蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第59話





始まりの合図

 

 

【プロローグ】

 

 

[ 屋上扉前 ]

 

 

 

「エリチカ!もういい加減、腹をくくったらどうだ?」

「そうやで、えりち!ここまで来たんやからもう一歩踏み出そうやん!」

「け、けど………な、なんだか急に不安になってきたわ」

「大丈夫だって!アイツらだってわかってくれるさ、だから来いよ!!」

「はよしないと………ワシワシしちゃうでぇ~?」

「わ、わかったわよ!行くわよ!!だ、だから希、それだけは勘弁して!!」

 

 

 

俺は、絢瀬と希を穂乃果たちと引き合わせるため、2人と一緒に屋上まで連れて行こうとしていた。

 

 

どうして、こうした流れになったのかと言うと、少し時間をさかのぼる…………

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 保健室 ]

 

 

 

 

「ええっ!?わ、私をあの子たちと同じスクールアイドルに!!?」

「そうだ、アイツらと一緒に歌って、踊ってくれないか?」

「だ、だめよ…!私はあの子たちの活動に反対していた立場なのよ!それを今更……」

「ふ~ん……反対していた、ねぇ~……ということは、今はその立場は変わっているんだな?」

「えっ!…い、いや、そんなことは………」

「えりち~ウチはわかっとるんやでぇ~、えりちがあの子たちと一緒に歌って、踊りたいって」

「の、希!な、何、変な事を言うのよ!!私はそんなこと思っていたりなんて……」

「ウソやね。えりちはあの子たちを指導している時、すっごく、うずうずしとったで」

「!!」

「あれって、自分の方が上手に踊れるって言う自信から出たもんやろ?」

「そ、それは………」

「えりち!往生際が悪いで!!えりちがあの子たちの指導を引き受けたのは、しょうが無い気持ちなんかやない、本当はやりたかったんやろ?やりたくなかったんなら、引き受けなければよかったんや!けど、引き受けた!やりたかったけど、自分が言うたことを曲げたくないから妥協してそうしたんやろ!?」

「う、うぅ………」

 

 

 

「えりち………もういいのよ……」

「!!」

「えりちはよく頑張ったよ。この学校のために沢山働いて、沢山苦労して、沢山傷ついて……そうやって、自分のやりたいことを押し殺してまで頑張ってきたのだから、これからは自分のために頑張っていこ?」

「……希………」

「エリチカ、俺からも頼む。一個人としてではなく、μ’sの指導者として……そして、お前の友達としての頼みだ!」

「蒼一……!でも、私に決める権利なんて……」

「……自分で決めることができないのなら、俺が決めてやる!エリチカ!!!お前の力が欲しい!!何が何でもお前をμ’sの1人にしてやる!!NOとは言わせないぞ!!!」

「蒼一……!!」

「安心して、えりちにだけそんなことはさせないよ。私もいるよ……私も一緒に入るから……ね?」

「希……!!」

 

 

「エリチカ」

「えりち」

 

 

「お前が目標を見失いかけたら、俺が引っ張ってやる!」

「えりちが倒れそうになった時は、私が支えてあげる!」

「お前はもう1人なんかじゃない……!」

「私たち2人がいるんだから、心配なんてする必要はないんだよ?」

「エリチカ、俺を信じろ!」

「えりち、私を信じて……!」

 

 

 

「「だから、さあ、手を出して!!」」

 

 

 

 

「!!!……蒼一…!……希……!!……私を……私を連れていって………素直な自分になれる、そんな場所に……私を連れてって!!!」

 

 

 

「任せろ!!」

「任せといて!!」

 

 

 

 

 

 

 

――――と言ったやり取りが行われて、現在に至る………

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

[ 屋上 ]

 

 

 

(ガチャ)

 

 

 

「お前たち!!新規で2人を勧誘してきたぞ!!!」

 

 

『おお――!!!!!!!!』

 

 

「よ、よろしく………」

「みんなよろしゅうなぁ~♪」

 

 

2人が挨拶すると、誰よりも早く反応したヤツがいた。そう、アイツが………

 

 

 

 

(ガシッ!!)

 

 

 

「μ’sにようこそ!絵里先輩!希先輩!!これからもよろしくお願いします!!!」

 

 

穂乃果は2人の手を握って喜んで歓迎した。

絢瀬は穂乃果のその行動に戸惑っていたが、希はただ嬉しそうに握手し合っていた。

穂乃果の後に続くように他のメンバーたちも次々に挨拶や握手を交わし合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「う~~~む…………」

「どうした、明弘?」

「兄弟………いや、ゲーリング君。キミはいい仕事をしてくれたよ……」

「なに、いきなりどこぞの総統閣下になっていやがるんだよ」

「今までのμ’sに足りなかったもの……そう!それこそ、おっぱい!!お手頃サイズのものはいくつもあったが、やはりィィィ!!ドンッとくるものが無かった……だがッ!今日を境にその問題が無くなったのだッ!!何とも素晴らしくそびえ立つ富士山(ふっじさん)がッ!4つもあるという数多の登山家たちを喜ばすものとなったッ!!!ああぁぁ!!おっぱいぷるんぷるんッ!!!」

「お前はそれが言いたかっただけかよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっっっっっ!!!!!!!(ドゴォ!!!)」

 

 

「グォヴァァァ!?」

 

 

あ~あ、いつものことをあっさりと…………

 

対変態明弘撃退特化傭人・海未によって、アッパーカットを喰らって轟沈してしまった。

 

散り際の言葉は………

 

 

「海未の今にも爆発しなさそうな浅間山も嫌いじゃn…あがあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

明弘、アワレナリ!だが、慰める必要性は皆無だな!!!

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、練習を再開するぞ!俺は絢瀬と希の基礎練を見ているから、そっちは海未に任せるぞ」

「わかりました。では蒼一、そちらを頼みましたよ」

「ああ、任せておけ!」

 

 

明弘がまたしても戦闘不能状態に陥ってしまったので、代わりに海未を立てることにして、俺は絢瀬たちの練習を見ることになった。

 

 

 

 

 

 

「痛い痛い痛い!!!えりち、それ以上はアカン!!」

「だめよ希、ちゃんとしておかないとケガしちゃうわよ」

「ケガする前にくたばっちゃ本末転倒なんだけどな……」

 

 

 

う~ん……この光景は前にも見たことが………

 

 

 

 

 

 

(ぎゅぅぅぅぅぅぅぅ………)

 

 

 

「痛い痛い痛い痛い!!!ああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

あ~………これは酷い………

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

その後、俺たち新生μ’sはオープンキャンパスに向けて練習を始めた。

 

 

穂乃果たちの輪の中に溶け込めるかどうか心配だった絢瀬と希だったが、穂乃果たちの方から受け入れてくれたので、長くかかることはなかった。そのおかげで、海未と真姫が新しく作ってくれた曲のダンス練習での連携がスムーズに行えることができたのは大きいと感じている。絢瀬が入って来てくれたおかげで、人前に出て見てもらえるようなものとするにはどうするべきなのか、といったより具体的な課題に対するメンバーたちの練習意識の変化が大きかった。技術面を高めていくことばかりをしてきた俺たちにとってはありがたいことだ。

 

 

 

 

そして、絢瀬が新しく考案したオープンキャンパスでの企画を希と一緒になって考えることになり、いずみさんから指摘されたことを含めて、より具体的なものへと変わることが出来た。早速、それをいずみさんのところに見せに行くと、文句無し、とのお墨付きを頂いたことで企画が通ることになったのだ。

 

企画が通ったことを聞いた絢瀬は、感極まって泣き出しそうになったが、いずみさんの前ではねぇ……ということで、一礼をし退室してから力尽きるまで泣かせたのだった。そりゃあそうだ、今日に至るまで10以上も作ったものを却下され続けてきたんだ。それを我慢し続けてきた絢瀬は本当によく頑張ったよ………

 

 

ちなみに、絢瀬たちを先に退出させた後に、俺はお礼も兼ねて、いずみさんの肩もみを行った。

どういうものかって?それは、第14話の例のマッサージみたいなやつですよ~…………不可抗力でも、絢瀬に本当のことを聞かせちまって泣かせたんだから……いいよね?それに……ちょうど試してみたいツボがありましたからねぇ………覚悟してもらいました☆

 

 

 

 

その時のいずみさんはことりよりもすごい声を出していたけど、それはまた別の機会で…………

 

 

 

 

 

 

そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

――数週間後

 

 

[ 校庭 ]

 

 

 

「カメラ、スピーカー、あとその他諸々の準備は出来ているか!!?」

 

 

『はい!!大丈夫です!!!!』

 

 

「ステージとなるところのラインが曲がっているぞ!!すぐに直すぞ!!!」

 

 

『はい!!!』

 

 

 

ライブも本番当日を迎え、最終調整のために明弘が率いるヒフミ組が校庭をあちこちと走り回っている。なんか、以前に見た時よりも人数が増えているようにもみえるが………

 

絢瀬と希は、現在、来校者に向けてのスピーチを行っている最中だろうな。

上手く言っているといいのだが……

 

 

 

 

 

 

「蒼君、蒼君!!見て見て、ライブできる衣装だよ!!どお?似合ってる?」

「おお!いいじゃないか!!それになんかかっこよくないか!?羨ましい……その上着だけでも着てみたいな!」

「だめだよぉ!蒼君が着れる大きさじゃないでしょ!?」

「確かに………そう考えると、羽織る程度しか………それでも様になるな!!!」

「そ、そうかな………で、でも、蒼君がどうしてもっていうのなら………その……貸してあげてもいいかな……」

「えっ!マジで!!それじゃあ、本番が終わったら貸してくれないか!!」

「うん!!わかったよ!!それじゃあ、みんなのところに戻って本番まで待機しているね!!」

「ああ、絢瀬たちはまだ来ていないからそんなに焦らなくてもいいぞ?」

「わかってるって!!」

 

 

穂乃果はまた走って行ってしまった。

忙しいヤツだな、こう言う時だけは無駄にハキハキ動いてくれるのに、普段があれじゃあなぁ……世話をしている雪穂の苦労が目に浮かびそうだぜ……

 

 

 

 

 

 

 

「蒼一さぁ~ん!!」

 

「ん?」

 

 

 

こちらに近づいてくる2つの影、あれは………噂をすれば何とやらだな………

 

 

 

 

「蒼一さん!お久しぶりです!!」

「久しぶりだな、雪穂。相変わらず元気そうで何よりだ」

「蒼一さんこそ、元気そうで何よりです!」

 

 

穂乃果の妹の雪穂はアイツとは比べ物にならないほどのしっかり者で、成績も優秀で真面目な子だ。ただ、俺以上に穂乃果のことで頭を悩ませている苦労人でもある。そのためなのだろうか、雪穂と話をする時は、穂乃果に対しての苦労話になることが多々あることが………

どれだけ妹を困らせるつもりなのだろうかと、しばしば思うのである。

 

 

 

「宗方さん!お久しぶりです!!」

「おお!亜里沙ちゃんじゃないか!……ん?雪穂と同じ制服ってことは、キミたちは同じ学校なのか?」

「はい、そうです!そして、雪穂は私の親友なんです!!!」

「あ、亜里沙ぁ……大きい声で言わないでよぉ……恥ずかしい………」

 

 

亜里沙ちゃんが何のためらいもなく親友発言をするので、雪穂は顔を真っ赤にして縮こまってしまった。うむ、持つべきものは友と言うからな!それを堂々と語るとは、この子、出来るッ!!

そんな亜里沙の熱き心に感銘を受けていると、ようやく絢瀬たちも到着してきたようだ。こっちもそろそろ準備しないといけないようだな。

 

 

「悪いな、これからあともう少しで本番だから戻るわ。ライブを楽しんでいってくれよ!」

 

 

「「はい!!」」

 

 

2人の元気な声を聞いて、俺は待機場所へと走って行こうとした。

 

 

 

 

「宗方さん!!!」

 

 

亜里沙ちゃんが大声で俺を呼んでいた。

 

 

 

 

「お姉ちゃんをμ’sに入れてくれて、ありがとうございましたぁ!!!!!」

 

 

 

 

「いいってことよ!!!」

 

 

 

右手を高く掲げて亜里沙ちゃんに合図を送りながら走りだした。

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 待機室内 ]

 

 

 

「みんな準備はいいか?」

 

「大丈夫だよっ!」

「いつでも大丈夫です」

「いつでもいけるよ、蒼くん!」

「が、頑張ります!!」

「待ちくたびれちゃったわよ」

「テンション上がるにゃー!!」

「にこはいつでも準備万端にこ♪」

「ウチも大丈夫やで!」

 

「………………」

 

 

「どうした、絢瀬?」

 

 

この中でただ1人だけ何も言わなかったので、俺は心配になった。今回の公演は、絢瀬にとって初めてのライブとなる。それがプレッシャーになっているのか、それとも、自分に自信が持てないのか……緊張して顔が強張っているように見えた。

 

 

そこへ―――――――

 

 

 

 

 

「絵里先輩」

「えっ……」

 

 

 

穂乃果が話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「今緊張しているんですか?」

「……えぇ、少しだけね………」

「そう言う時にですね、いいおまじないがあるんですよ!」

「おまじない………?」

「はい!みんな、円になって隣の人の手を握って!」

 

 

その言葉を合図に、みんなは1つの()を作るように集まった。そして、隣にいる人の手を握り始める。絢瀬も隣にいる希と海未の手を握り始めた。

 

 

「こうしているとね、お互いの温もりや心臓の鼓動、緊張とか、そうしたものを自分が伝えたり、伝わってきたりするんだ。でもね、それが伝わってくると逆に安心しちゃうんだ。自分だけが緊張していると思ったら隣の人もそう感じているんだなって、お互いに気持ちを共有し合っているような感じ……なんていうか……そう、みんなの気持ちが1つになっている気がするのが、なんだか心地よく感じるんだ。だから、感じてください。私の気持ちとみんなの気持ちを!」

「みんなの………気持ち………!」

 

 

みんなを見て見ると、確かに緊張しているような顔ばかりが揃っていた。講堂でのライブとPV撮影を乗り越えてきた穂乃果たちでさえも、そんな顔をしていた。

 

 

だが、隣の人の手を握り、深呼吸をした後の穂乃果たちは何だか嬉しそうだった。穂乃果の言う、みんなの気持ちを感じ取ったのだろうか、安心した顔で周りを見渡していた。すると、その顔につられたかのように次々と嬉しそうな顔をするようになっていくメンバーたち。

 

そして、絢瀬も緊張がほぐれて嬉しそうな顔をするようになった。

 

 

 

「どうですか?」

「そうね、大分落ち着いてきたようだわ」

「えへへ、よかった。……あ!そうだ!!」

「どうしたの穂乃果ちゃん?」

「折角、みんな円になっているんだから、あれをやろうよ!」

 

「「「「「「「「あれ????????」」」」」」」」」

 

「えーっと……あれだよ、円の中心に手を重ねるあれ!」

 

 

みんな穂乃果が言いたいとしていることに気が付き、納得した表情を見せる。

 

 

 

「それじゃあ、みんないくよぉ~………」

 

 

 

穂乃果が中心に手を出すと、その上にいくつもの手が重なり合った。そして、掛け声が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんて言えばいいんだっけ?」

 

 

……って、なんでだよ!!!俺と同じツッコミがメンバーの中でも湧き起こったことだろう……

 

 

 

「考えていなかったのですか!?」

「いやぁ~、思いついたばかりだったから、その後のことは考えていなかったよ」

「はぁ……また思いつきだったのですか……」

「う~ん……蒼君、何かないかなぁ?」

「そこで俺に振るのかよ!!」

 

 

 

とは言っても、何があるのだろうか………レッツゴ―!とか、ファイトオー!みたいな典型的なものは締まらないからなぁ………グループ名から何かないかなぁ………確か、μ’sはmusicの語源だったから………俺たちの活動も音楽関係だし………そのまんまでいいか。

 

 

 

「μ’s,Music start!!!が無難でいいんじゃね?」

 

 

『おお――!!』

 

 

「蒼君!それだよ!!それがいいよ!!」

「そうか、お前たちがそれでいいって言うのであればそれでいいと思うぜ?」

「うん!それじゃあ、さっそく使わせてもらうよ…………!」

 

 

穂乃果たちは一回深呼吸をしてから、重ねあった手を見つめた。

 

 

 

 

そして――――――――――

 

 

 

 

 

「いくよ!!!

 

 

 

 

ミュ―――――――――――――――――ズ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミュージック、スタート!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新生μ’sのファーストライブが今、開幕した――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 






どうも、うp主です。


今回で終わると言ったな、あれは嘘だ。

〔デェェェェェェェェェェェェェン!!!〕


ただ単に、最後まで書ききれなかっただけの話さ。次回が本当の第1章の最終話になりそうです。


そして、絢瀬編第13話です。


次回はちゃんと終わってくれよ?



今回の曲は、


PUFFY/『はじまりのうた』


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