機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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道案内

「くそー逃げるなんてありかよ!!」

 

 アドオンが導入されたイラトゲームパークでは、高難易度のエネミーキャラであるスクランブルガンダムを自分こそが撃破しようと様々なファイター達が挑んでいくが、どうにも後少しと言うところで逃げられてしまい、今も少年達が地団駄を踏んで悔しがっている。

 

「お前まだ金ある?」

「今ので最後……」

「……帰るか」

 

 まだ挑戦しようと少年達は財布に相談しようとするが、もう財布の中はスッカラカンでありもうプレイすることは出来ない。がっくりと落胆した様子で少年たちはイラトゲームパークを後にしていく。

 

「ひっひっひっ! 笑いが止まらないねえ」

≪マスター、現在の難易度はカジュアルプレイヤーでは対応できません。すこし調整をするべきではないでしょうか≫

 

 帰っていく少年達の後ろ姿を眺めながら、中々あくどい笑みを浮かべているのはイラトであった。アドオンが導入された事によって、収益は日に日に増えて行っている。だが少年達の姿を同じく見ていたインフォから進言される。

 

「インフォや、それはいけない」

≪何故でしょうか? 長期的に見れば高すぎる難易度設定は客離れの危機があります≫

 

 しかしインフォの進言も寧ろ諭すようにイラトは厳しく首を横に振る。イラトの意図が理解できないインフォは店の経営を考えるのだが……。

 

 

 

 

「難しいゲームがここにあり財布には小遣いと言う名の挑戦権がある。

 

 

 そして何よりガキどもには何度でも困難に立ち向かえる若さがある!

 

 

 あたしゃ心を鬼にして言うよ、この困難を乗り越えて強い大人になるんだと!

 

 

 そのキラキラ光るなけなしの小銭を人生というレースで自分に賭け続けるんだと!

 

 

 今ここで小銭に渋っててこの先に訪れるもっと大きな選択に自分を賭けられるのかとっっ!!」

 

 

 するとイラトはさながら演説でもするかのように強く熱く高らかに自身を見つめるインフォに大きくまくし立てる。

 

「……分かるね?」

≪分かりません≫

 

 スゥッ……と話し終えたイラトは軽く深呼吸すると、ポンとインフォの肩部に手を置き、理解を求める。しかしインフォから返って来たのは即答で共感は得られなかった。

 

「よーし、今日こそ撃破するぞーっ!」

 

 そんなイラトとインフォのやり取りを他所にイラトゲームパークにはミサ、一矢、ロボ太、そして夕香の四人が入店し、ミサは意気揚々とスクランブルガンダム撃破を目指してガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。

 

「……シオンの奴、いないな」

「どこ行ったんだろ……」

 

 店内に入店した一矢と夕香は周囲を見渡し、シオンの姿がない事を確認する。

 観戦モニターを見ても、表示されるプレイヤー名にシオンの名前はなく、この店にはいないのだろう。

 

 様子がおかしかったシオンは朝から家を出ていた。

 昨日の今日ということもあり、もしかしたらミサ達と同じようにスクランブルガンダム目当てでここに来ているのではと考えたが当てが外れてしまったのだ。とはいえ折角、ここに来たのだ。一矢と夕香は自分達を呼ぶミサに応えながら自分達もシミュレーターに向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

 彩渡街のタイムズ百貨店。ここにシオンの姿があった。

 アパレルショップで服を見ていようだが、どこか上の空であり、どうにもウインドウショッピングという風には見えなかった。

 

「──あっれー? シオンだ」

 

 そんなシオンに気づいて声をかけた者がいた。

 聞き覚えがある声に目を向ければ、そこには裕喜はおり、その手には幾つかのアパレルショップで購入した服が入ったと思われるロゴ入りの袋が握られている。

 

「シオンも服買いに来たの? セールだもんねー」

「いえ、わたくしは別に……」

「ねーねー! 一緒に見ようよ!」

 

 百貨店にはいくつかのショップがセールを行っている情報が記されたポスターが張られており、裕喜はセールで購入したと思われる袋をシオンに見せながら尋ねる。

 別にこれと言った目的がないシオンは首を横に振ろうとするが、半ば強引に裕喜に腕を絡まれて連れて行かれてしまった。

 

 ・・・

「ねー、これシオンにばっちし似合うと思うんだけどっ」

「はあ……」

 

 裕喜と共にいくつかの店を回ればその先々で裕喜から服、小物問わず押し付けられており、半ば着せ替え人形のようにされてしまっている。

 普段は高飛車なシオンも今日は大人しく、そして何より単純にいつもテンションが高い裕喜と二人きりと言う事もあって半ば押され気味だ。

 

 ・・・

 

「ふふーん、満足満足ぅっ」

「つ、疲れましたわ……」

 

 休憩も兼ねて訪れたオープンテラスでお茶にしながら、裕喜は目当ての商品を大体、手に入れた裕喜は鼻歌を歌いだしおうなほど上機嫌であり、その向かい側で裕喜に半ば着せ替え人形として連れまわされたシオンは机に突っ伏していた。

 

「けどシオン、今日元気ないわよねー。いつもなら【わたくしなら何でも似合いますわ!】とか言ってそうだけど」

「あ、貴女のテンションが高い過ぎるのが原因ではなくて?」

 

 一応、シオンに似合う服や小物を試着させていたわけだが、いつもならば似合いそう、と言って勧めてみたところ裕喜が物まねしたように突っぱねるだろう。

 シオンがどことなく様子が変だと言う事を感じながらドリンクカップの中のジュースを飲んでいる裕喜にシオンは心底 疲れたとばかりに恨めしそうに裕喜を見ている。

 

「えー? 何か悩みがあるなら聞いてあげようと思ったのになー」

「……必要ありませんわ」

 

 連れまわしたのは事実ではあるが、自分が原因と言われても釈然としない。

 何故なら自分が声をかける前からシオンはどこか憂い帯びた表情をしているからだ。だから悩みがあるのなら聞こうとは思ったのだが、シオンは拒否を表すように視線を逸らす。

 

「──あ、彩渡街に来ていきなりバレずにシオンお嬢様を探せって無茶言ってくれるよ……」

 

 シオンにそう言われてしまってはもう裕喜は何も言えない。無言な空間が広がるなか、物陰からその様子を見ていたのはフォーマルハウトの三人であった。シオンを探し出したモニカは疲れた切った様子でセレナを見やる。

 

「まあまあ。はい、飴ちゃん上げる」

「やはりなにかあったようですね」

「うん、でもシオンは不器用だからね」

 

 くたびれているモニカに棒付きの飴を向け、食べさせているセレナに今度はアルマが尋ねる。モニカがもごもごと口を動かしている中、セレナは笑みを浮かべて細めていた瞳をゆっくり開けてシオンを見る。

 

「例え悩みがあったところで周りに打ち明ける術を知らない。だから抱え込んで周りから手を差し伸べられても突っぱねる。悩みは聞いてもらうより、聞く方がシオンにとって楽なんだよ」

「本当に不器用ですね。面倒臭いともいう」

「まあねぇ、流石ボクの妹。悩みってのは弱さだからね。周りに気丈に振る舞ってるシオンだから弱さを明かす事を躊躇ってしまう。弱さは自分に似つかわしくないって思ってるから」

 

 悩みを聞いてもらおうとはしないシオンの心中を考えるセレナ。弱さと言うものはそう易々と明かせるものではない。やれやれとため息をつくアルマにセレナは苦笑しながらシオンを見る。

 

「まっ、それならそれで良いさ。でも周りに迷惑をかけるのはよくないからね。ちょっと行ってくるよ」

「えっ、会う気はないって……」

「うん、セレナ・アルトニクスとして会う気はないよ」

 

 お喋りもここまでにしてそろそろシオンの為に動こうとするセレナだが、それでは回転寿司で言っていたことと矛盾してしまう。

 その事に触れるモニカにセレナはクスリと笑い、鞄から何かを取り出してシオンへ向かっていく。

 

「──お嬢さん達、ちょっと良いかな?」

 

 懐から取り出したものをそのまま身に着けるセレナにアルマとモニカが唖然として止めようとするが、それではセレナの意に反してしまうと一応隠れて様子を伺うなか、セレナはシオンと裕喜に声をかける。

 

「少し道を尋ねたいんだけど」

 

 シオンと裕喜が目を向ければ、そこには銀髪のウィッグがついた金色の仮面を被った少女がいた。突然の不審人物の登場に二人は開いた口がふさがらない。

 

「どうしたの? ボクの顔に何かついてるかな?」

「いや、付いてるけど……。えっと……シオンのお姉さ──」

「アナタ、誰ですの!?」

 

 唖然としている二人に首を傾げる仮面の少女だが、その言葉に裕喜は仮面を見ながら答えると、もう目の前の少女が誰なのか分かっているのだろう。その正体を口にしようとした瞬間、不審がったシオンは立ち上がり、ビッと指さし、裕喜やアルマ達は気づいてない!?と驚愕する。

 

「いや、シオンのお姉さんだよね?」

「わたくしのお姉さまはこんな珍妙な仮面を被りませんわ!!」

「寧ろだと思うんだけど!? 声だって本物じゃん!!」

「世の中には同じ声が三人はいると言いますわ!!」

「顔だよ!」

 

 目の前の少女の正体を教えようとする裕喜ではあるが、シオンはそれを否定する。

 とはいえ過去に似たような事があった為、何ら不思議には思わない。それにセレナの声と全く同じなので、それに関しても触れるがシオンは認めようとせず、その言葉に裕喜はつっこむ。

 

「まあまあ。ボクの名前はもんたーく。それで道を尋ねたいんだけど」

「……どこに案内しろと?」

「ガンプラバトルシミュレーターがあるところ」

 

 互いにぜぇぜぇと肩を上下させながら言いあっていた裕喜とシオンに張本人であるセレ……オホン、もんたーくが再び声をかけると、訝しんだ表情を受けるシオンにその場所を答える。裕喜とシオンは互いに顔を見合わせると仕方ないと案内を始める。

 

 ・・・

 

「さぁ着きましたわ」

 

 シオン達が移動したのは地下のゲームセンターにあるガンプラバトルシミュレーターだ。道案内を終えたシオンはさっさといなくなろうとするのだが……。

 

「まだ道を尋ねたいんだけど」

「……何ですの?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターを見ているもんたーくはそのままシオンに声をかけ、まだ何かあるのかと鬱陶しそうに振り返られる。

 

「聞きたいんだ。君がどこに行きたいのか……どうしたいのかを」

 

 もんたーくは懐のケースから細身の赤いガンプラを見せながら、仮面の目にあたる部分を開いてその瞳をシオン達に露わにしながら尋ねる。自分自身を問うようなその瞳を向けられたシオンは思わずたじろいでしまうが……。

 

「持ってるよね、ガンプラ?」

 

 有無を言わさぬ、さながら恐ろしい悪魔の王のような迫力のある言葉にシオンの動きは止まり、頷いてしまう。今日は宛てもなく動いていた。だからガンプラも一応は持ち歩いてはいる。

 シオンの頷きを見て、「じゃあ、行こうか」とガンプラバトルシミュレーターへ乗り込むように顎先で指すとシオンは言われるまま乗り込むのであった。


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