第69話
いつまでもウダウダしてんじゃねぇ!!
【プロローグ】
[ 蒼一たちが通う大学のとある一室 ]
「あ~~~~~~あああ! どういうことでござるか!! 本番まであと1週間を切るだろうというこの時に限ってドタキャンというのはいかがなものかと思いますぞ!!」
室内の端から端にかけて行ったり来たりと、何やら落ち着かない様子をした女性が1人でうろうろしていた。 部屋自体の大きさは左程ないと言ったところだろう。 おおよそ、アイドル研究部の部室と同等といったところだろうか?
「えぇい! なにか良い案は思いつかないだろうか……この状況からエスケープすることができそうな、拙者の心を安心で満たしてくれるような何かはござらんのかぁ!!」
その女性は、何度も顔からずれ落ちそうになるグルグル巻きのレンズをしたメガネをいじりながら、女性が着るにはまったくと言っていい程に似合わない、みすぼらしく見える服を着ている。 ただでさえ、奇声を発しながら、うろうろしているだけでも十分に怪しいと思われがちなのだが、こうした服装も混ざらせるとその異様さが跳ね上がるように思えるほどだった。
「……こうなったら、拙者がもしものために集めておいた全学生の情報から洗い出して探していくほかないようでござるなぁ……くぅ~~~……いつ帰れることやら………」
彼女は早速、胸ポケットからUSBメモリーを取り出して室内のPCに突き刺した。 そのメモリーの中にあるおよそ1000人もの学生の情報を漁り始め出した。
「面倒でありますから、項目検索で引っかからせるでござるよ!」
女性は検索バーに必要内容を打ちこんで検索をかけ始める。 すると、それでヒットされたのはたった十数件となり、それを見た女性は安堵の表情と“
「んん~~? これは気になる逸材でござるなぁ~♪」
女性が目に停めたのは、蒼一と明弘の項目だった。 そこに書かれている詳しい情報に目を通して何かの判断をしようと考えこんでいた。
「むっ? 音ノ木坂学院で講師を引き受け中である?? 入学したての新入生にそんなことをさせるとは………いや、これは自分から引き受けたものに違いないかもしれないでござるなぁ……… 何を教えているのでござろうか?」
蒼一たちの項目をカチカチとマウスの音を立てながら調べていくと、1つの答えに辿り着くことになった。
「ほぉ~~なぁ~るほど、なるほど………スクールアイドル・μ’sの講師を引き受けているのでござるのだなぁ~? これは予想以上の大物が見つかったのかもしれないですぞ~♪」
女性は両腕を組み、ふっふっふ……と悪巧みを考える悪の組織の頭目のような感じの声を出して目をギラギラと光らせていた。
どうやら、蒼一たちは彼女のターゲットに決まったようだ。
―
――
―――
――――
[ 大学内 ]
今日のすべての講義も終わり、朝から今まで続いた机とイスとの密着の時間もこれでおさらばということで学内を2人でブラブラと歩きまわっていた。 歩いていると一目散に目に飛び込んでくるのは、今度の文化祭に向けての支度を始めている学生たちの姿とその催しモノのセットの両方である。 文化祭恒例のお化け屋敷や縁日、カフェテリアなどの食品販売用の屋台など、それぞれ個性があふれているものばかりが着々と完成しつつあった。
………んで、俺たちはというと……………
「なぁ、兄弟………運営によれば、学生は必ず何かに参加しろって言ってんだけどよぉ………なんかいいところはないのかよぉ……………」
「知るかよ………俺たちは今日までどこのサークルにも所属なんてしていないし、ましてや、同じ学部での取り組みだなんて最早たかが知れているレベル………俺たちが参加したところで何にも変わりはしないさ………」
「けど、何かしなければ罰則を喰らっちまうんだろ?そうならば、甘んじて参加するべきじゃねえのか?」
「………ハァ………どうしたもんだろ……………」
俺たち2人は何もやることもすることもなく、ただ他の学生たちの作業姿を見つめるしかなかったのだった。 ちなみに、この大学には他の学校とは違って年間行事には必ず参加しなくてはならないという強制が掛けられている。 そもそも、この偏差値中堅レベルの大学では明弘みたいに講義を受けずにだらけた学生が割といるらしく、大学側としても、ただ大学に在学するだけでは問題であると判断し、こうした対策を打ち出しているわけである。
俺からすれば、まったく意味のないことで、そんなに言うのであれば講義を半ば強制で受けさせる方がましなのではないか? と疑問を投げかけてしまいたい。 だが、こうした取り組みはこの大学が創立した時から行われているらしいので、新参者の俺の考えが通るはずもなく、伝統と歴史という建前を用いて、こんなバカげたことを行っているのである。
まったく、どうにかしてるぜ………!!
………と、まあ、脳内論争を繰り広げているのだが、こんなところでウダウダしていても明弘の言う通り何も始まらねぇし、ただ罰則を喰らうだけの損しか被ることにしかならない。 致しかたないかな、同じ学部内の取り組みに参加しておくか…………
俺は歩く方向を定め直して、自分の学部のキャンパス内に向かっていこうと歩き始めた。
「もし、そこの2人さん」
「「!!」」
急に後ろから声を掛けられたので振り返ってみると、スラっとしたスタイルをして、濃い青色のワンピースを身にまとい、明らかに俺と同じくらいの身長を持っているだろう美しい女性が立っていた。
「えっと………俺達ですか?」
「はい、そうですわ」
その女性はにっこりとほほ笑みながら返答してきた。 一瞬、不思議に奇妙とも言える怪しさを感じたのでその女性をまじまじと見てみたのだが、俺たちとは次元が違いそうな雰囲気を漂わせているように感じた。 立ち姿や口調にかけて、その1つ1つの仕草までもがどこぞの令嬢のような美しさを感じられるような気がした。
…………ん、隣から邪気が………!!
振り向いてみると案の定というべきなのか、明弘がすごくニヤニヤといやらしい顔つきでその女性のことをじっと見つめ………いや、これは観察というべきものだな……… コイツの目の動きから視線がどこに行っているのかを考えると、足の指先から頭の髪の毛一本までもヤツの脳内にインプットされ、あれやこれやと様々な妄想を抱いているに違いない……… 特に、コイツの視線は、この女性の服の上からでもくっきりと分かる滑らかなボディラインとなんとも豊満な胸に注目しているようで、そこを何度も何度も行き来するかのように観察しているようだ。
………ダメだ、コイツァ変態ですよ………
いやいや、そんなことを今考えることじゃない。 この女性が何故、俺たちみたいなのに話しかけてきたのか、そこに注視する必要があるな。
「それで……俺たちに何の用でしょうか?」
「はい、あなた方にお手伝いしていただきたいことがありまして………」
「手伝い? というと、文化祭のことでしょうか?」
「そうなんですよ! 私は、大学3年の槇島 沙織と言いまして、とあるサークルに所属しておりまして、そこで演目を来場された方々に披露しようと考えていたのですが………先日、数人のメンバーが急用で来れなくなってしまったのです………」
「それで、俺たちにその穴を埋めるようにしろという話なのでしょうか?」
「その通りです! あなた方のことは“部長”から聞き及んでおります。 何を隠そう、今巷で有名なあのμ’sの御指導をなされている方だとか」
「えっ!? あ、いやぁ……まあ、俺たちのことですが………それが何か?」
「はい、私たちが行おうとしている演目はですね………“ダンス”です!」
「なっ?!」
―――――――――――ドクン――――――――――――
それを聞いた瞬間、心が大きく揺れ動いたような気がした。 ダンス………それはつまり、俺たちが人前に立って披露するということ………
………正直、悩んでいる…………
俺自身、歌って踊ることには何の問題はない。 だから、俺はあの時、穂乃果たちの前で歌って踊ったりすることができたわけだ。 だが、俺は“他人に見られないで行うこと”なら問題はなく、“大勢の観客の前で披露すること”にためらいを感じているのだ。
また立ちたい……また輝いてみたい………そんな気持ちは、嫌というほど俺の中から湧きあがってくる。 だがその一方でだ、同時に恐怖もふつふつと湧きあがってこようとするのだ。 それに触れ、感じてしまうといつもの俺じゃなくなる…………震えが止まらず、ただ呆然と立ち尽くすことしかできないダメな男になり下がってしまう……………そんな姿だけは、アイツらに見せるわけにはいかないのだ………!!
そして、俺の決断は…………
『断る』ことを選ぶことにした。
わかっているさ…………俺の中でも変わろうとしたいと思っている………だが、いざその機会を目の前に提示されると足がすくんで一歩……また一歩と後ろに後退してしまうのだ……… 情けない話だ、俺はいつもアイツらが前に進めることができるようにしているのに、当の本人がこれだ。 これじゃあ、アイツらに何の示しを付けさせることができねぇな………
……………すまないな………………
自分の負の感情を今はぐっと堪えて、槇島さんが言ったことに対する返答をしようと口を開いた。
「あの……それはやm…「いいでしょう!!! 俺たちに任せてくだせぇ!!!!」…え?」
俺が断りを入れようと話しかけようとした時、俺の言葉をさえぎるように明弘が『協力する』ことを示したのだった。
「本当ですか!!!」
「モチのロンでさぁ!! ダンスということなれば俺たちに任せてくだせぇ!! なんせ、俺たちゃ最高のパフォーマーなんですからよ、断る理由なんか何一つありはしませんぜ!!」
「ありがとうございます! そう言って下さると、心が休まります!」
「へへっ! 何の何の、困っている美女を助けるのが紳士の役目ってヤツなんですよ♪」
「ふふっ、まるで私を口説いているように聞こえますわ♪」
「本当に口説いていたらどうしますか?」
「うふふ、ご冗談はおよしなさいな♪ ですが……お付き合いはしませんが、まずはお友達からということでしたらよろしいですよ♪」
「ははぁ~、ありがたき幸せでさぁ~」
「うふふ、本当に噂通りにおもしろいお方なのですね♪」
何故、俺の決断に邪魔立てしようとしたのかを問いただそうとしたが、俺が語るよりも先に話が進み過ぎてしまい、最早、断るタイミングすら失ってしまったのだった。 くそっ……! こんな時に限って、明弘の口説き文句が炸裂するなんてよ………こっちのことも少しは考えてくれよ………
俺が苦悩している中、明弘と槇島さんは連絡交換を行い、どのようなことを文化祭で行おうとするのかを話しあっていた。 俺はその様子を横眼で眺めながらことの始末までを見届けることにして、今、煮えたぎるように湧きあがってくるこの気持ちをいつぶつけてやろうかと考えあぐねていた。
―
――
―――
――――
「それでは、御二方、ごきげんよう」
そう言い残して、槇島さんはこの場を後にした。
残ったのは、俺と明弘の2人だけ………俺はすぐさま、明弘に詰め寄った。
「どういうことだ、明弘! 何故だ………何故あれを引き受けたんだ!?」
「いいじゃねぇか、ちょうど俺たちはやることが無かったんだからよ。 あっちから願い出てきてくれてまさに渡りに舟ってヤツじゃねぇか?」
「そういうことじゃない!! お前は俺のことを知っておきながら、何故引き受けたのかを聞きたいんだ!!」
「………んなこたぁ、百も承知の上さ」
「だったら何故………?!」
俺がさらに問い詰めようとすると、明弘は手の平を俺の顔の前に付き出して制止させた。
そして、真剣な眼差しで俺に向き合った。
「俺はお前のことをよく知っているつもりだ……海未よりも、穂乃果よりも、ことりよりも……俺はお前をすっと見てきた。 お前が事故で夢を諦めざるおえなかった時や、俺と一緒になってあの頂点を目指そうとした時や立ったときだって………そして、挫折した時も俺はずっとお前を見続けてきた………」
「明弘………」
「そして、俺とお前はあの時……音ノ木坂のオープンキャンパスの後の約束も俺は覚えている! お前はあの時、立てることができるのであれば立つようなこと言ったじゃないか!忘れたか!?」
「いや………覚えている………ああ、覚えているとも………忘れるわけがない」
「なのに、お前は未だにあのことを引きずっているんだ。 だからさっき断ろうとしたんだろ? 俺にはお見通しさ、お前は変わっちゃいねぇ……事故で夢を諦めた時のお前と何ら変わっちゃいねぇんだ! いざという時、お前は自分のことになると異常なまでに躊躇う。 他人のことはよくできても、自分のことになりゃあできねぇとか訳がわからねぇよ。 まったく、同意しかねるぜ………」
「……………………………」
明弘の言う通りだ………
俺はまだ変わりきれていなかったんだ。 事故で自分の歩む道がわからなくなった時、俺は自分でどうしようかと考えたが答えを出せなかった……… その答えを出してくれたのは、言うまでもない明弘だった。 明弘が俺に新しい道を示してくれたんだ……… 俺が進むべき道を見つけ出してくれたんだ………! 俺は、ただその与えられた道を進んでいたに過ぎなかったんだ……… 何の不安も、不自由もなく、ひたすら前に進み続けていたんだ………
だが、その道がまた閉ざされた時、俺はまた迷った……… もう自分で何をすればよいのかが、まったくわからなかったからだ……… それから半年もの間、自問自答の日々が続いた……… 俺は何がしたかったのか? 今の俺は何ができるのか? 何も分からないまま、俺は月日が過ぎるのをただ待つばかりで、親が勧めるこの大学に通うことになったのだ………… それまでの自分の意志に反して………だ………
「だから、俺は決めてやったのさ! お前が進まなくちゃいけねぇ道を新たに作り直すために、俺はお前に機会を与えたんだ! 復活の機会だ……! 俺たち2人の復活の足掛かりを作ったんだ!! これに何か文句があるかぁぁぁ!!!!」
「くっ…………………!!」
…………文句なんかあるわけねぇじゃねぇか………ばかやろう……………
……………ったくよぉ………このお人よしめ………!!
明弘が俺にぶちまけた言葉を1つ1つ汲み取り、それを俺の心の中に注ぎ込んだ。 それが雫となって全身に伝わっていくと、不安に駆られていた気持ちが少しずつ和らいでいくのを感じた。 胸に響いた言葉が、体中の至るところから共鳴しあっていた。
自分自身を覆っていた分厚い皮に大きな亀裂が生じ始めた。
言葉を感じれば感じるほど、その亀裂が増えてゆき、やがて、全体に回っていった。 もう、指で軽く触れただけで崩れ落ちそうになるところまできた。
俺は、目をつむって考えた。
あとは、俺自身の決意のみ………………………!!
《信じよ…………さすれば、道は開かれる……………》
……………最早、躊躇う理由はなくなった。
目を見開き、明弘にまた詰め寄った。
「明弘……………」
多くの亀裂が入った皮に今、触れようとしていた――――――――――
「…………やるからには、とことんやっていくぞ!!」
触れると、皮が脆く崩れ落ちていった――――――――――
「……その言葉を………待っていたぞ………!!」
明弘はニヤリと白い歯を見せながら笑い始めた。
だが、これはただの笑いではない………悪巧みを考えようとしている悪童の笑みだ。
その笑みを見ただけで、コイツは俺を謀らせていたことがよくわかった。
そんな俺も、ニヤリと笑いをこぼしていた。
多分、それも悪童の顔だったのだろう…………
だが、それでこそ俺たちなのだ………
(次回に続く)
どうも、うp主です。
始まりました新編、『大学乱舞(キャンパスランブル)!!』
今まで、まったくと言っていいほど触れていなかった蒼一たちのキャンパスライフをここで掘り下げていこうと思いこの話を制作しました。現在、リアル世界では大学の文化祭があちこちで行われているようなのですが、いいですねぇ……俺も行ってみたいですねぇ……… そう言えば、また早稲田の方でラブライブに関するステージだったり、声優によるトークショーがあったりと、まだまだ、ラブライブの力は発展途上であるということが伝わってきます。少し時を巻き戻せば、μ’sに会える機会もあったんですけど……あぁ、残念………
また、お約束通り、他原作によるクロスオーバーも行うことができました!
二次元をこの上なく愛するみなさんであれば、『沙織』という言葉を聞いただけで、誰なのかを言い当てられることでしょう。まあ、答え合わせの方は次回ということにさせていただきます。
まあ、何といいますか。 新編・第一話にして、過去を引きずるような暗い話になりましたが、これも重要なことなので大目に見てください(笑)
主人公はあくまでも、蒼一がメインなわけなので、μ’sの活躍だったり、穂乃果たちによるキャッキャウフフな展開を待ち望んでいる方々には本当に申し訳ないです。多分、今年中だとそんな展開は用意できないと思います(断言)
これがフラグならばいいのですが……何分、11月も12月も誰の誕生日もありませんし、どこに入れるべきなのかが迷ってしまうかたちになっております。
というか、何かいい方法か展開があるならば知りたいよぉ~~!!
叫ぶ前に、話しを進めないと………
では、また次回に!!
今回の曲は、
TVアニメ『シャーマンキング』より
林原めぐみ/『brave heart』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない