トイボット
「こうやってまたチームメイトとプラモ作りが出来て嬉しいなぁ。結構強いし、設備や資金に文句を言わないし」
祝勝会から後日、一矢とミサは彼女のトイショップで共にプラモを作製していた。
ミサは黙々とlegend BBシリーズの騎士ガンダムを作成している一矢を横目にしみじみと呟く。
彼女の口ぶりから察するにカマセは相当、文句を言っていたのだろう。
別に一矢は今の環境に文句はない。ミサと共に戦うのも悪い気はしないからだ。そんなミサは600番の紙やすりを探している。
「へぇ、それが新しいガンプラなんだ」
「うん……。名前はゲネシス……。ゲネシスガンダム」
ミサは一矢の傍らにおいてあるガンプラに気付く。
そのガンプラはトリコロールカラーのガンダムタイプのものだった。
HG ビルドストライクをベースに脚部にスラスターユニットや肩部にミサイルポッド、背部に二つの大型ガトリング、何よりV2ガンダムのバックパックやブレイカーⅢのGNソードⅢが組み込まれており、高軌道接近戦型を意識して作製したのが伺える。
「……そっちも変わったな」
「うん、後はカドマツさんが来るだけ」
机上に置かれているアザレアはそれぞれ細部が以前とは異なっていた。ミサイルポッドなど火力面を強化するビルダーズパーツを取り付けている。
これは所謂、拡張装備だ。付けるだけではシミュレーターには反映されないが、アセンブルシステムの改良によって反映される。そしてそれが出来るカドマツを一矢達は待っていた。
「──おーい、いるかー?」
来店を知らせるベルが鳴ると共に聞き覚えのある声が聞こえる。
ミサが椅子に座った状態でのけ反って視線を向けると、そこには大きなアルミトランクケースを持ったカドマツが来店していた。
「おう、約束通り今日からチームエンジニアとしてお前らをサポートする。よろしくな。早速だがチームのアセンブルシステムに手を入れてみようと思う。終わったら機体をセットアップする時に確認しといてくれ」
「エース了解っ!」
カドマツの目的など一矢とミサしかないだろう。カドマツに気付いた二人は立ち上がって歩み寄ると、ミサが明るく敬礼をしながら冗談っぽく答える。
「じゃあ早速、新しいシステムを組んで欲しいのでエース!」
「やんすみたいに言うな」
居酒屋の一件以降、まだその事を言うのかと呆れているカドマツにミサがGPを渡しながら言うと、カドマツは呆れてツッコミを入れつつもミサと、そして一矢のGPを受け取る。
・・・
「うっし……終わったぞ。さて報酬を支払ってもらうぞ」
「今日までありがとう。私、カドマツさんのこと忘れない」
二人のGPのアセンブルシステムの改良を終えたカドマツは二人に向き合って報酬を要求すると、ミサは冷めた様子で言い放つ。
「別に金払えってんじゃない。こないだも言ったろ、仕事手伝ってもらうって」
「でもさハイムロボティクスのお手伝いなんて理工学系の知識がなきゃ無理でしょ?」
ミサの手のひら返しに苦笑しつつ以前、居酒屋みやこで言及した事をもう一度言うと、その事に関しては覚えているのか、それでも理工学系の知識などないミサは顔を顰めている。
「まずはコイツを見てくれ、話はそれからだ」
カドマツは持ってきたアルミトランクケースを空いている作業ブースの机の上に置き開ける。そこには成人男性の腰の辺りまである大きさの騎士を思わせる二頭身のガンダムが収められていた。
「わぁ
「ウチで開発中のトイボットだ。こいつの運用テストに協力してほしいんだ」
その外見は騎士ガンダムと呼ばれるSDガンダムのそれだった。
アルミトランクケースに収められた騎士ガンダムを覗き込んで驚いているミサの隣では一矢は声に出さないが興味を惹かれているようだ。そんな二人に報酬の意味を説明する。
「玩具用ロボットかぁ……。こんなのが買える時代になったんだねぇ……」
「でもお高いんでしょう?」
トイボットとは玩具用ロボット、そしてもう一つ種類がありワークボットと呼ばれるものがある。これはインフォのようなロボットのことだ。騎士ガンダムのトイボットを見てしみじみ呟くミサにその隣で誰に問うわけでもなく一矢が呟く。いくら売り出されようが、おいそれと手が出るものではないだろう。
「実際に売り出すのはもう少し先だがな。テストで合格出来なきゃ商品化は無理だ」
「テストって私達はなにをすれば良いの?」
やはり発売するにも段階が必要だ。
カドマツの言葉にミサは一矢と顔を見合わせながらカドマツに問いかける。トイボットは凄いが自分達が何をするのだろう。
「こいつの売りは子供と一緒に遊んでくれることなんだ」
「ふむふむ……? あ、これ取説だ」
トイボットと言うだけあってやはりメインは子供だ。
カドマツの説明を聞きながら一矢は内心、騎士ガンダムと遊べるならもう少し後に生まれたかったと思ってしまう。その横ではミサがアルミトランクケースに同梱されている取扱説明書を見つけて取り出す。
「ガンプラバトルも一緒に出来る」
「……!」
一緒にガンプラバトルも出来る、カドマツのその言葉に
「成程……。これがメインスイッチ」
「新しいチームメンバーってことだ。次からシミュレーターに入る時はコイツを連れてけ……って勝手に起動すんなよ!!」
カドマツの説明を聞きつつも説明書に集中しているミサはトイボットの電源ボタンを押す。ガンプラバトルが出来るという言葉からより一層、話を聞き込んでいる一矢に説明しながらその横で電源ボタンを押したミサに気づき、ツッコミを入れる。
「おー……立ち上がった!」
するとトイボットの頭部のカメラに光が灯り、SDガンダム特有の瞳が映し出されアルミトランクケースから立ち上がってカドマツの隣に降り立つ。その姿を見てミサ、そして一矢は感激していた。
「はじめましてロボ太!」
「勝手に変な名前をつけるなっ!」
カドマツの隣のトイボットの名前を決めたのか、挨拶をするミサにカドマツはすかさずツッコミを入れる。
「良いじゃんロボ太! かわいいじゃん! ねーロボ太!」
「あぁこいつ、言葉は理解出来るけど発声機能はついてないんだ。あくまでおもちゃである為にな。人の近くにいるロボットの開発ってデリケートなんだよ。特にトイボットの子供の成長にどんな影響を与えるのかまだ分からないからな」
ロボ太という名前が気に入ったのか、トイボットことロボ太に話しかける。
しかしロボ太はミサを見上げるだけでインフォとは違い、何も答えない。その事を怪訝そうにしているミサと一矢にカドマツが理由を明かす。
「……なんか大人っぽいこと言ってる」
「大人だからな」
カドマツのロボットに関する話を聞いて、どこか驚いているミサに三十路過ぎのカドマツは何を言ってるんだと言わんばかりに答える。
「良いから早速、テストして来い。うまく行けば次のリージョンカップは三人で戦える」
仕事の合間を縫って抜け出してきたカドマツは時間が惜しいのか二人にロボ太を預けて送り出す。カドマツの言うように上手く行けば三人で戦えることだろう。
・・・
《ミサさん、一矢さんご来店ありがとうございます》
トイショップから移動して数十分、一矢とミサはロボ太を連れてイラトゲームパークにやって来ていた。平日であっても夏休みではあるがあまり人は入っていない。来店した二人にインフォがまず出迎える。
《はじめましてロボ太さんですね、記憶します》
一矢達の背後に控えていたロボ太は前に出てインフォの前に立つと、暫くその場から動かない。するとインフォは紹介もしていないのにロボ太の名を発する。
「なんで名前知ってるの!?」
《今聞きました。光デジタル信号で、ですが》
ロボ太の名を発したインフォに驚くミサの疑問に先程のロボ太の行動の意味と同時に教える。先程のロボ太もただ無駄にインフォの前に立ったわけではないようだ。
「なんかロボットっぽいこと言ってる!?」
《ロボットですが》
まるでインフォがロボットではないような事を口にするミサだが、インフォは淡々と答える。うーむ、と唸るミサの隣でロボットじゃなかったら何なんだと呆れている一矢はシミュレーターに向かって歩き出し、ロボ太とミサはその後を追う。
「あれそう言えばロボ太のガンプラないよ」
「カドマツさんに前に言われてたから作ってある」
ガンプラバトルは名前通りだ。ガンプラがなくては始まらない。
ミサはロボ太のガンプラがないことを指摘すると、一矢はゲネシスと共にケースから騎士ガンダムのガンプラを取り出す。
カドマツから作成は頼まれてカドマツが来る前から作ってはいたが、まさかロボットが使うとは思っていなかった。二人とロボ太はそれぞれシミュレーターに乗り込み、シミュレーター同士のマッチングを始める。
「ゲネシスガンダム、出る」
これがゲネシスの初陣だ。
自然と高揚感が高まっていくなか、ゲネシスはカタパルトを駆け抜けて、発進していくのだった。
・・・
「いらっしゃいませ」
「おう」
一矢達のシミュレーターのマッチングが終わり、出撃したと同時に金色の瞳の青年がイラトゲームパークに入店し、インフォの出迎えに軽く手をあげて答える。彼は一矢達がブレイカーズに訪れた際に裏で仕事をしていた青年だ。
「アンタ今日も来たのかい。最近、ガンプラバトルのスコアが凄い事になってるそうじゃないか。バウンティハンターなんて呼ばれてるんだってね」
「強くならなきゃあの人に勝てないからな。今度こそ勝つって言ったからよ」
イラトもここ最近、出入りしているのか青年に気づくと声をかけてくる。
バウンティハンターの異名を持つ彼と彼のガンプラの名前はガンプラバトルシミュレーター近くのモニターにガンプラバトルで得たポイントのランキングにその名を連ねていた。それを見た青年は活発な笑みを浮かべながらガンプラバトルシミュレーターへ向かう。
「今日も強そうな奴がいるみたいだな……。……ん……? ……SDか……。変わってんな……」
青年はシミュレーターに乗り込む前にふとモニターに目をやる。
そこにはそれぞれカスタマイズしたガンプラ達が火山のある孤島で戦闘を行っていた。
その中で目を引いたのが一機のSDを使ったチームだ。物珍しく思いながら青年はシミュレーターに乗り込むのだった……。
ガンプラ名 ゲネシスガンダム
WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ビルドストライクガンダム
BODY アカツキ
ARMS デュエルガンダム
LEGS クロスボーンガンダム
BACKPACK V2ガンダム
SHIELD 試製71式防盾
拡張装備 スラスターユニット×2
ミサイルポxxチュト×2
大型ガトリング×2
カラーリング 頭部はブレードアンテナのみホワイト。胴体は関節色の部分はそのまま逆三角形のオレンジの部分はレッド、それ以外とシールドはエースホワイト。腕部脚部バックパックのカラーリングは大体、そのまま。流石に部品ごとに同じ青でも微妙に違いますので統一してますがGNソードⅢは初期機体のカラーのままです。
詳しい外観は活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】に某画像投稿サイトへのリンクがありますので、興味がありましたらそちらを参照して下さい。