「もー! ずーるーいー!! わたしもお台場行きたかったーっ!!」
一矢達がお台場のGGF博物館にいる頃、イラトゲームパークのベンチの上ではミサが不満をたらたらと唇を嘴のように突き出しながら口にしていた。
≪置いて行かれてしまったのですか?≫
「そー」
イラトゲームパークに入店するなりずっとこの調子のミサに事情を聞き、業務の合間を縫ってインフォがミサだけが置いていかれてしまった事に意外そうに尋ねると、足をぶらぶらと揺らしながらミサが答える。
・・・
「ミサ、父さんがなぜ怒っているのか……分かっているね?」
それは今から数日前に遡る。彩渡商店街のトイショップでユウイチはミサを呼び出し、眉を顰めながら真剣な面持ちで尋ねると、今一ピンと来ていないのか、ミサは「んんー?」と唸っている。
「胸に手を当ててよく考えてみなさい。自分がなにをしたのか」
「……棚に展示してあるガンプラを全部旧キットに変えた事?」
いつまで考えても思い当たる節はないのか、首を傾げているミサ。だが漸く考えられる点が出て来たのか、展示用のショーケースを指差しながら答える。
「え!?……ホントだ! いつの間に……!?」
「え、それじゃないの? じゃあどれだ……?」
ミサの発言にぎょっと驚いたユウイチは慌ててショーケースを見に行けば、確かに展示されているガンプラは全て旧キットであった。
とはいえ旧キットと言えどミサが手掛けたため、完成度自体は申し分はない。愕然としているユウイチに当てが外れたため、ミサは再び腕を組んで唸っている。
「仕入れの発注書。勝手に弄ったろ?」
「げっ……バレちゃった……?」
まさかショーケースのガンプラを総とっかえしているなどとは夢にも思わず、嘆息するユウイチは再びミサに向き直りながら、今回、ミサに怒ろうと思っていた話の内容を口にすると、ここで漸く思い出したのかミサは顔を引きつらせる。
「今度発売するPGアルビオン……あんなの店に入らないだろう!」
「だってぇ一回見てみたかったんだもん……」
「問屋から確認の電話があったから良かったものの、そのまま届いていたらどうなっていたか……」
しかもよりにもよって弄った発注書の内容は笑い話では済まないような内容だ。というかPGアルビオンってどれくらいの大きさだろう?
兎に角として、叱ってくるユウイチにミサはしょぼくれながら話すと、ユウイチは再度嘆息してしまい、ミサは「ごめんなさーい……」と一応、謝罪の言葉を口にしている。
「罰として今週末は店番してなさい。父さんお台場行ってくるから」
「えええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっっ!!!!?」
ミサを叱るのもほどほどに一応、悪戯をしてしまった罰として店番を言い渡す。
しかし今、お台場と言えば、GGF博物館の話題で持ちきりだ。それは当然、ミサも知っており、自分は置いていかれてしまう事に絶叫が響き渡るのであった。
・・・
「自分だけ遊びに行ってさー。酷くなーい?」
≪確かに酷いですね≫
「でしょ!?」
そして時間は今に戻り、いまだに納得がいっていないのか、文句を口にしてインフォに同意を求めるとまさかの同意にミサは食い付くように身を乗り出す。
≪無いものに手は当てられませんよね≫
「……何の話?」
インフォのカメラアイがミサのとある一点を注視しながら答えると、言葉の真意が分かっていないミサは首を傾げる。まぁ言葉の意味が分かったら大惨事になりそうなものだが。
≪なんでもありません。ところで店番は良いのですか?≫
ミサに深い追及はさせず、それよりもこんなところに居て良いのか尋ねる。ユウイチはお台場にいる事だし、店を開けっぱなしで来るのは流石に考え辛かった。
・・・
「これは……」
彩渡商店街内のトイショップでは店に訪れていたアムロがレジの前を見て絶句をしていた。
≪……≫
なんとそこにはロボ太がいるではないか。
今は店にアムロとロボ太しかおらず、アムロはまさかロボ太のみが店番しているとは思わず、ロボ太もロボ太でスピーカーを持っていない為、無言の空間が続く。
・・・
「ロボ太に任せてあるから平気っ」
≪……それは平気なのでしょうか≫
先程のインフォの問いかけにミサはあっけらかんとしており、その返答に機械ながらインフォの微妙そうな声が響く。
「やっほーミサ姉さん。今日もここにいたんだねー」
するとイラトゲームパークに来店客が訪れ、ベンチに座っているミサに声をかけるたのは夕香であった。夕香の声に気づいたミサがその方向を見やれば、夕香だけではなく、お馴染みのシオンや裕喜の姿もある。夕香達も混ざり、ミサは話を弾ませるのであった。
・・・
「おー! ルーレット台じゃねぇか! あったなーこんなステージ!」
一方、お台場のGGF博物館では早速ユウイチ達がかつてのステージを楽しんでいた。
モニターに広がるカジノなどでよく目にするルーレット台がステージとなったこの舞台にマチオは懐かしんでいる。
「そうそう、普通にジャブローとかで遊んでたら突然プラモスケールのステージだもんなぁ」
「その後のバージョンでも必ずプラモスケールのステージあったのよね」
懐かしんでいるマチオに同意し、ユウイチとミヤコはかつてのGGFでの思い出を振り返る。プラモスケールのステージはGGFに留まらず、その後も開発者達の遊び心によって今も存在している。
「──ッ!」
元々、助っ人として一矢を連れてきたとはいえユウイチ達も中々の手練れだ。他に参加しているプレイヤー達を退け、出現している敵機体を次々と撃破していくと不意にゲネシスブレイカーを狙った砲撃が放たれ、感づいた一矢はすぐさま避ける。
「よもやこんなところで鉢合わせするとは」
「ふっ、我が同胞から何を学んだのか、俺達が見てやろうじゃないか」
砲撃を放ったのはガンダムブレイカー隊のメンバーの一員であるダイテツの極破王であった。その傍らにはレイジのOEATH MACHINEもおり、どうやら遭遇戦として鉢合せしたようだ。
「あれってガンダムブレイカー隊の機体だよね」
「あぁ、ありゃあ間違いねぇ!」
現れた極破王とOEATH MACHINEの機体を見て、同じイベントに参加していただけあってユウイチ達も覚えがあるのだろう。ユウイチとマチオはまさか遭遇するとは思わず驚いている。
「世界チャンプの一人に敵うかどうか分からないがっ!!」
睨みあいもほどほどに火蓋を切るように極破王が再び砲撃を開始し、ゲネシスブレイカー達は散開して砲撃を避けるも、流石、プロモデラーが作成しただけあるのか着弾した場所には大きな爆発が起きる。
「我が一撃で虚無へ還れッ!」
「ッ!」
だが極破王の砲撃を避けたゲネシスブレイカーには回避コースを予測して、既に回り込んでいたOEATH MACHINEがビームシザースをギラリと輝かせて振りかぶっていた。すぐさま一矢は操縦桿を動かし、逆手に持ち替えたGNソードⅤで受け止める。
「……まさか、アナタ達と戦える日が来るなんて」
かつて一矢もまだ幼い頃、ガンプラこそ持ってはいなかったものの家族に連れて行ってもらって訪れたGGFでガンダムブレイカー隊の活躍を目に焼き付けていた。
あの時は見上げる事しか出来なかった彼らと今はこうしてバトルが出来ることに一矢の表情に心なしか笑みがこぼれる。
「──だからこそ、全力でッ!!」
「うおっ!?」
一矢の憧れへの挑戦心を表すようにゲネシスブレイカーのツインアイが煌めき、覚醒を果たす。爆発的に向上した機体エネルギーにOEATH MACHINEは押し返される。
「は、早過ぎる!?」
「どこに行ったんだ!?」
OEATH MACHINEを押し返したゲネシスブレイカーは爆発的な加速を持って、ステージ上を駆け、そのスピードを活かして四方八方から極破王とOEATH MACHINEに損傷を与えていき、先程まで超越者目線でプレイをしていたレイジの皮が剥がれ、ダイテツと共に明らかに狼狽えている。
「──もらったッ!!」
「お、俺……格好悪ぃ……」
瞬く間にOEATH MACHINEと極破王に損傷を与えて行くゲネシスブレイカーはパルマフィオキーナを発動させ、OEATH MACHINEの胴体を貫くと、そのまま逆手に持ったGNソードⅤで回転するようにOEATH MACHINEを両断して撃破する。
「ろ、老眼が始まってるのにッ!」
次は極破王だ。
標的を切り替えたゲネシスブレイカーは焦る極破王から放たれる砲撃を掻い潜りながら、スーパードラグーンを放つと極破王から放たれる砲撃を相殺し、ゲネシスブレイカーの進攻をサポートする。
「やっぱりバトルは苦手だなぁ……」
そしてスーパードラグーンのビームは極破王に放たれ、ゲネシスブレイカー自身も持ち替えたGNソードⅤをライフルモードにしてバックパックの大型ビームキャノンと共に一斉発射し極破王を貫き撃破することによってルーレット台でのバトルを終える。
・・・
「……バトルが出来て光栄です」
ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢は早速、ダイテツとレイジに顔を合わせ、バトルが出来た事への感謝を口にする。
「フ、フフフ……お、俺達はガンダムブレイカー隊の中でも最弱……」
「我々も新たなガンダムブレイカーの力を実感できて嬉しかったよ」
レイジが情けないのやら何やら分からない彼らしい超越者目線の中二病的言動をしているなか、柔和な笑みを浮かべたダイテツは一矢と握手をしている。
ファイターとしてはそこそこでもプロモデラーとして名を馳せているダイテツと握手を出来て、それはそれで一矢は光栄に感じている。
「だが、俺達で満足しちゃいけないぞ?」
「えっ?」
何か子供に注意するような優しい表情でダイテツが口にすると、一矢はその発言の意味が分からず、きょとんとした表情を浮かべる。
「まだガンダムブレイカー隊は他にいるからな。我が同胞達はこんなものではないぞ」
「プロゲーマーのLYNX君とか、君も知っているだろう?」
ダイテツの発言に頷き、自慢げに仲間を自慢するレイジ。ダイテツが有名どころの名前をあげると、ハッとしたように一矢は目を見開く。
「俺達のエース……如月君だってここにいる。きっとバトルを続けていれば、俺達のようにぶつかる事があるかもしれないぞ」
一矢が感づいた事に気づいたダイテツが大きく頷き、そうなった時が楽しみなのか面白そうだとばかりに笑みを浮かべている。
「翔さんと……」
翔は言うまでもなく一矢にとっての憧れだ。
ガンプラバトルもプラモの作り方も何よりその楽しさも最初は翔から教わった。そんな翔とバトルが出来るかもしれないのだ。
『君と戦える日を楽しみにしてる』
かつて翔と約束した事がある。
あの時言ってもらった言葉はとても嬉しかったが反面、まだまだ彼には及ばないのも分かっておりバトルは出来ないと思っていた。だが今では世界の頂点に立つほどに自分は成長した。そろそろ頃合いと見ても良いだろう。
「……やっと巡った機会なんだ。俺、挑戦してみます」
ギュッと一矢は拳を握る。
翔だけではない。ガンダムブレイカー隊に挑戦できる機会など滅多にない。折角巡って来た機会なのだ。ならばとことんまで挑もう。一矢の高揚する戦意を感じ、「応援している」とダイテツとレイジは激励を送るのであった。