蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第58話





離せぬ絆

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

「……そう…………いち……………?」

「起きたか………全く、心配させるんじゃねぇよ………」

 

 

 

 

 

 

 

私の右手を強く握りしめていたのは、誰でもない蒼一だった。

 

 

 

 

 

 

私はベッドの上で横になっていて、さっきまでずっと眠っていたようだ。

 

 

 

 

 

「ここは………?」

「学校の保健室だ。すまないな、病院に行かせたかったが、事を荒立てたくなかったからここにしたんだ。だが安心しろ、目立ったケガはないそうだ」

 

 

 

見渡すと見覚えのあるものが部屋のあちこちにあった。私の左隣には、カーテンが敷かれていて隣の様子が見ることができなかったが、確かにここは保健室なんだわ。

 

 

 

 

 

 

「……そう…………でも、どうして私はここに…………?何かあったの…………?」

「覚えていないのか………?お前はトラックに轢かれかけていたんだぞ………?」

「トラックに………?…………轢かれる……………?………あ………あぁ……………」

 

 

 

 

思い出した………あの時、家に帰ろうとして学校を出て横断歩道を渡ろうとしたんだわ…………

けど、渡り終える途中でトラックがやって来て…………クラクションが鳴り響いて………………

 

それが怖くて…………立ちすくんじゃって…………………それで……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の情景がフラッシュバックして甦って来た……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……ああぁ………うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!来ないで!!!来ないでぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

轢かれる………!!轢かれちゃう…………!!!………やだ………やだ…………!!!

死にたくない…………私はまだ死にたくない…………!!!

 

 

 

 

全身の毛が逆立つような恐怖が私を包んだ。

 

 

 

 

逃げたい………!!でも、体が動かない………………動いて…………動いてよ………!!!!

 

 

 

 

頭では、動けと言う指示が出ていても、目の前にある恐怖に全身が強張ってしまい動くことが

叶わなかった………

 

 

 

 

 

 

 

誰か………誰か助けて…………お願い………………私を助けて!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぐいっ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えっ………?」

 

 

 

 

蒼一が私の手を強く引っ張り、体を起き上がらせた………そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぎゅっ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………優しく抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、私を覆っていた恐怖が自然と過ぎ去り、落ち着きが戻って来た。

 

 

 

 

 

 

「エリチカ、俺の声が聞こえるか?」

 

 

 

 

 

蒼一がそう囁いてくれたので、私は2言返事をした。

 

 

そうしたら、そうか、と蒼一も相槌を打ってきて、私の背中をさすってくれた。

 

 

蒼一の温かい手が背中を上下に流れるように動くと、その度に気持ちが穏やかになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(とくん………)

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ……なにかしら、この気持ちは……?

穏やかになるにつれて、温かくも苦しくなっていくこの気持ちは一体何なの………?

それも段々と強くなっていく……………!!

 

 

 

 

 

 

私は苦しくなっていく気持ちを抑えるために、体の上にかけられていた布団を握った。

 

 

けど、それだけではこの気持ちを抑えることができなかった………

 

 

 

私は布団から手を放して、蒼一の体に手を回した。

 

背中のところまで伸ばしてから両腕を交わらせた……………

 

 

 

 

そして、私も蒼一のことを抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

抱き締めると自然と苦しさが和らいでいくのを感じた………

少し強く抱き締めると、もっと和らいでいった………

 

 

 

なんなの……この気持ちは…………こんな気持ちになるのは初めて…………苦しい…………

苦しいけど……………嬉しい………

 

 

 

 

 

わからない…………この複雑な気持ちの意味がなんなのかがわからない…………

まだ、私の知らないことがたくさんある…………蒼一、あなたはそう言いたいの?

 

 

 

 

 

 

 

「蒼一………ごめんなさい……………私は…………蒼一のことを………ずっと……………

避けて………それで………」

 

 

気持ちが落ち着いても声はまだ震えたままだった。私の話したいことがはっきりとしない………

私は、再会してからのこれまで蒼一にやってきたことのすべてを謝りたかった………厳しく接したのに、こうして優しく接してくれるあなたに申し訳ない気持ちがいっぱいだった…………

 

 

だから…………だから私は…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やっと、その名で呼んでくれたな…………」

「えっ………?」

 

 

 

蒼一の腕の力が抜けることが感じられると、私も同じように腕の力を抜いて手を放した。

そして、蒼一が顔と私の顔が向き合わせになった。

 

 

その時の蒼一は、なんて嬉しそうな顔をしていたんだろう…………優しく微笑んでいて、見ただけでどきっとしてしまう。

 

 

 

 

 

 

その顔には、涙が流れていた…………

 

 

その涙を見ると、次第に私も涙が流れ出てきた…………

 

 

 

すると、蒼一は腕を横に大きく広げて言った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり…………俺の友達(わがとも)、エリチカ……………」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いただけで、涙があふれて止まらなかった…………

 

蒼一の表情と態度、そして、その言葉が私を受け入れてくれているのだと感じたから…………

 

 

 

 

 

 

 

「………ただいま…………蒼一………!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

私はそれに答えるように蒼一の腕の中に飛び込んだ。蒼一は私をしっかりと掴んで、また優しく抱きしめてくれた………私はその腕の中でたくさん泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた…………

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

「………ひっく………ひっく……………」

 

 

私はまだ、すすり泣き続けていた。

 

ずっと泣いていたためか、声が出にくくなり、気力も減っていた。これが泣きつかれると言うものなのね…………でも、疲れると言うより、とてもいい気分だわ。こうやって泣いたのはいつ以来だったかしら………?廃校の話を聞いた時から無駄な感情の一切を捨て去っていた。

多分その時から何だろう…………

 

 

 

 

 

どうして私は感情を押し殺すことをしてしまっていたんだろう…………

 

 

今思えば、なんて無駄な事だったのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリチカ」

 

 

 

蒼一がそう囁いたので顔を上げてその顔を見つめる。さっきと変わらない優しい顔が私を見つめ続けていた。

 

 

 

「エリチカ、お前にはまだやらなければいけないことがあるだろ?」

 

 

私がやらなければいけないこと?

 

 

それが何であるかを考えると、すぐに思い浮かべることがあった。

 

 

 

 

 

 

「のぞ………み……………」

 

 

 

 

 

私はあの時に、酷い言葉をかけて希を責め立てた。まったく無関係だったのにも関わらず、私はありもしないことをいくつも並べて罵倒し続けた。そして、終いには…………希のことを……………

 

 

 

 

 

「だめ………だめよ………私は希に酷いことをしたのよ………絶交するとまで言ったのよ………

そんな私を希は赦してはくれないわよ…………」

 

 

 

そう思うと震えが止まらなかった。ずっと私を支えてくれた親友を私はいとも容易く突き放したのだから、希は私に対して怨んでいるかもしれない………私はそんな姿をした希を見ることがとても怖かった。

 

 

 

 

「エリチカ、お前は希のことを少し勘違いしているんじゃないのか?」

「勘………違い………?」

 

 

 

 

蒼一が語りだした言葉に私は、どうしてそのように言えるのか、と言った疑問を抱いた。

 

 

 

蒼一は言葉を続けた。

 

 

「元々、親が転勤族だったからアイツは俺以外の友達をずっとつくることができなかったんだ。そんな時に出会ったのが、エリチカ、お前だったのさ」

「私が?」

「あぁ、この学校に入って初めてできた親友なんだとよ。それに、アイツはよくお前のことを話していたよ」

「希が私のことを?」

「ウチの友達は最高の友達だって。ウチにお金も何も残らなくても、お前と俺がいれば大丈夫だってさ」

「!!」

「さすがに、最後の方は大げさすぎるかもしれないが、希にとってお前と言う存在は、すでにかけがえの無い、唯一無二のものになっているんだ。アイツにとっての宝物をそう簡単に手放すことはしないさ」

「私が……希の宝物………なの?」

「そうなんだとよ。しかも、俺もその中の一つに挙げられているそうだが、正直、アイツと関わると面倒な事が多くて困るけどな……………けどよ、それだけ人に大切に思われるってのはさ、嬉しいことだと思う。お前もそう思うだろ?」

「………え、えぇ…………」

「アイツはそんなふうにお前のことを思ってくれているのさ、だから、信じな。アイツがお前のことを赦してくれるって…………」

「………そんなの……わからないわよ………」

 

 

 

蒼一にそんなふうに言われても、私はまだ信じられなかった。それほどまでに、私は自分の犯してしまった過ちに後悔していたのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、蒼一は抱き締めていた手を放して、私を元の状態に座らせた。そして、右手を差し出してこう言った。

 

 

 

「握手してみな」

 

 

突然のことに驚いた。どうしてここで握手をしなければならないのかがわからなかった。けど、言うとおりに、その手を握り締めた。

 

 

「それじゃあ、手を放してみな」

「えっ?」

 

 

またしても、不可解な事を口に出してきたので、思わず気持ちが口に出てしまった。それでも、言うとおりに手の力を緩めて放そうとした………………

 

 

 

…………だが、放れなかった。

 

 

蒼一が強く握るので私は手を放すことができなかった。

 

 

 

すると、蒼一はこんな話をし始めた。

 

 

 

「不思議だろ?

片方が手を放そうとしても、もう片方が放すことをしなければ、この握手を解くことができない。

絆も同じものさ。

お互いに思い合うことで絆ってものは生まれるものなんだ。

しかも、片方が離れたいと思っても、もう片方が一緒にいたいと思うと、その絆は壊れないままなんだ。

そんな中でも、お前と希が結んだ絆はどんな絆よりも強い。

どんなに雨風にさらされようが、どんなに周りからの圧力を受けようが、錆びることも砕けることもしない立派な鉄の綱で結ばれた関係だ。

片方が離れていなくなりそうになっても、もう片方が引っ張って元の場所に戻してくれるんだ。

 

 

そして今も、離れてしまった片方を元の場所に戻そうと必死に綱を引き続けているんだ…」

 

 

 

 

そう言うと、蒼一は手を放して、今度は私の左手を取って、隣のカーテンの向こうに手を突き出させた。

 

 

 

 

 

 

すると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ガシッ)

 

 

 

 

 

 

 

 

カーテンの向こうで誰かが私の手を握った………!

 

 

 

 

 

 

 

「お前のことが大切で、好きで、愛おしく思ってくれているヤツがお前を引き戻そうとしているんだ。お前もそれに答えて、力一杯引いてやんな…………」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

まさか…………まさか、そんな…………

 

 

 

 

 

 

複雑な思いで握りしめたその手を私は強く握りしめて、力一杯、引いた。

 

 

 

 

 

そして、カーテンから出てきたのは…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待っとったで………………えりち………」

 

 

 

 

あぁ………ああぁ…………希…………私の…………私の大切な…………大切な希………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………希ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

私は力一杯、引っ張ったその勢いで希を抱き締めた…………

 

 

腕の力をいっぱいいっぱい振り絞って、ぎゅっと抱きしめた…………

 

 

希も応えるように強く抱き締めた…………

 

 

 

 

 

もう決して離れることが無いくらい、いっぱいいっぱい抱き締めた……………!!

 

 

 

 

 

 

 

「………ごめんなさい!!!…………私は………希を傷つけるつもりはなかったの!!…………でも……でも、私は希を傷つけちゃった!!………私の大好きな希を傷つけちゃったの!!…………赦して希!!!!」

 

「ううん、ウチやって…………ウチやって、ごめんな!!………傷ついたえりちを助けることが出来なくって………ずっと隣にいたのに何もしてあげられへんかった!!…………ウチこそ、勘忍してや!!………何も出来へんかったウチを勘忍してぇや!!!!」

 

 

 

私たちは2人して泣き叫んだ。

もう涙は出ないものと思っていたのに、希を感じたら、涙があふれんばかりに止まることを知らずに流れ出した。そして、涙を流し終えると、互いに向き合った。

 

 

 

 

「………希………私はあなたのことを何一つ怨んでいないわ………私は希を赦すわ……

…だから………」

 

 

「…………ウチもやで………えりち………ウチは何も怨んどらんよ………ウチも赦すで……

…せやから………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ずっと、私(ウチ)の親友でいてね(や)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙を流す2人の顔には喜びがあふれていた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ジジジ……ザ…………ザザ――――――――――――――――――――ザッザッ!!!!!!〉

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。


絢瀬編 第12話でした。


いろいろあったけど、ようやくここまで来ることが出来たわ………………当初の予定より、一回りも二回りも多い文章量となってしまった、この第1章。



次回で、最後になれそうです!!



頑張って、書きますのでよろしくです。。。。。


今回の曲は

アニメ『円盤皇女ワるきゅーレ』より

メロキュア/『Agape』

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