俺ガイル短編SS集in炊飯器   作:EX=ZERO

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演出上『…』をめちゃくちゃ使ってます、どうかご容赦を



雪乃「奉仕部の静寂な二人」

 

【奉仕部】

 

雪乃「………。」ペラッ

 

八幡「……。」ペラッ

 

雪乃(由比ヶ浜さんも一色さんも今日は用事でいない

   今日はあの男と二人きり、随分と久しぶりな気もする)

 

八幡「……」ニヘラッ

 

雪乃「っ…!」ビクッ

 

雪乃(お、落ち着くのよ、彼は本が面白くて笑っているだけ

   身の危険はない…はず)チラッ

 

八幡「……。」ペラッ

 

雪乃(大丈夫、比企谷君はそういう男じゃない

   見た目こそ不審極まりない男だけれど、見た目相応の最低男というわけじゃない)

 

八幡「……」ニヤニヤ

 

雪乃(……わけじゃないはずなのだけれど

   あんな下衆な笑みを浮かべて本を読んでいる様は

   悪意はないとしても身の危険を感じるわね)

 

雪乃「………。」ペラッ

 

雪乃(それにしても、彼は何を読んでるのかしら…?

   私が読んでも楽しめる物でないのは確実でしょうけど…

   別に彼が好みがどういうものでいつも何を読んでいるのかが知りたいわけではないの

   ただその…そう、部長として部員の趣味趣向を把握する必要があるだけ

   余りにもいかがわしいものであればその歪みきった趣向を正す必要があるのよ)

 

 

八幡「……。」ペラッ

 

雪乃「………。」ジー..

 

八幡「……?」チラッ

 

雪乃「…っ!」サッ

 

八幡「?」

 

 

雪乃(急にこちらを向くものだから思わず逸らしてしまったけれど

   こ、これでは彼から見たら私がま、まるで恋する乙女のような…

   冗談じゃない、誰がこんな下衆で友人0、社会性0の捻くれゾンビなんかを)

 

雪乃「………。」

 

雪乃(…いいわけはやめましょう…ええそう、誠に遺憾なのだけれど

   非常に納得がいかないのだけれど私は彼に、比企谷君に多少なりとも

   そう本当に些細な程度だけれど……好意を持ってしまっている)

 

 

雪乃「……。」ペラッ

 

雪乃「……。」

 

雪乃「…………。」チラッ

 

八幡「……。」ペラッ

 

雪乃「……。」

 

雪乃「………。」チラッ

 

八幡「…どうした?」

 

雪乃「っ…! …なにか?」

 

八幡「いや、なんかお前変だぞ?」

 

雪ノ下「比企谷君、私は鏡ではないのだけれど?

    お手洗いにでも行って鏡を見てごらんなさい

    今なら世にも珍しい変なものが見れるわよ?」

 

八幡「……さいですか」ペラッ

 

雪乃(彼と話していると、どうしても反射的に何かを言いたくなってしまう

   言う度に、彼も合わせてくれるように答えてくるから…)

 

雪乃(彼に好意を持っているのなら、それを確かなものにしたいのなら

   私はもう少し優しい言葉をかけてあげるべき…なのだけれど

   でもそれができないのはなぜ?なぜ私は彼にひどい言葉しか言えないのかしら)

 

 

―由比ヶ浜さんの気持ちを知っているから?

 

 

雪乃(彼女はほとんど最初から、この男に好意を持っていた

   最初の依頼のクッキーも、彼のために作りたい一心で奉仕部に依頼してきた

   あの時の事はできれば思い出したくはないわね)

 

 

―では私はいつから?

 

 

雪乃(初めて会った時、彼は私に気のあるそこらの男と一緒、そう思っていた

   あの腐りきった下衆な目は、見ただけで貞操を穢される危機感さえもあった。)

 

雪乃「……。」チラッ

 

八幡「………。」ニタニタ

 

雪乃「………。」

 

雪乃(はっきり言って…その顔は気持ちが悪いわ

   どうにかできるものじゃないのは…知っているのだけれど

   あまりの下衆さについ携帯に110と打ち込んでしまいそうになってしまうわ)ピッ

 

八幡「あの、なんか意味深な音が聞こえるんだけどあなたなにしてるの?

   1と?1に?今押しかけてるのは9かな?お医者さんでも呼んじゃうの?」

 

雪乃「それも考えたのだけれど…ごめんなさい

   私の知る限りどんな名医だろうとその腐った目を直せるお医者様は存在しないわね…」

 

八幡「ねえなんなの?俺の目は不治の病か何かなの?」

 

雪乃「そうね、日に日に腐敗が進行して頭も腐り始めてるわよ?」

 

八幡「え、マジで?俺海老名さんみたいになっちゃうの?」

 

雪乃「はい?」キョトン

 

八幡「………なんでもねえよ」プイッ

 

雪乃「…そう」

 

雪乃(今の流れでどうして海老名さんが出てきたのかは知らないけれど

   ……またやってしまったわね、彼を見ていると何か言いたくなってしまう…)

 

雪乃「………。」チラッ

 

雪乃(それでも、こんなやりとりでさえ彼は受け止めてくれる

   私はそれにどこか安心してしまうのね、きっと)

 

八幡「………。」グスッ

 

雪乃「!?」

 

雪乃(え、なぜ涙…?ま、まさか私の言葉に傷ついて…)

 

八幡「!」チラッ

 

雪乃「……!」サッ

 

八幡「…………。」

 

雪乃「…………。」ペラッ

 

八幡「………。」ペラッ

 

雪乃「……。」ホッ..

 

雪乃(なるほど、本に感情移入して泣いていたのね

   彼は一体どんな本を読んでいるのかしら…?)

 

 

―それでも、俺は…

 

 

雪乃(ふと、腐ったあの目からこぼれた涙を見て、彼が言ったあの言葉を思い出す。

   なんでも一人でできてしまうと、私は彼を知らず知らずそう思い込んでいた

   この場所も、私たちも彼には必要ないものだと思ってしまった

   むしろ彼を邪魔する枷でしかないと思い、彼に来なくていいと告げてしまった)

 

 

―本物が欲しい。

 

 

雪乃(そんな彼あなたが心の底から求めたもの、『本物が欲しい』というあなたの願い

   それが何かわからなくて、それが私だけ知らない物のような気がして

   私では、彼に何もしてあげられないという事が苦しくて、悲しくて逃げてしまった)

 

雪乃「………。」

 

雪乃(あの時壊れかけたものを、彼と由比ヶ浜さんがつなぎ止めてくれた

   そう、由比ヶ浜さんがいたからこそ、今こうして彼がここにいる

   いつか彼女も、この男に思いを告げる日が来るんでしょうね)

 

八幡「……。」パタン

 

雪乃「っ」ビクッ

 

八幡「ん?」チラッ

 

雪乃「……。」

 

八幡「?」

 

雪乃(それでも、もし彼が私を、私を受け入れて、私の事を見てくれるというのなら

   それに答えてあげましょう、できるだけその…優しい言葉をかけてあげましょう

   そして彼と一緒に…いつか前に比企谷君の言っていた『本物』を二人で探すの…

   ふふっ、漠然としててなにがなんなのかさっぱりね、やっぱり私にはわからないわ)

 

八幡「なあ、なんか今日のお前本当に大丈夫か?

   具合悪いなら保健室にでも…」

 

雪乃「………。」

 

雪乃「大丈夫、なんでもないわ」ニコッ

 

八幡「っ!お、おっおう…」ドキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―私のこの思いは胸の奥に、そっと…

 

 

END


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