機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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未来への扉

「そろそろポイントだよ!」

 

 カドマツが示したカウンターウェイトが設置されているポイントへバーニアを全開にして向かう実物大ガンダム。その操縦席ではミサがモニター上に点滅するポイントを指差す。カウンターウェイトの頭上に辿り着いたと言う事もあり、ガンダムは姿勢を立て直しながら停止する。

 

「うわあー地球だぁ……。私達この世界で人類初のMS乗りだよね!」

「そうだな」

「こんなものに乗って、こんなところまで来て……凄い未来に来ちゃったよ!」

 

 ガンダムが眼下に地球を見下ろしながら、モニターでそれを見つめて感激しているミサは背後の一矢に話しかけると、一矢も心なしか微笑みを浮かべながら同意する。

 まさか地球を出るとはチームを組んだ時は思いもせず、しかも実物大のガンダムに乗り込むなどとは夢にも思わなかった。

 

「……私、一矢に会えて良かった。あの時、ゲーセンで声をかけて本当に良かった」

「ミサ……」

「ここまで連れて来てくれて……ホントにありがとうっ……」

 

 始まりはイラトゲームパークだった。

 あの時、一矢に出会わなければ自分は今も万年予選落ちのチームだったのかもしれない。それが一矢に出会えて、カドマツ達と出会い、ここまで来ること出来た。ミサは潤んだ表情で頬を紅潮させながら一矢に身を寄せ密着させる。

 

「……それは俺も同じだよ。ミサがここまで俺を連れて来てくれた……」

「一矢……」

「俺こそ本当にありがとう。きっとこの先の未来も……ミサ以上に出会えて良かったって思える人はいないと思う」

 

 身を寄せたミサに腕を回し抱きしめる一矢はこれまでを思い返す。

 かつては聖皇学園でチームを組んでいたが、チームを抜けて以来はずっと自分の殻に閉じこもっていた。きっとミサに出会わなければずっと本当に自分がしたい事からも目を背けて腐って生きていたはずだ。だからこそミサに出会えて本当に感謝しているのだ。

 

「あのさ、地上に戻ったら──」

≪──あー……お楽しみのところ悪いんだが、やる事やってくれるか≫

 

 もう自分が一矢に抱いている気持ちが何であるのか分かっているつもりだ。

 だからこそちゃんと地上に帰ってから伝えたい。そう思って話している最中に気まずそうなカドマツに声が届き、今までの会話を諸々聞かれていたのかと二人は赤面し、ミサに至っては「なんだよもぅ!」と文句を言う始末だ。

 

「あ、このボタンだよ。ビームサーベル」

 

 気を取り戻すように咳払いをする一矢にミサはマニュアルを読みながら、バックパックに備わっているビームサーベルの稼働ボタンを指すと一矢はそのまま押す。プシュッと軽く上部に展開しガンダムは勢いよく引き抜き、出てきたのは発光するビームの刃。

 

「なにこれ! ビームサーベルじゃないの!?」

≪あるわけねえだろ、そんなもん≫

 

 ……ではなく展開式の電動鋸であった。

 振動する鋸を見やりながら、なにこれとあり得ないとばかりに叫ぶミサに寧ろ何言ってるんだとばかりにカドマツが呆れた様子で答える。

 

「そうかー。まだまだ未来はこれからだね!」

「じゃあ……未来への扉を開こうか」

 

 まぁ仕方ないかと苦笑するミサは一矢に笑いかけると、一矢も微笑を浮かべながら頷き、彼らが操作するガンダムは電動鋸を振り上げ、未来への扉を開くようにカウンターウェイトを切断するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 結局、それから地上に戻るまでは何週間もかかったが、戻れるとなったら皆旅行気分で宇宙を楽しんだ。不測の事態から復帰した宇宙エレベーターは逆に信頼性がアピールされることになり、それまでの鈍さが嘘のように宇宙開発計画が動き始めている。

 

 ミサは何だかプロパガンダに利用されたようで釈然としないようだが、これなら生きているうちに本当に宇宙旅行に行ける日が来るかもしれないと喜んでいた。

 

 そんなミサ達も病院で検査を受けたり、一矢はミサ達に丸投げしたマスコミのインタビューに受けたりで最近ようやく落ち着きを取り戻す事が出来た。

 

 そして──。

 

 

「お、きたきた!」

「待ち兼ねたよ」

 

 イラトゲームパークの自動ドアが開き、一矢がインフォに出迎えられながら入店するとミサが待ち兼ねたとばかりに笑顔で出迎える。ここには夕香やウィル、そして多くの知り合いが所狭しとイラトゲームパークで一矢を待っていた。

 

「なんで起こさなかったの?」

「イッチは起こしても起きないじゃん」

 

 どうやら一矢は相変わらず寝坊をしたらしい。

 文句を言いたげに一足先にイラトゲームパークに訪れてベンチに座っている夕香を見やると、寧ろ肩を竦めながらやれやれとばかりにため息をつく。

 

「それでは皆さん、早速ですが始めましょう!」

 

 いつまでも文句を言っていても仕方ない。今日は理由があってこの場に多くの人々が集まっているのだから。ハルはマイクを握ると高らかに話し始める。

 

「中断してしまったガンプラバトル世界大会決勝勝手にリマッチー!!」

「チーム戦だと3VS1になる為、今回は代表一名ずつによるタイマンバトルとさせてもらう!」

 

 そう、今日は非公式ながらあの時中断してしまった世界大会の決勝をもう一度執り行うと言うものであった。ハルの宣言に歓声が沸き上がり、同じくマイクを持っていたミスターがルールを説明する。

 

「勝者への特典を。ドロシー」

「勝った方が来月からのタイムズユニバース百貨店と彩渡商店街のコラボキャンペーンで先に名前を書く事が出来ます」

 

 折角なのだ。何か勝者への特典をつけようとウィルが傍らに立っているドロシーに声をかけると、背後に控えていたドロシーが一歩前に進み出て、このリマッチで勝利者が得られる特典を説明する。

 

「なんだよそれ、つまんねーよ」

「何を言うんだ! そもそもウチと肩を並べるだけでも商店街的には破格の条件だろう?」

 

 もっともあまり面白くもない特典だったのか、筐体の前に座っていたモチヅキが子供のように文句を言い始めると、そもそもウィルは文句が出る事自体が心外であったようだ。とはいえ今のウィルの発言でタイガー辺りが野次を飛ばしているのだが。

 

「私からはこのトロフィーを進展しよう!!」

「なんかボロっちぃ……。あっ……それってもしかして」

 

 場を仕切り直すように今度はミスターが高らかに言い放つと、テーブルの上に布で隠していたラストシューティングのポーズをとっているガンダムのトロフィーを見せる。

 しかしミサが難色を見せるようにそのトロフィーはどこか年季もあり、古びて見えるのだが、その途中で何かに気づいたのかウィルに目をやる。

 

「まだとっておいてあったのか……」

「捨てられなくてね」

 

 それはかつてアメリカで行われた大会でウィルが獲得したトロフィーであった。

 懐かしく感慨深そうに目を細めるウィルにミスターもサングラス越しに優しい表情を浮かべながら答える。

 

「もう一声何かないのか?」

 

 どうせならまだ何か欲しい。

 モチヅキの隣に座っているカドマツは何か期待しているように、笑みを浮かべながら声を上げると何かないかと考えていた一同だが……。

 

「勝った方にはミサちゃんと夕香ちゃんのキスよ!」

「ちょっとぉ!?」

「アタシそこまで安くないんだけど……」

 

 何とミヤコからとんでもない提案が出され、周囲は面白そうだとばかりに歓声が上がる。もっとも、突然名前が挙がったミサと夕香は互いに顔を見合わせると、すぐに止めさせようとするが悲しいかな、この場の空気は変えられなかった。

 

「娘をかけてのバトルか。胸が熱くなるねぇ」

「おめえオヤジとしてその感想はおかしいだろ」

 

 予想だにしていない事態ではあるが、二人の男が娘のキスをかけてバトルをするのだ。

 ワクワクと楽しそうに笑みを浮かべているユウイチにマチオの冷静なツッコミが入る。

 

「まあ、魅力的ではあるが僕は別に夕香だけでも良いけどね」

「その手を離せ」

 

 いまだ困惑している夕香の手をさながら王子か何かのようにウィルは取る。

 手を取られた事で夕香がウィルに視線を向けてると今度は一矢が空いている夕香の二の腕を掴んで夕香の手を握っているウィルに顔を顰め、睨んでいる。

 

「僕は夕香に用があるんだが?」

「妹に悪い虫が寄るのを見過ごせるか」

 

 火花を散らしているウィルと一矢なのだが、もっとも夕香からしてみれば、何でこんな事になっているのだと首を振っている。

 

「おぉっ……イケメン金髪社長と双子の兄が夕香を取り合ってる……! これ少女漫画みたいな映画が作れそう!」

「やれやれ……美しくありませんわね」

 

 傍から一人の少女を巡って、火花を散らす様子を眺めながら手を合わせて目を輝かせている裕喜の隣で嘆息をしながらシオンが持参の紅茶をティーカップに注いで飲み始めている。

 

「どんどん面白くなってくなぁ」

「キスか……。ところでシュウジ、お前ヴェルとはどこまで進んだんだ?」

 

 一矢達の姿を眺めながら手すりに膝をかけ、頬杖をついてニシシと笑っているシュウジであったが、その隣で手すりに身を預けている翔はヴェルとの関係について触れられてしまう。

 

「な、なんでヴェルさんの名前が……っ!?」

「お前ら俺のマンションに居候しているんだから、お前ら二人の空気の違いくらい分かるぞ」

 

 先程まで悪戯っ子のように笑っているシュウジではあったが、ヴェルの名前が出た途端、狼狽えてしまっている。異世界からやって来た者達はこの世界に訪れれば翔のマンションに居候している為、シュウジとヴェルが一緒にいれば桃色の空気にでも当てられているのだろう。どこか遠い目で答える。

 

「さあさあ盛り上がってまいりましたーっ! それではバトル開始してください!」

 

 しまいにはイラトがどちらが勝つか賭け事を始めているなか、ハルが沸き上がるこの場のボルテージを察知しながら、一矢とウィルに促す。

 

「ね、ねぇ一矢……」

「妙な事になったな……」

 

 その途中でミサが一矢に声をかける。やはりまだキスの件に関して、動揺しているのか上擦った様子だ。そんなミサの様子を見ながら、首の辺りを摩って一矢が嘆息する。

 

「まあでも……負けられない理由、また一つ出来た」

「えっ……?」

「そう簡単にミサのキス……譲りたくない」

 

 だがふと微笑を浮かべた一矢はミサに向き直る。どうしたのかと一矢の顔を見るミサであったが、不意に一矢の手がミサの頬を撫でると、柔和な表情を向けてそのまま再びウィルに向きなおり、残されたミサはボンっと爆発したかのように見る見るうちに顔を真っ赤にさせる。

 

「さぁ決着をつけよう!」

「望むところだ」

 

 ウィルの言葉に一矢が頷き、二人の表情には知らず知らずのうちに笑みがこぼれている。二人はそのままバトルシミュレーターに乗り込もうと歩き始める。

 

 

「ゲネシスガンダムブレイカー、出る」

 

「ガンダムセレネス、行くよ」

 

 

 ステージに選ばれたのはかつてミスターとのエキシビションマッチが行われた闘技場のステージであった。

 一矢とウィルはガンプラをセットして同時に掛け声を放ち、二機のガンダムは飛び出していく。

 こうして遂に決着がつかなかったバトルが再び開始されるのであった……。


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