しかし、誰が悪を裁くのか?   作:SKYbeen

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ちょっと駆け足気味かも・・・・・・。


第10話

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 ロールシャッハ記 帝歴一〇〇六年 四月二十二日

 

 

 ナイトレイドを離脱し二日が立った。あいも変わらず街には下衆共が溢れかえっている。が、未だ奴らには遭遇していない。組織のトップに危害を加えたのだ、追い掛けてくるものとばかり思っていたが実際はそうではないらしい。想像以上にナイトレイドという組織は腑抜けのようだ。

 

 しかしこれは好都合だ。奴らが手出ししないのならこちらもやりやすくはなる。この先鉢会うこともままあるだろうが、そんなことは関係ない。可能な限りは干渉せず、クズだけを仕留めることにのみ全てを注げばいい。奴らと殺し合ったところで互いにメリットは微塵もない。それは向こうも理解している筈。尤も、それが簡単に出来るかは怪しいところだが。

 

 なおナイトレイドを出る際だが、色々とくすねておいた。武器の類、食糧。そして最も大きい収穫はザンクの使っていた帝具だ。先程使用してみたが、一キロ先の人間の顔まではっきりと見て取れた。流石にこれには驚かざるを得ない。他にもザンクは様々な力を使っていたが、それは今後判明していくだろう。視る能力を格段に上げる能力はこの先戦っていく中で大いに役立つ筈だ。

 

 今の所ナイトレイドのことは把握している。彼らはまだ放っておいてもあまり問題ではない。今の俺に足りないのは帝国そのものの情報だ。政治や歴史はともかく、軍力や警備、抱えているクズ共を知る必要がある。

 

 帝都の中心にある宮殿は警備が極めて厳重だ。他の施設などよりも遥かに。だが、抜け目はある筈。一度侵入し、出来る限りの情報を集めようと思う。それが吉と出るか凶と出るか・・・・・・。いずれにしろ、今まで以上に警戒せねばなるまい。

 

 聞くところによると近々遠征に出ていた将軍が戻ってくるらしい。名をエスデス、別名"氷の女王"と大層な異名を持つ。その力は絶大で、北の要塞都市を壊滅させたそうだ。どんな女かは知らないが、もし本当にそんな力を持っているのなら対峙した時俺に勝ち目はない。宮殿に侵入する際は奴のことも気に留めておくべきだろう。

 

 

 

 

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 「HURM・・・・・・」

 

 

 静まり返った帝都の夜、宮殿付近の家屋にロールシャッハはいた。屋根から帝具を用い、中の様子を伺っている。実際このスペクテッドはかなり優秀だ。わざわざ近寄らずともこうやって中を把握出来る。

 ロールシャッハの予想通り、宮殿の近辺はかなりの厳戒態勢が敷かれている。帝都を震わすナイトレイドもあるだろうが、やはり革命軍の攻撃を警戒してのことだろう。普通に侵入しようものならすぐさま発見され、四方八方から狙撃される。上から入ってみるのも一つの手だが、遠視したところ空中にも危険種の翼獣がいる。そびえる壁を越え、中に入るのは難しい。

 

 どうするか思案する。後回しにしても良いかも知れないが、しかし将軍が戻ってくる前に情報は手に入れたい。軍はナイトレイドの討伐に躍起、警備は普段よりも手薄という可能性もある。行くなら今しかない。だが肝心の手段が・・・・・・。

 

 

(・・・・・・あれは)

 

 

 深く考え込むロールシャッハの眼前に一台の馬車が通っていく。こんな時間に珍しいものだが、向かう先はまっすぐ一本道、丁度宮殿の入り口に走っている。

 

 これは好都合。

 

 

(・・・・・・HUNH)

 

 

 フックショットを放ち、上手い具合に馬車へと降り立つ。そして運転手にバレないよう、大量に詰まった荷物の中へと身を潜めた。小柄なロールシャッハは小さく空いた隙間にすっぽりと入っている。目立たず、更に今は月も出ていない真っ暗な夜。検査等があったとして見つかる可能性は低い。仮に見つかったとしても門番は三人かそこら、増援を呼ばれる前に始末すれば問題ない。

 

 息を殺し、ロールシャッハはそのまま宮殿へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「HUNH.下の下だな」

 

 

 数分後、ロールシャッハは無事宮殿内への侵入に成功していた。積荷の検査もなく、行商の確認だけで終わるとは。積荷を下ろす頃には宮殿の中、周囲にいた兵士もまばらで、見つかっても処理するのは容易い。警備が厳重だと思っていたが、実際大したことはなかったらしい。

 気絶させた兵士数人を捨て置き、ロールシャッハは広い宮殿の廊下へ出た。

 

 時間が時間なだけに静かだ。足音がいやに響き、空気が張り詰めている錯覚に陥る。スペクテッドで逐一周囲を視ているが特に異常はなく、その静寂がかえってロールシャッハに不信感を抱かせた。

 

 

(・・・・・・おかしい。なぜこうも人が居ない? 深夜だとしても一人や二人、見回りの兵士くらいは居てもいい。だというのにこの静けさ・・・・・・)

 

 

 もしこれが罠だとしたならば。一抹の不安が脳裏を掠める。それが事実ならここは敵の胃袋、ロールシャッハはみすみす喰われに行ったも同然だ。現状奇襲されるような気配や兆候はないが、しかしこの不自然さ。いつ襲われてもおかしくはない。

 

 

(・・・・・・)

 

 

 神経を尖らせる。かつてなく鋭敏に、あらゆる事態に対応出来るよう。可能な限り気配を消し、迅速に、それでいて着実に宮殿内部を進んで行く。

 目的地は資料室。場所は透視で確認済み、あとはそこへ向かうのみだが、急がねば。ただでさえ敵の本丸、今の状況は確かに不自然だがこれはかえって都合がいい。何も無いならそれまで、もし敵が襲ってきても離脱することを最優先すれば逃走くらいは可能だ。

 

 疾駆する。闇の中をロールシャッハは突き進んで行く。何も障害はない、このまま資料室へ一直線だ。

 

 が、しかし。

 

 

 

「おおーっとそこまでだ!」

 

「!」

 

 

 突然頭上から声がしたと思えば、屈強なガタイの大男が巨大な斧を振りかざしロールシャッハ目掛け落下してくる。このままでは真っ二つだ。ロールシャッハは素早く跳躍し、その場から後退する。直後、彼がいた地点は轟音と共に抉れていた。破壊の痕からして凄まじい威力が窺える。

 

 スペクテッドで視ていた筈なのになぜ・・・・・・。この帝具にも穴はあるということか。

 

 

「貴様・・・・・・帝具使いか」

 

「ご名答。俺の名はダイダラ。エスデス様直属の三獣士が一人だ」

 

「・・・・・・なに」

 

「エスデス様がなんか変な気配を感じるっていうから来てみれば・・・・・・確かにこりゃーおかしなヤツが居たもんだ」

 

「! エスデス・・・だと」

 

 

 敵の名はどうでもいい。帝具も見たところ単なる巨斧にしか見えない。相手取るなら問題はないだろう。

 ロールシャッハが注力したのはエスデス直属の部下だという部分。その言葉が正しければエスデスは既に帝都へ戻っていることに他ならない。それに加え、自分が来ていることも察知していたのだ。ならばこのがらんどうの宮殿は奴の指示、つまりは罠だったということ。

 

 遅かった。侵入のタイミングを見誤ったのか? 浅はかな失敗にロールシャッハは憤る。もう少し決断が早ければ・・・・・・。だがそれは過ぎたこと。今は戦うしか他ない。眼前の敵を前にロールシャッハは拳を構えた。

 

 

「おっ、いいねぇ。宮殿に来ただけはあるな」

 

「黙れ。お前には死んでもらう」

 

「ハッハッハ! 威勢もいい! こいつァ俺の経験値アップにピッタリだ。簡単に死んでくれんなよ!」

 

「やってみるがいいデカブツ」

 

 

 最初に動いたのはロールシャッハ。あらん限りの脚力でもって突貫する。それはさながら弾丸、驚く程の速さで懐へ飛び込む。だがあくまで直線的な動き、エスデス直属の戦士が避けられない訳はない。どころかダイダラは予見していたかのように嗤っていた。

 

 

「そりゃ自殺行為ってやつだぜぇ!!」

 

 

 ダイダラの右手には巨斧。帝具ベルヴァークが握られていた。並大抵の膂力では持ち上げることすら敵わない重量のそれは使いこなせば途轍もない威力を誇る。人体は当然のこと、適当な建築物程度なら容易く粉砕可能。まともに喰らえば間違いなく死だ。それがロールシャッハ目掛け振り下ろされる。

 

 が、そんなことは想定内。スペクテッドを発動している今、ロールシャッハに予測出来ないものはない。彼は既にダイダラの背後へフックショットを射出、紙一重で避けるように後ろへと回る。それはまるで曲芸、意表を突く動きにダイダラも驚いていた。尤も、それだけに過ぎない。

 

 

「ほっほー、妙な技持ってんなぁアンタ。俺様もちょっとビックリしたぜ」

 

「・・・・・・」

 

 

 今のは言うなればブラフ。敵の力量を測るためのハッタリでしかない。が、目論見は成功した。武器を振る速度、力の入れ方。スペクテッドの力もあるが、培われた洞察力は敵の行動を見抜く。相手は戦うことに一種の悦楽を見出し、実力を測るような真似をする。それが隙に繋がることも予想せずに。

 

 殺れる。確信したロールシャッハだったが、彼には一つ誤算があった。

 

 そう、相手はエスデス直属の三獣士の一人。他にも二人、同じような従者がいることを。

 

 

「お楽しみのところ悪いが、遊びはそこまでだ」

 

「!? AAKKK・・・・・・!!」

 

 

 背後からの声に反応する間もなくロールシャッハの脚が貫かれた。走る激痛、たまらずロールシャッハは膝を着く。後ろに視線をやると、そこには髭をたくわえた紳士然な男とまだ年端も行かない少年が居た。

 

 三獣士の残りの二人、リヴァとニャウである。

 

 

「おいおいリヴァ! これからだってのにそりゃねーぜ!」

 

「ただでさえ宮殿に忍び込んだネズミ、早々に始末するのが道理だろう。お前の趣向は勝手だがエスデス様の手を煩わせるようなことはするな」

 

「へいへいっと・・・・・・」

 

「さて・・・・・・そこの侵入者。単身ここへ乗り込んだことは褒めてやる。だがお前には死んでもらわねばならん」

 

(クソッ・・・・・・クソクソクソッッ!! 何か、何か手は無いのか!?)

 

 

 逃げなければ。だが脚に力が入らない。それもその筈、貫かれたのはアキレス腱だ。どれだけ力を込めようが肉体の構造的にここをやられれば脚は機能しない。例え走れたとしてもこの三人を前にして逃げおおせるだろうか。認めたくはないがその可能性はあまりにも低い。

 

 絶体絶命。ニューヨークでも同じような状況に陥ったが、あの時は程度が知れる警官隊だった。だが今回ばかりは違う。敵は歴戦の戦士、少しでも気を抜けば即座に殺されるような相手。自分の命はこのリヴァという男に握られているのだ。

 

 こんな所で死ぬのか? 巫山戯るな。まだ何もしていないというのに。自身の情けなさと敵への憎悪、二つが混ざり憤怒となる中でもロールシャッハは打開策を見出そうと必死だった。

 

 だが、そんなロールシャッハに更なる苦難が襲う。

 

 

「まて、お前達」

 

「・・・ッ! エスデス様!」

 

(・・・・・・OH,NO)

 

 

 カツン、とヒールの音を響かせ悠然と歩んでくる女。透き通る蒼の長髪をたなびかせ、いかにもな軍服を身に纏うその女。凍てつくような目を持ち、冷えるような声色で持って命令する女───。

 

 彼女こそがエスデス。北の要塞都市を壊滅させ、帝国へと舞い戻った氷の女王その人がロールシャッハの目の前にいる。

 

 

「・・・・・・こいつか。妙な気配の原因は」

 

「は。宮殿内に侵入していた所を捕らえた次第でございます」

 

「ふむ」

 

 

 非常に不味い状況だ。ロールシャッハにとってこれ程の窮地はない。三獣士にエスデス、その気になれば兵士達もすぐに駆け付ける。まさに四面楚歌、最早逃走すら不可能。付け入る隙も見当たらず、闇雲に反撃したところで返り討ちに遭うのが関の山だ。

 

 だが。だとしても。

 

 

「RRRRRAAAALLLL!!!」

 

「ッ! エスデス様!」

 

 

 ロールシャッハは抵抗する。まだ動く方の脚を蹴り上げ、その拳をエスデスの顔面へぶち込む為に。人はただのやけくそと嘲笑するだろう。それはまさしくその通り、これは単なる自爆。打つ手の無くなった者が行う最後の手段。足掻き。愚行。渾身の一撃だとして、命中しなければ遊戯と変わりない。当然の如くエスデスには当たらず、どころか片手間で地に伏せられ、頭を踏み付けられる始末だ。

 

 

「EHAK・・・・・・EHAK・・・・・・」

 

「まるで猛獣だな。だがその威勢の良さは嫌いじゃない。リヴァの言う通りここまで来たのは褒めてやるべきか」

 

「HUNH・・・・・・殺すなら殺せ」

 

「・・・・・・お前がここへ来た時今まで感じたことのない気配を私は感じた。言葉では言い表せない・・・・・・そう、直感だ。何とも形容し難い感覚。私がこれまで殺してきたつまらん連中とは違うと思った。

 そんな私の直感がそう言っているんだ。お前はつまらん奴ではないだろう?」

 

「・・・・・・」

 

 

 この女、いったい何を考えている。好敵手でも探しているのか? だがあいにくそんなものに興味は微塵もない。しかしこの女の言葉から垣間見えたのはその真っ黒な本質だ。人を人と思わぬ、それこそチェス盤の駒としか捉えていない歪な価値観。戦いをゲームか何かと勘違いし、大量虐殺に愉悦を覚える悪辣。

 何よりこいつは強者との戦いに飢えている。云わばロールシャッハは品定めされ、お眼鏡に叶ったということだろうか。どこまで行っても狂っている。オネストもその一因だが、エスデスもそうだ。無為な戦を呼び込む災い。人の命を散らすクズ。何としてでも殺さねばならない敵だ。

 

 今は手も足も出ない。だが絶対にこの女は殺す。いつか必ず、どんな手段を用いても。例え今死ぬことになろうともただでは死なない。この女の命も連れていく。

 

 

「・・・・・・今俺を殺さなければお前は後悔する」

 

「なに?」

 

「俺はお前をいつか必ず殺す。お前が地の果てまで逃げようと俺はお前を追い詰め殺す。

 

 ・・・・・・お前は死ぬべき存在だ」

 

 

 その瞬間、エスデスの身体をある感情が襲う。濁流となって流れ込むそれは歓喜でも、憤怒でも、ましてや悦楽でもない。

 

 恐怖だ。

 

 未だかつて体感したことのない感覚。将軍となり、帝具を手に入れ、軍を常勝へ導く女王となったエスデスには微塵も縁がない、そんな感情。暗く、光など見えもしない漆黒の闇。ただひたすらに凍てついた世界がそこにあった。

 震えた。一秒にも満たないほんの僅かな時でも彼女は確かに震えを感じたのだ。興奮からくる武者震いではなく恐怖からくる震え。こんなことは有り得ない。有り得てはいけない。最強の将軍として君臨してきた自分が、たかだか賊如きに恐怖するだと?

 

 改めてロールシャッハを見据える。奇妙に蠢き、決して混ざることのない白と黒。ゆっくりとうねる紋様は次第に形を変え、ある姿に変化する。エスデスから見たそれを形容するのなら───。

 

 

(女を突き刺す・・・・・・男・・・・・・)

 

 

 所詮は妙なマスクの紋様。偶然そういう形になっただけかも知れない。それでもエスデスには暗示に見えたのだ。いつかこの男が自身を手に掛けるのだと。

 

 

「・・・・・・クククッ・・・・・・アーッハッハッハ!!!」

 

「・・・・・・?」

 

「面白い・・・・・・面白いぞお前。良いだろう。そこまで言うのならお前にチャンスを与えてやる。何度でも殺してみるがいい」

 

「何を言って───」

 

 

 続きを言う前にロールシャッハの意識は刈り取られた。嗤うエスデス。三獣士の面々はこうも歓喜する主人を見たことがない。戦争を何よりの娯楽として楽しむ彼女だが、その顔に刻む笑みはそれ以上のもの。

 

 

「エスデス様・・・・・・この男はいかが致しましょう」

 

「牢に入れておけ。ただし殺すなよ。こんな面白い男、手放すのは惜しい」

 

「はぁ・・・・・・面白い、ですか」

 

 

 また始まった───内心勘弁して欲しいとリヴァはいつも思う。彼女は生来の加虐嗜好の持ち主、俗に言うドS。それに戦闘狂がプラスされ悪い意味で最強に見える。遠征先で戦う相手にそれなりの者がいれば必要以上に嬲り、ありとあらゆる拷問を掛けた末に殺すのだ。リヴァ自身エスデスに感謝こそすれ恨み辛みなどないが、これ程の突飛な趣味趣向はやや辟易してしまう。今回もその類だろうが、しかし少し気色が違う様子だ。

 

 

「そうだリヴァ。こいつは私に恐怖を抱かせた。恐怖だぞ? この私がだ。たかがこんな賊に一瞬でも私は恐れ、慄いた。それだけでこいつは生かしておく価値がある」

 

「しかしエスデス様。この男は明らかに殺意を持っております。下らぬ賊だとして牙を剥かぬ筈がありません。生かしておけば何かしらの不都合が───」

 

「だからこそだ。この先こいつは大きな脅威になるやも知れん。だがそれがいい。獲物は肥えた方がより美味いだろう?」

 

 

 つまり、エスデスは戦いたいのだ。自身を殺す為に力を付けたロールシャッハと。今のロールシャッハではエスデスには到底勝てる訳もなく、ただただ蹂躙されるだけ。だが彼女に恐怖を抱かせたということは将来多大なる敵になる可能性が高いことを表している。

 エスデスはその成長したロールシャッハを殺すことを楽しみにしていた。今殺さないのは彼にもっと実力を付けさせる為、血で血を洗う殺し合いをしたいがために敢えて殺さない。

 磨けば光る原石、ではない。むしろ真逆の異質。タールのようにドス黒く、深淵に誘うかのように身体を呑み込む巨大な殺意。並み居る連中など話にもならない程のそれは、エスデスの闘争心をざわめかせ、これでもかと掻き立てる。

 

 それに───。

 

 

「それとこいつは私の部隊に入れる」

 

「部隊・・・・・・と言いますと、帝具使いのみで構成するというエスデス様の独立部隊のことですか?」

 

「ああ。実力はあとで試せばいいし、ここまでの殺意を出せる男はそう居ない。元より治安を維持する為の部隊だ、存分に働いてくれるだろう」

 

 

 クツクツと歪んだ笑みは止まらない。楽しくて楽しくて仕方ない。こんなに笑えるのは久し振りだ。未だかつてここまで殺意を向けてきた者が居ただろうか?

 こいつは戦士だとか、勇者だとか、そんな低俗な者とは全く違う。自身の信ずる決意は揺るがず、敵とみなした相手は文字通り死んでも殺す。

 狂っている。自分とは違う方向だが、確かにこの男はイかれている。たった数分にも満たぬ問答だとして、エスデスはロールシャッハの輪郭を捉えていた。故に生かしておくのだ。この先強敵として立ちはだかったロールシャッハを殺す為に。

 

 

 

 

 だがエスデスはまだ知らない。

 

 ロールシャッハという男がこの世界にとってどんな意味を齎すのかを。

 

 

 新たなインクはまだ垂れたばかりだ────。

 

 

 

 

 


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