蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第65話


上下関係とかそれ以上のものが無くなった件について

【プロローグ】

 

 

[ 蒼一・自室 ]

 

 

 

「ん?」

 

 

エリチカと外出して何日か経った平日の安息の時間、ベッドに転がしていたスマホに通知のランプが点滅していた。 色からして、あのグループトークが可能なあのアプリからのものだと言うことが分かるが、一体誰からの連絡なのかが分からない。 大体連絡をくれるのは、明弘かことりなのだが……はてさて、どちらからなのだろう……?

 

 

実際、どちらも絡むと面倒なのだが…………

 

 

 

「おや? エリチカからか?」

 

 

予想を反するように表示されていたのは、エリチカからの通知だった。 すでに、μ’sメンバーと島田、そして、ヒフミ組の人との連絡はいつでもできる状態にあったから何の問題もないのだが、まさか、エリチカから来るとは思ってもみなかったからだ。

 

 

「さてさて、その内容と言うのは何なのだ?」

 

 

エリチカのメッセージを展開させてどんなことが書いてあるのかを確認し始めた。

 

 

すると、そこには…………

 

 

 

 

 

 

『みんなと仲良くできました! ありがとね♪』

 

 

「ほお! やったか!!」

 

 

ついこの間まで、穂乃果たちとどう付き合っていけばよいのかが分からないでいたエリチカだが、何とか、アイツらの輪の中に入ることができたようだ。 ひとまず、これで安心かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん???」

 

 

だが、話はこれで終わってはいなかったようだ。 まだまだ、メッセージがあることに気付いた俺は画面スクロールを行い始めた。

 

 

 

 

 

 

『一緒にハンバーガーを食べたよ! 美味しいわ!!』

 

『見てみて!! こんなにかわいいアクセサリーを見つけちゃったわ!』

 

『ハラショー! これクレープって言うの!? とりこになりそうだわ~♡』

 

『初めてのボーリング楽しかったわ。 今度、一緒に行こう♪』

 

『それから―――――――』

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

「一々、俺に個人的な連絡をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「あと、写真も添付して送るなぁぁぁぁぁ!!!! 子供かぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

なんか、ムシャクシャしたのでスマホを叩きつけてしまった。

 

 

 

だが安心しろ、ベッドの上だ。 一時のテンションに身を任せて壊すようなことはしないさ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

【音ノ木坂・屋上】

 

 

後日―――

 

 

 

「お前ら、いつの間にか親睦会とかしているんだな………」

 

「うん! 絵里先輩とは、もっと仲良くなりたいなって思ってみんなでアキバに行って来たの!! でも、よくそのことがわかったね?」

「まあ、いろいろと情報が来たからな………」

「へぇ~……それじゃあね、今度は蒼くんたちも含めて一緒に行こうよ!」

「ま、まあな……その時は頼むわ………」

 

 

 

練習前に行われるいつもの女子トークッ!! その中に、エリチカが自然と溶け込んでいる様子を見て安心している自分がいる一方で、いつものようにアタックを仕掛けてくる幼馴染2人に手を焼いて困っている自分がいる。

 

 

だあぁぁぁぁ!!!! どうしてお前らはそうやって来るんだよ!!? お前らだけだよ、こうやって俺にアタックを決めてくるのはよぉ!! いい加減やめてもらいのだが…………

 

 

 

 

ん? 誰かの視線を感じるような…………

 

 

 

視線が送られた方向に目を向けると、花陽ちゃんがこちらをじっと見ているのを確認した。 俺の顔に何かついているのだろうか? それとも、この2人のことを見ているのだろうか? そんなことを思考しながら聞いてみることにした。

 

 

 

 

「どうしたんだい、花陽ちゃん?」

「ッ!!! い、いえ!!! な、何も……ありません………」

「???」

 

 

俺が声をかけると、急に黙り込んでしまう花陽ちゃん。 はて? 何か変な事でもしたのだろうか?

う~む……謎だな………

 

 

謎と言えば、もう一つだ。

 

 

いつもならば、女子トークの中に紛れ込もうとする明弘が、今日は何故か距離を置いて1人で考え事をしているのだ。 まぁ~た、変な事でも考えているのだろうか? そう思ってしまうのは、日々の行いのせいでもあるのだが…………まあ、一応聞いてみるか…………

 

 

俺は、明弘のそばまで近づき話しかけてみた。

 

 

「どうした明弘? いつものようにアイツらと絡めよ?」

「あぁ……そのことなんだがよぉ…………」

 

 

明弘が久しぶりに見せるその真剣な表情は、その場の空気を緊張させるものがあった。 その空気に触れた俺は思わず唾を飲み込んでしまう。

 

 

 

 

そして、その口が語り始めた。

 

 

 

 

「なあ兄弟……あの子たちは俺たちのことをなんて呼んでいるのか思い出してくれないか?」

「え?」

 

 

 

発せられた言葉に唖然としそうになった俺だが、そうすることも許されないまま、明弘は話をつづけ始めた。

 

 

 

「いいから、思い出してみてくれないか?」

「えっ、あ、ああ……そうだな…………穂乃果、ことり、海未は名前だけだったり“君”付けだったな。 真姫と希、にこ、絵里は俺には名前だが、お前は名字に“さん”付けだったな」

「ああ、そうだ」

「花陽ちゃんや凛ちゃんは俺たちに名字に“さん”付けだったな…………」

「そう、そうなのだよ………」

「それがどうしたって言うんだ?」

「どうしただって? 大アリだね………!!」

 

 

 

そう言うと、明弘は気が抜けたようにゆらぁっと立ちあがった。

 

 

 

 

「俺は………そういう感じに言われるとな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………すんげぇぇぇむずかゆくなるのだよぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

『…………はい???』

 

 

 

明弘の突然のシャウトに肩を震わせた俺とμ’sメンバーの視線は明弘に集中した。

 

 

何を言い出すのかと思いきや、呼ばれ方に異議があるとのことだ。 というのも、コイツの中では先輩後輩という上下関係が確立されていないらしい。 そのため、敬語とか使われることが嫌でたまらなかったらしい。 それを今日の今日まで我慢してきたが、もう耐えられなくなったらしいのだ。

 

 

 

「俺はよぉ……固い言葉で会話することがよぉぉぉ……すんごぉぉぉく苦手なわけよ………だからよぉ………ここだけでいいからよぉ……タメで話してくれよぉぉぉ……」

 

 

 

明弘、μ’sに対して初めての懇願である。

 

 

 

 

 

 

 

「かまわないわよ」

「ええよ、ウチもそういうふうに言えると嬉しいやん♪」

「私も固い言葉を使うのは嫌だからね。 そうしてもらえると助かるわ」

「右に同じ。 呼び捨ての方がいいと思うわ」

「凛もそっちのほうが言いやすいにゃー♪」

「わ、私は……まだできない……です……」

 

 

その懇願に快く了承してくれたのは花陽ちゃん以外のメンバーだった。

 

 

「そうか!!! 俺は……猛烈に感動しているッ!!!!!!!」

「んな大げさな………」

 

 

 

明後日の方向に向かって叫んでいる明弘を横目に、やれやれと思う俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、エリチカがこんなことを言ってきた。

 

 

 

「ねぇ、いっその事、私たちもそう言うのをやめにしない?」

 

 

『えっ!??』

 

 

 

 

俺を含むメンバー全員がエリチカの提案に驚きを示しながら注目した。 まさか、このことが自分たちにも関わることになるとは思ってもみなかったからだ。

 

 

だが、その提案にいち早く乗ってきたのは、言うまでもなく穂乃果だった。

 

 

 

 

「絵里先輩! それ、いいと思います!!」

「穂乃果!?」

「穂乃果ちゃん!?」

「だって、その方が何だか友達が増えたみたいでいいと思うの!」

「それは穂乃果だけの意見だろう……」

「そ、そんなことないはずだよ! ……ね! 絵里先輩!!」

「ま、まあ、そういうこともあるけども………私はみんなが歌って躍っている時に、先輩とか後輩とか、そう言うことを気にしちゃうと上手くできないと思うの。 だから、いっその事、そうした垣根を無くしてみんなが普通に話すことができるようにしたいの。 ………だめ、かしら?」

 

 

 

 

少し躊躇いながらメンバーたちにお願いをするエリチカの姿を見て、始めは驚きの表情を見せていた彼女たちも、次第に納得した表情を示し始めていた。

 

 

「そう言うことでしたら、私も異論はありません。 私もそのことでついつい気にしてまして……」

「実は、凛も同じだにゃー」

「アンタたち……先輩関係無しに私に結構、容赦ないことしていたんですけど?」

「う~ん……あれは仕方がなかったんだにゃ」

「仕方がないで済ませたくないわよ!!!」

「まあまあ、それはおいて。 みんなそれでええやろ?」

 

 

 

希の一声で場は収まり、最後まで悩んでいた花陽ちゃんも含め全員がエリチカの提案に賛成することとなった。 しかし、考えたな。 先輩後輩という関係がなくなれば、より声掛けがしやすくなるってわけだし、互いに気にすることなく意見を言い合える関係でいられるってわけだ。

 

 

 

それに、それだけが目的じゃないんだろ? なあ、エリチカ?

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ早速始めるわよ、穂乃果」

「うん! よろしくね、絵里ちゃん!!」

「うふふ、よくできました♪ 次は、海未ね」

「は、はい! よ、よろしくお願いします……え、絵里」

「ええ、よろしくね♪」

 

 

満面の笑みで応えるエリチカはとても嬉しそうに見えた。 ついこの間まで、穂乃果たちとの関係に悩んでいたエリチカだが、こうして自ら率先して親密な関係をつくろうと働きかけている姿を見ていると、一友人である俺にとっては嬉しい気持ちになってくるものだ。

 

 

ようやく自分の居場所を見つけ出すことができたようだな―――――――

 

 

まだお互いに小さかった頃のことを思い返しながらその様子を見届けようと注視していた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、凛も! え~っと……ことり……ちゃん?」

「うん♪ よろしくね、凛ちゃん♪」

「えへへ、何だか照れちゃうにゃぁ~♪」

 

「ほ~ら、花陽ちゃんもウチのこと呼んでみて?」

「ええっ!? そ、そんなっ!!………うぅ、ちょっと緊張しちゃいます…………」

「ゆっくりでええんよ? ほら、落ち着いて言ってみて?」

「は、はい……! ………のぞみ……ちゃん?」

「うん♪ よろしくな~花陽ちゃん♪」

「う、うん! よろしくね、希ちゃん!」

 

「ほらほら、真姫ちゃんも私のことを呼び捨てで呼んでもいいのよ?」

「べ、別に、そういうことを今言わなくてもいいでしょ!?」

「なによぉ~? 私の名前を呼ぶことすらできないのかしら?」

「はぁ!? できないわけないでしょ!! え、えぇっと……に、にこ………ちゃん………」

「キャー! もう、真姫ちゃんってば、かわいいわねぇー♪」

「んな?! く、くっつかないでよ!!!」

 

 

 

メンバーそれぞれが先輩後輩という垣根を越えて、交流を深めあっている。 本当に、ついこの間のことが嘘のように思えてきそうな光景に、これからどんなことがあってもこの子たちなら大丈夫だろうと、俺は感慨深く思ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、宗方さん!!」

「ん?」

 

 

ぴょんぴょんと、飛び跳ねるようにしてこちらに近づいてきたのは、凛ちゃんだった。

 

 

 

「俺に何か用があるのか?」

「そう言うことじゃないんだけど……凛も宗方さんのことを違う風に呼んでみたいんだ~。 いいかにゃ?」

 

 

あっ、そうなのね。 今のところ、俺のことを名前とかで呼んでいないのは凛ちゃんと花陽ちゃんだけだからな……確かに、この流れからすれば当然な感じがするだろうな。

 

 

しかし、凛ちゃんの仕草にいちいちドキッとしてしまう俺は何なのだろうか……… ぴょんぴょん飛び跳ねるかと思いきや、急に止まって顔を近づけてきて困った表情を見せてくる。 そして、極め付けが首を傾げてくるこのポーズだ! ぐぬぬ………そんなポーズを見せられては了承せざるおえないじゃないか!! ………そうでなくとも了承はする気だったけど。

これはあれだな、今ではもう効かなくなったことりのおねがい攻撃(特に精神的)に匹敵するかもしれないな……… は、早く耐えられるようにしなくては……………

 

 

 

「あ、ああ……構わないぞ、凛ちゃん。好きに呼んでくれていいぞ」

「いいの!? じゃあね、じゃあね! 凛のことを呼び捨てで呼んでくれないかにゃ?」

「ん、いいのか?」

「いいの♪ そう言ってもらえると、なんだか嬉しい気持ちになれそうだと思うんだ♪」

「ん? ううん………」

 

 

嬉しい気持ち? はて、それは一体どういうことなんだろうか……?

 

 

まあ、呼びやすくなるってことだし、より親密になれるってやつかな? ということは、俺の中での凛ちゃんが穂乃果たちの後輩という立ち位置から友達という立ち位置に変わると言う事なんだな。 うん、それはそれで嬉しいことだな。

 

 

凛ちゃんの言葉から感じられた不安を、俺の脳内で無理やり認識変換を行って良い方向へと変えることにした。 うむ、何も問題はないな、と自分に言い聞かせてから凛ちゃんに挨拶をした。

 

 

 

 

「よろしくな、凛」

「んん~~~!!!! よろしくだにゃ、蒼くん!!!!!」

「ッ!?」

 

 

俺は今から『凛ちゃん』のことを『凛』と呼ぶことにし、凛は俺のことを『蒼くん』と呼んでくれるようになった。 これでお互いに接しやすい関係となったわけだが……………

 

 

 

 

 

「ダ~~~~~イブ!!!」

「ぐぅおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!???」

 

 

俺に向かっての突然のダイブぅぅぅ!!? なんだよそれ、意味が分からんぞ!!!?

 

 

超至近距離からの抱きつきに俺は為す術もなく凛が抱きつくことを許してしまった! 胸のあたり向かって飛び込んできた凛は、なんだかとぉぉぉっても嬉しそうな顔をしちゃってさ、俺の胸に当たってきた部分がどこか知っているか? 頭だよ、頭!!! 人が持つもっとも硬い骨に相当するされる頭蓋骨が、俺の胸骨にドンッときちまったんだからめっちゃ痛いに決まってるじゃん!! 痛いよ、マジで!!!

 

 

 

 

 

 

おや、なんだか変な視線を感じるぞ………?

 

 

 

 

 

「り、凛……! も、もう離してくれ……いろいろとマズイから………」

「えぇ~~~……もうちょっとだけこうしたかったのに~………」

「やめなさい、マジで頼む。 お願いします」

 

 

 

そう言うと凛は、しょうがないにゃ、と言って抱きつくのをやめてくれた。 あぶねぇ…… 一瞬、身の危険を感じてしまったからどうしようかと思ったが、凛が早めに引いてくれたおかげで事なきに済んだな……… しかし、あの視線はどこから…………………ん?

 

 

 

 

 

俺は顔を正面に向けると、今度は花陽ちゃんが目の前に立っていた。 なんだか、指をもじもじといじくり回してながらこちらをチラチラと見ている様子からすると、あ……花陽ちゃんも同じなのかな? とすぐに察しがついてしまう。

 

 

だがしかし、凛と花陽ちゃんとの決定的な違いを言うのであれば、やはり積極性だ。

凛はガンガン進んで行こうとする性格ゆえに、さっきみたいに躊躇なく俺に抱きついてこようとするのだ。 ここら辺は穂乃果と似ているところがあるな。 だが、花陽ちゃんはその真逆だ。 凛のような行動を起こすことのみならず、話すことすら躊躇してしまうようなか弱い女の子なのだ。 例えるならば、海未よりも控えめという感じかな? そんな彼女が俺にいきなり抱きついてくるだなんてことはしないだろうな…………

 

 

 

 

「あ……あのっ!! 宗方さん……!!」

「どうしたんだい、花陽ちゃん?」

「あのですね……わ、私も宗方さんの呼び方を変えたいなって思いまして……いいでしょうか?」

 

 

うん、知ってたよ。 お兄さんはよぉ~くわかってましたから。 凛がああ言ったのだから、もしかしたらと思ってたから、もう来るのをスタンバってましたくらいの気持ちだったぜ。

 

 

返答は? ああ、それはもちろん………

 

 

 

 

「ああ、花陽ちゃんも()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうですか!! ありがとうございます!!」

「そんじゃあ、俺も花陽ちゃんのことを名前だけで呼んでもいいかい?」

「はい!!! そうしていただけると嬉しいです!!!!」

「あ、あぁ…………」

 

 

 

目をキラキラと輝かせながら話をして来る花陽ちゃんは、俺がさっきまで予想していた感じとは少し違ってきているようだったが……… ま、まあいいさ。 アイドルの話をする時の花陽ちゃんはこんな感じだったし、アイドル以外でこんな感じになることもないから問題は……………ないな。

 

 

何かを忘れているような気もしなくもなかったが、まあ、問題はないだろうと高をくくることにした。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ…………よろしくな、花陽」

 

「はうっ!!!」

「ええっ!!?」

 

 

 

俺が花陽に呼び掛けると、すぐに変な声を出しながら数歩後退したのだ。

その誰もが予想することができなかった行動に、一番ビビっている俺なのだが、これをどうすればいいのかと、思考が一旦ストップしてしまったのだ。

 

 

はっ……!! いかんいかん、うろたえてはいけない。 落ち着くんだ、クールになるんだ俺。 これも想定内だと仮定すれば気が楽になれると言うものだ。 大丈夫大丈夫、また、変な視線を感じるようになってきているけど、問題はないはず…………はずだよね…………………?

 

 

 

「花陽、大丈夫か!?」

「は、はい………大丈夫です………よ、予想以上に嬉しかったもので………」

「お、おう………?」

 

 

 

俺に名前だけで呼ばれるのがそんなに嬉しいことなのだろうか? 俺には、その感覚がさっぱり分からんのでどう返せばいいのか何も言えずにただ流してしまう。

 

 

 

「それでは……言ってもよろしいですか?」

「あ、ああ………問題ないぞ?」

 

 

 

まるで、危険物がやってくることを警告するかのように話してくる花陽に少しばかりか違和感を感じ始めてきた俺だが、それが確信へと変わったのは花陽が話し終えてからだった。

 

 

 

 

「それでは………………こ、これからも、よろしくお願いします…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………蒼一…………にぃ……………」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

花陽の言葉が耳の中に入ってきた瞬間に全身が凍った。

い、今……なんて言ったのだ……? 聞き慣れない言葉が聞こえたような…………そうでないような…………だ、だが1つだけ確かのことがある………!!

 

 

さっきまでの変な視線は穂乃果たちの方からだと言うことだ………!!

 

 

………なんか、全員がこっちを向いているんですけど…………なんか怖いのですが…………

 

 

 

 

俺は、さっきの言葉が幻聴なのだと思いながらもう一度、花陽に言ってもらいようにしたのだが……

 

 

 

 

「…………蒼一にぃ………」

 

 

 

んんんんんんん!!!!!!!????

 

 

違和感が確信へと変わった瞬間である。

 

 

え? なんだって!? 蒼一にぃ??? 『にぃ』って何? 新しい用語ですか、語尾ですか、何なんですか??? 意味は何? どこでどういうシチュエーションで使えばよろしいヤツなの??? だめだ、今のぼくには理解できな~~~い!!! たすけてぇー、グーグルせんせぇ――――!!!!

 

 

 

とは言ったものの、手元からすぐにスマホを取り出して検索することすらできそうもなく、俺は恐る恐るその意味について聞いてみることにした。

 

 

「は、花陽………それはどういう意味なんだい?」

「それはですね! 宗方さんが私のお兄ちゃんによく似ていまして、これまでずっと宗方さんのことを見てきたのですが、その姿がお兄ちゃんに見えてくるようになりまして、それで宗方さんを私のもう1人のお兄ちゃんとして見ていきたいなって思って、『蒼一にぃ』という呼び方にしたのです!!」

「えー…………」

 

 

 

ただいま、絶賛困惑中でございます。

 

 

え? なんだって??? お兄ちゃん? 俺が? はっはっは、何を言うかと思いきやお兄ちゃんですか!! こりゃあまいったなぁ、それは俺に新しく妹ができたということではないか……… いやぁ~おめでたい話だなぁ~~~……………

 

 

 

 

…………って、なんでじゃあぁぁぁ!!!!!???

 

 

俺の姿が花陽のお兄ちゃんに似ているだけでそれですか!? ゴリ押しだよ! ゴリ押しを越えた正論が今まさに通過しようとしているのですが!!!

花陽、お兄ちゃんが泣くぞ? 血のつながった君のお兄さんが泣いちゃうぞ?

 

 

「だ、だめだよ、花陽。 そう言うことは本当のお兄ちゃんだけにすればいいんじゃないかなぁ?」

「いいえ、そうもいかないんです……… 私のお兄ちゃんは数か月前に家を出てしまい、今日に至るまで一度も会っていないのです…………連絡もつかない、どこにいるのかも分からない………こんなに会いたいと思っているのに会えないだなんて悲しすぎるとは思いませんか?」

「お、おう…………」

「そんな時にです、宗方さんに出会ったのは………宗方さんが私を助けて下さった時に私は抱きついたのですが、その心地よさがお兄ちゃんと同じだったのです!! 私の足りなかったお兄ちゃん成分が宗方さんに詰まっていたのです! 今日まで気持ちを押さえていたのですが、もう……限界なんです!! お願いです!! 宗方さん、私のお兄ちゃんになってください!!!!」

「えええっ!!!?」

 

 

は、ははは…………まったく意味が分からんぞ!!!!

 

お兄ちゃん成分って何ッ!?

そして、俺が花陽のお兄ちゃんですかい!!?

そ、それは………え~っと…………妹は欲しいとは思ったよ。 俺んところは兄貴ぐらいしかいないから、弟か妹がいたらいいなぁとは思ったよ! できることならば、かわいい妹が欲しいとは思ったよ!? 目の前に理想的な妹候補がいると言うことは重々承知しているさ。

 

 

だがな、傍から見ればどうやっても犯罪的な扱いにされちまうんだよ!! やめてぇ、齢18の俺を警察に連れて行かないでぇ!! 俺は………俺は…………健全に生きたいんだぁ!!!

 

 

 

俺は心の叫びを響かせていた。

 

 

 

「な、なぁ、花陽………そ、その呼び方は変えようか?」

「えっ……どうしてですか…………?」

「そ、それはだな………あれだ、花陽の言いたいことはよくわかった。 だが、花陽には本当のお兄ちゃんがいるのに俺がその立ち位置をとろうとするのは、いささか気が引けてしまうんだ。 だから、申し訳ないんだけど呼び方を変えてくれないか?」

「………そ、そんな…………」

 

 

花陽は肩をがっくり落として、見るからに残念そうな顔をしていた。

うぐぐ…………何故だろう、罪悪感を感じているのだが………

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、宗方さんは()()()()()()()()()()って、言ってましたよね………?」

「あ………」

 

 

 

し、しまったぁぁぁぁ!!! 俺はまた知らないうちに自分の首を絞めていたぁぁぁ!!! くっそぉぉぉ………こういうことになるのであれば、言うべきでは無かったぁ…………馬鹿野郎! 俺の馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!!!

 

 

自暴自棄に成りかけそうになる俺に、さらにたたみかけるように花陽が接近してきた。

そして、俺の精神を完全に崩壊させる仕草をしてきた。

 

 

(ぎゅっ……むにゅ…)

 

 

花陽は俺の胸元にしがみつき、体を密着させてきた。 それはつまりだな………密着したことで柔らかいものがだな、俺の体につぶれるように密着させているということ。 さらに、髪の毛から匂う女の子の独特の甘い香りが嗅覚を刺激してくるのだ。 いくら、穂乃果やことりからのスキンシップを毎日受けているからといっても、慣れてしまえば怖いものではない。 だが、花陽のこうした行為は初めてなので耐性がまったくできていないのだ。 女の子と接することに控えめな俺からしたら、もうこの時点で陥落寸前である。

 

 

 

だが、これで終わりでは無かった。

 

 

花陽は俺の胸に埋めていた顔を上げて、俺を見てきた。 今にも泣き出しそうな顔をしながら、上目遣いで見てくるのだ、ここまでされてドキドキしない男子はここにはいないだろう。

皆が望んだ、美少女+巨乳+小動物+いい香り+密着+上目遣い=花陽(パナッ!)  だぞ!!

この時点で俺は昇天寸前だぁぁぁ!!!

 

 

 

そして、最後にこの言葉を言い放ったのだった…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねがぁい……………おにいちゃん…………」

 

 

 

承認した(ジャッジ)!」

 

 

 

あ~……負けたよ……俺の理性はたった今負けましたよ。

 

 

俺は何かを悟ったかのように、それまで鋭くとがらせていた全神経の機能を停止させ、脱力状態となっていた。 もはや、抵抗する気力すら持ち合わせていない俺は、この身を時の流れに任せてしまうところまで追いやられていたのだった。

 

 

 

 

「えへへ♪ これからもよろしくね、蒼一にぃ♪」

 

 

そんな俺の状態をお構いなしに、ずんずんと迫ってくる我が義妹・花陽は胸元を掴んでいた両手をそのまま俺の首にまわして、ぴょんと体を宙に浮かせて抱きついてきた。 まあ、身長差があるからね、飛び跳ねないと俺に抱きつけないわけだ。 たはは…………

 

 

ほぼ、放心状態になっていた俺の脳内では、常識と非常識を判断する能力も衰えており、今の状態がかなりマズイ状況に陥っていることを考えることができなかったのだ。

 

 

故にだ、俺に接近して来る複数の陰に気付かなかったわけだ…………

 

 

 

 

 

 

(ぽんっ)

 

 

 

「あれれ~蒼君? これはどういうことかなぁ??」

「蒼くん、私ね、蒼くんが望むならカワイイ妹になったあげてもいいんだよ?」

「蒼一、いくらなんでも年下の女の子に兄と呼ばせるのはどうかと思いますが?」

「そう……そうなのね………蒼一はそういうのが趣味なのね……へぇ~………」

「アカンよ、蒼一。 いくらなんでも学校内で妹プレイは厳禁やで?」

 

 

 

 

ドッドッドッドッドッドッ!!!!!!!――――――――――――

 

 

 

急速に心拍数を上げる心臓。

 

背中を駆け抜ける悪寒。

 

全身から噴き出てくる冷たい汗。

 

乱れる呼吸。

 

 

 

すべては、いま目にしている満面の笑顔をしている彼女たちの姿が脳裏に焼きつき離れないからだ。 さらに言わせてもらうと、彼女たちが笑い細めている目をまじまじと見てみると、ハイライトが見えない漆黒を見てしまったからだ。

 

 

 

まあ、待て。 話せば分かる―――――――――

 

 

 

昔、そう言って凶弾に倒れた偉大な政治家のことを思いついてしまったのは、歴史好き故なのだろうか。 今ここで出てきてほしくなかった場面ランキング1位を自然に持ってきてしまったのは、この後のことを察しろと言う、うp主のささやかな警告なんだろうな……………ささやかな、ね。

 

 

 

 

『なんか、爆発すればいいと思うよ』

 

 

 

ささやかさもやさしさも無かったぞ、コノヤロー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

『蒼く~ん????』『蒼一ぃ~????』

 

 

 

あははは…………………

 

 

5人の声が1つの美しいハーモニーとなって脳内で響いてくるも、今の俺にとっては、地獄へと手招きを掛けている死神の声にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

ここで出た俺の答えはただ一つだッ………!!

 

 

 

 

 

 

 

「アディオスッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

一向に離れようとしない花陽を抱えながら俺は全力疾走をして屋上を駆け回り始めた!

 

 

 

『逃・が・さ・な・い☆』

 

 

うすら笑いをしながらそう聞こえた時には、彼女たちは俺との距離を急激に縮めていた。 ば、馬鹿なッ!!? こ、こんなに早く着くだなんて………ありえん………!? 彼女たちの身体能力を見誤っていたのか、それとも、潜在能力がここで発揮してしまったのか、その辺はよくわからないがこの俺が追い詰められているという事実に逃れる術はなかった。

 

 

 

 

「花陽!! お願いだから離れてくれないかッ!!!!!」

「ダメですぅ~、まだ、お兄ちゃんゲージが17%しか溜まっていませんよぉ~」

「ちょっと!!? それは、100%MAXじゃないといけないの!?」

「いいえ、200%は必要ですぅ~~~ああ~きもちぃ~~♪」

「カンストするまで待ってろと言うの!? やめてください、その前に死んでしまいます!!」

「死んでもお兄ちゃんと一緒ですぅ~♡」(ぎゅぅ~)

「や~め~て~!!!! それ以上、くっつかないで!!! 精神的にも追い詰められるから!!! それと、死ぬの前提で話さないで!!!」

 

「大丈夫だよ、蒼君。 穂乃果もずぅ~っと一緒にいてあげるから心配しないで♪」

「心配の一言に尽きますが、そ・れ・はッ!!!」

「蒼くんの体は誰にも渡さないよ☆(意味深)」

「何なのその(意味深)は?! 何があるって言うのだよそれは!!?」

「安心して下さい、蒼一。 あなたは私が守ってあげますから…………」

「いやいやいや、守るも何も殺す気満々ですよ!! ウミチャーの目は血走ってますけど!?」

「仕方ないわ……私が何とかして、あ・げ・る・わ♡」

「だれかぁ―――!!! ここに絵里押しはいらっしゃいませんかぁ―――!!! お前らの嫁だろ? なんとかしてぇぇぇぇ!!!!!」

「蒼一はウチとおらんと運気が無くなるで? ウチのスピリチュアルパワーで守ってあげるやん♪ ………もちろん、あっちも(ボソッ」

「ちょい待てや!! 今、最後に何を言ったぁぁぁ?!」

 

 

 

だ、だ、だめだぁぁぁぁぁ逃げられないぞ、この状況!!!!

 

 

 

「だ、誰か助けてぇェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拝啓、花陽のお兄様。

 

あなたの妹さんは、とっても元気にやっております。 少し、お茶目なところや恥ずかしがりやな面もありますが、他の人に負けないくらい努力を積み重ねております。 そんな彼女の姿を是非見に来てください……いや、早く来てください。 マジでお願いします。 できることならば、明日にでも会ってください。 いや、今すぐあってください。

さもなくば、次朝を迎える前に私はこの世にいるかどうか分かりません。

カムバーーーーーーーック!!! プリィィィィィィィズ!!!!!!!!!!!

 

敬具

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、蒼一さんは無事に生き残ることができたそうだ。

 

 

 

追い詰められ間一髪の時、蒼一さんは花陽ちゃんを抱えながら中庭に向かって飛び下りたのだった。 その際、蒼一さんは中庭を囲んでいた校舎の壁を蹴りながら下りていったそうだと言う。

その瞬間を目に焼き付けることすらできなかった自らの直感の弱さに、ただ悔やむばかりである。

ただ、この話を語るのはμ’sと明弘さんのみであり、第3者の意見が全くない。 そのため、生徒間ではこれをただの噂としてしか扱っていないため、信憑性に欠ける部分があったりする。

だが、もしこの話が本当だとしたら、蒼一さんは私が考えている以上の存在なのかもしれない。

本当にネタに尽きることのない彼の話を今後も追い続けてゆきたい。

 

 

 

【記録日】

〔20■■年 5月■■日 〕

 

【記録者】

〔島田 洋子〕

 

 

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、お久しぶりです。うp主です。

1週間ぶりの更新と言うのは、初期以来ですね。 まあしかし、初期通りに進んでいたら最終話がいつになったことやらと言う話と言うわけです………

ツイの方でもしゃべりましたが、今回の話は、自分のリハビリのために書きました。
1カ月ものブランクと言うのは、本当に辛いものです………
思うように書けない……… 妄想通りの文章が出てこない……… 最悪は、妄想できない……… 
といった苦しい状況が先の1週間続いておりました。 自分としては、穂乃果の話がちゃんと書けたのが今となっては不思議なくらいです。
その後の絵里の話がトンデモでしたが……………… 本来ならば、こうなるはずでした。


しかし、今回はもう、妄想を1週間かけて溜めに溜め……ここで爆発させました☆

後悔はしていない、むしろ、これでいいのだ! ん~いいひびき♪


これで本来の自分が取り戻せたような気がします。
次回もこんな話を続けることが出来たらいいなと思っておりますので、よろしくお願いします!!


そして、新たにフォローしてくれた方々、ありがとうございます!!!(今更



じょ、情報のところをずっと見てなかっただなんて言えない………(震え声)




今回の曲は、

TVアニメ『六門天外モンコレ☆ナイト』より
米倉千尋/『Just Fly Away』

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