第76話
【プロローグ】
[ 音ノ木坂学院・部室内 ]
「蒼一、こちらを見てください」
「蒼一! いい感じのができ上がったわよ♪」
ユニットを結成させてから数日が経ったある日のことだ。 海未と真姫が揃って俺のところに来て、例の楽曲の詩と曲のサンプルが完成したようなのだ。
2人とも意気揚々と持ってきてくれたので、何だか期待が持てそうだった!
「それじゃあ、見させてもらうぞ」
真姫の曲のサンプルを聞きながら海未の詩を読み始める。
おぉ!! 海未の詩に真姫の曲がピッタリ合わさって、3曲ともなかなかいい感じに仕上がっているじゃないか! 後は、これにリミックスとかの作業を加える編曲の工程を行えば、完成させることができそうだな!
まだ、楽曲を聴き途中だが、俺の頭の中では、すでにどういった感じに仕上げて行こうかという組み立てが始まりだしていた。 詩から連想させられる物語のイメージと、それを強調させてくれる曲をどのように引き立たせるようにするのか、こうした構想を思い巡らせていた。
しかし何だろうか………今回、海未から手渡された海未の詩は、これまでのと比べてみると、少し大人びたかのような内容になっているようにも思える。 特に、エリチカたちが歌うだろうこの楽曲は、海未の性格には全く合わないだろう表現の仕方が描かれているのだ。
この数日の間で、一体何があったんだろうか?
心配が俺の中でうごめくので、何か問題でもあったら大変だと考えて聞いてみることに。
「なあ、海未。 お前、なんか体調が悪かったり、体を壊したとかなっていないよな?」
「何を言い出すのです、急に。 私は至って平常ですけど?」
「そうなのか? 以前までのお前だったら、こういった大人っぽい詩を作るなんて考えられなかったかなさ、心境の変化とかでもあったのかなって思っただけさ」
「ああ、その事ですか。 その詩は私だけが作ったわけではないのです」
「と言うと?」
「話しを持ちだしたあの後に、私が作りましたそれぞれの詩を真姫たちが見てくださったのです。 そして、みんなの思い思いの言葉をくみ取りまして、このような詩になったのです」
「そうだったのか……! どおりで……」
「海未が作ってくれた詩もいいと思うけど、結局それを歌うのは私たちそれぞれのグループなんだから、私たちも手伝わせてもらったってわけなのよ」
「はい、真姫たちが手伝ってくださったおかげで、より良い作品が作れた気がします。 本当にありがとうございます、真姫」
「べ、別に、海未だけのために頑張ったわけじゃないんだから!!」
そう言いながらも、頬を赤くしながら照れた表情を見せる真姫は、少しとばかり嬉しそうにも見えた。 ということは、俺がそんなに気をもまなくても、みんながそれぞれ努力してくれていたってわけか。 なるほど、これはより一層、編曲に力を加えないとな。
………そういえば………この前、真姫に編曲の仕方を教えてあげようかって話しをしたんだっけな? だとしたら、この楽曲を使ってやらせてみさせてもいいんじゃないか?
すべての楽曲の確認を終えると、すぐに真姫に聞いてみた。
「そう言えばさ、真姫。 今回のこの楽曲で編曲をやってみる気は無いか?」
「えっ!?」
「この前に話した編曲の仕方を予定通りに教えてやるから、今からウチに来ないか?」
「ええ! もちろん行かせてもらうわ!!」
「それじゃあ、今から支度しないとな………そう言うことだから、海未。 この後のことは任せたぞ♪」
「ええっ!!?」
俺と真姫は早速、手荷物をまとめて部屋を出て行こうとドアノブに手を掛けようとしていた。
「ちょっと待ちなさいよ!!!」
「!!?」
ドアに手を掛けようとした瞬間、先にドアが開いて、そこからにこが現れたのだ。
「ちょっと待てってどういうことだよ?」
「そのまんまの意味よ。 蒼一、今から家に帰るんですって?」
「あ……あぁ……そのつもりなんだが………何か問題でもあるのか?」
「問題? いいえ違うわ」
「じゃあ何なんだ?」
「私も行くわ」
「はい?」
「私はまだ蒼一の家に行ったことが無いから行ってみたいのよ♪」
「う~ん……別に、来ても構わんが……何もすることが無いぞ?」
「そこのところは大丈夫よ、私だけじゃなくって他のみんなも一緒に行けば暇せずに済むと思うにこ♪」
「………どうしてそういう結論に至ったのか説明を求めたいのだが………」
「説明する必要なんかないわ。 みんな行きたがっていた、ただそれだけよ。 ね~?」
『ね~~~~♪♪♪』
「………お、おまえらぁ………………」
ドアの向こう側を見てみると、そこに残りのメンバーたちと明弘が立っていた。 まるで、俺が真姫を家に誘うことを待っていたかのような…………いや、そんなまさか……………
―
――
―――
――――
[ 宗方家 ]
「ここが俺の家だ」
「へぇ~……ここが蒼一の家なのね」
学校を出てから数十分、蒼一を先頭に歩いていくと目的地にたどり着くことができたわ。 外観は、この通りに並ぶ住宅とそんなに変わらないと思えるような2階建ての一軒家。 まあまあな大きさであると感じられるけど、まあ私のアパートと比べたらかなり大きく感じてしまうのは、私くらいだけだと思う。
「ねえねえ! 早く入ろうよ!!私も何か手伝ってあげるよ!!」
「私も蒼くんの役に立ちたいよ~、何でも私に言ってね♪」
「だったら言うぞ…………黙って、大人しく待っていろ!」
「「むぅ~~~~蒼君(くん)のイケず~~~~」」
はぁ………まったく、あの2人は何をしているのやら………
穂乃果とことりは、またしても蒼一にじゃれつくようにちょっかいを掛けてきている。 ここまで来るのだって、あの2人は蒼一にベタベタと触ったりしながら歩いて来ていたのだけれど、ここは外であっていろいろな人からの視線が来るのよ? 仮にも、スクールアイドルをやっている私たちにとっては、そういった異性間交流と言うのは、やっちゃいけないんだから! そんなことでスキャンダルになったらどうするのよ! もう少し、自覚を持ってほしいものだわ!
………とか言っても、聞く耳を持たないでしょうね…………
何せ、こういった光景は部活を行っている最中でもよく見かけるものだし、もはや、これが日常なんだなと私自身も錯覚してしまうように感じている部分がある。 それほど、あの2人は蒼一に好感を抱いているのでしょうけど、節度はわきまえてほしいものだわ。 あんなにベタベタとくっついちゃって…………
べ、別に! う、う、羨ましいとか、お、思ってなんかいないんだからね!!!!
「にこちゃん………にこちゃん……」
「……はっ! ど、どうしたのよ、花陽?」
「にこちゃんが何だか難しそうな顔をしていたから気になっちゃって………やっぱり、緊張しちゃってるの?」
「ま、まさかそんなことないわよ! 元はと言えば、この私が行こうってけしかけたじゃない。 それなのに、怖じ気付くだなんて思ってもいないわよ!」
「そ、そうなの? よかったぁ~、ここまで来てやめようだなんて言い出したら、私1人でやることになるかと思ったよ~。 もう、どうしようかと思っちゃった」
「まったく、花陽は心配性なんだから。 これは私たちだけで付きとめなくっちゃいけない事なんだから」
「うん! 頑張ろうね、にこちゃん」
花陽と何を相談し合っているのか分からないと思うから一応言っておくわ。 私はね、蒼一に疑いをかけているところなのよ。 いやいや、別に問題を起こしたとかそういった理由ではなくって……違うの。 そう、言い換えるとしたら確認したかったのよ……あの人と………RISERのアポロじゃないかって―――――
私がそう感じたのは、蒼一の大学で行われた文化祭での、あの舞台―――― 蒼一と明弘が私たちの前で歌って踊った時に感じたのよ。 RISERのライブに行ったことがあるから分かるの! あの鋭くも軽やかな動き……歌にこもった思いを教えてくれる歌い方……そして、私たちを魅了するあのまばゆい輝きを………!!!
もし、蒼一がアポロだったとしたら、私は…………嬉しくってどうにかなっちゃいそう!!! だって! 伝説のスクールアイドルで、私が尊敬する人なんだから!! こんな間近で、しかも誰も見たことも無い姿を私たちだけが見ているだってことが、もう感動しちゃうじゃない!!! それに、蒼一だからってこともあるわ。 蒼一のあの優しい………優しい……………ぬくも…………り………………………
「////////////////////~~~~~~っっっ!!!!!!」
「どうしちゃったの、にこちゃん!?」
「な、な、な、何でもないわよ!!! ほ、ほら蒼一!! 早く中に入りなさいよ!!!」
「お、おう…………わかったから急かさないでくれよ」
そう言うと、蒼一は家の鍵を開けて家の中に入っていった。 それに続くように、私たちも中に入っていったわ。
けど………どうしてこの時にあの時のことを思い出しちゃったのよ!! おかげで今、蒼一のことをちゃんと見れなくなっちゃったじゃないの!! もう、ばかばかぁ!!!
―
――
―――
――――
[ 宗方家内 ]
「あんまし広くは無いけど、そこら辺にあるソファーだったり、イスだったりと座ってくつろいでくれ。 あ、これクッキーと麦茶な」
『いただきま~す♪♪♪』
早速、蒼一の家に上がった私たちは、そのまま広間にあるソファーとかに座って、用意してくれたお茶菓子に手をつけ始めているわ。
………ていうか、麦茶の付け合わせがクッキーって初めて聞いたんですけど!? そこは紅茶とか出すべきじゃないかしら? まあ、折角出してくれたんだから文句をタラタラ言わないで食べなくっちゃね。
お皿の上に何個も乗せられてあるドーム状の形をした白と緑色の2種のクッキーに手を伸ばして、白い方を1つ口にしてみる。
「あ~ん……んぐ……んぐ………ん!!!! な、何よこれ! すっごく美味しいじゃない!!」
口に入れた瞬間、香ばしい味が広がったと思いきや、クッキーをかみ砕くと、中からあま~い味があふれ出てくる! そして、この舌に残るザラザラとしたカスが、また香ばしさを引き立たせているの!! 何なの!? こんなの初めて食べたわ!!!
「お~いしい~! これなら何個でもイケちゃうよ~♪」
「んんん~~~♪ 白いのはゴマで、緑のは抹茶なんだね! んんん~~!! おいしいよぉ~~♪」
「ゴマの香ばしい味がなんとも言えません!」
「はわぁ~~~♪ 甘いものは控えるようにしているけど、ついついもう一個と手が出ちゃうよぉ~~!!」
「食べていると、何だか元気出てくるにゃ~♪」
「抹茶に麦茶、2つのお茶の味を一気に味わえるだなんて。 滅多にないことね♪」
「ハラショー! ちょうどいい甘さ加減で食べやすいわ♪」
「こういうのを食べとると、幸せな気分になれるやん♪」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があったもんだな」
「えっ!? これ、市販のヤツじゃなくって、蒼一が作ったモノなの!?」
「ん、そうだが………なんか変なもんでも入ってたか?」
「いや、そう言うことじゃなくって………蒼一ってこう言うものも作れるのねって感心してたところなのよ」
「言われるほどのことじゃないさ。 忙しい毎日の骨休みとして試作してみただけだし。 それに、にこも簡単に作れるものだから大したものじゃないさ」
「簡単と言ってもね、作るか作らないかを考えている人にとっては、簡単な事じゃないのよ。 その点、作ろうと決めたんだからすごいものよ」
「ありがとな、励みになるよ。 たくさん作ったから、こころちゃんたちにも食べさせてやってくれよ。 あとで、梱包しておくぜ」
「あ、ありがとね………」
私たちからの言葉に、少し照れくさそうな仕草を見せる蒼一はなんだか新鮮な感じがしたわ。
そうした仕草を見せつつも、私の妹たちのことも考えてくれるコレをくれるだなんて……また、ウチに来てもらおうかしら………
『ごちそうさまでした♪』
「御粗末さまでした」
ふぅ……数個食べて終わろうかと思ったけど、あまりにも食が進んじゃって4、5個食べた後で何個食べたのかを数えていなかったわ………まさか、食べすぎちゃったんじゃ…………ま、マズイわ……! これで私のスタイルに影響が出ちゃったらどうしよう!? あ~ん、家に帰ったら体重計を見て確認しないと!!!
甘い物の食べ過ぎに苦悩しちゃっている私を横に、蒼一は私たちが使った食器を片づけていると話しをし始めたわ。
「よし、それじゃあ真姫、やるとしようか」
「ええ、そうね。 甘いものを食べて頭が回ってきたところだったからちょうどいいわね」
「わかった。 それじゃあ、俺と真姫は今から編曲の作業に入るから、ここに居るか、俺の部屋に居るのかしていてくれ。 ただし、他に洗面所とトイレ以外の部屋にはいかないでくれよ、物置だったり、家族の部屋だったりするから漁ったりしないでくれよ?」
『は~い♪』
「後のことは明弘に任せるから、部屋の案内とかは頼んだぞ?」
「合点承知! へへっ、俺が必要になった時はいつでも呼んでくれよ?」
「わかってるさ。 最終段階の時にお前に変わってもらうことになるかもしれないから、それまで頼んだぞ」
「応よ! 任されたぜ!!」
そう言い残して、蒼一と真姫ちゃんは、この家のどこかにある作業部屋に行ってしまった。
………ということは、今がチャンスかもしれないわね! 蒼一がいない隙に、この家の中を探し回って何か証拠を見つけ出すのよ!
「そんじゃま、兄弟もああ言っていたことだしよ。 どうだい、行ってみるかい? 蒼一の部屋によ?」
『行く!!!!!!!!』
満場一致状態となり、私たちは蒼一の部屋に行くことになったわ。
ふふふ………一体どんなものが眠っているのかしらね…………?
私の中からお宝を探し出そうとする好奇心が顔を出し始めていて、早く見つけ出したいと言った感情が抑えられなくなっていたわ。
―
――
―――
――――
[ 蒼一自室 ]
「さて、ここが蒼一の部屋になるんだぜ!」
2階に上がり、明弘の手によって開かれた蒼一の部屋は、私が想像していた以上にスッキリとした空間が広がっていたわ。 部屋中が綺麗に片付いていて、本やCDといった物の整理整頓もキチンとされているし、毎晩使っているだろうベッドにも何の汚れもシワも見当たらない清潔を保っていたの。
そんなことよりもまず目に入ってきたのは、ベッドの横に積み重なっている動物のぬいぐるみよ! 犬に猫に何かのアニメに出てくるキャラのぬいぐるみだったりと、合わせて10近くがそこにあったのよ。 その次に目に入ってくるのは、私の身長よりもはるかに高い本棚よ! 蒼一なら手が届きそうな高さになっているこの本棚には、小説・漫画・専門書…そして、同人誌までもの幅広いジャンルの本がズラリと置かれてあったり、それと同じように入れられているCDも同じように幅広いジャンルのモノが置かれてあるからびっくりよ!
「………って! このCD激レアモノじゃないの!!?」
「おお~、さっすがにこだぜ~。 ソイツは、あの国民的アイドルの初代リーダーを務めたメンバーのサイン入りCDなんだぜ~。 しかも、メジャーデビューする前のものであるということもあってその価値はかなり高いんだぜ~」
「ななななな、なんで蒼一がそんなのを持っているのよ!?」
「なぜって……そりゃあ、兄弟が直接会って手に入れたに決まっているじゃんかよ~」
「本当ですか!!! わ、私にもそのCDをじっくり見させてください!!!!」
「おおおおお、落ち着きなさい、花陽! そそそそそ、そんなに焦んなくても大丈夫よ!!」
「そそそ、そうだね、にこちゃん! CDは逃げないもんね!」
まさか、こんなところで幻のCDに出会えるだなんて………感激すぎるわ!! しかも、サイン付きだなんて……くぅ~~……蒼一が羨ましすぎる!!!
持っていたCDを花陽に手渡すと、部屋の中をいろいろと探してみることに。 他のみんなは、ぬいぐるみをいじっていたり、CDを手に取っていたり、漫画を読みあさっていたりといろいろなことをそれぞれが行い始めていたわ。 もっと、いろいろなところを見ていかなくちゃ!
押し入れと思われるところの扉を開けてみると、そこには、たくさんの美少女フィギュアが箱に入れた状態のまま積み重なっていたの!!
「な、何よこれ!!?」
「ああ、それか………兄弟の趣味さ!」
「趣味って……こんな多彩なジャンルの美少女フィギュアが山のように置いてあるって、どういうことなのよ!!?」
「まあまあ、そう言うなっての。 兄弟はな、俺と同じくらいアニメとゲームをこの上なく愛しているんだぜ? にこも本棚のところを見ただろ? 兄弟はそんくらいの愛情を持ってこういったグッズを集めているんだぜ。 この部屋には、まだまだそうしたグッズがあったりするんだぜ!!」
「へぇ……そうだったの…………つまり、蒼一もオタクってことなのかしら?」
「一言で言っちゃえば、そういうことだな。 まあ、普段の生活からじゃあそんな様子なんて分からないよな」
まさか、蒼一がそこまでのオタクだったとは思わなかったわね………今まで思っていたイメージが少し変わってきた感じがするような…………でも、私は蒼一がそうだったとしても、人柄がいいからあまり問題にすることは無いわ。 それに、私だってオタクみたいなもんなんだし、人のことは言えないわ。
そう言えば、他のみんながかなり静かな気がするんだけど………何をしているのかしら……?
私はみんなが何をしているのかと振り返ってみると、何かをじっくりと見ているのだけど……何かしら?
「ねえ、何を見ているのよ?」
「あ、にこちゃん! 見てみて、これ蒼君の昔の写真が入ったアルバムなんだよ!!!」
「えっ!? 何それ、めっちゃみたいんですけど!!!」
蒼一の昔の写真が見られるですって!!! それは貴重すぎない!?
知らぬ間に私は身を乗り出して、みんなが見ているものを凝視した。
「な、何よこれ!!! とぉぉぉぉってもかわいいじゃないの~~~~~!!!!!」
その写真に写っていたのは、見た目が私たちよりもはるかに小さく、目がクリっとしていてとっても愛嬌のある表情で笑っているの! あ~ん、もうこう言うの見ていると、ギュッて抱きしめたくなっちゃうじゃないの!! まるで、虎太郎を見ているような感じがするわね~~~♪
「確か、これは蒼一が3歳の頃の写真ですね。 私はこの頃の蒼一には、まだ出会っていなかったですね」
「私はちょうどこの時に蒼くんに初めて会ったの。 お母さんに連れられてこの家に来たんだっけ? 小さかったから記憶が曖昧なんだよね」
「こんなにカワイイ姿をしている時が蒼君にもあったんだよねぇ~」
「へぇ~、蒼くん、とぉぉぉぉってもかわいいにゃぁ♪」
「ふふふっ、ほっぺたがまるでマシュマロみたいにふっくらとしていて、なんだかおいしそうですぅ♪」
「だめよ花陽、蒼一は食べ物じゃないんだから本当に食べないでよね」
「うふふ♪ でも、花陽ちゃんが言うのも無理もないやん? だって、こんなにかわいらしいんだから仕方ないやん♪」
あ~ん、もうずっと見ててもいい感じよ♪ 目に入れても痛くないってこういうことなのかしら? かわいくってかわいくって、もうにこの心はメロメロよ~♡
一度でいいから、この時の蒼一に会ってみたかったわ! そしたら、ギュッて抱きしちゃうの! ああん、もういいじゃないの!!!
「次の写真は………っと、これかな」
「あ! これ懐かしい♪」
「本当ですね、幼稚園の時に私たちで撮った写真じゃないですか」
「おお! こん時の写真が残ってたなんてな~、いやぁ~懐かしい懐かしい~♪」
次に見たのは、蒼一が穂乃果とことりと海未、そして、明弘の5人で撮ったらしい写真だわ。 へぇ~、明弘も結構かわいかったじゃないの、あとでからかってあげようかしら♪
「次は…………あ! この写真は!!」
穂乃果が開いたところから出てきたのは、野球のユニホームを着ている蒼一の姿だったわ。 この頃になると、顔が引き締まっているようにも見えて、かわいさよりもカッコよさの方が際立っているような感じがするわ。
「へぇ~これが蒼一のユニホーム姿やったんやなぁ………」
この写真を見ていた希が急にそんなことをつぶやき始めたの。 何かしら? 意味ありげな感じがするような………
「どうしたのよ、希? この写真に何かあったのかしら?」
「いいや、そうやないんよ、にこっち。 ちょっと昔のことを思い出しとったんよ」
「昔のこと?」
「そうやで。 結構前の事なんやけど、ウチが小学校の時にな、ここら辺に引っ越してきたことがあるんよ。 その時に蒼一と知りあったんやけど、その期間中にな、蒼一がウチに野球をやっている姿を見せてやるっていってくれたんよ。 けど、その後にすぐに転校してしもうてな、結局見られんかったんよ」
「希………」
「でも、ええんよ。 写真というかたちで、こうやって見ることができたんやからウチは満足やで♪」
そうは言っているけど、内心かなり残念そうに感じるのは私だけじゃないわよ。 無理に明るく話そうとしていると、逆に心配になってしまうわ。 希って、前からそういうところがあるのよね。 気付いてないかもしれないけど、感じ取っちゃうのよ。
「希ちゃん! この写真欲しい?」
「えっ!?」
「私の家にも同じような写真があるんだけど、よかったらあげるよ!」
「えっ? で、でも、そしたら穂乃果ちゃんのは?」
「いいのいいの、もし見たくなった時は、蒼君に内緒でこうやって見に来るんだから問題ないよ♪」
「穂乃果ちゃん……! おおきになぁ、それじゃあ、お言葉に甘えてお願いするやん♪」
「うん! それじゃあ、帰りにウチに寄ってよ! ウチの和菓子と一緒に渡してあげるよ♪」
へぇ~穂乃果って意外と気が利くじゃないの。 いつものんびりしてて自分中心な感じだと思ってたけど、なかなかやるじゃない。 少し見直しちゃったわ。
「それじゃあ、次は………………」
穂乃果がページを1枚1枚めくっていると、とあるページを見てドキッとしたの。
「待って!!!」
私は、躊躇せずに大きな声で穂乃果の行動を静止させたわ。 他のページとは明らかに雰囲気が違っていることに気が点いてしまったのだから…………
「穂乃果………この写真は何?」
「こ………この写真は……………」
「蒼一が映っている場所はこの家じゃないわね。 これは一体どこなの?」
「…………病院だよ…………」
「病院? この時の蒼一は何かおかしいところがあったの?」
「そ、それは……………」
「ソイツに関しては、この俺に話しをさせてくれや」
「明弘………」
「弘君………」
私と穂乃果の間に、明弘が割って入って来て話をし始めた。
明弘が言うには、蒼一はこの時に事故に巻き込まれて大けがを負ったらしいの。 けど、何とか一命を取り留めることができたらしく、この写真はその時に撮られたものらしい。
ベッドの上で体を起こしながらも、ぎこちない笑みを浮かべている蒼一の姿は、とても居たたまれなく感じてしまった。
「まあ、そんな
「明弘……アンタ…………そうね、明弘の言う通りね」
「にこちゃん………?」
「蒼一にどんな過去があったかどうかなんて分からないけど、私は蒼一がずっと笑っていられるようにしたいの。 それが蒼一から私に与えられた課題なんですもの、やってやらないといけないわ!」
「にこ…………」
「アンタたちも同じ気持ちなんでしょ? だったら、めそめそしてないで蒼一のために頑張らないといけないでしょ!」
『!!!!!』
「………そうだね、にこちゃん。 私たちが暗い気持ちでいたら蒼君を不安にさせちゃうもんね。 穂乃果たちが蒼君に元気を与えないといけないんだよね!」
「そうよ! その意気があれば、蒼一を元気にさせることができるわ………いいえ、にこたちを応援してくれるファンのみんなも笑顔にさせることができるにこ♪」
「へぇ~、にこっちもええこと言えるようになったんやなぁ~」
「当然でしょ! 何てったって、私はアイドル研究部の部長なんですから!」
「あ、そう言えばそうだったね」
「ぬぁんですって!!? 穂乃果は私のことをなんだと思ってたのよ!!!」
「う~ん………お笑い担当!」
「それじゃあ、ただのお笑い芸人じゃないの!!!!」
穂乃果に対してツッコミを入れると、それに合わせて笑いが飛びあがったわ。
そうよ、これでいいのよ。
私は言葉をつづけて何かを話そうと思ったけど、その時、何を話したらいいのかを忘れてしまったため、一瞬だけ口をつぐんでしまったわ。 けど、今話したことは全部私が思っている気持ちなの。 蒼一に“みんなを笑顔にさせる”ということをこの私に注文してきたんですから、やってやらないわけにはいかないのよ! それに、みんなの中に、蒼一も含まれているんだから覚悟しておきなさいよね!
「そう言えば、まだ私の知らない写真が増えているような………何が増えたのかなぁ?」
穂乃果はそのまま、新しいページをめくって、私たちは蒼一の思い出に浸っていた。
―
――
―――
――――
みんながアルバムの中身に夢中になっている時、私は本来の目的のことを今更になって思い出していた。 そうよ、私はこんなところでのんびりしている場合じゃないわ!!
私は花陽の肩を軽く叩いて、私がいる方に顔を向けさせた。
「ねえ花陽、この部屋を探ってて何か証拠みたいなものは見つかったかしら?」
「ううん、何も見つからなかったよ。 アルバムの中にも、それらしいものが見つからなかったし……ここには無いんじゃないかなぁ?」
「う~ん………となると、他の部屋を探してみるべきなのかしら………?」
「あっ! だったら、直接聞いてみたらどうかな?」
「何言ってるのよ! 相手は自分たちのことをまったく話さない人なのよ! 直接聞いても答えるわけがないじゃない!」
「ううん、蒼一にぃに聞くんじゃなくって………穂乃果ちゃんたにちだよ」
「穂乃果たちに?」
「うん、穂乃果ちゃんたちだったら何か知っているかもしれないよ」
「でも、前に、RISERのことを聞いてもあんまり知らない感じだったじゃない。 あれじゃあ、ダメな気がするわ」
「そうでもないよ、にこちゃん。 あのね、もっとピンポイントに聞いてみないといけない気がするの。 例えば………RISERが消えたあの8月のあの日にどこにいたのかとか」
「そうね! それで蒼一たちがどこに行っていたのかを知ることができれば、つじつまがあったりするじゃない!」
本人から直接聞いても答えないのであれば、その周りにいた人たちから、当時、どんな行動をとっていたのかを聞くことで証明していくことができるわけね。 だとしたら、8月のあの日にどこにいたのかを調べておかないとね!
とは言っても、誰に聞こうかしら?
穂乃果じゃあ、何か信憑性に欠けるところがあるし………ことりだと、蒼一のことしか話さないような気がするわ…………だとしたら…………
「ねえ、海未。 ちょっとこっちに来てくれないかしら?」
「はい、なんでしょう?」
私が選んだのは、海未よ。 海未なら信憑性も十分にあるだろうし、それに真面目なんだし、私たちが求めている答えをちゃんと答えてくれる気がするわ!
「それで、私に話とは何でしょうか?」
「海未にしか頼めないことよ、いいわね? ちゃんと答えてほしいのよ」
「海未ちゃん、お願いします!」
「は、はあ………? わ、わかりました。 出来る限りのことを話させていただきます」
「それじゃあ、率直に聞くわよ。 去年の8月、蒼一はどこにいたのかしら?」
「蒼一がですか? なぜそのような事を?」
「理由は聞かないで、海未ちゃん! 私たちはただ答えてほしいの!」
「わ、わかりました花陽。 そうですね………たしか蒼一は……………」
「「(ごくり…)」」
「たしか、蒼一は………
…………そうですね、家族で旅行に出かけてました」
「「え??」」
「ですから、蒼一は8月全部を家族旅行として出かけてました」
え? どういうことなの?
私は海未が話した意外な答えに空いた口が塞がらなかった。 8月すべてを家族旅行に??? ということは、蒼一はあの時、あの会場にいなかったってことなのかしら??? それはつまり………蒼一はRISERじゃないってこと?
「そ、それじゃあ、明弘さんはどうなんですか? 明弘さんはどこにいたんですか?」
「明弘は………ずっと、私たちと行動を共にしていましたが………何か問題でも?」
「ううん、何も問題ないよ! ありがとね、海未ちゃん!」
「は、はあ……? にこたちのお役に立てたのならばいいのですが……」
「いいのよ、海未! ちゃんと役に立ったから大丈夫よ!」
「そうですか、ならば安心しました。 では、私は戻りますね」
海未は、にこやかな表情で穂乃果たちのところに戻っていったけど……どうなんだろう………
「どうしよう、にこちゃん………2人ともちゃんと予定が入っていたよぉ………」
「そ、そのようね………それじゃあ、私の思い違いなのかしら………?」
腕を組んで悩んでいても、さっきの話を聞いてRISERじゃないということが証明されてしまったのだから仕方が無いような気もするけど………う~ん………なんだか釈然としないような気がするわ………
あー……少しさっぱりしたいわね………御手洗いを貸してもらおうかしら?
「ねえ、明弘。 洗面所ってどこにあるの?」
「ん、ここを下りて、そこから右に曲がり最初の右の部屋がそうだぜ」
「ありがと」
私は部屋を出て、明弘が言ったとおりの道のりを歩いていった。
―
――
―――
――――
ふぅ、顔も洗うと 頭の方も何だかスッキリしてくるわね♪
御手洗いを済ませると、手を洗うついでに顔も水で洗っていた。 興奮してたり、焦ってたりして頭の回転が悪くなっていたわ。 こうして水にさらしたことで、気分もよくなってきた感じがするわ。 さあ、部屋に戻らないとね。
私はここまで来た道を引き返しながら、この家の中を詮索していた。 1階には、リビングにキッチンに和室に洗面所、バスルーム。 2階には、蒼一の部屋と同じくらいの広さの部屋が3部屋くらいあったわ。 他の部屋が蒼一の家族が使っている部屋だったのかしら? まあ、これもこれで個性的な感じがしたけどね。 そして、もう一つの部屋が……………ここね。
蒼一と真姫ちゃんが編曲している部屋らしいのだけど、一体、中はどんな感じなんだろう? 少しのぞいちゃお♪
部屋のドアを少しだけ開くと、蒼一と真姫ちゃんの声がやっと聞こえてきたわ。 防音対策でもとられているのかしら?
「蒼一、これってどうやって動かしたらいいの?」
「その機材も繊細に扱ってくれよ? こうやってだな……ほら、手を出して」
「こうかしら?」
「いや、こうするんだ」
「わぁ……!! そうよ、こういう感じよ! この音が欲しかったのよ!!」
「ここには、たくさんの音が収録されているからな。 存分に使ってくれ」
「うふふ♪ ありがとね♪」
…………私は無言のまま、そのドアを閉じた……………。
んなぁにやっているのよ、アンタたちは!!!! イチャイチャしているんじゃないわよ!!! あんなに体を密着させちゃってるし! 手を重ねちゃっているし!! おまけに、真姫が見たことのない表情をしていたし!!! んもぉぉぉぉぉ!!!! 何だか腹が立ってきたわ!!!!
私は、怒りを含みながらさっきの部屋に戻っていこうとしていた。
………あら? ここは何かしら?
廊下の奥の方に、他とは少し小さめなドアがそこにあった。 確か、ここにはまだ入って無かったわね。 それじゃあ、入っちゃおうかしら♪
好奇心に身を任せて、私はドアを開けたわ。 すると、目の前に現れたのは階段だったわ。 おかしいわね? この家の外観じゃ、2階しかないと思っていたのだけど、まさかの隠し部屋!? この家には、そんな仕掛けがあったのね!!
姿を現した階段に向かって、一歩、一歩と慎重に階段をのぼりつめて行った。
一番上にまで来ると、またドアがあった。 けど、それには鍵が掛かっていて、私では開けることができなかったわ。 さて……どうしよう………? 蒼一の最大の秘密がここに隠されているのかもしれないって言うのに、こんなところで終わってしまうだなんて………あ~~~もどかしいわ!!!
「………こんなところで何をやっているんだ?」
「ひぃ!!!?」
急に後ろから声が聞こえたと思って振り返ってみると、そこには蒼一がいたの! あわわ……も、もしかして、勝手に入ってきたことに怒っているのかな? これ完璧に怒っているのかなぁ???
「に、にっこにっこにー♪ ちょっと、そこにおもしろそうな階段があったからのぼってみてだけにこ♪」
「誤魔化さないの」
「………はい、すみません………」
「はあ……まったく、ここは親父が使っている部屋なんだから勝手に入っちゃ困るぞ。 まあ、
「ごめんなさい………」
「………別に、そんなに怒ってないからさ、そんな顔すんなよ。 さあ、部屋に行くぞ」
「う、うん………」
その後、この部屋の中を見ることは出来なかったわ。 何が入っているのか私が考えていても、何かが変わるということは無いと感じた。 ここじゃ、分からないとなると……さて、他に誰か蒼一のことを知っている人はいないかしら………?
あっ! そう言えば、あの人が………!!
ふと思いついた人物のことを頭に思い浮かべ、近々に会う機会があるだろうと思いながら1日が終わったわ。
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
なんか、本格的に週1のペースで書き綴っているような気がしてならない今日この頃。
もう少し、ペースを上げて執筆もしたい今日この頃。
新田殿、誕生日おめでとうございます!! これは昨日のこと。
さ、今回は、久方ぶりのにこ視点。自分も久しぶりすぎてどう書けばいいのか考えてしまっていたけど、まあ、何とか書けた気がします。 このまま次の話も頑張って書こうじゃないか!
と、まあ、こんな感じで書いておりますが、やっぱし、ここ最近は寒すぎッ!!!
寒くって、寒くって、動くのも億劫になっちまうんだよ!
う~………温かハイムに住みてぇ………
ただし、シュトロハイムはかんべんな。
次回も頑張るそい。
今回の曲は、
TVアニメ『名探偵コナン』より
B'z/『Q&A』
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