蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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【*】深き黒蒼の回想 Ⅲ

―― 

――― 

―――― 

 

 

「よーほー!!!!元気にやってるかぁーい!!!?兄弟ィィィ!!!!」

 

 

 

超ハイテンションで登場してきたのは、俺の悪友・明弘だった。

 

 

「はぁ・・・お前、ここは病院なんだぜ?もう少し静かにできないのか?」

「ふはっはっは!!!知ったこっちゃないねぇ!!つうか、この部屋にはお前しかいないんだから問題ねぇだろ?」

「そう言う問題じゃないだろう・・・」

 

 

やれやれ、全く嵐のような男だぜ。

コイツが以前に見舞いに来た時は、まあ落ち着いてはいたがな。コイツには、落ち着くという言葉が自分の辞書の中に書かれているのだろうか?

 

 

 

・・・多分ないな。その理由が、現在目の前の光景なのだから誰が見ても納得するだろうな。

 

 

 

 

 

「ところで、何でそんなに急いでいたんだ?普通に入ってくれればいいのに」

 

 

 

明弘の今の姿を見ると、小さなリュックサックを背負い、よれよれのTシャツに短パン、髪はぼさぼさで顔も洗っていないような清潔感0な状態で、その上、汗が滝のように流れて、Tシャツが水をかぶったかのように濡れていた。

 

あの様子からすると、この部屋まで全力疾走して来たんだなぁと想像がつく。病院内を走っちゃいけない上に、ドアを壊す勢いで入ってきて大きな音を立てているのだ。今度はこの病院の人に怒られてしまうんじゃないだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

そんな俺の心配を無視するかのように、明弘はニヤついた顔で迫って来た。

 

 

 

 

 

「ふっふっふ・・・兄弟、俺はいいものを見つけちまったよ・・・!!」

「何がだ?どうせまた自転車のサドル部分がブロッコリーになっちまったというようなくだらない話なんだろう?」

「いや、そうじゃねぇ・・・もっとおもしろいもんだぜ」

 

 

 

 

そう言うと、明弘は背負っていたリュックサックからディスクとDVDプレーヤーを取り出した。

 

 

 

 

 

えっ?DVDプレーヤー?・・・・・・

 

 

 

 

 

「・・・おい、これ誰のだよ?」

「ん?あぁ、ウチに合ったヤツを拝借させてもらったんでぜ!」

「お前の親父さんのもんだろ、コレ。勝手に持ってきても良かったのか?」

「わかんねぇ、そこら辺にあったから持ってきたまでよ」

「おいおいおいおい!!怒られるんじゃないのか?俺にまでとばっちりを喰らうってことはないんだろうな?」

「こまけぇこたぁいいんだよ!そん時はそん時さ!!」

「り、理不尽この上なし!!!」

 

 

 

 

親父さん、俺は関係ないからね?俺は何も知らないから。コイツが勝手に持ってきただけだから!!

 

 

俺まで怒られるってことはないよね?・・・・・・だよね?

 

 

 

 

そんなことも知らずにコイツは黙々とセッティングをし始めている。もうここまできたら、心配を通り越して呆れてしまうわ。

 

 

 

 

「お前に見せたいのは・・・・・このッ!・・・・映像・・・だッ!!」

 

 

 

 

 

ディスクを挿入し、再生ボタンを押した。そこに映し出されていたのは・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

(~~~♪~~~~~~♪)

 

 

 

 

 

 

 

ん?んんんんんんん???????

 

 

 

 

アニメかよ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

全力疾走してまでも俺に見せたかったものって、このアニメかよ!!つか、なにこれ?俺の知らないアニメなんだけど!?

 

 

・・・こんなの今やっていたっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツはな、俺たちが普段見ている朝や夕方とかでやっているアニメじゃねぇんだぜ。俺たちが寝ている時間、つまり深夜にやっているアニメなんだぜ!!」

「は、はいいいぃぃぃぃ!!???」

 

 

 

 

 

えええええ!!!あれか!?深夜にやっているって・・・まさか・・・!!大人が見るような、あんなことやこんなことなどが色々と行われているアダルティな番組が軒並みにあるとされているあの深夜放送か!!!

 

ということは・・・まさか、こんなところまできて、俺にエッチなもんを見せる気なのか!!や、やめろぉぉぉ!!はやい、早すぎるんだよ!!!子供が見るもんじゃねぇだろ?変態なお前とは違って、俺はそういう耐性ができてないから!!女の子のパンツが見えるだけで、くらっとしてしまうんだから、そういうの無しなんだよぉぉぉぉ!!!!!!見ないぞ、俺は見ないからな!!!

 

 

 

 

 

「ん?何してんだ?」

「お前、これはあれだろ?エロいヤツなんだろ?俺にそういうのを布教しに来たんだろう?わかってるぞわかってるぞ・・・だが、俺はそういうのは見ないからな!絶対見ないからな!!!」

「ん~???なぁ~に勘違いしてんだお前は?」

「えっ?」

「俺が見せたいのは(今日は)それじゃねぇ・・・もっと、すげぇヤツだよ」

「おい、今『今日は』って言ったよな?今じゃなくても見せる気満々じゃねぇか!!!」

「おーちーつーけー!!それはそれで今度ちゃんと見せてやるから。お前のエロ耐性をレベルアップさせてやるから、今はこっちに集中しろ、な?」

 

 

 

 

 

いいから、そんな気遣いいいから。レベルアップしなくても生きていけるから!!!

 

 

 

 

「んで?これは何だ?」

「あぁ、コイツはな、『涼宮ハルヒの憂鬱』っていうアニメなんだぜ」

「ん、まぁ、題名が見えるから分かるんだけどさ・・・これを見せるためにここまで来たのか?」

「ああそうだぜ。・・・だが、見てもらいたいのはここじゃねぇ・・・飛ばすぞ」

 

 

 

 

そう言うと、今流れている映像を早送りし始めた。本編を見せるんじゃないのかよ・・・・って、結構飛ばしているな、まだなのか?・・・・・・・おいおい、もう終りに近いじゃないか、つうか、もう終るんじゃないのか?

そう思ったら、本編が終わってるじゃないか!!!ええ!!どゆこと!?

 

 

 

 

 

 

 

 

明弘は早送りを止め、停止ボタンを押した。なぜ、こんな終りのところで止めているんだ?

これ以降にあるのは、エンディングくらいだろ?これ以降に見るものなんてあるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼一」

 

 

 

 

めずらしく俺のことを名前で呼んでくれた。コイツがこういう言い方をするときは大抵何かを真剣に伝えようとしている気持ちの表れだ。

 

 

 

 

「よぉ~く、見ておけよ・・・」

 

「(ゴクリ)」

 

 

 

 

口の中に溜まっていた唾を飲み込んだ。俺も真剣になって明弘が見せようとする映像を見ようと思った。一体何が始まろうというのだろうか・・・?

 

 

 

 

 

「さあ、始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

明弘が再生ボタンを押して、映像が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(~~~~♪~~~~~♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

それを見た時、何かに圧倒されたような気分だった。初めて見る光景と映像からひしひしと伝わってくる何かが俺に訴えかけてきた。それはまるで俺に対する挑戦状のようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― やってみなさい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさに、こう俺に訴えかけてきたのだ。俺に問いかけてきたのは、そう、後に伝説とうたわれるようになったあの名曲とあの踊り・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハレ晴れユカイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<・・・ジ・・・・・ジジ・・・・・>

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

およそ1分15秒に渡る動画だった。5人の少年少女達が曲にあわせてそれぞれ踊っていた。ただ踊るだけの動画ならば現実世界に存在するアイドルたちやダンサーたちのものでもよかった、そう考えるのが一般的なことだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これは違う。

 

 

 

 

 

 

 

よくわからないが、これを見た時、俺の中にある何かが沸々と湧きあがっていくように感じられた。

 

 

 

この感覚は一体何なんだ・・・?この気持ちは一体何なんだ・・・?

 

 

 

 

わからない・・・・だが、その答えはこの映像の中にあるのだということだ。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、兄弟。いいと思わないか?」

 

 

 

 

明弘は何を思ってそう言っているのだろうか?

コイツも俺と同じくこれを見て何かを感じ取ったのだろうか?

ただ、コイツの目から燃え上がる炎のようなものが見えた。その眼差しを俺に向けている。

俺はその眼差しに次第に魅かれていった。どうしてそんな目をしているのか、何がコイツを変えたのか、その答えはどこにあるのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その答えも、この映像の中にある、そう語っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし・・・もし、今の俺を変えることができるのならば・・・・

 

 

何もかも失った俺自身を変えることができるのであれば・・・・

 

 

 

 

俺は・・・・俺は・・・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明弘・・・・」

「なんだ?」

 

 

「もう一度見せてくれ」

「ん?ああ、いいぜ」

 

 

 

 

 

 

巻き戻しのボタンを押して、その踊りが始まるところまで戻り再生し始めた。

 

 

 

 

 

 

(~~~~♪~~~~~~♪)

 

 

 

 

 

 

さっきと同じ映像が流れる。また違った何かを見ることができるのではないのか?そう感じながら見ていたが、何も変わらない。同じキャラがただひたすら踊るだけの動画。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、俺の中では着実に何かが変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明弘、もう一度だ」

 

 

 

また、同じように見直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度だ」

 

 

 

 

 

 

何度も・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度だ」

 

 

 

 

 

 

何度も見直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一つの結論が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりたい・・・・」

「ん?」

「明弘・・・・俺はこれがやりたい・・・・」

「ん、そうか」

 

 

 

 

 

 

 

およそ三週間の空虚な日々を過ごしていたそんな俺に自分からやりたいと思うようになったのは、これが初めてだった。

 

 

 

 

 

変な話だ。

 

 

 

 

 

夢を打ち壊されて生きる希望ですら見つけることができなかった俺がこの1分強あるただの踊りの映像にここまで心を惹かれてしまうなんて・・・・・意味が分からない・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

だが、その意味が分からないものに今、俺は生きる意味を探そうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

俺は・・・・変われるのだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼一、お前がこれをやりたいって言うなら手を貸してやるぜ?」

「えっ?」

「俺もコイツを目にした時、ビビッ!って直感が走ったのさ。こいつぁおもしれぇ、やってみたら楽しくなるに決まっているってよ!俺はそう思ったのさ。だが・・・・」

「だが?」

「これを踊るには人が足りねぇ・・・・あと、4人欲しいなぁって思っていたのさ。・・・・そこで、蒼一!俺はその一人にお前を加えたいと思ったのさ!!」

「俺を?何故俺を?」

「お前はこれまで野球で培ってきた運動神経がある。その力をもってすればこのくらい容易くできるだろうと思ってよ!」

「・・・・うん・・・・」

「俺とお前がやればぜってぇおもしれぇことになる!だから、頼む!俺とやってくれないか!?」

「明弘・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツ・・・手を貸してやるって言っておきながら、本当は自分がやりたかっただけじゃねぇか・・・・まったく、いつもながら自分勝手なヤツだぜ・・・・

 

 

 

 

 

 

・・・・俺も人のことが言えねぇけどな・・・・

 

 

 

 

 

 

 

俺も、明弘とやりたい

 

 

 

 

 

 

 

 

明弘が言ってくれなければ、俺もやろうっていう気にならなかった。

俺は不器用な奴だ。自分でやろうって思っていてもどうしても自分から一歩を踏み出すことができない。

誰かからの支えがなければ・・・・誰かからの一押しが無ければ・・・・俺は前に進むことすらできねぇ・・・・恥ずかしいばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は・・・・・決めた・・・・・

 

 

 

 

 

「明弘、俺もコイツを見て、お前とやりたいと思っていた。だから教えてくれ、俺は何をすればいい?」

 

 

 

 

 

 

 

明弘は待っていましたと言わんがばかりの表情でこちらに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に、頂点に昇り詰めるぞ!!!」

 

 

「訳が分からん・・・・」

 

 

 

 

 

正直言って俺はこの時、コイツが何を言っているのか分からなかった。

頂点って・・・どこなんだよ・・・・そんなあやふやな事を言われても困惑するしかなかったが、ただ、俺は笑っていた。

安心感から来たものなのか、呆れから来たものなのか・・・・それとも、感動から来たものなのか、分からなかった。俺は意味も解らず笑い続けた。そして、見つけたのかもしれない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の新しい夢が・・・・!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今の俺が存在する――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ジ・・・・・・ジジ・・・・・・・ザ・・・・・ザ――――――――――ザザッ!!〉

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 

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