蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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はじまりの1歩
深き黒蒼の回想 Ⅰ


 

 

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― 俺は小学校の頃、野球のリトルチームに所属していた。

昔から、よく親父と一緒に近くのアキバドームで野球観戦をしていたこともあり、野球は大好きだった。大きなグラウンドで目一杯走り回って観客を魅了し、ピッチャーから放たれた球を力一杯打ち返す。そして、それがスタンドに入った時の歓声が堪らなく大好きだった。

そんな俺の夢は、このドームにいる沢山の観客を魅了し、大歓声を響かせることができる野球選手に成ろうと決めたのだ。

 

 

 

 

― リトルチームでは、エースで4番! ……ではなく、レフトで1番又は3番打線の繋ぎ役だったが、言い方を変えれば、チームの起爆剤だともいえる。自慢ではないが、俺はチームの中で誰よりも速く走ることができるし、ヒットもそれなりに出す方だ。レギュラーメンバーの一人として、毎度毎度行われる試合に出ていたが、そこでヒットやファーボールで出塁した時は、この足で二塁三塁と次々と盗塁を決めることができる。そして、俺の後のバッターがヒットを打てばすぐに点が入るってわけだ。これを起爆剤と言わないで何と言えばいい?

 

 

 

― ただ、チームを引っ張っていくような器ではなかったからな。エースとか、4番とか、自分に何かを期待させられるような役回りにはなりたくなかったのも事実だけど……。

いつもは監督の指示に従ったりするけど、時には、自分のやり方を貫いたこともあったっけな。 そんなことがあった時は、「どうして指示通りにしないんだ!」って、叱られたこともあったな。

 

 

 

― 練習とか試合とか、体に負担になるような日々が続いたけど、そうしているうちに、自分の体力や身体能力が向上していくのを実感すると、うれしくてたまらなかった!もっと続けたい!もっと楽しみたい!そして、いつかはプロ選手として憧れのドームに立つことができる!

そう感じるようになっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― けど……俺はあの日を境に……野球をやめた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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≪およそ7年前の秋……≫

 

 

 

 

「よし!今日の練習は終わりだ!後片付けをした後、解散!!!」

 

『ハイ!!!!』

 

監督の相変わらずの怒号でいつもの練習は終了。

そして、道具の片付けとグラウンドの整備をやる。

はぁ、片づけよりも整備の方がめちゃくちゃ辛いぞ・・・

 

 

毎度、思うんだがどうして整備をしなきゃならねぇんだろ。いくら校庭だからって結構広いぞ!

これ全部の土を慣らすのに一時間くらいかかるんじゃね?ってくらい広いんですけど!!!

 

 

 

ヘルプミー!!!!!

 

 

 

 

 

 

そう心で全力で叫んでいたら、何人かのチームメイトが俺の近くにやってきた。

 

「蒼一!一緒にやろうぜ!!」

「一人でやるのは疲れんだろ?一緒にやった方が早く終わるぜ!」

「俺も手伝うよ!」

「僕も!」

「俺も!」

 

 

「お、おまえら・・・」

 

 

おぉ・・・こいつはありがてぇ・・・!

みんなでやれば怖くない、ってやつだ!これだけいれば、ホントに早く終わるんじゃないか?

 

 

「よし、さっさと終わらせちまおうぜ!!」

 

 

「「「「「おー!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

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「よっしゃぁ!!おわったぁ~!!!」

 

 

グラウンド整備を初めて、たぶん30分くらい経ったんじゃないか?

ふぅ~、思った以上に早く終わって、ほっとしたぜ。

 

 

 

「蒼一、早く帰ろうぜ!」

「そうだ!帰りに商店街によってかないか?」

「それはいいな!なんか食いに行こうぜ!」

「最近、新しいお店ができたんだって!そこに行ってみようよ!」

「おお!言ってみようぜ!」

 

 

 

お!アイツら盛り上がってんな!んじゃ、俺もその新しい店とやらに行こうか

 

 

 

………ん?

ありゃ、まだ、道具が残っているじゃねぇか!仕舞い忘れたか?仕方ない、片づけるか。

……だが、アイツらを待たせるわけにはいかねぇか………

 

 

 

 

「おーい!先に行っててくれ!あそこにある道具を片付けたら追い付くよ!」

 

「えっ?いいのかよ、俺たちも手伝うぞ?」

 

「大丈夫さ、この程度すぐに終わらせてみるさ。それに俺にはコイツが付いてる!」

 

 

 

そう言って、俺は足を叩いて見せた。

 

どんなに距離が離れていたって、この自慢の脚があればひとっ飛びってわけさ。

 

 

 

「そうか、わかった。んじゃ、先に商店街の方に行ってるぞ!」

 

「おう!わかった!」

 

 

そう言って、アイツらを見送ってから残りの道具を片づけに行く。

 

 

「ったく、誰だよ、こんなところに残していったヤツは・・・」

 

 

道具と言っても、バットやボールだ。そんなに重いものじゃない。

ちゃっちゃと片付けることはできるからアイツらのとこまですぐに追いつくことはできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと!これで最後か。」

 

 

 

グラウンドの端っこにあった最後のボールを拾い、それを倉庫の中に入れた。

ふぅ~、これでホントに終わったか・・・。

 

アイツらと別れて10分くらいは経ったんじゃないか?

 

気付いたら日が暮れてきたようだ。

 

 

「やっべ、アイツらもう商店街にいるんじゃないか?早くいかねぇと!」

 

 

そう言ってから、ベンチの上に置いておいた自分のグラブの入ったバッグとバットケースを持ち、すぐに、グラウンドを走り去った。

 

 

 

「走っていけば、6,7分くらいで着くんじゃないか?」

 

 

 

そう思い、全力で走りはじめる。

 

 

 

 

前を歩く人を追い越し

 

 

 

横断歩道を走り抜け

 

 

 

角を曲がり

 

 

 

大きな交差点の近くまで来た。

 

 

 

 

 

 

「・・・あっ、信号が変わってる・・・」

 

 

 

交差点まで数十メートル離れても分かる信号の赤色マーク。

 

 

 

うわー・・・あそこの交差点は信号が変わるのが遅いんだよなぁ・・・

こりゃ、走る必要はないな、ゆっくりいくか

 

 

 

そう考えて、走るペースを歩くくらいにまでおとした。

さすがに、赤信号なのに走って体力を無駄にするのなら歩いて温存した方がましだわ。

つか、もう商店街まであともう少しなんだから、歩いて行ってもいいんじゃないか?

まだ、16時10分くらいだし少し遅れて行っても問題は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?うお!?なんだ、このトラックは!?」

 

 

交差点まであと少しの所で俺の横の道路を横切ったトラックの積み荷を見て俺は驚いた。

ありゃ鉄板か?工事現場でよく見るような薄い長方形の形をした鉄板が山のように積まれているぞ!

しかも、それを止めるワイヤーが今にもはち切れそうな勢いで引っ張られていやがる!

 

 

大丈夫かよ?この積み荷は?

 

 

 

 

 

 

そう心配していると、俺の横を小さな女の子が交差点の方に向かって走っていった。

 

 

 

「小さいな・・・小学校低学年の子か?」

 

 

俺の胸くらいの身長だったから・・・120、30センチくらいか?

そんなに走って行っても信号は赤なのに頑張るねぇ・・・

 

 

女の子が交差点前の横断歩道の近くで止まったその瞬間だった・・・

 

 

 

 

(ブチッ・・・ブチブチブチッ!!!)

 

 

 

さっきのトラックの荷物に縛り付けられていたワイヤーがはち切れた!

しかも、一本が切れたと同時に他のワイヤーまでもが切れ始めやがった!!

 

 

 

トラックの近くにいた人たちはその異変に気付き逃げようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ただ、ひとりを除いて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

それに気付いたのは俺だった。

 

 

周りにいた人たちは逃げ始めているのに、あの子だけは前を向いたままその場を離れようとしない。

くっ!何故気付かないんだ!近くでヤバイことが起こっているのに!!!

 

 

 

 

俺は持っていたすべての荷物を投げ捨てて、走り出した。

 

 

 

ちゃんと動けよ、俺の足!!あの子をあの場から離れさせるために!!全力全開!!フルスロットルでこの危機を乗り越えて見せる!!!!!!

 

 

 

距離はそんなに無い、腕をつかんでそのまま横にそれるように走り抜けれる!

 

 

 

 

 

その子のすぐ近くまで来た時だった

 

 

 

 

(ブチブチブチッ!!)

 

 

(………ガチャガチャガチャガチャガチャ!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

「!!!??」

 

 

 

 

最後のワイヤーが切れ、縛ってあった鉄板が崩れ始めやがった!!

 

 

しかも、あの子の方向にも落ちそうじゃないか!!!

 

 

 

 

 

くそっ!最悪だ!!腕を引っ張っていけば、鉄板があの子に当たっちまう!!!

 

 

なら・・・方法は一つだ!!!

 

 

 

 

俺は脚に今持っているすべての力を込めた。

 

 

保ってくれ・・・・保ってくれよ・・・!!!

 

 

力一杯込めた走りで数メートルの距離を一瞬で縮め、あの子の前に来た。

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

「わりぃがちゃんとつかまってろよ!!!」

 

 

 

 

 

この子の背中と足を腕で支え、抱きかかえるようにしてその場を立ち去ることを選んだ。

 

 

腕を引っ張っていくよりも早く、かつ抱きかかえている状態だからこの子に鉄板が当たるリスクも少ない。

 

 

この方法ならいける!

 

 

 

 

 

そう感じてその場を立ち去ろうとしたとき・・・

 

 

 

 

 

 

 

(ガッシャーーーン!!!!!)

 

 

 

 

 

積まれてあった鉄板が勢いよく崩れ落ちてきて、鉄の鈍い音を響き渡らせていた。

俺はそんな状況から早く立ち去ろうと脚に力を込めて走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ザシュッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄板が落ちた音とは違った音がした

 

 

 

 

 

 

すぐ近くで聞こえたような?

 

 

 

 

わからない………何だったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

トラックから離れたか………ここなら大丈夫だな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、目の前にひとりの女性が走ってきた

 

 

 

 

 

『―――――!!!』

 

『おかあさーん!!!』

 

 

 

 

 

抱えていたこの子が泣きじゃくった声で叫んでいた

 

あの子の母親か?……それはよかった………

 

 

 

この子を下ろすとすぐに母親らしき人の方にかけて行った。

 

 

 

 

『――――!!!だいじょうぶだった!!?』

 

 

『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!おかあさぁぁぁぁん!!!!』

 

 

 

 

おやおや……っきまで、何事か?って顔をしてたのに……あんなに泣いちゃって………

 

 

 

 

……よかった・・・間に合ってよかった………

 

 

 

 

 

『ありがとうございます!!まきを助けてくれて、ありがとうございます!!!』

 

 

あの子の母親が俺の目の前にやってきてお礼をいった。

 

 

「いえいえ……たすかって……よかった………」

 

 

『おにいちゃん、ありがとう!!!』

 

 

………へへっ……まだ、泣いているな……そりゃそうだ……あんな怖い目に会ったんだもんな………

 

 

「ああ……どういたしましてだ………」

 

 

そういって、しゃがんでその子の頭をなでた。

 

 

 

 

「もう大丈夫だよ………こわくない……こわくない………」

 

 

 

 

そしたら、その子は泣きやんだ。

 

 

 

 

「………もう平気だね?」

 

 

 

 

そして、元気な声で

 

 

 

 

 

「うん!」

 

 

 

 

と返事をしてくれた。

 

 

「えらいぞ、いい子だ………」

 

 

そういって、もう一度その子の頭をなでた。

 

 

 

………もう安心だな………

 

 

 

 

 

 

そう思って、立ち上がろうとしたら………

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ……れ…………?」

 

 

 

 

 

 

急にめまいが襲ってきた

 

 

脚に……いや、体に力が入らなくなっている………?

 

 

 

 

どうしてだ………?

 

 

 

 

 

もう一度立ち上がろうとしたら、前に倒れてしまった

 

 

 

 

 

 

………えっ………………?

 

 

 

 

 

 

 

………なんでだ…なんで……力が入らないんだ…………?

 

 

 

 

 

 

 

………たてよ…………俺には……いかなきゃ………待たせているヤツが…………………

 

 

 

 

 

 

 

『――――――!!!』

 

 

 

 

 

 

 

………なにか、聞こえたような…………………?

 

 

 

 

………悲鳴………?

 

 

 

……なにが………どうなっているんだ……………?

 

 

 

 

……………めのまえが……ゆがんで…………みえ………る…………………

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺の意識は無くなった…………

 

 

 

 

 

なぜ、体に力が入らなくなったのか……………

 

 

 

 

なぜ、またこの場が騒がしくなったのか……………

 

 

 

 

 

わからなかった………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、最後に見た光景は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子が………また、ひどく泣き叫んでいた姿だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ザ……………ザザ………ザ――――――――………ザッ!ザザッ!!>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 

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