機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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プロローグ─夢の舞台─

 

「はぁっ……!!」

 

 ドーム型の装置の中で一人の少年が汗を流し、息苦しそうに息を切らしていた。その様子からは疲労感をも伺わせる。

 彼の目の前に見えるモニターにはどこまでも広がるような星々が輝く宇宙が広がっていた。だが実際に少年が宇宙空間にいるわけではない。

 

 ──ガンプラバトル

 

 アニメ【機動戦士ガンダム】……及びそのシリーズに登場する人間型有人機動兵器・通称モビルスーツ、大型機動兵器・モビルアーマー、そして艦船などを立体化したプラモデルであるガンプラを用いたゲームである。

 

 ガンプラバトルシミュレーターと呼ばれるドーム型の機械に乗り込み、組み立て済みのガンプラをセットする。するとそれは完成度を含めてデータ化され、制作されたジオラマ上にホログラム投影されるのだ。

 ビームや爆発などもエフェクトで再現され、今では思い思いにガンプラを改造し、かつてのガンプラブームを思い出させるような大ブームを巻き起こし、日々自慢のガンプラを使った誇り(プライド)をぶつけた戦いが行われている。

 

 ガンプラバトルシミュレーターの開発も進み、GPと呼ばれる使用者であるガンプラファイターが持つガンプラのデータが入った端末内のプログラムやアセンブルシステムの改良なども勝利の分かれ道といわれるほどだ。

 

 ここで息を荒げる少年……雨宮一矢もガンプラファイターの一人でガンプラ及びガンダムに情熱を持つ少年だ。

 彼は汗に濡れた手で操縦桿を握りながら目を動かしモニター越しの周囲を伺う。警戒をしているのだ。なにを? 決まっている。今、この場で戦っている相手をだ。

 

 既に自分と共に出撃した仲間は撃墜されてしまった。

 残るのは自分だけ。だが自分も奮戦した甲斐あって、敵チームも後一機だけだ。

 

「……!」

 

 ゴクリ、と息をのむ。

 空を駆ける一筋の流星が見えた。対戦相手のモノだろう。

 白騎士のようなガンプラがこちらに真っすぐ向かってくるのを確認すると、すかさず装備しているマシンガンを発砲し、周囲にばら撒く。

 

「……っ!?」

 

 だが甘かった。

 それが当たるわけもなくあっという間に接近を許してしまった。

 白騎士のガンプラが手持ちのビームライフルライフルを投擲し、すぐさまバルカンで撃ち抜くことで爆発させる。一矢の見つめるモニターにはビームライフルが爆発したことによる硝煙が覆ってしまった。

 

 煙の中から相手のガンプラが飛び出した。

 一矢がそれを認識する頃には既に自分のガンプラは上半身と下半身が真っ二つに切断されてしまい、爆発する。

 

「……」

 

 負けたのだ。自分の集中力はとっくに切れていた。

 彼の中では悔しさだけが残る。

 このチーム戦はジャパンカップ決勝戦。これに勝てば世界大会にも進出、出来たのだ。

 

 きっと誰かは言うだろう、ジャパンカップの準優勝でも凄いと。

 

 だが人間は欲深いものだ。

 一矢もジャパンカップは夢の舞台だった。

 

 だが世界に届くかもしれない。

 そんな希望があればそれを望んでしまう。夢の舞台の更に上に行きたかった。

 

 一矢は世界に挑戦したかったのだ。

 まだ見ぬ強敵達に挑戦したかった。

 だがそれはこの戦いで叶わぬ夢となってしまった。

 

『君と戦える日を楽しみにしてる』

 

 なにより強くなりたかった。

 自分にガンプラの楽しさを教えてくれた憧れの人に挑戦したかったから。

 今の自分ではあの人には届かない。だからこそ強くなりたかったのだ。

 

「負けちゃった、ね……」

「雨宮とだったら世界大会にも行けると思ってたんだけどなぁ……」

 

 ガンプラバトルシミュレーターを出た一矢はチームメイトと顔を合わせる。

 元々自分は同じ学校の彼らにスカウトされこのチームに身を置いていた。彼らは学校内で無類の強さを持つ一矢を見出していたのだ。

 

 いってしまえば一矢はこのチームのエースだったのだ。

 そんなエースをスカウトしてまで臨んだジャパンカップで敗北した事でチームメイト達の表情は暗い。彼らは信じていた。一矢がいれば優勝できると。

 

「……ッ」

 

 チームメイト達の言葉に悪意はない。

 純粋に残念であり悔しいのだろう。だが二人のチームメイトの言葉は一矢の心に突き刺さる。やがて一矢の表情はどんどん暗いものとなっていった。

 

 だがこの言葉はここだけで聞くわけではなかった。

 彼らの敗北は一矢の実力を知る学校の知人達にまで広がる。

 

 雨宮が負けた

 

 雨宮なら勝てると思ってた

 

 雨宮だったらって信じてた

 

 そんな言葉がずっと一矢の耳に届く。

 やがてそれはチームを引退し、彼の心を閉ざす原因になるのだった……。

 

 




雨宮一矢

【挿絵表示】

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