第86話
【前回までのあらすじ】
俺たちは、真姫の父親・結樹を説得し、退部を取り下げさせることに成功した。
だが、結樹から真姫が進んで退部することを願ったことを知る。
蒼一たちは真姫を求めるが、真姫は望んではなかった。
やむなく、引き返らざるおえなかった。
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―――
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[ 音ノ木坂学院・正門 ]
「…………………」
真姫を連れ戻すことができなかった俺は、明弘たちと分かれ、1人ここ音ノ木坂に来ていた。
俺自身、どうしてここに来てしまったのかが疑問に思う点がある。 しかし、それは理由もなく、何かに引き寄せられているような感じがしたのだ。
俺はそのまま正門をくぐり抜け、校舎に向かって歩きはじめる。
夕方になり始めていた空の色が、誰もいない校舎を真っ赤に染めていた。 それはとても綺麗に見えるはずなのだが、俺には禍々しいものにしか捉えることができなかった。
この色が真姫を苦しめている………
真姫が狂ってしまったあの日の出来事思い返す。
真っ赤に染まった廊下の上に、俺は横たわってしまった。 それが、まるで7年前の事故を彷彿させるかのような光景が広がってしまっていたのだろう………真姫はそれを思い出してしまった………
そんな真姫は今、自分の部屋の中でうずくまり、苦しんでいるに違いない…………
助けてやりたい………そのために、俺はどうすればいいのだろうか…………?
答えの見つからない問いかけに、俺は頭を悩ませ続けていた……………
(すすっ…)
「ん? 今何かが見えたような……あれ、前に同じようなことがあったような………?」
校舎の窓をチラッと見た時、何か白いものが揺れ動いたかのように思えた。 教室にあるカーテンじゃないかと疑ってみたが、よくよく考えれば、俺が見た窓があるところには廊下があったはずだということに気が付いた。 だとしたら、あれは一体何だったのだろうか…………?
(~~~~♪~~~~~~~~♪)
すると、今度はどこからかピアノの音が聞こえてきた。 音楽室から聞こえてくるのだろうか? だとしたら、一体誰が弾いているのか…………?
考え込もうとしたその時、俺の脳裏に電流が走り抜けた。 今俺は、何かを思い出そうとしていた……
「……いや待て、俺はこの曲を知っているぞ!!」
今流れているピアノの演奏が、前にも聞いたことがあるように思えたのだ。 それも、つい最近に聞いたような曲だ。 あともう少し……あともう少しで思い出せそうなのに………!!
頭を抱えながら俺は前に進んでいった。 ピアノの音を間近で聴くために中庭の方に来ると、俺の視線はあるものを注視していた。
それは…………大きな岩だ。
「どんな願いでも叶えてくれる岩………………あっ!!!」
その時、ようやく思い出すことができた。 そうだ、あの時……洋子が七不思議を探そうとμ’s全員で探索した時に、音楽室で聞いた曲だ……!!
と言うことは………今、あそこで弾いているのは…………!!
「少女の………幽霊………!!」
まるで確信するかのように、その名前を口に出すと、俺は駆け出していた。 向かうは音楽室だ。 俺はそこに向かって走りだしているんだ! 実に衝動的な行動だと言える、だが、今すぐに駆け上がるべきだと、俺の中にいる何かがそう囁いてくるんだ!!
足に力の一杯を込めて走りだし、早く行かなくてはと急いで校舎の中に入っていった。
<ジジ………………ジ…………ジジジジ……………>
音ノ木坂に、実に摩訶不思議なことが起ころうとしていた―――――――
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[ 音ノ木坂学院・校舎内 ]
「ハァ………ハァ…………ハァ………………ハァ………………」
さすがに1階から全力で4階まで駆け上がるとなると、息切れをしてしまう。 全力で飛ばし過ぎたのかもしれない…………
少し立ち止まって息を整えると、音楽室に向かって再び歩き出す。
あのピアノの旋律は聞こえたままだ………。
音楽室の前に立つと、ドア窓越しから中の様子を伺ってみた。 今日は、外の光が中に入って来ているようで、前よりも明るく見えた。 ただ、ピアノの方を見ると誰が演奏しているのかが分からない。 ピアノは演奏をし続けたままなのだが、自分が見ている場所がちょうど死角が生じてしまうので、確認することができなかった。
何故俺は今、幽霊のことに心を奪われているのだろうか?
真姫のことを最優先にしなくてはいけないはずなのに……何故なのだろうか、まるで、手招きされているかのようだった…………。
俺は、慎重にドアを開けて中に入った。
今回は中に入っても演奏は続けられたままで、その音色は部屋中に広がり、跳ね変えてくる。
実に、美しく……繊細で……陽気な音色だった……………
俺は少しずつピアノの方に向かって歩き出した。 そして、イスの方を見た…………
「誰も………いない…………?」
どういうことなのだろうか、ピアノは演奏をし続けているのにそこには誰もいないのだ! こんなことがあってもいいのだろうか? 俺は目の前で心霊現象に出くわしているのだ。 俺の理解の範ちゅうを大きく上回ってしまっていたのだ。
驚愕しつつ、その光景を目にしていると、どこからか女の子の声が聞こえてきた………!
『うふふ、来てくれたのね、おにいちゃん♪』
「!!!!!」
陽気で幼い声が教室中に響き渡る。 が、辺りを見回しても女の子の姿が見えない。
別の場所で話しているのだろうか? それとも、ただ俺が見えていないだけなのだろうか?
考えが渦巻く中、女の子は続けて話し始めた。
『うふふ♪ ねぇ、おにいちゃん。 私とあそぼ♪』
「遊ぶ?」
『そう! かくれんぼだよ! 今から私が隠れるから、おにいちゃんが鬼になって私を探してね♪』
「ちょっ! 隠れるって、まさか………!」
『そうだよ、この学校全部が私の隠れ家だよ!』
「………冗談だろ…………」
『うふふ♪ それじゃあ始めるよ! よ~い、スタート!!』
女の子の合図に合わせてピアノの伴奏が止まり、教室に静寂が戻る。
(すすっ………)
それと同時に、窓から何かが流れていくように見えた。
多分、あの女の子なのだろう……しかし、今は遊んでいる場合ではないはずなのに、あの子を見つけなくちゃいけない気がしているのだ。 俺は、あの子の影を追うように教室から出てゆき、廊下を走りだした。
何かを見つけるために―――――――
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―――
――――
俺は走った――――
校舎中の教室と言う教室すべて入っては、荒らすように探した――――――
だが、どこを探しても女の子の姿は全く見えない―――――
机の下…教室の隅……カーテンの後ろ………掃除箱の中…………考えられるところはすべて探し回った――――
だが、見つけることは叶わなかった―――――――――――
「くっ………! 一体どこにいるんだ…………!!」
息を切らしながら全力で走りまわったことにより、体中が熱く火照ってくるようになる。 顔から汗が朝露のように滴り落ちてくる頃には、着ていた服が濡れ始め、そこに吹き付ける風が寒く感じてしまうほどだった。
校舎を真っ赤に染めていた夕陽も段々と沈み始める。
漆黒の闇がジワリジワリと街を飲み込み始める。
夜がやってくる――――――――
そう察すると、俺は焦りを感じ始める。 夜の暗闇の中では、圧倒的に隠れる側が優勢になってしまうのは明白だ。 そうなってしまえば、こちらの勝ち目は0に等しいことだろう………
焦るな……クールになれ………ここで仕損じてしまえば、俺に与えられた時間をもう取り返すことなんざ不可能だ………考えろ……考えるんだ………! なけなしの脳みそをフル回転させて見つけ出すんだよ………!!
俺は一旦立ち止まっては、目を瞑って瞑想に入る。
何かを見ながら考えるよりか、何も見ないで考えた方がよっぽど考えが湧きでてくるし、まとまりが付きやすい。 それに、冷静になりやすい――――
大きく深呼吸すると、ここまでの流れをすべて思い返してみた。
まず、音楽室から出て行ってからは、そのまま4階の教室を回り、3、2、1階と順々に回っていった……外にも出て行き、校庭や中庭の方も見てみた………体育館も講堂も……至る所すべてを探し切ったはずだ…………だとしたら、まだ探していない場所は……………
「………あっ…………!」
何かを思い出すかのように閃きが走ると、ある特定の場所のことを頭の中にインプットさせた。
そうだ……この場所だけ、まだちゃんと探していなかった………!!
そう思い立つと、そのままあの場所に向かって走り始めた―――――――――
〈ジジ…………ジジジジ………………ザ……………ザ――――――――――〉
―
――
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「ハァ……………ハァ…………………ハァ……………………」
俺はその部屋のドアを開け中に入る。
もう外は暗く、漆黒の闇が部屋全体を飲み込んでいた。
何も見えないかと思いきや、嬉しいことに月夜の光が照らし始めた。
そのおかげで、俺は部屋全体を探し回ることができるのだ。
そして、俺はしゃがみこみ、あるものの下を覗き込んだ。
すると――――――
「み~つけた!!」
『あ~~!! 見つかっちゃったぁ~~~~!!!』
ピアノの下に、あの子は膝を抱えた状態で座っていた。
そう、この子が見つかった部屋は――――――
音楽室だ―――――――
よくよく考えれば、俺はこの部屋から出て行く前と後に、ここをちゃんと探してはいなかった。 それに、この子と初めて会った場所がここであり、この子自身がピアノを弾くことが好きなのだから、好きなものの近くに隠れるだろうと言う児童心理に基づいて探した結果、ビンゴだったってわけだ。
「さあ、そこから出ておいで」
俺は手を伸ばしてこの子を出そうとする。
この子もそれに応えるように俺の手を掴んで出て来ようとする。
『うふふ♪ 簡単には見つけられなかったね、おにいちゃん♪ こういうのって、とうだいもとくらしって言うんでしょ? そのくらいの知識なら私だってわかるんだからね!』
とてもご機嫌な様子で話しかけながら出てくる。 そして、俺の前に立つとその顔に月夜の光が照りつけはじめる。
この子の素顔が明らかにされた――――――――
「んなっ?! そ、そんな……………ばかな……………!!?」
その素顔を見ると、目を見開き驚愕してしまった。
ありえない………ありえないことだ…………
こんなことが本当にあってもいいことなのだろうか……?
現代科学では絶対に証明することができない光景を俺は目にしているのだ………!
だが……だが、もしこれが現実であるのならば……………
………俺はこれを与えてくれた者に対して感謝をしたい…………!
全身を身震いさせながら、俺はそれが現実であるのかを確かめるかのように話す。
「キミ………名前は…………?」
そう言うと、にっこりと笑いだして答えた。
『私の名前は――――――――
―――――西木野 真姫よ!』
7年の歳月を経て………俺は………ようやく彼女と巡り合うことができた―――――――――
―
――
―――
――――
間違いなかった……この子こそ、俺が命を掛けてまで護った、あの小さくって……泣きじゃくっていたあの女の子が姿かたちを変えることなく、俺の前に現れたのだ………!
その子の手を握ると、微かに感じる温もりが俺の手を通って感じられる。
生きている………この子はちゃんと生きているんだ…………!!
その事実を実感させられると、眼からポロポロと涙があふれ出してきた。
その様子を見て、この子は不思議そうな顔をして見てきた。
『うふふ♪ おにいちゃん、もしかして泣いているの?』
「………あぁ………泣いているんだよ………キミに会えたことに俺は嬉しくって……泣いているんだよ………」
『そうなの? あのね、私ね、ずぅ~っと、おにいちゃんのことを見ていたよ!』
「俺のことをか……?」
『うん♪ おにいちゃんがこの学校に来てから、ずぅ~っと見ていたんだよ。 この学校のためにガンバっていたこととか、はしゃいでいるところとか。 あっ! そういえば、おねえちゃんたちのことをギュ~ってしていたのも見ていたよ!』
「………えっ……見てたの………?」
『うん! だって見えちゃったんだもん♪』
「うっ………そう考えると、恥ずかしい気持ちになるなぁ………」
『うふふ♪ おにいちゃんはあんなにダイタンなことをしていたのに、ハズカシイだなんて……えへへ♪ おもしろーい!!』
屈託のない笑顔が俺の心に突き刺さってくる。
そうだ………そうなんだよ………
俺は、この笑顔を護ってやるためにこの子を助けたんだ………
何者にも縛られない、無垢な笑顔を多くの人に与えてあげられるようなそんな子に育ってもらいたいと心から望んでいた。
だが………現実はそうではなかった………
……今の真姫は笑顔を失っている………喜ぶことを失っている………ずっと悲しんでいるんだ………自分で築き上げてしまった虚像のために、真姫は苦しめられているのだ………
それを思うと、何ともやるせない気持ちが湧き起こってしまうのだ…………。
「ごめん………真姫……俺は、キミを苦しめるようなことをしてしまった…………」
涙をこぼし、震えた声で話しをする俺に、この子は困った表情で俺を見た。
すると、この子の手が俺の頬に触れると、軽く撫でるように眼からこぼれる涙をぬぐい取った。
『おにいちゃん………私ね、おにいちゃんに言わなくちゃって思ってたことがあるの。 ずっと、言いたかったんだ……おにいちゃんにこの言葉を言わなくちゃって、ずっと待ってたの』
「えっ…………?」
それからこの子は、最高の笑顔を見せながら俺にこう言った―――――――――
『私を助けてくれて、ありがとう! 私のだぁーいすきな、おにいちゃん!!!』
「~~~~~~ッ!!!!!!!」
その言葉を聴くと、俺は大いに泣き崩れた―――――
俺の心に棲み続けていたモノが解き放たれたかのように、ドッと涙が流れ出す――――――
俺も苦しかった――――――
俺がやってきたことは本当に正しかったのか、迷い、悩み続けていた―――――――
だが、この言葉を聴いて、ようやく俺は救われたのだと実感することができた――――――
俺の目の前にこの子がいるのだから――――――――――
―
――
―――
――――
俺はしばらくの間、泣き続けた。
涙が枯れ始めた頃に、この子は俺に囁くように話しかけてきた。
『私……そろそろ行かなくっちゃ………』
「……どこに行くんだい……?」
『もう、私のおねがいが叶っちゃったんだもん……もう長くはいられないよ………』
「そ、そんな………!」
寂しげに語るこの子は、俺の手を力一杯握りしめる。 まだ、何かをやり残したかのような思いをのせて………
『おにいちゃん、一緒に来て……!』
この子は、俺の手を引っ張って教室の外に出た。
階段を下り―――――
玄関を出た―――――
中庭に出た―――――
すると、そこには不思議な光景が広がっていた―――――――――――
「なんだ………これは…………!?」
目を疑うような光景が俺の目の前に広がっている。
洋子が以前話していた、どんな願いでも叶えてくれる大きな岩と、その横にそびえ立つ大きな桜の木。
この2つが異常な現象を起こしていた………
その大きな岩は、光り輝き――――――
桜は、満開の花びらをつけて照り輝いていたのだ――――――
その光景に、俺は足をすくませた。
恐怖と言うよりは、神々しさを感じさせられるような…畏怖の気持ちに駆られたのだ。
こんなことが、本当に起こるものなのかと………
『おにいちゃん………来て………』
この子に引かれるように、俺はその2つの前に立つ。
2つから放たれる光が、俺を包み込み始める。 辺りがまるで、昼のように明るかった。
『前にね、ここでお願い事をしたの。
おにいちゃんが元気になりますようにって……そうお願いしたの。
そしてね、もし良くなったら、ちゃんとお礼ができますようにって祈ったの。
そしたらね、この岩が光り出して私を包み込んだの。
光ったらね、私の体がまるで2つになったみたいなの。
もう1人の私は、私のことに気が付かなかったけど、私はハッキリと見ていたの。
私がもう1人いるって、喜んじゃった。
でも……私はこの学校から外に出られなかったの………
出ようとすると、変な壁に邪魔をされちゃって出られなかったの………
だから、私はずっとここに居続けたの………
晴れの日も……雨の日も……雪の日も…………
たっくさんの朝と夜をここでずっと見てきたの……』
「真姫…………」
『寂しかった………誰も私のことを見てくれないんだもん………
私はここに居るよって言っているのに、誰も振り向いてくれなかったんだもん…………
だけど、私は何もできなかったの…………
でもね、待っててよかったって思ってるの。
だって………こうして、元気な姿のおにいちゃんに会うことができたんだもん!
おにいちゃんにありがとうってお礼を言うことができたんだもん!!
それだけで、わたし………うれしいかったもん………!!!!』
光のように輝く笑顔が俺を照らした。
今にも泣いてしまいそうだったその震えた声で、一言一言に思いを募らせて語るその言葉には重みを感じ、1人だった時の寂しさと苦しさが手を伝えて感じ取る。 だが、それを感じさせない喜びにあふれた笑顔と言葉が回りを明るく包み込ませた。
俺とこの子が出会うために与えられたこの一時は奇跡のようだった――――――――――
だが、その時間にも終わりが近付き始める――――――――――
この子がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がしたのだ――――――――――――
『おにいちゃん………私からの最後のお願いを聴いてくれる?』
「………いいよ」
『私を………今、私の家にいるおねえちゃんをたすけて………!! もう1人の私をたすけてあげて………!!』
「任せろ……!! 俺が何とかしてあげるよ……!!!」
『………よかったぁ……………』
そう言うと、この子は俺の手から離れ、岩の前に立ち俺の方を向いた。
すると、両手を胸の前に置いて、何かをし始めた。 それをジッと見ていると、その手の中から小さな赤い光が出てきた。
『これを受け取って………』
そう言うと、その光は宙空に浮き始め、俺の方に向かってやってきた。 それに応えるように俺は両手を広げる。 その光は俺の手に向かって降りてきた。 燃えるような深紅の小さな光が俺の手の中に収まり消えた。
『“運命のかけら”って言うんだって……それがあれば、おねえちゃんをたすけることができるんだって………』
「ま、待ってくれ……! それは誰が言っていたんだ………!!」
『わからない……でも、とってもやさしい人だったよ。 そう、おにいちゃんみたいだったよ!』
「俺みたい………?」
この子の言っている、その誰かが気になり始めた俺だが、この子の様子が変化し始めた。
「真姫……! か、体が…………!!」
この子の体が光り始め、足から光の球が出てきては空を舞った。
体が消え始めたのだ――――――――
『………そろそろ、お別れの時間が来ちゃったみたいだね…………』
涙一つ見せないその満足そうな笑顔で俺を見ていた。
もう、何も思い残すことが無いと言ったようなその顔には、笑顔で満ち溢れていた。
「あぁ………ああ…………あぁ……………!!」
言葉にならない悲しみが俺を襲う。
折角、出会えたのに………こうやってキミと再会することができたのに…………一緒に居る時間がこんなに短いだなんて…………そんなの…………そんなの…………悲しすぎるじゃないか………!!!
もっと話がしたかった…………! もっと、遊んであげたかった…………! なのに……!! なのに………どうして、こうも早く別れが来てしまうんだよ…………!!!!
感情の壁によって押し止められていた数多の想いが、壁を打ち壊されたかのように怒涛のように溢れ返した。
この子を包む光が腰のところまで舞い上がっていた。
もう、上半身しか残っていなかった。
『泣かないで、おにいちゃん。 消えてしまうのは、ほんの一瞬だけだよ。 私はずっと、おにいちゃんと一緒に居るよ』
「……ま…真姫……………!!」
『おにいちゃん…………私のね、これが本当に最後のお願いだよ……………』
この子は両手を広げた。 そして、一滴の涙を流してこう言った………
『私を……思いっきり、ぎゅ~~~~って、して………!!』
その言葉を聴くと、考えよりも先に体が動き出し、この子を抱きしめた。
言葉通りに、思いっきり、ぎゅっと抱きしめたのだった…………。
本当にわずかにしか感じられない最後の温もりが俺に伝わってきた…………
『えへへ♪ やっぱり……こうやっておにいちゃんに、ぎゅ~~~~~ってされると、きもちがいいんだね……………』
微かに囁くような声が俺の耳元に入ってきた瞬間―――――――――
真姫は、俺の腕の中から消えた――――――――――――――――――
力を込めていた腕は、空を掴むようにすり抜ける――――――――――
そして、輝き続ける岩に向かって嘆き叫んだのだった――――――――――
―
――
―――
――――
真姫だった光の球が宙空を飛び続ける。
光の球は吸い込まれるように桜の木の中に入っていった。
すると、桜がこれまでにないほどに輝き始めた。
そこから、微かに何かが聞こえてきた。
嘆き続けていた俺の耳の中にもその声が届いた。
『泣かないで……おにいちゃん……』
「……ッ! 真姫か……!!」
『うん、そうだよ。 体はなくなっちゃったけど、こうしておにいちゃんとお話しができそうだよ』
「そう………なのか………?」
『だからね、もう迷わないで………おにいちゃんはおにいちゃんがしたいことをして………』
「俺の……したいこと…………?」
『うん! 私はおにいちゃんがしたいことがわかるからね。 私はそれをここで応援しているからね!』
「それじゃあ……こうしてまた話せるんだね………?」
『そうだよ! だから、また話に来てね。 私はいつでも待っているからね………約束だよ!!』
「ああ、約束だ……俺と、真姫との2人だけの約束だ……!!」
『えへへ♪ 嬉しいな♪………嬉しいな…………うれしいな………………』
その言葉を最後に、真姫の声は聞こえなくなった―――――――――
それを見計らったかのように、嵐のような突風が襲いかかった――――――
その勢いに、俺は目を瞑ってしまった―――――――――
風が吹き止み、目を開けてみると―――――――
光はもう無くなっていた――――――――――
岩の光も、桜の光も、宙空を飛んでいた光も、何もかもが消えて元通りになってしまった―――――――
「真姫…………」
俺は胸をグッと握りしめて、決意をして立ちあがる―――――――
必ず、真姫を助けて見せると――――――――――――
俺はそう願い、そう決意したのだった――――――――――――――
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
いろいろなことを考えて作りました。
『哀しき幻想紅姫 Ⅱ ~for Answer~』
第8話でした。
ここで、いろいろなフラグを回収させてみました。
もとからこういうことをしてみたいなぁと思っていた矢先にこうさせていただきました。
まあ、いろいろと突っ込まれるようなことがあるかもしれませんが、自分は、これがいいと思っています。
次回もよろしくお願いします。
今回の曲は、
PCゲーム『ef-a fairy tale of the two.』より
原田ひとみ/『悠久の翼』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない