「嘘だろ……? PGのパワーと張れるなんて……ッ!?」
謎の赤い光を纏ったブレイカーⅢだが、それだけならまだ驚かない、
何故ならトランザムなどの類もあるからだ。
だが目の前のブレイカーⅢは明らかに違う。
何よりHGと比べ圧倒的なまでの力の差を持つPGのマニュビレーターを受け止め、振り払ったことが証拠だろう。カマセは目に見えて動揺している。
「ねぇ、どうなってんの!? なんか光ってるけど!?」
ミサもブレイカーⅢの変化に戸惑い、一矢に通信を入れる。
しかしこんな事、一矢も知る由もない。ただ言えることはガンプラのパラメータが急上昇したという事、そして何より目の前の敵を倒すことだけだ。ブレイカーⅢは前に動く。
「ありえねぇ……!」
カマセは本能的にこのままブレイカーⅢを放置しておくのは危険だと判断した。
こちらに向かってくるブレイカーⅢにGNマイクロミサイルとGNソードⅢをライフルモードに射撃をするが、ブレイカーⅢのスピードは先程の比ではなくあっという間に背後に回り込み、カマセが驚く間に赤色の光を纏って、エネルギーを纏って巨大化したGNソードⅢの刀身でオーライザーを破壊する。
「何かしてんだろ!? アセンブルシステムに何か細工してんだろォッ!?」
次に切り落とされたのは左腕だ。ブレイカーⅢは四方八方から斬撃を浴びせ、その速度はカマセの目では追いかけられないほどだ。
そしてスピードだけではない攻撃力も底上げされ、圧倒的な耐久値を誇るティンセルもすぐに削られていく。このあまりの状況を受け入れられないカマセが叫ぶ。
「わ……私だってこんなの初めてだもん!!」
カマセの誰に問うわけでもない言葉にミサがブレイカーⅢを見て戸惑いながら答える。
明らかにトランザムのようなトランス系のEXアクションではないのだ。ティンセルを蹂躙するブレイカーⅢの動きはミサにも捉えることはできない。
「くっそぅ……ッ!!」
カマセは信じたくなかった。
PGを使った以上、負けるなど。
この世は金と技術力がモノを言う世界だと思っていた。故にこんな訳の分からない負け方など認めたくなかった。
「こんな……こんなの……ッ……嘘だああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっっ!!!?」
ブレイカーⅢはティンセルの前に躍り出ると、そのままGNソードを頭部に突き刺し、そのまま一太刀入れる。この一撃でティンセルの耐久値は0に、スパークを上げながらティンセルは爆発を起こすのだった……。
・・・
≪優勝は彩渡商店街ガンプラチームです!!≫
「信じられない……。勝っちゃった……」
アナウンスが流れる中、一矢はシミュレーターを出てミサと合流していた。
ミサはアナウンスを聞きながら優勝した事を改めて感じるとる。
今まで優勝どころか予選も通過していなかった為、いまだその表情は今日、何度目かの驚きに満ちている。
だが自然とミサの表情は笑顔に変わっていく。それを見た一矢もどこか安堵したような表情だ。
「おい、なんなんだあの光る奴は!? チートじゃないのかよッ?!」
「止めてよ、人聞きの悪いっ!!」
しかしそんな二人の雰囲気に水を差すようにカマセが一矢の肩を無理やり掴んで怒鳴り込んでくる。
いまだにあのような負け方を認めたくはないのだろう。しかしそんな事、このような場で言われてもいらぬ注目を浴びるだけだ、ミサはカマセに言い返す。
「じゃあ何なんだ!? どういうシステムなんだ!?」
「──騒ぐなみっともない……。あれは〝覚醒”っていうシステムだな」
いくら言い返されようが納得のできないカマセは一矢に詰め寄る。
しかし騒ぎを起こすカマセの一矢を掴む腕を振り解いて聞きつけたカドマツが咎めながら答える。
「覚醒……? 聞いたことないけど……」
「一応、ノーマルのシステムでサポートされているらしい。昔は使ってたプレイヤーがいたらしいしな」
ガンプラバトルにおいてそのような名称を聞いたことはなかったミサに覚醒についてカドマツが知る限りのことを話す。
「……如月翔」
「そう、確かそんな名前の奴が使ってたな。俺も目の前で見るのは初めてだな、良いもん見れたわ」
一矢はポツリと翔の名を口にする。
彼は覚醒についての話を聞き、心当たりが一つあった。
それは翔だ。
彼もかつてGGFのイベントでPG Ζガンダムとの戦闘中、彼のガンプラが今のブレイカーⅢのように発光した。
それ以降、彼は彼の愛機の一つとして名高いガンダムブレイカー0に乗り換えた後でも度々、覚醒をしている。一矢から翔の名を聞いたカドマツはうんうんと満足そうに頷く。
「なんでそれこっちも使えるようにしてないんだよ!?」
「使用条件が分からないからなぁ……」
そんなシステムがあるのならば何故使えるようにしないのか、今度はカドマツに詰め寄る。しかしカドマツは首元に手をやり、首を傾げながら答える。確かに誰でも使えるのであれば広く認知されているだろう。
「システムでサポートされてるんじゃないの?」
「誰でも使えるようにはサポートされてないんだよ。覚醒したから使える、そういうもんらしい」
先程のカドマツの説明と合わない。
ノーマルでサポートされているのであれば何故使えないのか、ミサは純粋に疑問に思い問いかけると、カドマツは知る限りのことを話す。また一説ではバグとも言われている。
「なんだそれ、インチキだろそんなのッ!?」
「アホか。PG使って圧倒的な試合にしておいて負けたらインチキとかアホか。そんなんだから負けるんだよ、アホ」
いまだに食って掛かるカマセに流石に鬱陶しくなり、元々、カドマツもカマセとは相性は悪いと思っていたのか淡々とカマセを咎める。
「三回もアホって言われてやんの」
そんなカマセにしめしめとミサは矢に笑いかける。一矢も特に反応はせずにカマセに掴まれた肩を摩っている。
「ちくしょう! 俺はこんなところで負ける男じゃないのにッ!!」
いたたまれなくなったカマセは捨て台詞を残してその場から走り去っていく。その後ろ姿は何とも情けなかった。
「はぁっ……今年はファイターに恵まれなかったなぁ」
「でもPG動かせるなんてアセンブルシステムの改造は凄かったです」
「突貫作業だったからPGのスペック活かしきれなかったけどな」
カドマツはカマセの後ろ姿を見ながらため息をつく。
去年、優勝できたのは単にファイターとの相性だろう。そんなカドマツにミサが褒め称える。敵チームであってもPGを動かすアセンブルシステムを組むのはただの一般人では難しい問題だ。
突貫作業で組み上げたシステムだと言う事は戦闘中に一矢も見抜いていたことだが、それでもあれだけ動かせるのは大したものである。
「上の大会じゃもっとすげぇの出てくるだろうよ」
「そっか。優勝したから次があるんだ!」
カドマツの言葉はまさにその通りだ。
リージョンカップ、ジャパンカップ、今まで一矢が戦っていた相手はあれ以上の性能を持って挑んできた。ここで勝てたからと言って満足する訳にはいかないのだ。ミサはカドマツの話を聞き、一矢に笑いかけ、これから先の未来に期待を膨らませる。
「イッチーッ!!」
「っ!?」
一矢も目を瞑り、これから先の事を考える。
すると背後から裕喜がタックルの如く一矢に抱き着く。驚くミサをよこに夕香達が歩み寄ってきた。
「やったねーミサ姉さん」
「イッチ、凄かったなあれ」
一矢の首元に抱き着き、ぶんぶんと動かしている裕喜を横目に夕香はミサに笑いかけミサは礼を言う中、レンが苦しんでいる一矢に先程の覚醒ついて話題を振る。
「凄いね、あの人」
「……うん」
そんな一矢達を遠巻きに見つめながら未来が隣に立つヴェールに話しかける。ヴェールも未来の言葉に頷きながら、一矢達を横目に未来と共にその場を去る。その胸には何れ戦うであろう一矢達への期待に胸を躍らせていた。
・・・
「それでは彩渡商店街ガンプラチームのタウンカップ優勝を祝して乾杯っ!」
「「「乾杯!」」」
その晩、彩渡商店街で三軒しか開いていないうちの一つ、居酒屋みやこにて祝勝会が行われていた。ユウイチが音頭を取り、飲物が入ったグラスを合わせる。
「ミヤコさん、お店貸してくれてありがとう」
「良いのよ、うちは一日くらい休んでも問題ないから」
テーブル上には焼き鳥や刺身、揚げ物などの食欲をそそる美味しそうな居酒屋料理が並んでいた。ミサがこの店の店主である割烹着を着たミヤコに礼を言うと、ミヤコは人当たりの良い笑みを浮かべて答える。この店は商店街唯一の繁盛店だ。
「うちの店もミヤコのところに商品卸せてなかったらとっくに潰れてらぁ」
瓶ビールをジョッキに注ぎながら彩渡商店街でトイショップ、居酒屋みやこ、そして最後の一軒として開いている精肉店の店主であるマチオが酒を飲んで上機嫌になりながら自分の店の事情を口にする。
「ミヤちゃん、うちの商品も扱ってくれないかな?」
「ガンプラって食べられるの? 衣をつけてカラッと揚げてみる?」
そんなマチオを見てその隣でユウイチが苦笑しながら冗談交じりにミヤコに提案すると、わざとらしく肩を竦めながら冗談を冗談で返される。とはいえガンプラ焼なる食べ物はある。実際のガンプラを使っているわけではないが。
「しかしスゲーな。優勝なんて立派なもんだよ」
「まだ一番小さな大会だし、これからだよ」
ゴクゴクッと喉を鳴らしながらビールを飲み干したマチオがミサ達に感心しているとミサは照れ臭そうにしながら答える。
(……その一番小さな大会に今まで躓いてたみたいだけど)
その隣で一矢はチビチビとジュースを飲みながら内心、皮肉を言う。
性格が捻くれているのは自分でも分かっているし、突発的に思ったことなので口には出さずに内心に留めておく。
そんな一矢はまるで借りてきた猫のように大人しい。
元々この手のイベントには参加したがらないが、二人しかいないチームの祝勝会だと誘われたから来ただけだ。
何より自分が知らない人間達、特に知り合ったばかりの人間がいるともなれば元々他者と関わろうとしない一矢には大人しくジュースを飲む以外のことはしなかった。
「ミサ、チームメイトに皆さんを紹介しなさい」
「そうだった、放ったらかしてごめんね。肉屋のマチオおじさんと居酒屋のミヤコさんだよ。で、こっちが我が商店街チームの期待のルーキー、雨宮一矢君! 今日も大活躍だったんだよ!」
そんな一矢に気づいてユウイチがミサに声をかけると慌ててミサが自分の隣に座る一矢、そしてマチオとミヤコにそれぞれ紹介し、一矢は軽く会釈をし、マチオとミヤコはそれぞれよろしくと声をかける。
「前は他にもお店あったんだけどね……。でも、私達が頑張ればまた昔みたいに賑やかな商店街になるよっ!」
「そうなると良いわねぇ」
「期待してるぜ、お前達!」
今では三軒しか開いていない彩渡商店街。生まれ育ったこの商店街のかつての姿を思い出しているのか少し寂しげなミサだが今回のタウンカップの優勝が希望となったのかその表情は晴れやかなものに変わる。そんなミサにミヤコとマチオがそれぞれ声をかける。
「──邪魔するよ」
「あらごめんなさい、今日は貸し切りで……」
すると入口の引き戸が開かれ、来客が暖簾をくぐりながら声をかけるとミヤコは貸し切りの張り紙を貼ったはずなのにと内心で思いながらも立ち上がって来客に対応しようとすると……。
「あれー……カドマツさんだっけ……? どうしたの?」
「女将さん、俺、その嬢ちゃんの知り合いなんだよ」
来客に目を向ければ、それは今日のタウンカップで出会ったカドマツだった。
驚いているミサにカドマツがミヤコに知り合いであることを説明する。それならばとミヤコは店内に案内し、カドマツはユウイチの隣に座る。
「実は嬢ちゃん達のチームに入れてもらおうと思ってな」
「え、なんで? 自分のチームは……?」
カドマツはミヤコからグラスを受け取りながら来店した目的を明かすと、まさかの提案にミサは戸惑う。カドマツはハイムロボティクスのチームに所属しているはずだ。
「お前らに負けて、今シーズンもうやることないんだよ」
「あー……ごめん。失業させちゃって」
タウンカップを逃した以上、その先の大会には出られない。企業として参加したチームはもうやる事がないのだ。その事を話すカドマツにミサは憐れんだ目で謝る。
「別に会社はクビになってねーよ! この商店街チームはこの地元代表なわけだから同じ地元同士、我がハイムロボティクスも力添えってわけだ」
「スポンサーになってくれるということかい?」
ミサの言葉にツッコミを入れながらハイムロボティクスとして協力を申し出ると、意外そうにユウイチが話に入る。
「資金面じゃなくこのチームはエンジニアいないでしょう? 俺がチームエンジニアを引き受けますよ」
「うちにはエンジニアを雇うお金は……」
資金面ではなく技術提供をするという。
ありがたい話ではあるが、ハイムロボティクスのエンジニアを雇うだけの資金はない。そんなものがあればカマセも抜けないだろう。ユウイチはやんわりと断ろうとするが……。
「そこはうちの社長にも話通してありますから、ちょっと仕事に協力してもらうってことで。それにね……個人的におたくのエースファイターに興味がある」
どんな仕事に協力するかはまだ分からないが金はいらないというのであれば、ありがたい話だろう。ユウイチの懸念をなくしながらカドマツは一矢に目を向ける。今回の覚醒、エンジニアとしては興味があるのだろう。当の一矢はカドマツの視線に気づかずに焼き鳥のぼんじりを食べている。
「え……わたしに? 個人的に? んー……でもカドマツさんじゃあ年の差ありすぎかなぁ……」
「え……このチーム、嬢ちゃんがエースなの?」
カドマツの一矢に向けている視線にミサが割って入る。
わざとらしく頬に手を当てる唸るミサにカドマツが意外そうにミサに言い、エースだと思われてなかったミサはえっ、と固まる。
その隣でカドマツが思った本来のエースである一矢は相変わらず焼き鳥を食べ、隣で固まるミサの様子にも気づかずに今度は焼き鳥のかしらに手を伸ばすのだった……。