第57話
【プロローグ】
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は絢瀬を抱えながら地面を蹴り飛ばして駆け出した…………
(キィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
トラックのブレーキ音が学校周辺を響き渡らした……………
「ぐぅぅ!!!!………ぐはっ……!!………はぁ…………はぁ…………はぁ…………」
俺は生きていた…………
間一髪のところで、反対側の歩道に辿りつくことができたのだ!俺は運命に抗い勝つことができたのだ!!!やった………やったぞ…………俺はやってのけたぞ!!!!!!!
「う、うぅ………………」
「絢瀬!!」
抱えていた絢瀬に精気が取り戻されていき、俺のことを気が付いたようだった。
「………うぅ………そ……そう…………いち……………」
「そうだ!俺だ!!俺はここにいるぞ!!!」
「……そう…………いち……………ごめん…………なさい……………ごめん…………なさい……………」
「いい、今はそんなことはどうでもいい……今はまず休め………」
「………うん…………」
絢瀬は静かに目を閉じ眠りについた。その顔には安堵の様子が見られ、よく眠っていた。
「………ぐふっ…………がはっ………!!」
急に体中が痛み出した。さっきの無茶がここで出てしまうことになるとは………
まだまだ、修行不足だな………
「蒼一!!!!」
「蒼君!!!!」
希たちもようやく追い付くことができたようだ………
「蒼一!!大丈夫なん?!」
「ああ………見ての通りだ……絢瀬も無事だぞ………」
「………よかったぁ…………ほんまに……よかったぁ…………」
希は絢瀬の顔に触れて無事であることを確認すると、泣き出しそうな顔をしていた。
「蒼君!!さっき、急に早く走りだしてたけど、アレは何!?」
「あぁ………そのことなんだが……………」
あっ…………これはまずいかな……………………
体が痛みに耐えられなくなり、俺は姿勢を崩さずにはいられなかった。だが、絢瀬を抱えたまま倒れるわけにはいかなかった………俺は今持ち合わせている最後の力を振り絞った。抱えたまま膝をついて、そのまま、絢瀬を歩道の上に下ろした。
「希………穂乃果…………絢瀬と………俺を………休める場所に…………………」
俺の記憶はここまでしかなかった。このあとで、何がどうなっていったのか、その詳細を俺は知らない。すべては、ここにいる2人に任せることにした…………
―
――
―――
――――
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……………ん?……………ここは…………どこかしら?……………私は確か…………新しく作った企画を見せに理事長室のところまで来て………………それで…………
………ああぁぁううぅっ!!?…………頭が……痛い………!!私は………何を……………
…………思い…………出した……………私の企画は理事長に否定されたんだわ………何を書いてもダメだって………魅力が無いって言われて…………私のすべてが否定されたかのように思えて………それで………関係のない希に八つ当たりしちゃって……………………
ごめんなさい……………ごめんなさい……………希………………
私って、本当にバカな女だわ……………自分の親友をそんなふうに思うなんて………最低よ………きっと、希は私のことを赦してくれないわ………こんな最低な私を赦してくれないわ…………
『おい!このバカ!!いつまで間違った考えをウダウダと引きずっているんだよ!!!』
……………えっ?
男の子の声が聞こえた……………どこからかわからないが突然聞こえてきたの………誰?………誰なの??
『うぅ~………ば、バカって言う方がバカなのよ!!!』
今度は女の子の声が聞こえた……………でも、聞き覚えのある声だわ…………
そうだとしたら、これって………もしかして……………
『間違った考えで、ずっとやり続けようとしているエリチカのことをバカって言って何が悪いんだよ!!大体、お前と言うヤツはいっつも自分の考えを中心にして行動しやがるんだ!!いい加減、周りのヤツのことを考えろってんだ、このバカチカ!!』
『バカチカじゃないもん!エリチカだもん!!!うわあああぁぁぁぁぁん!!!!!!』
あぁ………これは………私なんだ……………あの小さい女の子は私なんだ………小学校の頃の私………それじゃあ、あそこにいる男の子はもしかして……………!!
『はぁ………駄々こねるんじゃねぇよ…………ほら、手を貸しな。今からスーパーに行ってアイスを買うから泣き止めよ………』
『アイス!!やったぁ!!私、アイスだぁ~いすき!!!』
『小学5年生の発言とは思えない、威厳も賢さも無いヤツだな……………』
『えへへ♪早く行こうよ、蒼一!!』
『……って、お前が先に行くのかよ!!それと腕を引っ張るな!!この体勢はまずいぃぃぃ!!』
そう………そうよ…………あの子が蒼一…………私が日本に来て初めて出会った………私の
………でも、来る日も来る日も何をやっても蒼一に勝つことが出来なかった…………
テストもスポーツも人付き合いも家事のことすら、何を取っても勝てる隙間も無かった。
そんなことを続けていると、いつもムシャクシャしてしまっていて……………
そんなある日のことだった………
中学生になった時、私はクラスの学級委員として文化祭の出し物を決めていた。中学の出し物と言っても、食べ物を扱うものは出来なかったので、縁日ものか、演劇をやることになっていた。私たちのところは演劇をやることに決まっていたけど、題材は何にしようかと決めかねていた。クラスからは何も意見が出てこなかったので、私はみんながよく知る童話を用いたものをやろうと提案した。
でも……………それまで何も意見しなかった人たちから反対の声が上がった。その理由は、ただ単におもしろくないからだと言う。けど、反対の声しか言わず、代案を出す人は誰1人としていなかった。そんなクラスの現状に私は腹を立てた。
私は、『見に来てくれる観客や演じる私たちにとって、わかりやすい題材を持って来たのよ!!それだのに、ただおもしろくないの一言で切り捨てるなんて酷いわよ!!私はみんなのことを考えてやっているのに!!!!!』
いつも抱いていたムシャクシャしていた気持ちや自分の思い通りに行かないことに怒りを覚えてこう叫んでしまった。けど、私がそう言っても何の反応も無かった…………
冷たい視線だけが私に降り注がれるだけだった……………私だけが悪者のような扱いとなり、クラスから孤立してしまったかのように思えた………
そんな時だった………
『キャーキャー、ワーワー何ですかいここは?猿の惑星か?』
私の教室がうるさくって、隣の自分たち上級生の教室にまで響いているからやめてくれ、と言うためにわざわざやって来たのだった。この時、蒼一も学級委員としてクラスの切り盛りをしていた。
すると蒼一は、私たちのクラスから淀んでいる空気が出ている、と言って状況の説明を私に求めてきた。私は事の次第を話し終えると、教壇の前に立ってクラス全員に怒号を飛ばした。
『お前たちさ、ワーキャー言うことしかできねぇんなら家畜だぞ?家畜はな、人に飼われるもんなんだから、意見をちゃんと言う人間の言うことをちゃんと聞きやがれ!!文句のあるヤツは人間になってから言え!!ワーキャー言う暇があるんなら、さっさと人間の言葉をしゃべろ!!!』
そう言い放つと、一筋の電流がクラス全体を駆け抜けた。上級生からの言葉と言うだけで委縮してしまうのだが、まさか、叱りつけられるとは誰もが想像もしていなかったため、クラス全体が激しく動揺した。私も隣で聞いていて身震いしていた。これまで、ずっと近くで見ていたが、ここまで怒りをあらわにした蒼一を見るのは初めてだった………
クラスが静まりかえる中、蒼一は口を開いて今度は違ったことを話してきた。
『お前たちは一体何がやりたいんだ?友情ものか?純愛ものか?それとも、コメディか?』
蒼一は、私のクラスで行う出し物の話し合いを始めた。無関係なはずなのに、さっきまで怒号を飛ばしていたはずなのに、どうしてクラスの陣頭に立っているのか、わからなかった。
けど、今の私にはクラスをまとめ上げる力が無いことを思い示されたばかりで、口をはさむことは出来なかった。
蒼一が質問を投げかけ始めたことで、ようやく意見を述べる人が出てくるようになった。蒼一は、意見を述べた1人1人の内容を聞くだけでなく、その人の名前までも聞いていた。そして、意見が揃い始めるとまとめ上げて1つの提案を持ちかけた。しかも、その際に誰の意見を参考にしたのかを1人1人の名前を挙げ、また、意見を述べてくれた人たちに感謝の言葉を与えていたのだ。
それは、蒼一がこの短い間でクラスの人たちの心を掴もうとしていた姿だった。
出来っこないことだと思っていた私は呆れていたが、彼は真剣だった。
その結果、クラスの視線は蒼一に集中していて、話に耳を傾けていた。蒼一はクラスの心を掴みとることが出来たのだった。その時、私がこのクラスを任されてから一度も見たことのない目を私は見た。その目には、何かを期待するようなそんな気持ちがあふれ出ているかのようだった。
この時、私は蒼一には敵わないと感じてしまった。
私に足りないもの、学力・体力・名声、それらすべてを蒼一は手に入れていた。どんなに頑張っても、どんなにもがいても、私は蒼一の前に立つことも、並ぶことすらできない…………
とても悔しく思った…………
蒼一は、自分の提案を述べ終えると、後は私に任せて自分の教室に戻ろうとしていた。
その帰り際に、最後に一言だけ話した。
『このクラスはお前たちのクラスだ。優秀になろうが、落ちこぼれになろうが、すべてお前たちにかかっているんだ。さっきまで、お前たちのクラスは落ちこぼれになりかけていた。だが、お前たちが不快に思っているだろう絢瀬のおかげでならずに済んでいたんだ。感謝するなら俺じゃねぇ、絢瀬にすることだな。なぜなら、お前たちのクラスが優秀なクラスになれる一歩を踏ませてくれたんだからよ………』
そう言って、蒼一はその場を立ち去った。
そして、私が教壇に立ち戻って話を続けようとした時、私に反対していた人たちが頭を下げて謝って来た。そして、クラス全員が私に感謝の言葉を与えてくれたのだった。
さっきまでとは全く逆の対応を示されて、感極まって泣き出しそうになった。けど、まだ泣くわけにはいかなかった、蒼一が残してくれたものを開花させるためには私が前に立っていかなければならなかったのだから…………………
その後、蒼一が提案してくれた演目はクラス内で好評となり、積極的に練習に取り組もうとする人たちがたくさん出てきてくれ、出来の良い作品となった。そのおかげで文化祭当日には、学校の目玉演目として紹介され、どの学年、クラスよりも多くの人に指示されるものとなったのだった。
それは蒼一が話したように、私たちのクラスは優秀なクラスとなった瞬間だった。
後日、私は蒼一にお礼を言いに会いに行った。
その時に、何故、私のクラスの話し合いに入って来て、まとめ役まで引き受けたのかを聞いてみたことがあった。その時、蒼一はこう言っていた。
『特に意味なんて無かった。単に、荒れているお前のクラスをまとめ上げることができたら、これほどおもしろいことはないと思っただけさ』
この言葉を聞いた時、私は呆れて何も言えなかった。単に、おもしろそうだったからという無茶苦茶な考えで怒号を飛ばして、意見を聞いて、まとめ上げて1つのものを作り上げるという、破天荒なことをやってのけたのだから私は空いた口をふさぐことができなかった。
『エリチカ、お前はまだまだ甘過ぎる。あんなクラスをまとめ上げられないなんて、俺には到底追いつけねぇぞ?』
『な、何よ!?私だってもっと頑張ればやれると思っているんだから!!』
『ふはははは!!!お固いお前が頑張ったら、もっとカッチカチな頭になって誰もついてこないぞ!!』
『お固い言うな!!むぅ~………だったら、私はスポンジみたいに柔らかい蒼一の頭を見ていれば、柔らかくなれるわよ!!』
『バ~カ、んなもんになれるわけねぇだろ』
『またバカって言ったぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!』
『いいか?俺をずっと見ていても俺になれると思うなよ?お前はどうやってもお前にしかならないんだからな。やるんだったら、まず、気持ちを変えるところからするんだな!』
『気持ち?何て思えばいいのよ?』
『とっても簡単な事さ、それは………………おもしろいと思うことさ!』
『えっ!?なにそれ!!?それだけで変われるの?』
『当り前さ、おもしろいと言う楽観的な思考が頭の回転を良くしてくれるし、なにせ、自分自身が楽しくって仕方が無い!自分の中に、どんどん知識と技術を取り込んで色々なものを創り上げる!これほど充実人生を送ることできる方法は滅多にないぜ!!』
『本当かしら…………』
『まあ、やってみないとわからねぇことだな。だが、言えることはただ1つ!!
おもしろいからやる!ただそれだけで変われるのさ!』
蒼一は高笑いをしながらそう言い放ったのだった。
おもしろいからやる………ふふっ、ほんと、おもしろい人だわ…………
それからの私は出来るだけ楽しく思いながら学校生活を送っていた。蒼一が卒業してからも私はずっとあの言葉を思い出しながらあらゆることに努力し続けていくことができたのだった。
しかし、私の中で変化が起こり始めたのはそんな時期からだった………………
この時、幼い頃から続けてきたバレエのコンクールが私の母国のロシアで行われることになったのだ。そこで優勝すれば私は念願のバレリーナになるための登竜門をなる学校に入学することができる。出来なければ、その道を絶たれることになる………私にとっては最後のチャンスだった。
自信を持って挑んだその結果は…………
……………入賞だった……………
私はバレリーナになる道を永久に閉ざされてしまったのだった……………
失望の淵に陥っていた時に、私のおばあさまが、自身の母校である音ノ木坂に通わないかと尋ねてきた。大好きなおばあさまが通っていた学校が私の住んでいるところの近くにある!それを聞いただけで晴れやかな気分が戻って来た。ただ、もう夢に向かうことができないと思うと少し哀しい気持ちは残っていた………
私は中学を卒業すると音ノ木坂へ進学した。
中学の知り合いがほとんどいないという0からのスタートに心を弾ませていた。学校生活は人付き合いを良くする方になり、いろいろな人と話をする機会が多くなった。
そんな時、私は1人の女子生徒に出会った。
そう、東條 希。私の唯一の親友になってくれた大切な人。
私は希とよくいることが多くなった。彼女と話していると気持ちが楽になる、希が言うには、それはスピリチュアルな力が働いているからだと言っていたが、とても胡散臭さを感じていた。けど、そんな力のおかげで楽しくなっていたのは間違いなかった。
ある日………いつものように学校に登校するとこんなことを聞かされることになった………
音ノ木坂が廃校になる――――――――
それを聞いた瞬間、私の中で何かが崩れていくのを感じた。
大好きなおばあさまの学校が無くなる?………私を大切に育ててくれたおばあさまの学校が無くなる………
………そんなの……………そんなの……
…………絶対に許さないわ………………
この日を境に、私は心を鬼にしてどうにかならないか試行錯誤をするようになった。
まずは生徒会に入り、学校または地域の様々な取り組みに参加して宣伝を行うことをした。様々な企画を校長や理事長にお願いして行ってもらえるようにお願いした。廃校にあると言う危機感を全校生徒に自覚してもらうための活動も行った。
ありとあらゆる手段を講じて乗り越えて行こうとした……………
………けど、今年の初めに通知されたあの書類を見て、私は愕然とした。
私がやって来たことは………?取り組んできたことは………?すべて、無駄だったって言うの?どうして………どうしてなのよ!!!!私なりに楽しくやりながら取り組んできたつもりなのよ!!それなのにどうして変わってくれなかったのよ!!!!どうしてよ!!!どうしてなのよ!!!!!!
…………答えてよ…………………蒼一…………………
手を伸ばしても、あの人の服にすら触れることができない………
叫んでも、あの人は振り向いてくれない…………
苦しんでいても、見ていてくれない…………………
だから、私はあの人のことを捨て去ろうとした……………
届かないものを追い求めようとしても意味が無いと感じたから………………
でも…………でも、私は…………私は今、蒼一が必要なの………
………せめて………せめてものお願いよ…………!
この手を掴んで………!
理不尽なお願いだってわかってる………!
あなたを意図的に避けて、突き放したこともよくわかってる…………!!
それでも………私には蒼一が必要なの……………!!
私の
だからお願い………………強く握りしめて………そして、離さないで…………
…………………蒼一……………!!
(ぎゅっ……)
「俺はここにいるぞ、エリチカ………」
目を開くと、私の手を強く握りしめている蒼一がそこにいた…………
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
ようやく辛い山場を乗り越えることが出来て本当によかった!!!
ぶっちゃけ、自分で書いてて辛かった!!!
そんな、絢瀬編第11話でした。
予定では、あと、2、3話で終わることになります。
って、あれ?それって、60話になるってこと!?
………………うそ…………だろ……………?!
もう、そんなに書いちゃったのぉぉぉ!?
というか、気付かなかったけど………お気に入り登録してくれている人が30件以上!?
あ、ありがとうございますぅぅぅ!!!!!!!!
今後も頑張りますので、よろしくお願いいたします!!!!
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない