しかし、誰が悪を裁くのか?   作:SKYbeen

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第8話

 

 

 

 

 

 

闇夜が支配する帝都の街。暗く沈んだ街路を一望出来る摩天楼からそれは見下ろしていた。屈強な肉体を持つ大男、その額に覗く第三の目は真っ暗な闇でさえ鮮明に映し出す。自身を捕らえようと奔走する軍兵、逆に命を狙い刈り取らんとする暗殺者達。

 前者は取るに足らない連中だ。歯応えもなく、何の面白みもない。だが奴らはどうだろう。人を殺すことにのみ突出した殺し屋集団のナイトレイド。楽しむとしたらそちらの方が断然いい。

 

 

 「クククッ・・・・・・いいねぇ、滾るねぇ。誰も彼もが俺を殺そうと躍起になってる。手練れも捨てがたいが・・・・・・ここは新鮮なうちに頂いた方がいいかな?」

 

 

 時計塔、その内部。ガラスより街を見据える彼は卑しい笑みを刻み身体を震わせる。

 首斬りザンク───彼こそが帝都に悪名を響かせる殺人鬼。何の罪もない市民の首を切り落とし、それに悦楽を見出す狂人だ。犠牲になった者は数知れず、しかし恐怖で家にこもる人々に対してザンクは何もしない。そんなことをせずとも、間もなく心待ちにした時間が幕を開けるのだから。

 両腕の刃がカチカチと音を立てる。さて、どうやって遊ぼうか。見開かれた目は眼下の影───奔走するタツミを捉えていた。いきなり首をはね飛ばすのもいいが、だがそれでは味気ない。折角の殺し屋同士、命を賭けての殺し合いが最も相応しいだろう。

 

 

 「それじゃ早速・・・・・・と、行きたいところだが────いい加減出てきたらどうだい?」

 

 

 その場に留まったまま、後ろを振り向くことなく虚空に告げる。それは誰に対してなのか、彼以外はここにはいないはず。だが程なくして、ザンクの問に答えるかのように足音が響いた。

 ボロボロのトレンチコートに奇っ怪なマスク。ロールシャッハは物陰よりザンクの前に姿を現す。

 

 

 「・・・・・・なぜ分かった」

 「ククッ、"目"が良いんでね。アンタが何処にいるかなんて一目瞭然さ。ま、気配の消し方は大したもんだが。帝具がなきゃ見逃しちゃうね」

 「・・・・・・・・・」

 

 

 クツクツと笑うザンクだが、対するロールシャッハはやや焦りを感じていた。

 算段では彼の死角に身を潜め、機会がきた瞬間致命の一撃を見舞うつもりだった。無論それが百パーセント成功するとは思っていない。その先の二手三手、出来うる限りの策は練っていたが、しかしこうも簡単に存在がバレるとは。しかもザンクは一度もこちらを視認してはいない。それが帝具の力によるものだとするならば、奴の帝具は恐らく"視る"ことに特化した代物だと推測は出来る。もちろん何の確証もないただの仮説だが、それが事実なら相当厄介だ。

 

 だがそれが事実であっても関係ない。奴を殺すことに変わりはないのだから。

 

 

 「アンタ、あいつらの仲間だろ? ナイトレイドだっけか。奴らは俺を殺すつもりらしいが、アンタはどうなんだ?」

 「HUH.無論だ。貴様を生かしては帰さん」

 「ハ、言うねぇ。仮にも帝都を震わす殺人鬼だぞ? アンタが殺せる相手かな? ククッ」

 「ほざいてろ、サイコ」

 

 

 地面が割れるほどの脚力。小柄な体躯のロールシャッハからは考えられない速度での跳躍で無防備なザンクの背後に突貫する。その手には無骨な骨切り包丁が握られていた。アジトから失敬させて貰ったが、結果として正解だった。

 

 殺れる───とは微塵も思わない。潜んでいた自身を見つけ出すというのは奴の視界は凄まじく広いことを意味している。この初撃が命中すればそれに越したことはない。それで殺せるなら・・・・・・。だが、そう上手くは行かない。

 

 

 「おおっと。危ないな」

 「・・・・・・」

 

 

 空を斬る。肉を裂く感覚はなく、空振った刃は獲物を失う。やはりか。しかしこうも見切られては当たるものも当たらない。何かしらの対策を講じなければ。奴が油断し切っているうちがチャンスだ。

 

 

 「ンン〜・・・・・・クックック。勢いはいいんだがな。その分はっきりしてる。アンタ、結構な猪突猛進タイプだろ」

 「黙れ」

 

 

 再度渾身の力で包丁を振り下ろす。それは常人では決して避けられない速さ。単調だがそれ故の速度は容易く肉を抉り、骨を断つ。最も、当たればの話だが。

 

 

 「ムダムダ。そんなんじゃ一生空振りだぜ」

 「UUUMM...」

 

 

 またも避けられる。軽く身体を逸らすだけでロールシャッハの攻撃はことごとく躱されてしまう。余裕綽々の笑みを崩さず、いとも簡単に。なるほど、目が良いとはこのことか。あらゆる所作を見切り、次の動きを確実に予見する。これが奴の帝具の正体。そうと気付くのにさして時間は要しなかった。だが、そうと理解したところで今の状況が変化する訳ではない。

 

 

 「HURM.面倒だなその帝具は」

 「そこは素晴らしいと言ってくれよ。俺もこいつ・・・・・・スペクテッドって言うんだがな。気に入ってるんだ」

 「口数の多い奴だ。喋らずにはいられないのか?」

 「ククッ、あいにくな。俺はお喋りが好きでねぇ。よく首を落とす前に楽しむもんさ。・・・・・・おっと、落とした後も、かな? クククッ」

 「・・・・・・貴様は殺す。確実に」

 「ヒュウ、言うねぇ。でもおかしいな? さっきから全然当たってないぜ、アンタの攻撃」

 

 

 当たらない、というのは事実だ。このままでは劣勢、ジリ貧になるのは目に見えている。

 

 それでも、すべきことは明解だ。

 

 

 「それがどうした」

 

 

 刃を振るう。型も何もない、一見すれば我武者羅とも取れる乱暴な振り方だ。勢いに任せデタラメに切りつける様は、剣の心得がある者なら嘲笑せずにいられないだろう。当然、両手の仕込み刃が武器であるザンクもその一人だ。ニヤつきながら平然と避け続ける。

 

 刃を振り下ろす。それを避ける。

 刃を振り下ろす。それを避ける。

 刃を振り下ろす。それを避け───変化に気付く。

 

 

(・・・・・・速度が増している?)

 

 

 一瞬、ザンクの表情が強ばった。乱暴極まりない振り方だが、先程よりも明らかに速さが上昇している。余裕を持って避け続けていたが、次第にそうとはいかなくなる。徐々に徐々に、包丁の鈍い切っ先が服を掠め始める。常時帝具を展開し、動きを完全に見切っている筈なのに。形容しがたい何かが、身体の動きを鈍らせているような錯覚がザンクに生じていった。

 

 

(こ・・・・・・こいつ!?)

 

 

 そこで初めて、首斬り魔の中に焦りという感情が顔を覗かせた。

 最初は甘く見ていた。身なりは奇っ怪、透視で見ても大した武装はなく、さして実力もないだろうと。だかそれは大きな間違いだと、無理矢理にでも認識させられる。この重く粘ついたタールのような殺意は、ただならぬ程の黒い意思の塊は、目の前の男が単なる殺し屋ではないことを如実に表していた。

 

 "死"という気配が足元から昇ってくる。これまでに感じもしなかった感覚がより濃いものになってくるのをザンクは感じ取り始めていた。

 

 

 「離れろっ!!」

 「ッ! AAAKK...!」

 

 

 両手から大柄な剣を露出させ、薙ぐようにロールシャッハを弾き飛ばす。小柄な体躯のロールシャッハは勢いのまま背後の壁に激突し、崩れ落ちた。そしてすぐに立ち上がる。ダメージは皆無だ。対するザンクといえば、常に浮かべていたあの笑みはなりを潜め、やや引きつった面持ちでロールシャッハを睨み付けていた。

 

 

 「どうした。さっきまでの態度が嘘のようだな」

 「・・・・・・チッ、俺もタカを括ってたらしいな。お前はヤバい。ここで・・・・・・殺す!」

 「HUNH.その気になったか」

 

 

 生々しい殺気がザンクから放たれる。舐めた態度を捨て、こちらを殺そうと本気になったのが見て取れた。つまり、ここからが本番という訳だ。

 いいだろう。そちらがその気ならこちらも乗るまで。無論、ロールシャッハは最初からそのつもりだ。

 

 

 「ぬあああっ!!」

 「RRAAAARRLLL!!!」

 

 

 交錯する殺意。片や帝都を震わす殺人鬼、片や狂気に取り憑かれた男。命を賭した殺し合いは、帝具を持っているザンクが優位に見えた。だがその顔に余裕の二文字はなく、代わりに焦燥と少しの恐れが介在していた。

 猛攻。一瞬も手を緩めることなく、怒涛の如く攻撃を加え続けるロールシャッハ。一手一手に巨大な殺意を乗せ、全身全霊で叩き付ける。なりふり構わぬ攻め方に、ザンクはジリジリと後退していった。

 しかし、ロールシャッハの得物は普遍的な肉切り包丁。殺しの為に振るうザンクのそれとは数段劣る。ましてや向こうは二つ、いくら嵐のように攻めたとして手数ではどうしても遅れを取ってしまう。現に、防ぎ切れない剣戟により身体にはいくつもの切傷が刻み込まれていた。そして刃がせめぎ合う内、ついにロールシャッハの包丁にはヒビが走り、そして砕けた。

 

 「! チッ・・・・・・!」

 「隙ありィッ!!」

 「AKKK!!」

 

 

 振りかざしたザンクの剣がロールシャッハの肩を抉る。深い傷からはとめどなく血が溢れ、薄汚いコートを紅く濡らしていった。

 

 

 「ハハハッ!! 惜しかったなァ!! だがこれで───」

 「終わりだ、と?」

 「・・・・・・なに?」

 「確かに傷は深いな。だが・・・・・・"捉えたぞ"」

 「あァ? 何言って・・・・・・」

 

 

 勝利を確信したザンク。深々と刻まれた傷を見て、最早十全の力を発揮することは敵わないと思い込んだ。実際それは正しく、如何にロールシャッハとてこの傷では百パーセントのパフォーマンスは出来ない。だから、ザンクの勝ち誇った笑いも、勝利の感情も当然である。

 

 だが、程なくしてザンクは違和感に気付く。ロールシャッハの肩を切りつけた右腕が、何故かびくともしない。どれだけ力を込めたところで、まるで岩に挟まれたかのように動かない。一体どういうことなのか? その理由はすぐに分かった。

 

 ロールシャッハの手が、ザンクの腕を掴んでいた。

 

 

 「て、てめぇッ・・・・・・!?」

 「落ちてもらうぞ」

 

 

 左の剣が空を斬る。ザンクがそうする直前、ロールシャッハは足に力を込め、跳んだ。アメリカンフットボールの要領だ。相手の懐に飛び込み、態勢を崩す。巨躯を誇る者ならば効果は大きいが、小さな身体でも押し崩す力は強い。それがロールシャッハなら尚のことだ。

 

 二倍近い体格差のザンクを推し進め、そのまま背後のガラスへと突っ込む。美しいステンドの装飾が施されたガラスはきらびやかな破片となり、月夜に照らされながらロールシャッハ達と共に落下していった。

 

 

 「う・・・・・・おおおおああ!?」

 「EHAK...!」

 

 

 重力に導かれるままに二人は時計塔から落下していく。高さは不明、しかし相応の高度には違いなく、このまま地面に激突すればもれなくミンチペーストの出来上がりだ。

 それはザンクも理解している。故に恐怖し、戦慄するのだ。自身が死ぬ。それも一因だが、何より恐ろしいのがこの男。こんな道連れ紛いの作戦、普通の神経では絶対に実行出来ない。それを何の躊躇いもなく、ただ自分を殺すことのみに全てを捧げる。纏わりついていた黒い殺意の底の底、ザンクはその深淵を垣間見た。ロールシャッハという超人の精神を。

 だがロールシャッハは何も思わない。ただただひたすらに目の前の敵を殺すということのみに注力する。だからこそのこの突貫。捨て身の作戦と言えばそれまで、だがロールシャッハには勝算があった。でなければこんな馬鹿げた真似、さしものヴィジランテとて出来ようものか。

 

 

 「てめぇ!! 正気か!? 二人とも死ぬぞ!!」

 「いいや。死ぬのは貴様一人だクズ野郎」

 「なんだと!? ・・・・・・まさか!?」

 「言った筈だ。落ちてもらうと・・・・・・!!」

 「やっ、やめ───!」

 

 

 必死に抵抗し、しがみつくザンク。そんなことは意に介さず、ロールシャッハは何度か殴り、抵抗が弱まったところでついに蹴り落とした。直後に懐からフックショットを取り出し、射出。堅い鉄の銛はレンガの壁にめり込み、凄まじい勢いで巻き上げる。

 結果としてロールシャッハは地面に激突することはなく、地上からおよそ五メートルのところに留まった。そして無慈悲にも高所から叩きつけられたザンクは───生存していた。

 

 

 「あ・・・・・・う・・・・・・」

 「HUNH. 悪運の強い奴だ」

 

 

 射出したワイヤーをそのまま伸ばし、ロールシャッハはゆっくりと降り立つ。そして瀕死のザンクに近寄った。

 生きていたとはいえ、その姿は凄惨たるものだった。四肢はあらぬ方向へねじ曲がり、肉はひしゃげ、内臓が腹から飛び出している。目測で大体三十メートルといったところだろうか。そんな高さから落下してまだ生きているとはつくづく哀れな男だ。このまま死ねたらどれだけ楽か。

 

 だが、ただでは死なせない。この男に殺された人々の痛みはこんなものではない。彼らの苦痛を、悲痛を、そして無念を。この下卑た殺人鬼に味わせねば。

 

 ロールシャッハは懐から"もう一本の包丁"を取り出した。

 

 

 「や・・・・・・め・・・・・・」

 「さよならだ」

 

 

 鈍い刃が心臓へとつきたてられた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 「タツミ・・・・・・どこへ行った?」

 

 

 ザンク討伐。目下、ナイトレイドの任務はそれに尽きる。他のチームと別れ行動していたアカメとタツミは哨戒しながら捜索していたが、タツミが用を足したいということでしばし待機していた。が、帰ってくるのがあまりにも遅い。帝都に来たばかりのタツミなら迷っても仕方のないことだが、今夜はザンクに加え帝国軍も動いている。迅速に見つけ出さなければ後々面倒になる為、アカメは周囲を探し回っていた。

 ただそう遠くへは行っていなかったらしい。時計塔の真下という分かりやすい場所に居たのも功を奏したのか、探し始めてすぐに発見した。全く、仮にも暗殺集団に身を置いているというのに。戒めが必要だと詰め寄ろうとするが、タツミの様子がどことなくおかしい。呆然と立ち尽くし、ある方向をじっと見つめている。

 

 一体どうしたというのだろうか。タツミが見ている方向へと目をやると───そこには蠢く影があった。

 

 

 「ロール・・・・・・シャッハ?」

 

 

 そこに居たのは紛れもなくロールシャッハそのものだった。大柄な男へと何度も包丁を振り下ろし、暗い闇でもはっきり見て取れる程の帰り血をその身に浴びている。何度も何度も、その行為に憎悪を刻みながら、ただひたすらに。とっくに死んでいるのにも関わらず、ロールシャッハはその手を止めようとはしなかった。

 背中に冷たい何かが這うような感覚をアカメは抱いた。加虐的な性癖でもない限り、暗殺者は必要以上に死体を傷付けない。そんなことをしたところで無意味だからだ。だがロールシャッハはまるで異なっていた。罪のない人々を弄ぶ悪辣な輩と同じ、過剰なまでの暴力。

 だが決定的に違うのが、その行為に快楽はなく、代わりに凄まじい怒りと憎しみが込められていること。無念の中に死んでいった者達の復讐を肩代わりするような、是が非でも悪を許さないという信念。その姿は正しい意味で、復讐を果たす者のそれだった。

 

 

 「・・・・・・ロールシャッハ、もう十分だ。その男は既に死んでいる」

 

 

 振り下ろす。

 

 

 「もういいロールシャッハ」

 

 

 振り下ろす。

 

 

 「・・・・・・やめろ」

 

 

 振り下ろす。

 

 

 「やめろロールシャッハッ!!」

 

 

 闇夜に煌めく鋭い刀。アカメは自身の帝具を抜き放ち、ロールシャッハへと切っ先を向ける。同時に、ロールシャッハはぴたりと動きを止めた。

 

 

 「・・・・・・邪魔をするな」

 「そんなことをして何の意味がある? それはもうただの死体なんだ」

 「分かっているとも」

 「なら何故」

 「お前に質問だ、アカメ」

 

 

 おもむろにロールシャッハは立ち上がった。そのマスクの紋様はかつてない程に複雑な波紋を描いている。

 

 

 「人とはどこから生まれ、どこへいくのか。それを考えたことはあるか」

 「・・・・・・いいや」

 「人という生き物は皆虚無から誕生した。人生という拷問を苦しみ抜き、また虚無へと戻っていく。その時、人々の魂は一体本当に救われているのだろうか?

 その真偽を問う術は俺達には無い。だが今回のように肉体を傷付けられ、絶望と恐怖に塗れ、その果てに失った人間の魂は救われると思うか? 

 ───否だ。彼らは永遠に癒されることのない苦痛を抱いたまま、虚無の中に消えていく。俺は、その者達の代わりに裁きを下しているだけだ」

(・・・・・・この・・・・・・男は・・・・・・)

 

 

 何なんだ。

 

 何を言っているんだ、こいつは。

 

 アカメは理解出来なかった。無論、彼の言わんとすることは、表層だけだが分かる。分からないのはロールシャッハという存在そのものだ。妄想に取り憑かれたパラノイア、それで片付けてしまえば簡単だ。しかし、その一言で吐き捨てるにはあまりにもイカれ過ぎている。帝国の腐った連中も大概頭のおかしい者ばかりだが、ロールシャッハも同じ。到底まともな思考回路の持ち主とは思えない。

 

 直感した。この男は・・・・・・ロールシャッハは危険過ぎる。初めて邂逅した瞬間から分かっていたのかも知れない。この男はもはや自分達に止められる存在ではない、と。

 

 

 「・・・・・・みんなと合流する。戻るぞタツミ」

 「え? ・・・・・・あ、あぁ」

 「ロールシャッハ」

 「なんだ」

 「・・・・・・いや、何でもない」

 「・・・HUNH」

 

 

 肉塊と化したザンクの帝具を回収し、アカメは背を向ける。その面持ちは普段と何ら変わりないように見えた。しかし、それは取り繕っているだけ。極力二人に、特にロールシャッハに悟られないよう務める。

 

 彼は運命を変えるかも知れないとナジェンダは言っていた。それはきっと間違いではないのだろう。罪への憎悪はこれまで出会った誰よりも強く、腐敗した帝国を打ち倒す大きな戦力へとなり得る。彼は実力も伴っているし、それも納得だ。

 だとしてもだ。この傾き過ぎた思考は組織としては適さない。これまでのワンマンプレーもそうだが、ロールシャッハを置いておくにはメリット以上に混沌をもたらす。そう思わざるを得なかった。

 

 だがアカメに彼を追放する権限はない。全てはナイトレイドを率いるナジェンダにある。今は、彼女の判断に任せるしかない。

 

 ロールシャッハが自分達の前に立ちはだかる日は、もしかしたらそう遠くはないのかも知れない。その時自分は彼を殺せるのだろうか?

 

 

(・・・・・・もしもの時は・・・・・・)

 

 

 無意識のうちにアカメは刀の鞘を強く握り締めた。

 

 

 

 

 


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