光の翼のような噴射光を発せられ、流星のように尾を引きながら目には捉えきれぬ圧倒的な加速を持ってブレイカー0を翻弄しようとする。

 しかしブレイカー0は動揺する気配も見せず、ただゆっくりとビームライフルを構えてその引き金を引くとビームはまるで吸い込まれるかのようにゲネシスブレイカーに迫り、咄嗟にGNソードⅤで弾きながら飛行を続ける。

 

 翔が遠距離を、狙撃を得意とするファイターであることは一矢は重々承知だ。

 だからこそゲネシスブレイカーの機動力を持って翻弄しようとしたのだ。ゲネシスブレイカーも自身の調子もこれまでにないくらいのまさに絶好調であった。しかしそれでも翔にはまるで意味をなさなかったのだ。

 

 苦々しい表情を浮かべる。だがそれでもすぐに意識を切り替える。いつまでも引き摺っていても仕方のない事だし、なによりそんな状態で翔には勝てない。今は己の全てをぶつけるしかない。

 

 そう、己の全てをだ。

 

「……来たか」

 

 ブレイカー0のガンプラバトルシミュレーターで翔はモニター越しに捉えるゲネシスブレイカーが紅い閃光を放ったのを確認すると、先程まで捉えていたゲネシスブレイカーがもっと、いや爆発的な加速をして自身の視界からも消えたのを見て、それが覚醒である事を察知する。

 

 するとモニター越しに一瞬、影が出来たのを見た。目を見開いた翔は咄嗟にビームサーベルを引き抜きながら振り返り薙ぎ払うように振るうとそこには既にゲネシスブレイカーがGNソードⅤを振りかぶっており、ビームサーベルとGNソードⅤはぶつかり合い、周囲にスパークを起こす。

 

「っ!?」

 

 交わる刃と刃。しかし鍔迫り合いとなった瞬間、ブレイカー0は腰部のレールガンをすぐさま展開し至近距離で放ち、ゲネシスブレイカーに損傷を与え、よろめいたところを蹴り飛ばす。

 

 吹き飛んだゲネシスブレイカーにブレイカー0はすぐさまレールガンとビームライフルの引き金を引くことで追撃を仕掛ける。体勢を立て直そうとするゲネシスブレイカーではあるが、追撃をまともに受けてしまいみるみるうちに損傷してしまう。

 

 だがそこで翔は油断しない。絶え間なく射撃をする合間にスーパードラグーンを掻い潜ったフィンファンネルを数基、ゲネシスブレイカーに差し向ける。

 

「……ほぉ」

 

 だがゲネシスブレイカーはスクリューウェップを装備すると、そのまま体勢を立て直すのと同時に一回転し遠心力を利用して迫るフィンファンネルの何基かに直撃させる。そのままGNソードⅤをライフルモードにバックパックの大型ビームキャノンと共に放つことによって自機に迫るフィンファンネルを破壊するとビームシールドを展開してブレイカー0の射線上から逃れる。その姿を見た翔は素直に感心すると共に覚醒によって、もはや翔でも捉える事が難しいゲネシスブレイカーを追おうとする。

 

 ゲネシスブレイカーはブレイカー0を翻弄しつつスーパードラグーンを呼び戻すと、両肩のフラッシュエッジⅡを投擲する。迫るフラッシュエッジⅡを難なく避けるブレイカー0であったが、すぐさまゲネシスブレイカーがGNソードⅤの引き金を引いて放ったビームがフラッシュエッジⅡのビーム刃に直撃してビームが拡散し、その余波を受けたブレイカー0はよろめていしまう。

 

 それを見逃すゲネシスブレイカーではない。すぐにブレイカー0に接近するとGNソードⅤをソードモードに切り替えてブレイカー0に突き出し、刃がブレイカー0のコクピット部分に迫る。

 

「っ!?」

 

 だがGNソードⅤがブレイカー0のコクピットを貫くことは決してなかった。

 何故ならばビームサーベルを展開したブレイカー0が受け止めていたからだ。思わず目を見開いて驚愕する一矢だが驚きはそれで終わるわけではなかった。

 

「流石だな、一矢君。覚醒の力を使いこなせている」

 

 対して翔はいまだ余裕綽々と言った様子で静かに答えてゲネシスブレイカーを振り払うとブレイカー0に変化が起きる。なんとブレイカー0の両腕とシールドの装甲が展開し内部のサイコフレームが露出したのだ。

 

「だが覚醒を使えるのは君だけじゃない」

 

 しかもそれだけではなかった。ゲネシスブレイカーと対峙するブレイカー0のメインカメラが光り輝き、その輝きは全身を包むようにゲネシスブレイカーと同じ赤き閃光を放つ。

 

「……そうでないと」

 

 覚醒を発現させたブレイカー0を見て、一矢の表情は綻ぶ。

 別に翔が覚醒を使える事には然程驚いていない。何故ならば、元々ガンプラバトルが初めて行われたGGFの時代から翔は覚醒を発現させているのだから。一矢が知る限り、翔が初めて覚醒の使い手となったファイターであろう。

 一矢が知る由はないが、エヴェイユである翔はガンプラバトルのシステムである覚醒を使用する必要はなかったが、ここでGGFから久方ぶりに覚醒したのだ。

 

(……俺は今、あの時見上げていた存在とバトルをしているッ!)

 

 再び覚醒したブレイカー0とゲネシスブレイカーはぶつかり合う。

 しかしブレイカー0は先程までとは違い、両腕のビームトンファーを展開して嵐のような剣撃を放ち、ゲネシスブレイカーは対応するには手一杯だ。だがそれでも一矢の表情はみるみるうちに歓喜の色があふれ出る。

 

(遠かった存在が今、目の前にいるんだッ!)

 

 GNソードⅤを突き出すゲネシスブレイカーだが、ブレイカー0はひらりと受け流すと、そのままバックパックの大型ビームキャノンを破壊しレールガンを放つ。損傷を知らせるアラートが響くなか、一矢は笑みを浮かべる。

 GGF時代、モニターをいていた人の波を掻い潜って見上げていた憧れのガンプラファイター。ずっとその背中を目指していた。まだまだ距離を実感する事はあった。だが現に今は目の前にいる。今、あの時の憧れは自分を、自分だけを見てバトルをしてくれているのだ。

 

 損傷を受けた硝煙が立ち上るなか、爆炎からスーパードラグーンが展開される。すぐさま残ったフィンファンネルで対応しようとするブレイカー0だが数が足らず、自機を狙った射撃攻撃が迫り回避する。

 

「ッ!」

 

 だがここで翔も顔を顰める。硝煙から飛び出したゲネシスブレイカーはGNソードⅤを逆手に構えて流星螺旋拳を放ったのだ。

 咄嗟にシールドで受け止めるブレイカー0であったが、計算通りだったのだろう。Iフィールド発生装置ごとシールドを抉ったゲネシスブレイカーはそのままマニビュレーターを輝かせ、パルマフィオキーナで完全にシールドを破壊する。

 

 それだけでは終わらない。すぐにゲネシスブレイカーのマニビュレーターが燃え盛る炎のような紅の輝きを放ち、バーニングフィンガーがブレイカー0の左腕を粉砕する。

 

 すぐさま残ったビームトンファーで切り上げるブレイカー0だが、頭部バルカンを発射してブレイカー0の頭部に損傷を与えながらゲネシスブレイカーは一気に離脱し、矢次に放たれるレールガンを掻い潜りながら再びブレイカー0に迫る。

 

 互いの機体は既にボロボロであり、決着がいつ決してもおかしくはない。既に人間には捉えきれないほどの機動力を発揮するゲネシスブレイカーはブレイカー0を撃破しようとGNソードⅤの刃を輝かせる。

 

 ゲネシスブレイカーの機動力はもはや人間には捉えるのも難しいだろう。

 

 ……人間には

 

「──ッ!?」

 

 我武者羅なまでに夢中になっていた一矢はGNソードⅤの刃をブレイカー0に突き出す。これで決まる、半ばそんな確信を抱いていたのかも知れない。だが現実は違った。何故ならば目の前にいた筈のブレイカー0は忽然と姿を消したのだから。

 

 背後にブレイカー0の反応があった。咄嗟に振り返るゲネシスブレイカーが見たのは、自分や先程までブレイカー0が放っていた紅き覚醒の光ではなく、ネバーランドなどで見た虹色の光を纏うブレイカー0がそこにいた。

 

「……」

 

 そしてブレイカー0のガンプラバトルシミュレーター内の翔の瞳はオーロラ色の輝きを放っているではないか。ブレイカー0はツインアイをより一層輝かせながら、右腕のビームトンファーですれ違いざまにゲネシスブレイカーを両断するのであった。

 

 ・・・

 

「……負けた、か」

 

 暗転したガンプラバトルシミュレーター内で一矢は一人呟く。あそこで翔に勝てると思っていた。

 だが現実は違ったのだ。あの虹色の輝きはネバーランドで目撃した事がある。覚醒が翔の本気ではない。虹色の輝きを放ったあの状態こそ翔の本気なのだろう。その片鱗に触れられただけでも良かったと一矢は微笑む。

 

「……!?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターを出て来た一矢に大歓声が巻き起こる。

 GGF博物館に訪れていた観光客達が一矢を拍手で出迎えているではないか。

 思わず事態に唖然とする一矢だがガンプラバトル発祥の地であるお台場の、しかもGGF博物館でガンダムブレイカー隊の、それこそ始まりのブレイカーである如月翔と世界大会優勝者であり、新たなブレイカーである雨宮一矢の全身全霊のバトルは話題を呼び、多くの一般客を熱狂させたのだ。

 

「一矢君、お疲れさま」

「翔さん……」

 

 そこにガンプラバトルシミュレーターから出て来た翔が声をかけ、一矢は翔に向き直る。翔も一矢と同様、バトルに満足しているのだろう。とても晴れやかな表情を浮かべている。

 

「本当に良いバトルだった……。君と出会えて、本当に良かったと思っている」

「っ……。俺もっ……翔さんに出会えて、あぁやってバトルが出来てっ……本当に良かった……! また……バトルをしてください!」

「勿論だ。次は俺もネクストでバトルをしよう」

 

 正直に話せるのであれば、あくまで翔は覚醒でバトルをするつもりだった。

 だが予想以上の力を発揮した一矢に翔は無意識にエヴェイユの力を発揮したのだ。ここまで心躍るようなバトルは本当に久方ぶりだ。心からの言葉を送る翔に一矢は胸が熱くなるのを感じながら翔が指し伸ばした手を握り、握手を交わすと再び大歓声が起こる。

 

「雨宮さーんっ!」

 

 握手を交わしていると一矢を呼ぶ子供の大きな声が聞こえ、手を離した一矢が見やれば、そこには多くの子供たちが翔と一矢を囲むように押し寄せて来たのはないか。

 

「バトル、すっごい格好良かった!」

「俺、一矢兄ちゃんみたいなファイター目指すっ!」

「ガンプラの作り方とかバトルのコツとか教えてっ!」

 

 次々に翔と一矢への子供達の憧れの言葉送られるなか、一矢は自分を目指すと言われ驚き、どうしたら良いのかとオロオロと困惑してしまっている。

 

「君はもうただのファイターじゃないんだ。君を目指す存在が出てきてもおかしくはないだろう?」

 

 そんな一矢の肩を優しく触れながら翔が微笑む。

 かつて一矢がGGFで見た翔のバトルで彼に憧れたように、ここにいる子供達も翔と一矢のバトルを見て、翔だけではなく、一矢にも憧れたのだろう。

 

「……そっか。分かった、俺で良ければ教えるよ」

 

 自分がそうであるように、自分の背中を追いかけようとする存在がいる。頷いた一矢は子供達の頼みを了承して翔と共に子供の手を引きながら作業ブースへ向かう。

 

(0から始まって今に至り、そして未来へ繋がっていく……か……。人の生き方ってそういうのなのかもしれないな)

 

 翔と共に作業ブースで子供達に自分なりにガンプラを教えながら人知れず一矢は感慨深そうに考える。翔とシュウジから繋がって今、自分がいる。もしかしたらこの先の未来、下手をすればこの中から自分に続く存在が、新たなガンダムブレイカーが現れるのかもしれない。そうでなくてもここで培った経験が新たな自分に繋がるのかもしれないとそんな事を想いながら一矢は不器用なりに教えるのであった。

 


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