スクランブルガンダム撃破後に観戦モニターに表示された謎の挑戦状を受ける為に出撃した一矢達。バトルフィールドとなったのは近くにはスペースコロニーが稼働している宇宙ステージであった。
フィールドにゲネシスブレイカーが姿を現した直後、一矢達のガンプラバトルシミュレーターにけたましいアラートが鳴り響き、そちらに意識を向ければこちらを覆うような巨大な機影が近づいていた。
「ちょっとPGサイズはないでしょ!?」
≪店主イラトの強欲が具現化されたような異様……。なんという威圧感だ……ッ!≫
ゲネシスブレイカー達に近づいたのはPGサイズのスクランブルガンダムであった。
まさかPGサイズの機体が出てくるとは思いもしていなかったミサは唖然とするなか、ガンプラバトルシミュレーターに乗り込む前まで見ていたイラトの姿を振り返りながらロボ太はPGスクランブルの攻撃を避ける。
『ねえちゃんたち頑張れ! 俺達応援してるからなっ!』
『そいつを倒して、みんなの来月の小遣いを守ってくれ!』
「応援されたら頑張るしかないかーっ!」
元々高難易度に設定されたスクランブルガンダムがPGサイズとなった今、その脅威は計り知れない。必然的に緊張感が襲うが、それでも観戦モニターを通じて自分達を応援してくれる子供達の声が聞こえる。彼らの応援に背くような真似は出来ないとミサは頼もしささえ感じる笑みを浮かべ、釣られるように夕香達も微笑を浮かべる。
『やれるもんならやってみなッ!!』
だが観戦モニターを通じて聞こえてくるのは無垢な子供達だけのものではなかった。
観戦モニターの前にいる子供達を押し退けたイラトの声がシミュレーターに響き渡り、一矢達はその迫力に思わずピクリと反応する。
『ぶちのめせーっ!!』
そして何よりイラトがPGスクランブルに声援を送るわけだが、その光景は寧ろ配下に命令を下す魔王か何かにしか見えず、イラトの言葉に呼応するかのようにPGスクランブルは両腕のビームライフルを天に向けて巨大なビーム刃を発生させると一気に振り下ろす。何とか回避には成功したものの、近くにあったデブリは軒並み飲み込まれて跡形もなく消滅してしまった。
だが先程の攻撃は多大な威力を誇るが、それでもモーションは大きいために回避した今となっては隙だらけだ。その隙を逃すことなく、ゲネシスブレイカーがスーパードラグーンを、アザレアリバイブはメガキャノンを発射し。PGスクランブルが損傷を受けている間にバルバトスルプスレクスとバーサル騎士が接近する。
「もーらいっ!」
対応しようとビームサーベルを引き抜こうとするPGスクランブルだが、既に遅く掻い潜って接近したバルバトスルプスレクスは力いっぱいに超大型メイスをPGスクランブルの右腕に叩きつけて仰け反らせると懐に飛び込んだバーサル騎士の剣技が降りかかる。
振り払おうにもバルバトスルプスレクスとバーサル騎士は悉くPGスクランブルの攻撃を掻い潜る為に思うようにはいかず上方に飛び上がることで逃れようとするが……。
「……させるか」
既に予測をしていたゲネシスブレイカーとアザレアリバイブが覚醒した状態で回り込んでいた。GNソードⅤとハイパードッズライフルから互いに覚醒の力を集約させた一撃を放ち、PGスクランブルに大きな損傷を与える。
「──待て!」
二つの覚醒の一撃を受けたPGスクランブルはその巨体を大きくのけ反らせて吹き飛ぶ。これに乗じて一気に畳みかけようとゲネシスブレイカー達は接近するが吹き飛んだにも拘らず、こちらを一点に見つめるPGスクランブルの姿に妙な胸のざわめきを感じた一矢は追撃を静止しようとするが……。
『本気でやるんだよォオッ!!!』
追い込まれている姿を見かねて、イラトの怒号が響き渡るとPGスクランブルのツインアイが不気味に輝き、呼応するように各部のクリアパーツが紫色に発光する。
すると次の瞬間、PGスクランブルを中心にクリアパーツの輝きを広げるかのように周囲に光波を発したのだ。
「なっ……!? 動けない……っ!?」
所謂、暴走状態と化したPGスクランブルが発した光波を浴びた四機のガンダムはシステム障害が起こり、身動きが取れなくなってしまった。ミサは必死に機体を動かそうと操縦桿を動かすがアザレアリバイブは微動だにしない。
「まずッ……!」
だがPGスクランブルはお構いなしに近づき、先程までの憂さを晴らすかのようにバルバトスルプスレクスを掴み上げ、そのまま投げ飛ばすと身動きの取れないバルバトスルプスレクスはデブリを突き抜けながら吹き飛ぶ。
『ぶっ殺せーッ!!』
いまだスタン状態が解けないバルバトスルプスレクスにPGスクランブルが迫り、トドメを刺せとばかりにイラトの物騒な言葉が響くPGスクランブルがビームサーベルを引き抜いてバルバトスルプスレクスを破壊しようと振りかぶる。
しかしその一撃がバルバトスルプスレクスを葬る事はなかった。
直前に隕石のような何かが元々損傷を受けていたサーベルを持つ腕部に直撃したのだ。
『あぁ、なにやってんだいっ!!?』
イラトの悲鳴がフィールドに響き渡る。PGスクランブルの腕部の動きを封じるように突き刺さっているのは一本の鋼鉄の杭……ダインスレイブであった。
するとPGスクランブルの前に漂っていたバルバトスルプスレクスを横から飛来した何かが掻っ攫っていき、一体、誰が救ったのかと誰もが視線を送ると……。
「──しっかりなさいな。アナタは誰のライバルだと思っていて?」
「シオン!?」
夕香が見やれば、そこには傷ついた自身の機体を抱きかかえる
「勘違いなさらないでくださいましね。アナタを倒すのはわたくしですわ」
「なにそれ」
「一度は言ってみたかったんですの」
ここ最近、どこか様子がおかしかったシオンとは打って変わり、まるで迷いが晴れたかのように堂々とする言葉を聞き、思わず夕香が安心したように笑うとシオンも通信越しに笑みを浮かべる。
「夕香ーっ! 助けに来たのは、シオンだけじゃないのよっ!」
ダインスレイブを受けたPGスクランブルだが、バルバトスルプスレクスを抱き抱えるキマリスヴィダールに攻撃を仕掛けようとする。だが、その前に無数の砲撃がPGスクランブルに襲いかかり、その手を阻まれてしまう。今度は裕喜のフルアーマーガンダムが遅れてやって来たのだ。
「夕香、行けますわね?」
「だーれに言ってんのさっ」
フルアーマーガンダムの砲撃によって時間が稼げた今、漸くバルバトスルプスレクス達のスタン状態が解け、自由となったのを確認し、シオンが通信越しに問いかけると夕香も活気あふれる笑みを浮かべて頷く。
するとキマリスヴィダールとバルバトスルプスレクスの二機はまるで【旗を上げる】かのようにドリルランスと超大型メイスを掲げるとPGスクランブルに向かっていく。
「今回は譲ってあげる?」
「……仕方ないな」
バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールがPGスクランブルに向かっていく姿を見ながら、スタン状態が解かれたミサは一矢に笑い掛けながら尋ねると、楽しさを感じる二機の動きを見て援護に徹しようとゲネシスブレイカー達は散開する。
『しっかりしないかッ!!』
ゲネシスブレイカー達の援護を受けながら接近したバルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールは中々息の合ったコンビネーションを見せ、PGスクランブルを肉薄していく。ドンドン追い込まれていくPGスクランブルにイラトが狼狽えながら怒鳴るが、この勢いは止まらない。
「いい加減邪魔だよ、アンタ」
「さあ凱旋の時ですわッ!!」
いや、それどころか更なる勢いを増しているではないか。
バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールを中心とした波状攻撃にPGスクランブルも当初こそ反攻していたが、次第にその勢いも弱まっていき、各部に打突痕が残り、クリアパーツにも皹が入っていく。
『な……なんてこったぁーっ!!?』
そして決着の時は訪れた。
バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールは互いに獲物を構えて、同時に並び立って飛び出すと胸部のクリアパーツを突き破る。これが致命打となったPGスクランブルは遂に爆散し、イラトの悲鳴が響き渡った。
・・・
「希望は……あったんだ!」
「おねえちゃん達、ありがとう!」
勝利を収めた夕香達を出迎えたのは輝かしい笑顔を浮かべている子供達だ。
元々、気持ちが良いくらいのプレイが出来たのだが、こうして称賛を受けると悪い気はしないのか、それぞれ笑みを浮かべている。
「くぅーっ! まだお前たちがクリアしただけさ! 他の客で稼げばいいだけさね!!」
「負け惜しみって奴?」
まさか金蔓になると思っていたスクランブルガンダムが撃破されたとは認められないイラトは地団駄を踏みそうな勢いで一矢達に食って掛かるが、どこ吹く風か夕香は悪戯っ子のような表情でイラトを煽る為、悔しがっている。
「え? また何かメッセージ?」
すると再びアナウンスが流れ、まだ何かあるのかとミサは観戦モニターに移動し、一矢達もその後ろから今度は何が表示されたのかと見やる。
「【真のスクランブルガンダムを倒せし者よ、キミの力に敬意を表する。なお、このステージのクリアをもってこのアドオンは自動的に消去される。プレイしてくれてありがとう】」
「な、なんだってぇー!?」
観戦モニターに表示された文面をミサが読み上げれば、その内容にイラトは信じたくないとばかりに素っ頓狂な声を上げ、そのまま画面を見たまま固まってしまう。
「……まぁ惜しくはありますが……今はそれよりも果たすべき事柄がありますわ」
流石にデータの消去までいくとクリアできなかった観客も含めて残念に思ってしまう。
シオンもその一人ではあるが、今、シオンはそれよりも大事な事がある為に夕香に身体を向け、気づいた夕香も向き直る。
「夕香、わたくしと一対一でのバトルを申し込みますわ」
シオンはまっすぐ夕香の瞳を見据え、己の精魂込めた作り上げたガンプラであるキマリスヴィダールを向ける。今のシオンにとって、これ以上に価値のあるモノはないのだ。
「……良いね。アタシも興味はあったんだよ」
対して夕香もニヤリと好戦的な笑みを浮かべながらバルバトスルプスレクスを取り出す。
当初、ジャパンカップで出会った際でのバトルは夕香が勝利した。だがあの時、シオンのGPを見れば、アセンブルシステムは滅茶苦茶になっていた。あれからアセンブルシステムも調整し、改めてガンプラ大合戦などでシオンの実力などに触れたが、その実力は自分自身を上回っていると感じた。
だが今は自分だって成長している。
果たして今、自分とシオンの実力はどうなっているのか純粋に知りたかったのだ。これ以上の言葉は必要はない。頷き合った二人はアドオンが消去されたガンプラバトルシミュレーターに乗り込む。
「雨宮夕香、ガンダムバルバトスルプスレクス──!」
「シオン・アルトニクス、ガンダムキマリスヴィダール──!」
二人のバトルが行われるステージに選ばれたのはどこまでも続いていくような荒野であった。ステージ上に地響きを立てて降り立ったバルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールは互いに向き直り、それぞれ口上をあげる。
「行くよッ!」
「参りますわッ!」
同時に地面を蹴って、二機の悪魔が火蓋を落とすかのように向かっていく。
もう邪魔する者は誰もいない。互いの誇りを賭け、バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールはぶつかり合うのであった……。