蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第66話


ウソとホントウの境界線上の真実

【プロローグ】

 

 

[ 部室内 ]

 

 

「なあ、みんな。 音ノ木坂学院七不思議って知ってるん?」

 

『音ノ木坂七不思議???』

 

 

希は部室に集まった全員に向かって、唐突に話しかけてきた。

 

 

「希ちゃん、それは一体何なの?」

「それはな穂乃果ちゃん、この学校にはこわ~い怪談話があるみたいなんよ♪」

「なになに、なんかおもしろそうだにゃ~!」

「いいねぇ~、俺もそう言う話は大好きだぜ!!」

 

 

何かおもしろそうだと察した穂乃果、凛、明弘は希の話に興味津々になりながら聞こうとしているのに対して、こちら側では、「こわい怪談話」という単語を聞くやいなや、すぐさま両耳を手でふさいで聞こえないようにしているメンバーもいる。

 

 

 

そのメンバーは言わずも分かることなのだが………………

 

 

 

 

 

「聞こえません聞こえません聞こえません私は何も聞いてません………」

「お化けなんていないわ幽霊なんていないわゾンビなんていないわ……」

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

 

 

海未、エリチカ、花陽の3人が体を小刻みに震わせながら、ブツブツと念仏を唱えるかの如く何かを口にしているのだ。 この状況を遠目で見ると、片方は天国、もう片方は地獄といった構図ができ上がると言うわけなのだが、俺はあまりそう言うことを望んではいないのだ。

 

 

しかし、この構図には続きがある。

 

 

双方の中間地点に当たるおよそテーブルの真ん中ら辺、つまり、俺が座っている場所のことだ。 ここにも、俺を含む第三の集まりがある。

 

 

 

「怪談話だなんてバカバカしいわ。 そんなの迷信に決まっているわ」

「ふん、お化けだなんて子供じみたようなことを信じるなんておかしいじゃないの」

「お化けさんのことは怖いとは思わないけど、あまり興味が無いなぁ……」

 

 

にこ、真姫、ことりの3人は少し否定的な立場からの視点でこの状況を見守っている。

 

 

俺自身もお化けや妖怪など類はまったくと言っていいほど信じてはいない。 近代科学が発達したこの世の中に浸り続けていたこともあり、そうした話には当然尾ひれがついているもので、何らかの人為的なものが関わっているに違いないと思っている。

 

 

しかしながら、まったく興味が無いというわけではない。 逆に、俺は現実的な視点からこうした類を解明していこうとする立場も持ち合わせているので、もし機会があるならばすぐさま解明していきたいところである。

 

 

 

 

 

そんな俺の心中を察しているかのように、颯爽と彼女が現れた。

 

 

 

 

 

 

「それならば、一緒に解明してみませんか? その七不思議を?」

 

 

 

入口の鴨居に寄り掛かる洋子はそう話をかけてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

[ 中庭 ]

 

 

 

練習終了後、太陽が沈みかけてきた夕暮れ時の中庭に集まった俺たちは、それぞれ思いを抱きながらこの場に立っていた。

 

 

 

 

「さあ、みなさん! 張り切っていきましょー!!!」

 

 

「「「「おー!!!!」」」」

 

 

 

『どうしてこんなことになったんだろう…………(白目)』

 

 

 

洋子の掛け声に合わせてやる気を見せる4人がいる一方で、テンションが異様に低い状態で駆り出された残りの6人の顔には不安の2文字が浮かび上がっていた。 俺としては、駆り出されるのは問題ないと感じてはいるが…………さすがに、やる気以前に怖がっているあの3人も一緒に連れてくる必要はなかったと思うのは俺だけなのだろうか?

 

 

洋子曰く、『μ’sの写真が撮りたいと思っていたので、怖がっている様子もあればこちらとしては嬉しい限りなのです♪』などと言っており、もう悪意しか感じられないのは当然のように感じられる……… まったく、少しくらい優しくしてあげてほしいものだ。

 

 

 

………あ、そうそう、これからは島田のこと“洋子”と呼ぶようにしている。 前回のエリチカが提案した上下関係の撤廃はメンバーのみならず、裏方として共に活動している洋子やヒフミ組にも関わっているのだ。 そのため、彼女たちにも俺たちのことを名前で呼んでもいいと言うことにして関係を深めているところだ。

 

 

………というか、すでに明弘のヤツはすでにこの学校のほとんどの女子から好意を持たれているという話を聞くが………手の内が本当に早いなアイツ!!! ハーレムでも作る気なのか?

 

 

 

 

 

 

「はいは~い♪ それでは適当に説明の方をさせてもらいますね~♪」

 

 

そう言うと、洋子は自作のプレートを持ちだして、これからの行動について説明を始めた。

 

 

ます、今回の目的となっている七不思議の内容について説明をしよう。

 

音ノ木坂学院七不思議と言うのは、学校創設以来から伝わるうわさ話などが紆余曲折を経て現代に語り継がれてきたもので、その中身も、世間一般的なものから地元にしか伝わっていないローカルなものまである。

 

それらを詳しく説明すると―――――――

 

①学校裏にある古井戸が真夜中の水が張る時刻に顔を映すと焼けただれた自分の顔が見えると言う。

②校庭脇の大木にすむ黒いカラスは本当は天狗で人語を話すと言う。

 うっかり話してしまうと死んでしまうと言う。

③夜の音楽室にピアノを弾く女の子のお化け。 その音色に引き寄せられて目線が合うと、1週間以内に高熱が出る。

④3階女子トイレの幽霊。

⑤理科室の合わせ鏡で悪霊が出る。

⑥天神様と明神様が現れ、通りすがりにくじを引くように勧める。

 当たれば一生運に恵まれるが、外れると貧乏神に憑かれてしまう。

⑦8月の金曜日の夜8時に、1年1組の教室に空襲警報のサイレンが鳴り響く。

 その時に、死んだ女子生徒の幽霊が現れ憑依する。

 

 

――――以上の7つである。

 

 

実質的に、一番始めと最後のヤツは時間と月日が合わないため今回は削除され、残りは5つとなった。

さらに言えば、時間的な問題もあるため早めに調査するために3グループに分けることとなった。 内訳は、μ’sメンバーを学年ごとに分け、1年生に俺、2年生に洋子、そして、3年生に明弘が入る4人ずつのグループができ上がったわけだ。 んで、1年生グループは③、2年生グループは②と④、3年生グループは⑤と⑥という内訳になった。

 

 

なぜ、1年生グループは1つだけなのか? その疑問に、洋子はすぐに答えを出した。

 

 

 

「実はですね…………この七不思議には続きがありまして………なんとですね、外された二不思議と言うものがあるのですよ」

 

 

『外された二不思議???』

 

 

みんな口をそろえてそう言うと、そうなんですよ、と言って付け加え始めた。

 

 

 

「1つ目は、『どんな願いでも叶えてくれる大きな岩。 これに願いを込めて祈ると、岩が光り出してその通りの願いが実現する』というものなんですよ。 これは学校創立時からあったのですが、あまり知られなさ過ぎて忘れ去られてしまったのです」

「それで、その岩と言うのはどこにあるの?」

「ここにありますよ♪」

 

 

『えっ?!』

 

 

みんながびっくりした表情を浮かばせる中、洋子は指をとある方向に指していった。

その方向にあるのは、大きな桜の木の下にある岩だった。 ふむ、確かに大きい………高さは俺よりも低いもののそれなりの大きさがある。

 

 

「この岩の調査はすでにやったのか?」

「はいもちろんです。 ………ですが、特にめずらしいところもなくどこにでもあるような岩でした。 ………が、その隣の桜はすごいですよ~ なんせ樹齢は千年近くで、この学校が立てられる以前にはここに神社が建っていて、その御神木だったそうなんですよ~♪」

「それはすごいやん!! ということは、これにはすんごいスピリチュアルパワーが詰まっとるんやね!!」

「つまりはそういうことです♪」

 

 

μ’s1のカルトものが好きな希は目を輝かせ始め、今にも、巨木に飛びかかろうとうずうずしている様子だった。 やめなさい、それ以上はいけない。

 

 

 

 

「そして、もう1つが、『夕方頃に、学校中を走り回る少女の霊が現れる』というものなんです。 これはかなり最近になってから聞かれるようになった話らしく、女子トイレの幽霊よりも良いのではということで、次の七不思議有力候補に挙げられているのです」

「ふ~ん、じゃあさ、そんなにすごいのにどうして未だに七不思議になっていないの?」

「そう! そこなんですよ、穂乃果ちゃん! この話はですね、疑問がありまして………それは、ピアノを弾く少女と同一ではないかと言われているのです。 そこで、蒼一さんたち1年生グループには代わりに調査してきてほしいのですよ♪」

「んな思いつきな感じに言わないでくれよ………」

 

 

唐突に言われる追加注文に頭を悩ませるほか無い俺。 それに同情するかのように、真姫も溜め息をついていた。 だがその傍ら、凛はめっちゃテンションが高くなっている!!?

 

 

「マジかよ………あれ、花陽は?」

 

 

さっきから反応が無いので、今更ながら気になってしまった。 さて、どこに行ってしまったのやら、と辺りを見回してみると……………

 

 

 

「…………ぴあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」

 

 

俺の後ろで縮こまっていて、今にも消えてしまいそうなか細い声を発していた…………

 

 

 

大丈夫か? このメンバー???

 

 

 

 

 

『大丈夫だ、問題ない』

 

 

 

 

どちらかと言えば、ルシフェル視点だろうp主!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 校舎・廊下 ]

 

 

 

「ふんふふ~ん♪ ふんふふ~ん♪ ふ~~~ん♪♪♪」

 

 

 

少しずつ校舎内に入り込んでくる日差しが減ってきて、廊下が段々と暗闇の世界へと変貌していく中で、凛は鼻歌を交えながら意気揚々と廊下をスキップしていく。 本当にテンションが高いんだなぁ、と感心している一方で、俺と一緒に歩いている2人の面倒を見ている。 正確に言えば1人なんだけどね…………

 

 

 

「……うぅ………お化け………こわいですぅ……………」

 

 

始まる前からこんな感じの花陽は、俺の腕にしがみつきながら一緒に歩いているわけだが、いつも思うのだが、誰かがくっついた状態で歩くと言うのはなんとも難しいことだ。 自分のペースで歩くのではなく、相手のペースに合わせる必要があるため、ちょっとした忍耐力が必要となるだろう…………

 

 

 

 

え? どうして、こんなどうでもいい話を繰り広げているのかだって? 今の俺のこの状況を上の文章のみで把握できたのならばもう察している人もいるだろうと思う。

 

 

つまり、こういうことだ…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

(むにゅ)

 

 

 

………ね? 分かるでしょう?

 

 

花陽が俺の腕にしがみつくってことは、花陽の体に俺の腕を埋めるのと同じこと。 つまり、俺の腕は花陽の胸と胸の間に挟まれているということだ。 こんなんでどうやって理性を保ち続けろと言うのだ? 無理! 無理に決まっているでしょう!! 柔らかいクッションと言うべきか、羽毛でできた枕と言うべきか……表現に困ってしまうこの柔らかさを俺は肌で感じ取っているのだ。 何なんだ、この柔らかく気持ち良くなってしまうこの兵器は!? これが巷で言う女の武器ってヤツなのか? そんなことをしたら一体どれだけの男たちが萌え死ぬだろうか……… その前に、俺が死ぬ!! 早く、この状況から脱しなくてはッ!!

 

 

 

俺はまだ理性が保たれている中で、花陽が掴んで離さない俺の腕を解放させようと、腕自身を回転させてすり抜けさせようと試みる……………が!!!

 

 

 

「ダメです!! 離しちゃ嫌です!!!」

 

 

離そうとした瞬間、さっきよりも強く抱きついてきちゃって、もうこちらでは手出しができないようなことになっている! それと、胸との密着度が増えている!!!

 

 

 

「は、花陽……さ、さすがにそんなに一緒だと歩き辛いのだが………」

「……うぅ………そんなこと言わないでよ、蒼一にぃ………私、暗いところとか、怖い話とか得意じゃないんです………」

「だ、だったら、無理に来なくてもよかったんじゃないか……?」

「そ、そうなんですけど………でも、蒼一にぃと一緒にいたら平気かなって思っちゃって/////」

「え、あっ、う、うん…………」

「だから………私を1人にしないでください………」

「うぐぐ…………」

 

 

アカン……… これはアカン。 涙が流れる寸前のうるうるした目をこちらに向けながらの困った顔をした子のポーズ。 これが小動物的なお願いの仕方かよ……… 一瞬、くらっとしてしまった……… 正直に言うと、かわいいと思ってしまった。 かわいいものが好きな俺にとって、こうした胸にきゅん、とくる仕草とか声をかけられるとどうも反応してしまう。

 

 

うぐぐ………耐えろ……耐えるのだ…………ここで耐えねば男ではない!!

 

 

自分にそう言い聞かせながらも理性を何とか保とうとしている俺に、またしても追い打ちをかけてくるこのかわいい義妹からの最高の言葉を聞く羽目に……………

 

 

 

 

「………お願いです……蒼一にぃ………一緒にいてください……………」

 

「ぐふぉ!!」

 

 

 

ごめん、やっぱ無理だったわ。 ちょっと吐血しちゃったけど、許して下さい。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……さっきから蒼一たちは何やっているのよ…………」

 

 

そう呆れたような顔をしながら話しかけてくる真姫は、俺に痛い視線を送り続けていた。

傍から見れば、何やっているんだ?と思われても仕方のないことなのだが、真姫に言われると、何かずっしりとくるものがある。 とてつもないくらいに罪悪感に陥ってしまう…………

 

 

 

「えへへ、蒼一にぃにくっついてます♪」

「そりゃあ、見れば分かるけど………そんなに密着しなくてもいいじゃないの?」

「いえ、こうしていると何だかとっても落ち着くので、つい………」

「そう…………なら仕方ないわね」

「え、何を言っているんだ真姫!?」

「な、何って、事実を言ったまでよ?」

「事実って…………何をもってそう言っているんだよ……………」

「それは蒼一が以前に………………はっ! な、何でもないわ!!!」

「おいおい、俺が何をしたって言うん………あ。 あぁ………あれか…………」

「ちょっと!? 何思い出そうとしてるのよ!!!」

「思い出すも何もお前が想像しているのは、あの事なんだろ?」

「な、な、な……!? 何のことかさっぱり分からないのだけど………!!」

 

 

しらばっくれちゃって、お兄さんは知ってますよ。 真姫が何のことを思い出そうとしていたかなんて、よくわかるんだぜ?

 

 

 

「ねぇ、蒼一にぃ。 真姫ちゃんは何のことを話そうとしているの?」

「あぁ、それはだな………真姫がμ’sに入る前のことでn「うわあぁぁぁぁぁ!!! や、やめなさいよ!!!!」 うおおおぉぉぉ!?」

 

 

俺が話そうとした瞬間に、真姫は平手打ちを顔に目掛けてきたため、俺はそれを避けざるおえなかったのだ。

 

 

「あ、危ないじゃないか!!」

「…………言ったら、次は必ず当てるわよ…………」

「あっはい………」

 

 

明らかに殺気を身にまとっている真姫に対して、これ以上はいけないと感じたため、あのことを語るのは止めることにした。 まあ、気になる人は過去話を振り返って確認してくれ。

 

 

 

 

 

「ねぇ~みんな遅いよ~!!」

 

 

そうこうしているうちに、俺たちは目的地の音楽室の前に来ていた。 凛はとっくに来ていたようで、待ちくたびれた様子で目を細くしながらこちらをじっと見ていた。

 

 

 

「悪いな、待たせちまったようだな」

「まったくだよ! 凛を待ちくたびれさせるのはよくないことだよ!!」

「悪かったよ。 なあ、機嫌を直してくれよ?」

「それじゃあ……凛のお願いを聞いてくれるかにゃ?」

「ん? まあ、いいけど………何をするんだ??」

「ふっふっふ……それはね…………にゃあー!!!」

「!?」

 

 

そう言うと、凛は俺の手ぶら状態だったもう片方の腕にしがみついてきたのだ!

 

 

「ちょ! 凛!! いきなり何をするんだ!?」

「えへへ、何だか蒼くんをぎゅーってすると何だか落ち着くんだ~♪」

「だからって、いきなりくっつくのはどうかと思うぞ?」

「………だめ……かなぁ………?」

「うぐぐ………だめ………じゃない………」

「ん~~~やったにゃ~~~!!!」

 

 

 

うぅ………悲しそうな表情に上目遣いをされて言われては言い返せないではないか………

 

 

そう言えば、最近の俺ってこのパターンに弱くないか?

 

 

 

衝撃な事実を知って落ちひしがれそうになる中、凛と花陽は俺の両腕にしがみつき、俺の行動を封じ込めているという両手に花状態にあることは正直に喜んでいいものなのか、まったくもって分からないでいる。

 

 

 

ただ、その様子を真姫は恨めしそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

[ 音楽室 ]

 

 

 

もうすでに夕日は地に落ちてしまっており、辺りはすっかり夜模様に変わってしまっていた。 さすがに暗いと感じたので、室内の明かりを灯し始めた。

 

 

 

「この時間帯にここに来るのは初めてかもしれないわね」

「凛もこの時間まで学校にいるなんてしたことがないよ~」

「私もこんなに暗い時間まで残っていることはしませんね」

 

 

彼女たちは口々にそう言うが、確かに時刻はちょうど6時を回り始めたところだ。 この時間帯に学校にいるのはもう探索をしている俺たちぐらいだけなんだろうな。 耳を澄ませても他の生徒の声は全く聞こえない、聞こえるのは真姫たちの声ぐらいだろう。

 

 

 

 

 

「そう言えば、4人で初めて集まった場所なんだよな、ここは」

 

「「「!!!」」」

 

 

彼女たちは顔を見合せると、そう言えばそうだった、といった顔をし合っていた。

そして、1人1人があの日にあったことを思い返し始めた。

 

 

 

 

「最初は、私がピアノを練習していたのよね」

「その音色に惹かれて私がやって来た」

「俺は真姫に頼みごとがあって入ってきた」

「私と蒼一がμ’sに入ることを花陽に勧めたら……」

「私は悩んでしまいました。 本当にやってもいいのかって………そして、私が困った時に……」

「凛がやってきたんだにゃ!」

「でも、私と凛は話がかみ合わずに睨みあい……」

「そこに俺が介入して、逆にお前たち全員を勧誘した」

「私は蒼一の提案に乗ることにした」

「凛もいいと思った。 でも、凛はかよちんと一緒じゃなくっちゃ嫌だった」

「2人の気持ちを受け取った私は入る決意を決めました」

 

「「「そして、私たちはμ’sのメンバーとして活動している………」」」

 

「ああ、そうだ。 ここには俺たちの思い出が詰まっているんだ」

 

「「「うん(ええ)!」」」

 

 

みんな自然といい笑顔を見せ始め、さっきまで怖がっていた花陽もいい顔を見せていた。 みんなにとっては唐突な出会いだったかもしれないが、それは必然的なものなのかもしれないな。 なぜなら、今の彼女たちがここにいるのだから…………

 

 

 

 

 

 

 

 

…………あれ? 何かを忘れているような………………あっ!

 

 

 

「そうだった、七不思議のことをすっかり忘れていた」

 

「「「あっ………」」」

 

 

 

俺だけじゃなくここにいる全員が本来の目的について忘れていたようだ。 というか、さっきからいろんなことがあり過ぎてそれどころじゃなかったのが本音なんだけどね。

 

 

 

「………でも、女の子のお化けはいないからこれで解決ですよね?」

「まあ、見たところいるようにも感じられないしね」

「でも、お化けって暗いところにいるんでしょ? だったら、明りを消してみようか?」

 

「「だめっ!!!」」

 

「にゃにゃにゃ!?」

 

 

 

凛の言葉に早く反応した花陽と真姫。 花陽はこれまで流れから理解できるのだが………どうして真姫も?

 

 

「凛ちゃんだめだよ!! 私、暗いところが苦手なんだから、今、暗くするととっても困っちゃうよ!!」

「そうよ、凛!! 暗くなると何が出てくるのかが分からなくって怖いじゃない!! 明りは常につけておくべきなのよ!!!」

「わ、わかったにゃぁ………………」

 

 

2人から責められた凛は少し委縮しながらも明りのスイッチに伸ばしていた手を降ろした。 まあ、仕方ないことだなと受け流す一方で、俺は真姫の言ったことを思い返して、とある結論を導き出した。

 

それは……………

 

 

 

 

「真姫。 お前、暗いところとか苦手なんだな」

 

「!!」

 

 

肩をびくっと震わせて反応した様子を見るとどうやら的中のようらしい。 しかし、意外なものだ。 強気の真姫にこんな弱点があったなんてな。 さっきまで、薄暗い中を歩いていたのだから、問題はないのかと思っていたんだけどな。

 

 

 

 

「べ、別に暗いところが苦手なわけないじゃない! さ、さっきだって、あんな薄暗い廊下を歩いてても平気だったし! というか、苦手なのはお化けといった非科学的なものだし!」

「真姫、もういい。 これ以上話す必要はないよ…………」

 

 

 

否定しようとしているけど否定しきれていないとともに、墓穴を掘っていく姿を見ていると何だか哀れに思えてくるものがあった。 真姫も今、自分が話した内容を思い返したようで顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

「さ、さあ! 用も済んだことだし、早くみんなと合流するわよ!!」

「ええ~!? まだ、お化けを見つけていないよー?」

「お化けなんていなかった、いいね? お化けなんていなかったのよ!!」

「う、うん……真姫ちゃん顔が怖いにゃぁ…………」

 

 

さっきの恥ずかしい気持ちが抜けきれなくなっている真姫は、自暴自棄になりながら無理やり結論を出そうと必死になっていた。 要は、早く帰りたいと言う事なんだよな……… 穴があれば入りたいという気持ちになっているのだろう。 俺は無理に挑発するようなことを言わないで、そのまま変える方向性で話を進めた。

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 校舎・廊下 ]

 

 

 

「ま~きちゃ~ん、まってよぉ~!!」

「もう、早く追いついていらっしゃいよ!」

「真姫ちゃん、ちょっと歩くの早くないかな?」

「別に、これが普通でしょ?」

「まだ、御機嫌斜めなのかよ………」

「何か言ったかしら……?」

「いいえ、なんでもございません……」

 

 

 

誰よりも先に教室を後にした真姫はそのまま1階に向かって早く歩いった。 ただ、廊下に明りが点いているので行きよりかは順調に進めるが、それでも真姫には追い付きそうもないな。 ありゃあ、まださっきのことで機嫌を損ねているに違いないな……… それをあえて口にしないで態度で示してくると言うのは面倒な性格だなと感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(すすっ…)

 

 

 

「ん? 今何かが動いたような?」

 

 

一瞬、()()()()()()()()()が廊下の隅からチラッと見えたような気がしたが、そっちを見てみても何も見えなかった。 気のせいなのだろうか? 明確な答えを見つけられないまま、俺はその場から立ち去り真姫を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ジジ………………ジ…………ジジジジ……………>

 

 

 

 

 

「ん? 今、ノイズが聞こえたような………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、異変が生じ始めた。

 

 

 

ここまで廊下を照らし続けていた明りが急に消え、辺り一帯が真っ暗になってしまったのだ。

 

 

 

「にゃにゃ?!」

「ひぃ……!!」

 

 

幸いなことに、凛と花陽は俺のそば近くにいたため、すぐに見つけることができた。

だが、真姫の姿だけは確認することができなかった。

 

 

 

 

 

俺は手持ちの明かりを手にして、辺りを見回した。 だがそれでも真姫を見つけることはできなかったのだ。 一体どこへ行ってしまったのか…………

 

 

スマホを取り出して連絡を試みてみるものの、都内なのに何故か圏外となり、電波もつながらないというのだ。 どういう事なんだ? そんなばかげたような話があるものか、これは誰かによるいたずらなのだろう。 そう思う他何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

校舎内に大きな声が響き渡った。 叫んでいたのは海未をはじめとした数人のメンバーだと言うことが分かる。 声を聞く限りでは、左程遠くにいるわけではなさそうだ。

 

 

「お前たち、行くぞ!」

 

 

俺は凛と花陽の手を握り締めて暗闇の中を駆け始めた。

 

 

 

 

 

 

しばらく駆けると、小さな光に照らされた穂乃果たちを見つけた。 どうやら、自分たちが持っていたスマホの明かりで保っていたらしい。 俺たちはすぐに穂乃果たちに近づいた。

 

 

 

「大丈夫か!?」

「「!! そ、蒼く~~~ん!!!!!!」」

 

 

 

出会った瞬間に飛びついてくるこの2人。 さすがに、怖い思いをしたのだろうと察した俺は、いつものように跳ね退けることはしないで、しっかりと受け止めた。

2人の体を触れてみると、何かに怯えたような感じで震えていた。

 

 

視線を落としてみると、気力を無くしたかのように床に座り込んでいる海未とカメラを構えて何かを撮影しようとしている洋子の姿を確認した。

 

 

 

「よしよし、もう大丈夫だ。 洋子、一体何があったんだ?」

「それがですね…………出たんですよ…………」

「出たって、何がだよ?」

「お化けですよ、お化け。 しかも、小さな女の子のお化けなんですよ………」

 

「「ひぃっ!!?」」

 

 

お化けが出た、と言う言葉を聞くやいなや肩を震わせて青ざめた反応を示したのは、凛と花陽だ。 意外にも、凛も怖がり出すなんてことは思ってもみなかったが、同じように穂乃果も怖がっているようだし、実際に出会うとなると誰でも怖がってしまうものなのだろうな…………

 

 

 

すると、さっきの叫び声を聞きつけて明弘ら3年生グループもここに集った。 案の定、エリチカは怯えた表情をしていて、どうもまともとは言えない感じだった。

 

 

 

だが、ここに真姫の姿は見つからなかった……………

 

 

 

 

さすがに心配になってきたため、俺は真姫を探し始める行動をとろうとした。

 

 

 

「明弘、俺は今から真姫を探しに行ってくる。 お前たちはすぐに校舎から出て俺が来るのを待っていてくれ」

「了解だぜ、兄弟! 後は、任せときなって!!」

 

 

 

そう言って、明弘は親指を立てて了承してくれた。 洋子と希も察してくれたようで、すぐさま他のメンバーたちを誘導して玄関口に連れて行こうとした。

 

 

 

「蒼一さん、ライトいりますか?」

 

 

洋子は俺に1本のペンライトを差し出そうとしたが、俺は断った。

 

 

 

「明りはお前たちが持っていた方が役に立つだろう。 それに俺だったら平気さ。 このくらいの暗闇だったら肉眼でもまだ見えるし、もしもの時にはスマホの明かりで十分だ」

「そうですか……分かりました。 その言葉に甘えさせてもらいますね。 健闘を!」

「おう、分かった!」

 

 

 

そう言って、俺は明弘たちから離れて、今来た道のりを遡り始めた。

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

「真姫! どこにいるんだ!?」

 

 

来た道を戻り始めて数分が経過したかと思われる。 だが、未だに真姫を見つけることができないのは歯がゆい気持ちになる。 俺はもう一度、真姫の名前を叫んで探しまわった。

 

 

 

 

 

(~~~~♪~~~~~~~~♪)

 

 

 

音楽室がある階に上がった時のことだった。奥の方から何やら聞き慣れたような音が耳に入り込んできた。 何だろうと、耳を澄ましてみるとそれはピアノの音だった。

 

 

 

「まさか……音楽室にいるのか?」

 

 

今、校舎内にピアノを弾けるのは真姫だけだ。 だとすると、真姫は今あそこにいるのでは? という結論に辿り着くのに時間は要さなかった。

 

 

だが、疑問がある。

 

 

今、廊下の電気を点けようとしても、明りが点こうとする気配は全くない。 つまり、校舎内の電気が点かない状況にあると言うこと。 となると、暗いところが苦手な真姫はどうして1人でピアノを弾くことができるのだろうか? たぶん、それはないだろう。 では、今演奏をしているのは誰なのだろうか?

 

 

そうした俺の脳裏に過るのは、七不思議のことだ。 夜の音楽室にピアノを弾く女の子………お化けなどを信じない俺からしてみても、この状況下では信じてしまいそうなほどの不安が襲いかかってくる。 俺は思わず唾をのみ込んでいた。

 

 

 

 

(~~~~~~♪~~~~~~~~~♪)

 

 

 

俺はゆっくり歩きながら音楽室に近づく。

ピアノの演奏がだんだんと大きく聞こえてきている。 心臓の鼓動が少しばかり早くなっているような気がしていた。 そこにいるのが真姫ではなく、本当にお化けだったとしたらどうするべきなのだろうか? そうした不安を抱きながら、恐る恐る音楽室との距離を縮めていた。

 

 

 

 

 

 

音楽室の前に立った俺は、ドア窓越しから中の様子を伺ってみた。 外の光が室内に入って来ないために、廊下よりも真っ暗な状態にあった。 そんな中で、ピアノは演奏をし続けていた。 正直言って、不気味としか言いようが無い。 ここまで近づいても中を見ることもできず、中に誰がいるのかすら分からないのは心地よいものではないからだ。 ではどうするのか? そんなことは決まっているじゃないか、中に入るんだよ!

 

 

 

俺はドアを開けて中に入っていった。

 

 

すると演奏が止まり、静寂が部屋中に広がっていた。 俺の心はますます不安に駆られることになった。 俺はピアノの方に近づきながら誰が演奏しているのかを見ようとした。 すると、イスには確かに誰かが座っているような気配を感じ取ることができた。 だが、それは()()()()()()感じ取ったことが無い感覚があった。

 

 

俺は拳を握りしめながら名前を呼んでみた。

 

 

 

「真姫か?」

 

 

 

(ズズッ……)

 

 

その言葉に反応したかのように、イスが動き始めた。 そして、俺に向かって誰かが歩み寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

『おねえちゃんはここにはいないよ?』

 

 

「!!!」

 

 

幼い女の子の声を聞いた時、一瞬背筋が凍り始めたのだった。 間違いない、これは真姫じゃなくて、女の子のお化けなんだと確信したのだった。 戸惑いを隠せずにいる俺に女の子は話し続けてきた。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だからお願い、おねえちゃんを助けてあげて』

 

 

(きゅっ…)

 

 

「!??」

 

 

すると、女の子は俺の手をとって握り締めてきた。

 

いや、おかしい。 お化けと言うのは実態がいないはず……… なのに、どうして俺はこの子の手に触れているのだろうか? それに………

 

 

 

 

(………とくん……………とくん…………………)

 

 

 

手を伝わって、微かな脈打つ音が聞こえてくるように感じた。

 

 

これはお化けなのだろうか………?

 

 

 

またしても、新たな不安と疑問が俺の心を不安定にさせる。

 

 

 

『こっちに来て』

 

 

女の子は俺の手を引っ張って、教室の外に連れていった。 俺はこの身を女の子に預けて、どこに行こうとするのかを見守るようにした。

 

 

 

 

しばらく歩くと、保健室と書かれた場所の前に立っていた。 女の子はそれまで握っていた俺の手を離して話し始めた。

 

 

 

『ここにおねえちゃんがいるの……』

「真姫がか?」

『うん………でも、とっても悲しんでいるの………』

「暗いところに1人でいたからか?」

『う~ん……()()()()()()()…………でも、今はそっちかも』

「ん? それは一体どういう意味なんだ?」

 

 

意味ありげな言葉を話してくる女の子に疑問を抱き始めてくると、女の子は気配を消してしまった。 どこにいったのか辺りを見回していると…………

 

 

 

『私よりもおねえちゃんを助けてね………()()()()()()……………』

 

 

 

そう言い残して、女の子は完全に消えてしまったのだ。

 

 

 

「あの子は本当にお化けだったのか………」

 

 

 

確信と疑問の狭間にいる俺は、一旦、考えることを止めて真姫のことに専念することにした。

 

 

俺は扉を開けて、中に入っていった。

 

 

 

 

すると、床に誰かが倒れているのを見つけた。 すぐに近寄って見て確認してみると、確かに、真姫だった。 俺は真姫の体を起こして、体を揺すりながら名前を呼び続けた。

 

 

 

「………う……うう……………」

「真姫! 気がついたか?」

「……うう……蒼一……どうしてここに………?」

「お前を探しに来たに決まっているだろが。 心配したんだぜ?」

「…………遅いわよ………暗いところに女の子を1人置き去りにするなんていい度胸しているわよね?」

「すまないな、途中でお前の姿が見えなくなっちまって、探すことができなかったんだ。 ごめんな」

「……うぅ……次、同じような事をしたら承知しないんだから…………!」

「わかった、肝に銘じておくよ…………」

 

 

 

そう言って、俺は真姫の頭を撫でて安心させようとした。 暗闇でちゃんと顔を確認することはできなかったが、ぐずつきながらも安心したような感じで俺の腕の中で静かに収まっていた。

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

かくして、音ノ木坂学院七不思議調査は幕を閉じたのだった。

 

 

結局のところ、今回調査した内容のすべてがうわさ話からできたガセネタであるということが判明したという結論が打ち出されることとなった。 穂乃果たちが見たという女の子のお化けと言うのは、廊下に落ちていた布きれが服と見間違えてしまっていたようだったと言う。 そんなことよりも、なぜ急に校舎すべての電気が消えてしまったのか、それが新たな調査内容だとして洋子はお願いしに来たのだが、今回ばかりは全員一致で拒否したそうだ。 同じような事は二度と味わいたくないもんね………

 

 

 

 

 

しかし、俺はあの時に起こった出来事を誰にも話さなかった。 それが何故なのかは分からないが、話さない方がいいと自分の中でそう思ったからだ。 あそこで出会った女の子は一体何だったのか……? そして、なんとも懐かしいような感じがしたのは一体なぜだったのだろうか…………

 

 

これは、俺自身で解明していかなければいけない内容なのだろう……………

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。


ありゃま、投稿が遅れちまった。仕方ないね。


しかし、今回も文字数が大きく膨らんじゃいました。Wordページ数が26もなるなんてレポートでもそんなに書かないですよw これなら論文が書けそうな気がする………無理だけどw

今回の話は、ハロウィーンに合わせて書いてみました。本当は肝試し的なものなんですけどね……… お化け?妖怪?現実にはいないと信じていますが、東方のキャラはいてもいいかも……妖怪では紅美鈴が一番好きです!
ウォッチでは、ずらm…コマさんです。


この話でも、色々と布石を入れ込みましたので、よくよく覚えておいてほしいところがいくつかあります。 その答え合わせは来月末か再来月の上旬にお答えすることが出来ればと思っております。



では、次は明日の18時くらいに……投稿できるかなぁ…………?





今回の曲は、

TVアニメ『学校の怪談』より

Hysteric Blue/『グロウアップ』

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