機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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フリージア

 荒野をステージとしたバルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールのバトルは遂に始まり、超大型メイスとドリルランスが幾度となくぶつかり合って、幾度も重々しい甲高い音が鳴り響き、周囲には火花が飛び散る。

 

 しかしそれでも互いに退くことはせず、寧ろ互いの意地をぶつけ合うのように超大型メイスとドリルランスはつばぜり合いとなって力は拮抗する。

 

「──ッ!」

 

 しかし、攻撃手段は何も大柄の武器だけではない。

 つばぜり合いの最中、キマリスヴィダールが膝蹴りのように放ったドリルニーがバルバトスルプスレクスを穿とうと迫るなか、間一髪で感づいた夕香はキマリスヴィダールを押し退けて、後方へ飛び退く。

 

 だが何もしないわけではない。地を蹴った瞬間、唸るように放たれたテイルブレードがキマリスヴィダールへ迫り、咄嗟に気づいたシオンが機体を動かした事によってキマリスヴィダールの装甲を掠める程度で収まった。

 

 テイルブレードを掠めたキマリスヴィダールはそのままテイルブレードのケーブルを掴み、そのままバルバトスルプスレクスを横薙ぎに投げ飛ばし、ドリルランスに備えられた二門の200mm砲を発射する。

 

「アンタ、やっぱめんどくさ……ッ!!」

 

 投げ飛ばされたバルバトスルプスレクスはすぐさまテイルブレードをしなやかに動かして迫る弾丸を弾くが、それは既に計算済みであったのか、ドリルランスの先端部を回転させたキマリスヴィダールが突っ込んできており、回避には間に合わず、超大型メイスで受け止める。

 

 ジャパンカップ以降、シオンとバトルをする機会などなく、どちらからと言えば肩を並べる味方としてバトルをする事が多かったが、こうして改めて一対一でシオンの実力を肌で感じると、やはり彼女の実力の高さが嫌と言うほど分かる。

 

「どうとでも言いなさいな……ッ!」

 

 しかしバルバトスルプスレクスはそのまま超大型メイスで受け止めたドリルランスを受け流し、大型化したマニビュレーターであるレクスネイルが胴体を抉り、損傷を与える。ここに来て初めて大きな損傷を受けたシオンは苦々しい表情を浮かべながらでもドリルニーを再度放って、バルバトスルプスレクスの腰部を貫く。

 

 咄嗟にバルバトスルプスレクスはドリルニーから逃れるように距離を取ると、超大型メイスで向けて突進する。対してキマリスヴィダールもシールドをドリルランスに直結して立ち向かい、超大型メイスとドリルランスの先端がぶつかり合う。

 

「──ッ!!」

 

 ここで夕香にゾクリとした恐怖感のようなものを感じる。

 此方を見据えるキマリスヴィダールの姿が何故だが、そう思わせたのだ。すると次の瞬間、ドリルランスと拮抗していた超大型メイスごと右腕部が粉砕されたのだ。

 

「な……ッ!?」

 

 一体、何が起きたのか!?

 そう考えるよりも早くバルバトスルプスレクスは何かに貫かれて後方の岩場にまで吹き飛び、そのまま叩きつけられてしまう。

 

「……これで終わり……というわけではないですわよね」

 

 ドリルランスから硝煙が上がるなか、シオンは岩場に叩きつけられ、土煙によって姿が見えないバルバトスルプスレクスがいる砲口を見やりながら静かに呟く。

 先程超大型メイスごと右腕部を粉砕し、そのままバルバトスルプスレクスまでも貫いたのはPGスクランブルにも放ったダインスレイブであった。

 

「……ったり前じゃん」

 

 バルバトスルプスレクスのモニターを土煙が覆うなか、俯き表情が隠れていた夕香が通信越しで聞こえたシオンの言葉に答えるようにか細く呟く。

 ダインスレイブをまともに受け、バルバトスルプスレクスは大破にまで追い込まれてしまった。だがそれで負けを認める気にはなれなかった。

 

『決めましたわ、貴女をわたくしのライバルにしてさしあげますわ!』

 

 シオン・アルトニクスへの第一印象は兎に角、面倒臭いお嬢様であった。

 一方的にライバルに認定されたこともあって、なるべくなら関わり合いたくはないとまで思っていたほどだ。

 

『ただあえて言うのであれば、このような真似をする存在を決してわたくしは許しませんわ』

 

『すぐに笑えなんて言いませんわ。落ち込むならそれはそれで結構。ですが顔を上げ前を向きなさい。わたくしのライバルが俯き、いつまでも涙を流す存在であって良い訳がありませんわ』

 

『ガンプラバトルとは本来、己の誇りプライドをぶつけあい、興奮と歓楽を分かち合うもの。それを楽しむことさえ忘れ、あまつさえ罵詈雑言を吐き怒りをぶつける為の手段にするなど以ての外ですわ』

 

 だが一緒にいるうちに彼女の強さを知った。

 自分が持ち合わせていない黄金のようなまさに高貴で気高い魂の持ち主なのだと分かったのだ。こんな事は決してシオンには言えない。だが自分はそんなシオンに憧れすら抱いている。

 

「……ねぇ、バルバトス……。アンタも……ここで終わる気はないっしょ……?」

 

 モニターには自身の機体を貫いている鋼鉄の杭が見える。

 これ一本で凄まじい威力だ。だからといってここで引くわけにはいかない。夕香はこれまでずっと共に戦ってきてくれた悪魔に呼びかけ、EXアクションを選択する。

 

「ははっ……まだ行けるみたいだね」

 

 リミッター解除を受けたバルバトスルプスレクスのツインアイが妖しく赤く発光し、大破に追い込まれて思うようにいかなくともそれでも前に出ようと悪魔の咆哮のような駆動音を響かせる。

 

「じゃあ……行こうかッ!!」

 

 バルバトスは最後まで自分に応えようとしている。それがとてつもなく嬉しかった。ならば最後まで自分はこのバルバトスと共に進もう。その意志を表すように自機に突き刺さったダインスレイブを引き抜いたバルバトスルプスレクスはこの土煙の先にいるであろうキマリスヴィダールに鎖が外された獣ように飛び出していく。

 

「──くッ!?」

 

 土煙を飛び出したバルバトスルプスレクスは獲物を貪ろうとする狼のようにシオンの反応さえ越えるほどの速度で飛び出し、引き抜いたダインスレイブを突き刺そうとするが咄嗟に構えたドリルランスで防ぐもののドリルランスは貫かれて破壊されてしまう。

 

 武器の一つを失ったキマリスヴィダールだが、ダインスレイブを捨てたレクスネイルはそのまま頭部を貫こうと伸び、回避しようとするが顔半分は抉れ片側のカメラアイが露出してしまう。

 

「キマリスッ! アナタは勇猛な武人の名を持っているッ!!」

 

 バルバトスルプスレクスはそのまま回し蹴りを放ち、キマリスヴィダールはシールドで防ぐものの吹き飛んでしまう。バルバトスルプスレクスが追撃しようとする姿が確認できる中、シオンは愛機に呼びかけ、自身も阿頼耶識システムtype-EのEXアクションを選択する。

 

「わたくしとアナタの全てはこんなものではありませんわッ!!」

 

 誇り高き姫騎士の呼びかけに応えるように偉大なる大伯爵(キマリス)のツインアイは輝き、露出したカメラアイは真紅に輝き、左腰にマウントされた刀を引き抜く。

 

「さあ、参りましょうかッ!!」

 

 己を刺し貫こうと迫るレクスネイルを刀で払い、シオンは高らかに叫ぶとバルバトスルプスレクスの首部を掴み、地面に叩きつける。

 

 そのまま刀を振りかぶろうとするが、テイルブレードが左腕を断ち、バルバトスルプスレクスへの拘束の力が弱まった瞬間、バーニアによって起き上がったバルバトスルプスレクスの体当たりを浴びてよろけてしまう。

 

 再びレクスネイルが胴体へ迫るなか、二基のシールドをサブアームを介して前面に展開した事によって防いだキマリスヴィダールはそのまま刀をバルバトスルプスレクスの頭部に突き刺す。

 

 もはやシオンが常々口にしている美しさやエレガントとは程遠く、互いに損傷は激しくボロボロで周囲は戦闘によって出来たクレーターなどの痕が無数に残っている。

 

 しかしそれでも激しい戦闘によって疲労が襲うなか、夕香とシオンの口元には笑みが浮かんでおり、今この瞬間を何より楽しんでいるのだ。

 

「わたくしの全ては……アナタに……アナタにだけは……ッ!!」

 

 ドリルニーを放とうとするキマリスヴィダールであったが、レクスネイルによって根元を折られ、ドリルが宙を舞い、放たれたテイルブレードが深々とキマリスヴィダールを貫く。スパークが散り、シミュレーターにはけたましいアラートが鳴り響くなか、シオンは歯を食いしばりながらでも操縦桿を動かす。

 

「受け止めてもらいますわッ!!」

 

 宙に舞ったドリルニーを掴み取るキマリスヴィダールはそのまま己の全てをぶつけるかのようにバルバトスルプスレクスの胴体に上から深々と突き刺す。

 

「……アンタ……ホントに強いよね」

 

 ポツリと夕香の口からシオンの実力を認めるような旨の言葉が放たれる。

 シオンがハッとモニターを見やれば、バルバトスルプスレクスがモニターをつうっじて見つめるよにこちらに頭部を向けていた。

 

「……でも、次は負けないよ」

 

 元々、シオンとの実力差はガンプラ大合戦の時から分かっていた。

 あれから力をつけていたつもりだが、シオンには僅かに届かなかった。機能を停止したバルバトスルプスレクスはそのまま力尽きるようにキマリスヴィダールに倒れ掛かり、バトルは終了するのであった。

 

 ・・・

 

「やれやれ……負けちゃったよ」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出て来た夕香は出迎えた裕喜達にお道化るように肩を竦めている。全身全霊をぶつけてのバトルであった。悔しさはあるが、それでも満足感が夕香にはあった。

 

「良いバトルだったよ、本当に」

「まっ、次勝つのはアタシだからね。負けっ放しは性に合わないし」

 

 バトルを見届けた一矢は健闘を称えるように夕香に声をかけ、夕香も晴れやかな表情で答える。そう、これがなにも最後と言うわけではない。この先だってバトルをする機会などあるだろう。自分とシオンには確かな繋がりがあるのだから。

 

「──あー……遅かったか」

「あれ、カドマツどうしたの?」

 

 するとカドマツが慌ただしくイラトゲームパークに入店してきた。ガンプラバトルシミュレーターの状態を確認するや否や残念そうにしているカドマツに、ミサが声をかける。

 

「最近、あちこちのシミュレーターに導入されたアドオンがな、クリアした途端に消えるって話を聞いてな。そんな仕掛け、普通じゃ考えられないから、ちょっと興味があったんだが……ちょっと間に合わなかったみたいだな」

 

 カドマツの話から、どうやら各地で導入されたアドオンもPGスクランブルの撃破と共にデータが消去されてしまっているらしい。一矢とミサが顔を合わせるなか……。

 

「おい、婆さん」

「……」

「……婆さん?」

 

 せめてイラトから話を聞こうと背を向けたイラトに声をかけるカドマツであったが、どうにも反応がない。怪訝そうに回り込んでイラトの顔を見ようとすると……。

 

「おい救急車呼べ。婆さん白目むいてるぞ!」

 

 PGスクランブルのバトルから流れるように夕香とシオンのバトルに移行したために誰もまさか立ったまま気絶しているイラトに気づかなかったようだ。カドマツの指示に店内は慌ただしくなるのであった。

 

 ・・・

 

「やあ、首尾はどうデス?」

≪上々だねナジール≫

 

 一方、人気のない路地裏では、イラトゲームパークだけではなく、各地のゲームセンターでアドオンの導入を勧めていたあの片言交じりのスーツの男性が電話をしていた。スーツ姿の男性の名を電話越しで口にするのは、ウイルス事件を巻き起こしたあのバイラスであった。

 

≪バケット追跡によってガンプラバトルシミュレーターのネットワークシステムの解析……。しかしよくもまあ数多くのシミュレーターそれぞれにアドオンをインストールできたね≫

「新たな敵、強い敵と聞けば挑戦せずにはイラレナイ。ガンプラファイターのスピリットを逆手にとっただけデース」

 

 はっきり言って、中々無茶な事をしてのけたナジールの手腕に驚き、感心する。しかしナジールは路地裏から見える人々の姿を見ながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

≪なるほど……。次の仕込みが出来たら連絡するよ≫

「引き続き頼みマスよ」

 

 ガンプラファイターのスピリットとやらは分からないし、理解する気もないが、単純だなとくつくつと笑うバイラスは締めの言葉を口にすると、ナジールも頷き、そこで電話のやり取りを終える。

 

「──終わったみたいですね」

 

 懐に携帯端末をしまうナジールに表通りからやって来た男性が声をかける。

 この男性はかつては真武者頑駄無を使用し、シュウジ達と激突しただけではなくアンチブレイカーを作成した人物だ。

 

「彼にはこれからも期待していマスよ。それよりも最近、日本での私の支援をしてくれてマスが、どういうつもりデスか? バイラスの指示ではないでショウ?」

「あの人は立場を失い今では逃亡生活……。今はアナタ側にいた方が色々と面白そうですからね」

 

 バイラスと手を組んでいるナジールはそのまま現地での協力者として名乗り出て今に至る男性にその真意を尋ねると、男性は本音かどうか分からぬような人を喰ったような笑みを浮かべる。

 

「簡単に切り捨てるタイプですネ。そうして私もいつか切り捨てられないか心配デスよ」

「人聞きの悪い事を。今の私に嘘はありませんよ」

「なら少しは安心デスね、クロノ」

 

 掴みどころのない男性にナジールは油断ならない様子で見つめると肩を竦めながら男性はせせら笑う。少しはと言うが、実際安心はしていないナジールは男性の名を口にしながら路地裏から去っていく。

 

「窮屈な人だ。それではゲームは楽しめないよ」

 

 ナジールが出た路地裏に残ったクロノはポツリと静かにこぼすと、また薄ら笑いを浮かべながらナジールの後を追い、路地裏から出て行くのであった。

 

 ・・・

 

「ふぅー……」

 

 夜、夕食も終えた一矢は風呂から出てリビングに戻ってくると、そのまま冷蔵庫に向かう。適当に取り出したジュースをグラスに注ぎ、喉を潤しながらリビングに向かう。

 

「……あれ」

 

 するとソファーに座っている夕香とシオンに気づく。しかし二人とも特に動く様子もなく、何気なく目を向けると……。

 

「ったく……幸せそうな顔して」

 

 夕香とシオンの二人はソファーで寄り添うようにして眠っていたのだ。

 ガンプラバトルなど何だかんだで多少なりとも疲れがあったのだろう。偶然ながら身を寄せて居眠りをしてしまっている二人ではあるが、その寝顔はどこか幸せそうだ。苦笑した一矢は一応、ブランケットをかけるとそのまま自室に戻っていくのであった。


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