蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第72話





めぐりあいの法則

【プロローグ】

 

 

[ 自宅・屋根裏 ]

 

 

 

「ゴホッ!! ゴホッ!! ゴホッ!! ………ったく、すごいホコリだな。 箱をちょっと動かしただけでこんなに飛び散るだなんてな………ゴホッ!! ゴホッ!!」

 

 

 数カ月ぶりに上がる屋根裏には、あらゆるものの表面が真っ白になるくらいのホコリがビッシリついており、それらを動かせば一瞬にして雪のように舞い上がってしまうのだ。

 

 

「ずっと使っていないから掃除をしていなかったんだよなぁ……やっておくべきだったか……」

 

 

 最後にここを使ったのは、半年くらいも前のことだ。 それまでは、ここに仕舞っている衣装などを引っ張り出すことなどに使い続けていたのだが……やはり、あの日を境に使っていなかった………そればかりか、ここへ通ずる階段にすら足を踏み出すことをしていなかったのだ。

 

 

 それが今、自らの決断のためにここに踏み行ったのだ。

 

 

 これで自分が変われればいいのだが………そう考えながら、俺は目的のモノを探し出している。

 

 

 

 

「……おっ! これだこれだ!!」

 

 

 俺が見つけ出したのは、両腕で抱えるくらいの大きな白い紙の箱で、これもまた表面にビッシリと誇りの絨毯ができ上がっており、それを謝って吸い込んでしまって、またむせていた。

 

 

 

「中身は大丈夫だろうか………?」

 

 

 肝心の中身の確認をしてみると、そこには、黒の半そでと長ズボン、青調の波模様が入った羽織り、帯、ベルト、そして、ブーツ。 それらには、何のほころびもなく、綺麗な状態でちゃんと保管されていた。

 

 

 

「あとは、ウィッグだな………これか」

 

 

 

 箱の底に手を伸ばすと、銀髪でパーマのような癖っ毛が立っているウィッグを発見した。 ちなみに、この髪型は仕様であるから問題は無い。

 

 

 

「よし、これでいい! あとは、これに袖を通すだけだ…………」

 

 

 

 早速、見つけたばかりの衣装を身に付けてみることに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ………完璧だ………!!」

 

 

 

 上手く着付けることができた姿を鏡で見て、それが完全にあの侍の姿になっていることを確かめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ 大学内・広場 ]

 

 

 

「俺の方の衣装には、何の不備も無かった。 そっちの方はどうだ?」

「モーマンタイだぜ! 奥の方に仕舞ってたが、ちゃんと俺の動きにも耐えられそうな感じだったぜ!」

 

 

 昨日に引き続いて今日もこの場所でダンスを一通り練習し終えた俺たちは、本番に身に付ける衣装のことについて話しあっていた。 沙織さんからは、衣装の方は各自で用意するようにとのことだったので、久しぶりに仕舞ってあった衣装を引っ張り出したというわけなのだ。

 

 

「イメージ的には、番凩を始めにやると言っていたから和製に合わせた衣装を選んだが、そっちはどうだ?」

「う~ん……和製って言ってもなぁ……俺の持っているヤツがそれなのかはっきりとしないんだよなぁ………」

「まあ、いいんじゃねぇか? お前の勘に任せるが……やっぱそれはアニメのヤツか?」

「応よ! 幕末期を舞台にしたモノだからよ、ピッタリだと思いたいんだけどな………」

「俺も一応………幕末……かな? SFチックになっているが和の要素は含まれた作品からの衣装だからいいと思うんだけどな」

「ん~~~………しゃあなしだ! 俺はそのままで行くとしますか!!」

「ああ、そうしてくれ」

 

 

 

 何かが吹っ切れたような感じで腕を大きく伸ばしながら明弘は叫んだ。 そう一々叫ばなくてもいいじゃないか………

 

 

 

 

 

「そういやぁさ、兄弟」

「ん、何だ?」

「さっき踊っていた時に気になっていたんだけどよ………あそこに座っている男がじぃ~っと見てきているんだけどよ………何なんだアイツは?」

 

 

 そう言って、明弘が目を向けた方を見てみると……確かに、男性が1人こっちを見ているようだ。

 

 

 その様相は、白のYシャツに半ズボンを身に付け、ツンツンとはねた髪の毛をしており、若干、死んだような眼をして、舗装された道にあぐらをかいていた。

 

 

 

 

 はて、どこかで見たことがあるような気がするのだが………気のせいか?

 

 

 

「くぅ~……あんなにジロジロ見られると集中ができねぇぞ……ちょっと行ってくる……」

「待て明弘。 俺が行く」

「えっ? 兄弟が行くのかい?」

「ああ。 それにちょっとばかし気になったことがあったからよ、確かめに行くのさ。」

「お、おう……わかった………そんじゃ、頼んだぜ~」

 

 

 

 明弘からの見送りの言葉に一応、耳を傾けながら、その男性に向かっていく。 俺が向かってくることを察したのか、男性は俺を見るようになったのだが、何も驚くような素振りを見せず俺が来るのを待っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 奇妙な感じはしたが俺は足を止めることはせずに、その男性に近づき聞いてみた。

 

 

 

「何か、俺たちに用でもあるのかい?」

「いやぁ………なんかさ、アンタたちの踊りを見ていたら、すげぇーなって気持ちになっててさ……気付いたらこうしてじぃーっと見ていたのさ」

「あ、あぁ…………」

 

 

 

 何なんだコイツ?

 

 

 話しをしていて、全身から力が抜けていくような感じがするのはなぜだろうか? 見た目がぼーっとしているからか? それとも性格からなのだろうか?

 いずれにせよ、不思議な感覚を感じるのは確かだ。

 

 

 

「なあ、キミの名前は?」

「ん? 俺か? 俺は……植木……植木 耕助(うえき こうすけ)。 1年」

「植木?………植木…………あぁ! もしかして、講義の時にいつも窓側で昼寝していた!」

「ん、あぁ……あそこにいると太陽の光が気持ち良くってさ……つい寝ちまうんだ」

「そ、そうなのか………」

 

 

 

 この植木と言うヤツは、明弘と同じく講義の時になるといつもという程、寝ている姿を見ている。 あんなに寝ていてよく怒られないものだと明弘と同じく思っていたのだ。

 

 

 そうか、だから見たことがあると思ったんだな………!

 

 

 

 

「それで、俺はまだここで見てていいのか?」

「ん、あぁ……何か邪魔をしなければ見ててもいいぞ」

「そうか……! サンキュ!」

 

 

 そう言うと、ちょっとばかしかニコッとはにかんだ表情をしてきた。 愛そうの無いヤツかと思ったが、こうして見るとなかなかいいヤツじゃないだろうか?

 俺はそんな植木を見ながら明弘のところへ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「よお、兄弟。 んで、どうだったよ? アイツは誰だったんだ?」

「アイツは植木だ、お前と同じく居眠り常習犯のな」

「へぇ~アイツがか……んで、何故に俺たちの踊りを見ていたんだ?」

「さあな……ただ、俺たちのことを褒めてたぜ、すげぇってさ」

「ほほほぅ……アイツ、いい目をしてるじゃねぇか……気に入ったぜ! それならアイツに見られても集中して取り組めそうだぜ!!」

「それはそれで助かるな………」

 

 

 植木の言葉を聞かせたら、目がギラッと輝き始めたかと思うと、今度はニヤけた顔をした。 ちょっと褒められただけでこうやって気持ちが変わるというのは、少しチョロすぎやしないか?

 

 

 そう思いながらも調子を上げてくれたのだから結果オーライと言うことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、Bad Appleから始めるぞ!」

 

 

 

 俺たちに与えられた2つある曲の中でも、この曲の難易度はかなり高い。 それ故に、この曲に関してはどうしても力を掛けておく必要があったのだ。

 

 

 手に持っているスマホの音楽プレイヤーのボリュームを最大にしてからアスファルトの上に置き、曲が流れたと同時にダンスを練習し始めた。

 

 

 

 

 

「フッ……! フッ………! よっ……! よっと……!!」

 

 

(シュッ……! シュッ……!シュッ……!キュィッ!!!)

 

 

 

 

 振り回す腕が空を斬りつける。 次第に視界が狭まり、目元が鋭くなっているのを感じた。

 

 

 

 ステップを小刻みに踏みながら上半身のあらゆる部位を余すところなく動かし、気になる個所や精度を高めておきたい個所に関して、より集中して取り組むことを意識させていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ワン……!トゥ……!スリー……! いまっ!!!」

 

 

(キュッ……!キュッ……!キュッ……! バッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 そして、大見せ場となる個所で2人の動きが合わさる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………グッ……!!)

 

 

 

 

 

「………よし!!」

 

 

 

 

 全身をコマのように回転させながら両者が近づき、タイミング良く背中と背中を隣り合わせ、正面に向かって腕を振り上げ指をさす。

 

 

 

 

 

「決まったな……!!」

「おう……いい感じに収まったんじゃねぇか!!」

 

 

 

 息を少し切らせながらも最初からフィニッシュまでミスを犯すこともなく万全に仕上がることができたことに、俺たちは強い達成感を感じていた。 この状態ならば、問題なく本番を迎えることができるだろう、そう確信を抱くことができたのだ。

 

 

 

 この前まで、不安に感じてきた気持ちが、今では自信へと変わっていったことに、喜びと、安心と、温もりを感じた。 一瞬だけだったが、俺はあの時と同じ気持ちを抱くことができたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、この状態が続くようにしたい――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パチ………パチ…………)

 

 

 その場に微かに木魂する小さな拍手が俺たちに贈られた。

 

 

 贈り主はさっきからずっと見ていた植木だった。 よっぽど気に入ったのか、満面の笑顔でこちらを向いて拍手を贈っていた。

 そんな彼の姿を見て、俺と明弘は感謝の気持ちを抱いて彼に近づいていった。

 

 

 

「植木、拍手ありがとな」

「いやぁ……やっぱ見ててすげぇーよ! かっけぇよ!!」

「いやっはっは! そう褒められると照れちまうぜ!!」

 

 

 

 さっきの植木の言葉がまだ明弘の耳の中に留まっていたのだろうか、嬉しそうな顔をした状態で、直接、植木からの褒め言葉を聞くと、意気揚々と大笑いをしながらも照れくさそうにしていた。 なんとも器用なヤツだな………

 

 

 

「そういえばさ、まだ名前聞いてなかったんだけど………いいか?」

「確かにそうだったな………俺は、宗方 蒼一だ」

「そしてこの俺は、滝 明弘って言うんだ! よろしくな、植木!」

「ああ、宗方に滝だな。 こっちこそよろしくな!」

 

 

 そう言って、真っ白な歯がすべて見えるくらいに口を大きく開けてニンマリと笑って見せてくると、その笑顔につられたかのようにこちらも笑顔がこぼれ落ちた。

 

 

 不思議なヤツだ……植木がこう笑ってくると、嫌なことも吹っ飛んでしまうみたいに忘れて笑ってしまうのだ。 こういうことができるヤツってのは、子供みたいにまったく純粋な心を持ったヤツにしかできないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 こんなヤツが、この世にもっといてくれればいいのにな―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!!! うえき見つけた!!!」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

 

 遠くの方で女性が植木のことを叫んでいるのが聞こえてきた。

 

 

 

 

「あ、森か」

 

 

 

 

 知り合いなのだろうか? と思い込んでいると、その女性はヅカヅカと腕を勢いよく振りながら近づいてくるではないか。 そして、植木の目の前に来ると、仁王立ちをしながら怒った顔で話してきた。

 

 

 

「アンタさぁ、こっちは佐野と一緒に作業をしているっていうのに、なんで帰ってこないのよ!!! おかげで、こっちはもうクタクタよ!!」

「あー………忘れてた」

「はぁ!!! 忘れてたじゃないわよ!! これはあたしたちサークルの1大セレモニーなのに、なんでそんな大事なことを忘れるのよ!!!!」

「すまん………ついうっかり…………」

「ついでも、うっかりでも、なぁ―――――い!!! 大体アンタはいつもいつも………」

 

 

 

 横に俺たち2人がいるのに、何の躊躇もなく植木に間髪いれない一方的な話をしてくるこの女性の肝っ玉に目を丸くしながら事の次第を見守っていた。

すると、ずっと植木の方に集中するのかと思ったら、ようやく俺たちの存在に気が付いたようで、少しばかり慌てふためいてから俺たちに話しかけてきた。

 

 

 

「あっ……すみません!! このバカが何か迷惑な事をしていないでしょうか?」

「い、いや、迷惑だなんて…………なあ、明弘?」

「そ、そうだな……むしろ逆だな、俺たちのダンスを褒めてくれたんだ、ありがてぇと思っているんだぜ」

「そうですかぁ………はぁ~~~……よかったぁ~~~~……また知らない人にちょっかいとか出して、困らせていたんじゃないかって思ってたわ………」

「あはは………それはないんだけどな………」

 

 

 

 困った表情をして聞いてくるこの女性は、一体どんなことを想像して心配をしているのだろうか? 一見、大人しそうに見える植木が他人を困らせるようなことをするのだろうかと、考え込んでしまう。 悪いヤツではないんだけどなぁ………

 

 

 

「ほーら、植木!! 早く佐野のところに戻るわよ!!」

「うわっ!? 森! そんなところを掴むなよ!!」

「うるさいわよ! こうもしないとアンタはどっかに行っちゃうんだから!!!」

「だからって、首のところの服を引っ張るなよ!」

 

「「……………」」

 

 

 

 植木はその女性に襟のところを掴まれたまま建物の方に向かって連れて行かれた。

 

 

 いや、どちらかと言えば、引きずられているような気もしなくもないのだが………あまりにも、植木が哀れで仕方が無かった。

 

 

 

 

 

「それじゃあなぁ~、宗方ぁ~、滝ぃ~………」

「「お、おう…………」」

 

 

 

 引きずられながらも真顔で腕を振って見送りをする姿を見ていて、哀れ……なのだろうか?と少し、首をかしげてしまいたくなった。 それにしても、あの女性はとても気が強い子だったな………いわゆる、肉食系女子って類に入るのだろうか? あんなにグイグイと押してくる女性は少し苦手かもしれないなぁ………

 

 

 

 

 植木たちがこの場から立ち去ると、辺りは嵐が過ぎ去った後のような静けさが残っていた。 そこにただ呆然とたたずんでいた俺たちは、我に戻るとすぐに練習に戻り始めることに…………

 

 

 

 

 

 

 

「植木 耕助………か………」

 

 

 

 

 

 アイツの名前を無意識に口にすると、俺は最後の仕上げに取りかかったのだった。

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。


少し期間が空いてしまったようですが、ようやく投稿することができました。

今回の話では、新たに新キャラとして、植木 耕助を登場させました。


「誰?」と思う方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?
まあ、このハーメルン小説の中でも、彼のことを扱ったモノがまったくと言っていいほどありませんから、仕方が無いと思います。

では、あらためて紹介させていただきます。


『植木 耕助』
原作:『うえきの法則』(漫画、TVアニメ)

原作では、主人公として活躍しました。
また、原作では中学1年生で、次の神様を決める100人の中学生による異能バトルに参加することになる。
性格は、はっきり言うと、マイペースでぼーっとしていることが多く、正義感が強く、困っている人を見かけると助けてしまう優しいヤツ。

この作品内では、蒼一たちと同じ大学1年生として登場。
この先、あまり絡みが少ない気がする………

というか、うp主が出したかっただけ感がハンパない。


とまあ、これが彼のプロフィールです。
その他にも、彼には秘められた力が備えられていますので、確かめてください。


そんな、『大学乱舞!!』第4話でした。


自分の中では、少し筆休めな気持ちで書いていたので、少し短めでした。
これを見ていて、蒼一たちの大学はいろんなヤツがいるんだなぁって思ってくれたら、それでいいと思います。他にも、他原作のキャラが参戦するんじゃないのか?と思ってしまうかもしれませんが、一旦、ストップします。


誰が来るのかは、待っていてください。



次回は、ようやく蒼一たちが踊ります!!

そして、俺の表現力が試される1話となるでしょう!!
つまりは、ま~た長文になってしまうということですね、わかります。

投稿日時は、一応来週にしておりますのでよろしくです。


新たに、お気に入り登録してくださった方々、ありがとうございます!!



今回の曲は、
TVアニメ『うえきの法則』より

島谷ひとみ/『ファルコ』




【ツイッターで、いろいろとつぶやいてます】

→@RIDENp




【宣伝】
ここで宣伝をさせていただきます。

あと、一カ月ほどで終わる2016年………
そんな年末に、ライバーの皆さんで集まってみませんか?

2016年 12月28日(水)東京の亀戸にて、

今年の3/31、4/1に行われた

『μ‘s FAINALLOVELIVE』




その上映会を行うとのことです!!

参加費は、無料!!

詳細は↓のURLをチェックしてみてください。

[http://twipla.jp/events/224481]


もちろん、うp主も参加しますので、気になる方はどうぞ。

以上!!





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