「翔さーんっ!!」
物販に訪れた翔は目ぼしいものがないか何気なく散策していると不意に自分を呼ぶ聞き覚えのある声に顔を向けた瞬間、胸に軽い衝撃が飛び込んでくる。
「見て見てっ! 限定品買えたよっ!」
「良かったな」
誰かは分かるが自身の胸を見やれば特徴的なお団子ヘアが見える。
すると顔を上げた風香は愛嬌のある笑顔を浮かべながら先程購入したとみられる限定品のプラモを見せる。あまりに嬉しそうな笑顔を見て、ついつい翔も微笑を浮かべる。
「まったく翔さんを見た途端、飛び出しよって……。お前はペットの犬か何かか?」
「風香ちゃんはそこらのワンちゃん以上に可愛いけどねー。翔さんは風香ちゃんをペットにしたい? わんっわんっ!」
翔に抱き着いている風香に先程まで一緒に行動を共にしていた碧が後から追い付きながら幸せそうな表情を浮かべている風香に呆れ交じりに声をかけると、いつもの調子でおどけながら犬の鳴きまねをしはじめ、何を言ってるんだコイツはとばかりに翔はため息をついている。
「あっ、翔さん! PGアルビオンがあるよっ。風香ちゃんと一緒に作ろうよっ!!」
「……店にも俺の家にもおけるか、あんなもの」
「そんな道理、翔さんの無理でこじ開けてっ! 風香ちゃんとの愛の結晶を作ろーよっ!」
流れるように翔の腕に自身の腕を絡ませた風香は展示されているPGアルビオンと一応、店頭販売されているPGアルビオンの巨大なケースを指差しながら、翔に提案するとユウイチ同様却下されてしまう。だが風香はそれでも無茶を言ってくるため「アホ言うな」と嘆息する。
「いやぁモテモテですねぇ」
「アナタは……」
そんな翔に声をかける者がいた。見やればコスプレ用の青色の地球連邦軍の軍服の上にエプロンを着用したかなりの図体の巨漢の男性がいた。翔も面識があるのか、僅かに驚いている。
「久しぶりですね、ガンプラライフは順調ですか?」
「まあ……それなりには」
この男性はかつてGGF時代に物販に身を置いていた男性だ。
翔もGGF時代に何回か顔を合わせている。久方ぶりの再会に笑みを交わしながら言葉を交わす。
「こうしてアナタに会うとあの頃を思い出しますよ。ガンプラバトルはもうプレイしたんですか?」
「少しだけですがね。ボチボチやっていきますよ」
GGF時代でもそうであったが、どうやらこのGGF博物館でも物販担当しているようだ。ショップ店員の男性の問いかけに翔は物販同様に賑わいを見せているガンプラバトルシミュレーターがある方向を見やりながら答える。
・・・
「マウンテンサイクルか」
「マウンテンサイクルだなあ」
「マウンテンサイクルねー」
ユウイチ達三人の大人から何とも言えない感慨深いような声が漏れる。
今プレイしているステージは火山ステージであり、灼熱の大地と轟々と流れるマグマが特徴的だ。
「この辺りから何度も撃破されるようになったんだよね。敵が強くて強くて」
「これでも彩渡じゃ一番のチームだったのになぁ」
「仕方ないわよ。まだプレイしたてだったんだし」
かつてGGFでプレイした時の事を思い出す。
今現在において戦闘を行っている敵機体の挙動などはかつてと同じように感じる。当時は勝ち進んで漸く挑んだこのステージで苦汁を飲まされたものだ。
「今の実力であの頃に戻りたいね」
襲いかかる敵機体を難なく撃破するセピュロス。いやセピュロスのみならず猛烈號はダイナミックに、ジェスタ・コマンドカスタムは適格に相手を撃ち抜いて戦果を挙げている。かつては苦汁を飲まされたかもしれないが、あの頃とは違うのだ。ユウイチは悔しがっていたあの頃を懐かしく笑っている。
(……このステージも覚えてる)
過去を懐かしんでいるのはユウイチ達だけではない。一矢もまたセピュロス達と進攻しながら周囲の火山ステージを見ながら笑みを浮かべる。
かつてGGF時代のガンプラバトル……バトルライブGを観客の一人として見ていた。モニターに集中する人々を掻き分けてモニターに映るガンダムブレイカー隊が鮮やかな連携でPG機体を撃破していたの見上げていたのを覚えている。
・・・
「コトちゃん、結構やるんだねーっ」
「私も結構練習しましたからっ」
またこのステージにはキャンペーンガールであるルミカとコトがそれぞれ操るNOBELL☆MAIOとストライクノワールの二機がたった今、立ち塞がったPG機体を撃破したところだ。
以前は不器用の塊という印象しかなかったコトがガンプラを作り上げ、あまつさえバトルをこなす姿を見て、ルミカが称賛するとオトも照れ臭そうにしながらも頷く。
「……ん? ……そろそろかな」
「何がですか?」
するとセンサーを確認したルミカが何かに気づく。
もっともその事は当人であるルミカしか分からず、通信越しで先程の呟きを聞いたコトはなにかあるのかと尋ねる。
「うん、アイドルとして、じゃなくガンプラファイターとして、ね」
ルミカの口元にこれから起こる楽しみが待ちきれないとばかりの笑みが浮かぶ。そのままNOBELL☆MAIOはスラスターを稼働させて飛び立ち、コトのストライクノワールもその後を追う。
・・・
「っ!」
火山ステージを勢いに乗って突き進むゲネシスブレイカー達。しかし進攻を阻止するかのようにゲネシスブレイカー達の前に無数のビーム兵器が降り注ぎ、足を止める
「ようやく見つけましたよ」
「アカネ君達の話を聞く限り、相当の手練れらしいな」
そこにはLYNXが操るZ.S.FⅡとソウゲツのHi‐シナンジュが滞空しながらそれぞれ火器をゲネシスブレイカー達に向けていた。
「バトルをする日が来るなんて思わなかったよ」
「わざわざ探したんだ。楽しませてもらうぜ!」
だが今回は今まで二人組でバトルをしていたアカネ達とは違い、Z.S.FⅡの近くにはGGF時代に使用していたあやこのホワイトエンジェルがゲネシスブレイカー達を見下ろし、ナオキのダブルフリーダムが火蓋を切るようにGNソードⅡをソードモードに切り替えてゲネシスブレイカーへ向かっていく。
ゲネシスブレイカーも振り払うようにGNソードⅤをソードモードに切り替えるとダブルフリーダムに立ち向かい、刃を交えて激しい剣戟へと繋げる。
「ちっ!」
しかしゲネシスブレイカーを攻撃するのは何もダブルフリーダムだけではなく、Z.S.FⅡとHi‐シナンジュのピット兵装によるオールレンジ攻撃がゲネシスブレイカーに襲いかかり、一矢は表情を険しくさせながらダブルフリーダムを押し払うように距離を取るとすかさず自身のスーパードラグーンを展開しつつスラスターウイングを最大稼働させ回避に専念する。
「っ……!」
しかしガンダムブレイカー隊もかなりの手練れだ。オールレンジ攻撃を避けるゲネシスブレイカーの動きを予測していたかのようにホワイトエンジェルの大型ビームマシンガンによる弾丸が襲いかかり、ゲネシスブレイカーはビームシールドを展開しながら防ぐ。
あやこが予測していたのもあるが、どちらかと言えばLYNXとソウゲツが誘導した面も大きい。そんな連携はまだ続き、ビームマシンガンの弾丸をビームシールドで受け止めたせいで動きが鈍ったゲネシスブレイカーにダブルフリーダムが接近し、GNソードⅡを向けて突撃する。
「なにっ!?」
「やらせないよっ!」
だがダブルフリーダムを牽制するようにゲネシスブレイカーとの間に放たれた鋭いビームが動きを止め、その隙にセピュロスがビームサーベルを引き抜いてダブルフリーダムに襲いかかり、実体剣とビームサーベルが切り結ぶ。
「中々の狙撃だ!」
「褒め言葉は嬉しいわ」
ダブルフリーダムとゲネシスブレイカーに放った狙撃はそのまま再びジェスタ・コマンドカスタムによってZ.S.FⅡとHi‐シナンジュに放たれ、ミヤコの卓越した狙撃能力にLYNXが称賛するとミヤコは不敵な笑みを浮かべる。
「おっと、やらせないぜ!!」
「速いっ!?」
ジェスタ・コマンドカスタムを狙おうとするホワイトエンジェルであったが、その射線上に猛烈號が割り込み、そのままホワイトエンジェルへと突撃する。
その大柄な機体に見合わぬ機動力で接近する猛烈號にあやこは呆気に取られるもののすぐにホワイトエンジェルを動かす。
「ユウイチさん……」
「今の僕達は一緒に戦う仲間だからね。ピンチになら当然、手を貸すさ」
ダブルフリーダムを押し退け、ゲネシスブレイカーに背中を向けて立ち塞がるセピュロス。不思議とその背中が大きく見えるなか、ユウイチは通信越しで笑いかける。
「それに君やミサの前では格好つけたくなるんだよ」
「……俺も同じです。ユウイチさんには頼りになるって思われたい」
するとユウイチはおどけるように笑い、一矢もつられるように笑みを見せながらゲネシスブレイカーはセピュロスの隣に並び立つ。
二人は笑いあうと、セピュロスはEXAMシステムを、ゲネシスブレイカーは覚醒をそれぞれ発動させ同時に飛び出す。
「ガンプラバトルらしくなってきたなぁっ!!」
向かってくるゲネシスブレイカーとセピュロスに臆するどころか好戦的に笑みを浮かべるナオキはそのままゲネシスブレイカーとセピュロスに立ち向かい、二機を相手に戦闘を開始する。
「──わー……もう始まってたね」
戦闘が開始され、どんどんと時間が経つたびに苛烈さを見せ始めているとこの場に到着したルミカは各所で激しくぶつかり合っている見知ったガンプラ達の姿を見やる。
「凄い……」
「あたしも混ぜてーっ!」
その戦闘の内容にコトが息を飲んでいる中、ルミカは祭りにでも参加するかのようにこの激しい戦闘に混ざっていく。
「ッ!? 流石に二機相手はきついか!」
ゲネシスブレイカーとセピュロスを相手に戦闘を行うダブルフリーダムだが、今ゲネシスブレイカーによって左腕を切断され、バックパックをセピュロスによって損傷を与えられてしまう。
「ヘヘッ、ホントに翔を思い出させてくれるよな」
度重なる損傷デバランスが崩れるダブルフリーダムにゲネシスブレイカーのバーニングフィンガーがその機体を貫き撃破する。
翔と一矢の戦闘スタイルは全く同じではない。だがそれでもゲネシスブレイカーにかつての翔を重ねたナオキは撃破されながらでも笑みを浮かべる。しかしそれでも覚醒やEXAMを発動させているガンプラを相手にこれだけ渡り合えたのも称賛されるべき事だろう。
「ナオキ君がやられたかっ!」
「じゃあ、ナオキ君の分まであたしが戦ってあげるっ」
ロストしたダブルフリーダムの反応にソウゲツが驚くなか、合流したルミカが通信を入れ、ソウゲツ達と肩を並べて流れるようにジェスタ・コマンドカスタムの掩護に駆け付けたゲネシスブレイカーとセピュロスへ攻撃を仕掛ける。
「伊達にガンダムブレイカーの名前を使ってるわけじゃないようですね!」
「当然でしょう……!」
互いのスーパードラグーンが入り交じって攻撃し合うなか、そのまま剣戟を繰り広げるZ.S.FⅡとゲネシスブレイカー。ゲネシスブレイカーの太刀筋を見て、その実力をすぐに肌で感じ取ったLYNXに一矢は更に勢いを強める。
鍔迫り合いとなるゲネシスブレイカーとZ.S.FⅡだが、出力の面から見て覚醒状態のゲネシスブレイカーが上回っているのか完全に押し切られてしまう。
「だがッ!」
迫るゲネシスブレイカーにビームライフルを投げつけたZ.S.FⅡはそのままバルカンによって己のライフルを破壊し爆炎をあげるとスーパードラグーンをゲネシスブレイカーに集中させようとする。
「させないわ!」
だがビームがゲネシスブレイカーに襲いかかる前にミヤコの一発のうち数基を破壊するような狙撃がZ.S.FⅡのスーパードラグーンを破壊する。
「……その輝き、その強さ、そして連携……やっぱりガンダムブレイカーか」
爆炎をまともに受けた事で軽微の損傷を受けたもののそのまま飛び出したゲネシスブレイカーによってすれ違いざまに両断される。ゲネシスブレイカーの強さとセピュロス達との連携を見て、かつての自分達を重ねながらZ.S.FⅡは撃破される。
「っ!?」
Z.S.FⅡを攻撃したのも束の間、ゲネシスブレイカーが被弾する。気は抜けない。ガンダムブレイカー隊はまだいるのだから。激しい戦闘で互いの機体は傷だらけになっていくが、傷を受ければ受けるほどバトルの激しさを加速していく。
Hi‐シナンジュと戦闘を繰り広げるゲネシスブレイカー。パルマフィオキーナがHi‐シナンジュの頭部を破壊しようとする中、ビームトンファーを展開したHi‐シナンジュの一撃がパルマフィオキーナを発動させたゲネシスブレイカーの左腕を破壊する。
しかしゲネシスブレイカーは至近距離で大型ビームキャノンを発射し、Hi‐シナンジュに更なる損傷を与えると、蹴り飛ばす。
「……やはり若者には期待できるな」
吹き飛ぶHi‐シナンジュはフィンファンネルを差し向けようとするが、その前にGNソードⅤを宙に放り投げたゲネシスブレイカーが装備したスクリューウェップによって薙ぎ払うように破壊され、ゲネシスブレイカーのスーパードラグーンと共にスクリューウェップを放棄し、掴み取ったGNソードⅤをライフルモードにHi‐シナンジュを撃ち抜く。
「ははっ……もう翔君ともバトルが出来るくらい強くなったんだね」
かつて一矢と出会った際は覚醒出来ると言えど、まだ翔とバトルをするには実力不足に感じられた。だが今では違う。ジェスタ・コマンドカスタムとセピュロスの援護によってNOBELL☆MAIOの動きが制されてしまうなか、ゲネシスブレイカーによって撃破され、ルミカは感慨深そうに呟く。
「もう認めるしかないかな……。翔さんから続く立派なガンダムブレイカーの使い手だって」
猛烈號とバトルをしていたホワイトエンジェルだが仲間達が撃破されたのも相まって多勢に無勢となって瞬く間に追い詰められてしまう。
ゲネシスブレイカーが覚醒の力を宿した巨大な光刃を発現させるなか、その刃に翔のガンダムブレイカーの姿を重ねたあやこは微笑みを浮かべながらも振り下ろされた一撃を受け入れるように撃破されるのであった。
「……いつかあんなバトルしてみたいな」
あやこ達とのバトルに勝利したゲネシスブレイカー達。しかしその機体は半ば大破に追い込まれている。バトルを見届けたコトは熱いものを感じながらまだあのバトルには参加できないもののいつかはと思うのであった。
・・・
「次は負けないからな」
「……頼もしい仲間がいたから勝てました。次は一対一で勝てるように頑張ります」
バトルを終え、火山ステージを制した一矢達。そんな一矢をナオキ達が出迎える中、互いに笑みを浮かべながら握手を交わす。
「次のステージで確か終わりだったな。最後まで気を抜くなよ」
「勿論」
火山ステージを終えた一矢達に残るは最後のステージ。ナオキが助言をすると一矢は任せろとばかりに力強く頷き、傍から見守っていたユウイチ達と共にガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。
『俺だけで作ったんじゃない……。俺は今までここで色んなことを学んだ。だから俺はこのガンプラにガンダムブレイカーの名を与えた。皆でここから……0から進んでいくんだ』
一矢の背中を見送りながらナオキはかつてGGF時代に翔が初めてガンダムブレイカーの名を冠するガンプラを作り上げた時の事を思い出す。
「0から進んだ今が彼に繋がってる……。そうだろ、翔?」
今でもあの頃の出来事を鮮明に覚えている。懐かしむように笑ったナオキはお互いに初めてガンプラバトルをした時に共に戦った親友に思いを馳せるのであった。
・・・
一台のガンプラバトルシミュレーターが起動し、マッチングが進められていく。
そっと操縦桿に手をかけると確かに操縦桿を握りしめ、その時をただ目を瞑って待ち続ける。
「……あの時の約束果たそうか、一矢君」
その時は訪れた。
マッチングが終了したシミュレーターで翔がゆっくりと目を開きポツリと口を開くと、静かなる闘志をその瞳に宿し、気分の高揚を感じながらバトルフィールドに身を投じるのであった。