機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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これからもずっと

 闘技場を舞台にしたゲネシスブレイカーとセレネスの激闘の火蓋は切って落とされた。

 障害物も何もないこのステージではただお互いの実力のみが勝敗を決すると言っても過言ではないだろう。現に開始早々にゲネシスブレイカーとセレネスは火花を散らす実体剣同士による激しい剣戟を繰り広げていた。

 

「やるね……っ!」

 

 刹那に放たれたセレネスの刃を後方に身を反らして回避したゲネシスブレイカーは飛び退くと同時にスーパードラグーンを解き放ち、スラスターウイングから青白い光の翼ともいえる噴射光を発しながら再びセレネスへと向かっていき、その猛攻にウィルの表情は険しいものへと変化していく。

 

 いや、寧ろこれは最初からと言って良いのかもしれない。

 バトルが始まって早々にウィルから余裕が消えた。真摯に相手に向き合い、己の全力を持ってぶつかっていたのだ。

 

 自身を取り囲むように攻撃を仕掛けてくるスーパードラグーンが放つビームを刃で弾き、そのままの勢いを持って一基一基確実に破壊していく。

 

「簡単にはいかないか……ッ!」

 

 着々と数が減っていくスーパードラグーンを確認する一矢だがセレネスはスーパードラグーンを破壊し、そのままゲネシスブレイカーへと突っ込んでくる。

 その圧倒的な加速による砲弾のような体当たりじみた攻撃を何とかGNソードⅤで受け止め、改めてウィルの実力を感じる。

 

「だが……ッ!!」

 

 鍔迫り合いに発展して互いの実力を表すかのように拮抗するなか、ゲネシスブレイカーの左腕のマニビュレーターが紅蓮の輝きを纏い、そのまま放つ。咄嗟にセレネスは機体をずらして避けようとするのだが、間に合わず肩部を貫かれてしまう。

 

「甘いなッ!!」

 

 だがそれでもセレネスは動じる事もなく、寧ろ肩部を貫く左腕をそのまま刀を振り上げる事で切断する。左腕を失ったゲネシスブレイカーはGNソードⅤを瞬時にライフルモードに切り替えながら引き金を引く。

 

「君は確かに先人から受け継いだ力があるようだが……ッ!!」

 

 セレネスは肩部からゲネシスブレイカーの左腕を引き抜くと、そのまま放たれたビームに投げつけ爆散させる。硝煙が巻き上がるなか、先程のバーニングフィンガーを思い出しながらウイルス事件から知っていたその力が受け継いだものである事に触れる。

 

「だが、それは僕だって同じだッ!!」

 

 硝煙を払うかのように遥か上空に飛び上がったセレネスはそのまま急降下して刃を突き出す。一矢にはその動きに覚えがあった。何故ならば、ジャパンカップのエキシビションで実際に身に降りかかった技であったからだ。

 

 しかし、あの時放たれた技はウィルの方が鋭さがあり、一矢の反応が追い付かず、バックパックのスラスターウイングを貫かれ、そのまま蹴り飛ばされると地面を削りながらゲネシスブレイカーは吹き飛びそうになる。

 

「ッ……!?」

 

 だが完全に吹き飛ぶことはなかった。その直前にシザーアンカーをセレネスの脚部を拘束させ、そのままライフルモードで撃ち抜く。

 

「やっぱり強いな……」

 

 シザーアンカーも切断され、地面に向き合いながらゲネシスブレイカーとセレネスが降り立つ。一矢は改めてウィルの実力を肌で感じ、額に汗を滲ませながらも心底楽しそうに微笑を浮かべると、表情を鋭く変化させ、ゲネシスブレイカーを覚醒させる。

 

「あの光は……ッ!」

 

 覚醒したゲネシスブレイカーを見て、冷や汗を浮かべるウィルであったがモニター越しに見える目の前のガンダムは残光を走らせながら消え去る。

 傍から見ればこの闘技場にはセレネスのみに見えるだろうが、実際は違う。ゲネシスブレイカーは高速をも超え、セレネスを瞬く間に肉薄し、損傷を与えて行く。

 

「ッ!?」

 

 多くの者がこのまま一矢の勝利であると確信した。しかし現実はそうはならなかった。ツインアイの残光を走らせながら、振り下ろしたGNソードⅤの刃はボロボロのセレネスの刀によって受け止められ、一矢も含め多くの者が驚愕する。

 

「胸が熱くなってくる……ッ! 僕は紛れもなく……ガンプラバトルを行っているッ!」

 

 GNソードⅤの刃を受け止めるセレネスのツインアイが一層輝くと、そのままゲネシスブレイカーを振り払い、その身をゲネシスブレイカーと同じ輝きを放つ。

 ガンダムセレネスは今、ガンプラファイターとして再臨した主に呼応するかのように覚醒したのだ。

 

 ・・・

 

「ウィルも覚醒したっ!?」

 

 モニターで観戦していたミサ達は覚醒したセレネスに驚く。

 ミサもウイルス事件で片鱗を見せた際、同じ場にはいたが、ちゃんと見てはおらずこうして覚醒したのを見るのは初めてだ。紛れもなく輝きを放ったセレネスが同じく覚醒しているゲネシスブレイカーと幾度も切り結んでいるのだ。

 

(そうだウィル……。それこそガンプラバトルだ)

 

 損傷を受け、フレームを剥き出しになりながらでもまさに誇りをぶつけ合うバトルを行っているセレネスの姿を確かにその目に焼き付けながら、ミスターは人知れず微笑む。

 

(お互いがお互いを高め合い、戦っている間もさらなる成長をしていく……。君たち二人の関係は紛れもなく……)

 

 二機のバトルにかつての自分達の姿を重ねる。

 今、こうして身を削ってバトルをしているゲネシスブレイカーとセレネスの動きは更に精巧になっていく。自分が過去にウィルにそう感じたように今の一矢とウィルの関係にミスターは満足そうに笑みを浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

 そして素晴らしい時間は瞬く間に過ぎて行く。

 もはや互いが大破に近い状態となり、次の一撃が決まれば、その場で決着がつくだろう。二人の額に汗が滲み顎先まで伝い落ちる。集中力を研ぎ澄ましてずっとバトルをしているせいか、呼吸も荒くなっているがそれでもジッと相手を見据えている。

 

 もはや互いに言葉はいらない。

 次の一手で決まるのであれば、その一手に誇りも意地も何もかもまさに全身全霊をもってぶつかるだけだ。張り詰める空気を打ち破るように地を蹴って、二機のガンダムは同時に飛び出す。

 

「凄いスピードだ」

 

 ゲネシスブレイカーとセレネスは交差し、剣を振り抜いた状態で静止している。

 一体、どちらが勝ったのか。誰もが息を飲み、その瞬間を待っていると不意にウィルがポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「……見えなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 セレネスの刃に亀裂が走り、次の瞬間粉々に砕け散る。

 同時にセレネスは胴体に深く刻まれた残痕を軽く撫でるとそのまま砕け落ちると機能を停止させる。

 しかと大地に踏み締めるているゲネシスブレイカーは勝鬨を上げたかのように天にGNソードⅤを突き出すのであった。

 

 ・・・

 

「やったね、一矢ぁっ!!」

 

 シミュレーターから出て来た一矢に歓喜のあまり飛びつくように抱き着いてきたのはミサだった。かつてはまさに手も足もでなかったウィルを相手に勝利を収める事が出来たのだ。咄嗟に抱き留める一矢だが、ミサにつられるように笑みがこぼれる。

 

「負けちゃったね」

「これで一勝一敗さ」

 

 そんな一矢とミサの二人を尻目に夕香はシミュレーターから出て来たウィルに話しかけると次は負けないと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる姿を見て、柔らかく微笑む。

 

「それでは勝者に祝福の時間ですっ!!」

 

 するとハルがマイクパフォーマンスを行う。一矢とウィルの激闘で熱が入って忘れてしまっていたが、勝者にはコラボキャンペーンにネームを記す事とトロフィー……そして何よりミサと夕香のキスがあるのだ。

 

「えっーと……さ……。そこのトロフィーにするってのは……」

 

 いまだに気が進まないのか夕香はトロフィーを指差しながら提案するが、当然、受け入れられる訳もなくガックリと肩を落とす。

 

「別に俺は良いけど……」

「良いよもう……」

 

 一矢の前に立ち、途端にしおらしくなっている夕香は視線を伏せ彷徨わせていると、流石に悪いと感じ始めているのか兄なりに気を遣うが、腹を括ったのだろう。夕香は一矢と距離を詰める。

 

「っ!?」

 

 しかし中々キスまで時間がかかり、頬をほんのり朱く染めた夕香と見つめ合っていた一矢ではあったが不意に夕香によって強引に手で顔を横に押し向けられる。

 顔が横に向かった瞬間、一矢の胸倉を掴んだ夕香はそっと柔らかな唇を一矢の頬に触れさせる。

 

「……こっち見ないでよ、ばーかっ」

 

 再び顔の向きを戻そうとする一矢だが再び頬に押しあてられ向き直らせてはもらえなかった。耳まで真っ赤に染めた夕香はそのまま突き放すようにそそくさとシオン達の元へ向かっていく。

 

「じゃあその……今度は私の番……だよね……」

 

 夕香の番は終わった。今度はミサの番だ。

 全員の視線をミサに集中する中、ミサは恥じらってもじもじと身を悶えさせながら、一矢の真ん前に立つ。夕香の時もそうだったし、普通に考えればこちらだろうと、一矢は気恥ずかしそうに頬へのキスを待つ。

 

 

「──えっ?」

 

 

 しかしミサによる頬へのキスは来なかった。

 不意にミサの両手が一矢の頬に添えられミサへと向き直らせる。驚いた一矢は思わず声を上げるが、その言葉は自分の唇に重なった柔らかな唇によって遮られてしまった。

 

「誰にでもするわけじゃないよ……?」

 

 ミサの顔がゆっくりと遠のいていき、潤んだ瞳を一矢に向けながら、どこかやってやったとばかりに嬉しそうな笑みを浮かべながら愛らしく微笑む。

 

「地上に戻ったら……伝えたかったんだ……。ねぇ、一矢……」

 

 まさか夕香のように頬ではなく、ちゃんとキスをするとは思っていなかったのだろう。唖然とした空気が広がるなか、ミサは一矢にかつて言いそびれた事を口にする。

 

「大好き、だよっ」

 

 頬を染めながら、自身の想いを打ち明ける。

 かつてこの気持ちの正体は分からなかった。だが今では胸を張って言えるのだ。

 

「……俺も好きだよ、愛してる」

「ホントっ!?」

「ああ、先に言われちゃったけど」

 

 朱くなっているミサの頬を撫でながら、一矢もミサへの想いを打ち明ける。

 一矢は少なからず真実など女子の好意を寄せられる。そんな彼が自分に対して愛してるとまで言ったことにミサは驚くと共にどこか蕩けたような表情を見せる。

 

「だから俺の傍にいて欲しい。ずっと……この手を握っていて欲しい」

「当たり前だよっ!」

 

 改めて傍にいて欲しいという言葉の意味は言わずもがな。

 かつてのミサのように手を差し伸べる一矢にその手を取ったミサはそのまま一矢の胸に飛び込む。次の瞬間、そんな一矢とミサの二人を祝福するかのようにこの場に集まったシュウジや厳也かどま達がもみくちゃにする。ただそれでも二人の手はしかと繋がれており、二人は幸せそうな笑顔を浮かべるのであった……。

 

 


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