第54話
【プロローグ】
「理事長がウチに話したいことがあるん?」
帰りの学活の時に担任の先生からそんなことを言われたんよ。何やろうな~?ウチ、何か理事長に悪いことでもしたんかなぁ~?新学期から今日に至るまでの出来事を振り返ってみても、特に問題になるような事はしとらんはずなんやけど…………
しゃあなしやな、行ってみいひんとわからんわな。
早よ終わらせて、生徒会の残りの仕事を終わらせんとな。
ウチはカバンを背負って理事長室に向かう。
ウチの教室からそんなに離れとらんからすぐに着いたわ。
う~ん……理事長と話す時はこの口調はアカンよなぁ………
(コンコン)
「3年の東條 希です」
『どうぞ、お入りなさい』
(ガチャ)
「失礼します」
「東條さん、良く来てくださいました」
「いえいえ、理事長からのお誘いを生徒会の人間が断るわけにはいきませんから。それで、お話しと言うのは何でしょうか?」
「それなんですけども、生徒会のことについてなのですが…………」
―
――
―――
――――
[ 屋上 ]
「胴体を地面と平行になるように倒しながら片足だけで立った状態を保ち続けて!!」
『は、はい!!!!』
私が練習に参加し始めてから、もう3日になる。
昨日のこともあり、今日はやりたくないと思っていたけど、彼女たちが私の教室にまでやって来て頼みこんできたため、私はそれを無下にすることが出来ず了承してしまった。
はぁ………私もつくづくバカな女ね……………人に頼まれると、嫌な事でもやらなければと思ってしまいやろうとする。そして、自分が完璧だと思ったことすらも周りから見れば紙切れのようなものでしかない…………そう頭では理解していても、その事実だけはどうしても認めたくなかった。認めてしまえば、私の……今までの人生は灰塵と化っしてしまう…………本当に意味の無いものになってしまうのだから……………
「どうした、絢瀬?顔色が優れないぞ??」
思いを巡らし続けていた私の頭の中に、そu……先輩の声が響いた。
気が付くと、先輩の顔が目の前にあった。目と鼻の先というのはまさにこのことなのかもしれなかった。先輩の燃えるような情熱の瞳が私の目を見て話しかけてきている…………だめ……………今の私では、あの情熱に立ち向かうことは出来ない…………
「な、なんでもないです………気のせいじゃないですか?」
私は最早、背けることしかできないこの顔を彼女たちの方に向けさせるようにして逃れた。もう自分に自信が無くなってしまっているかのようだった…………
「絢瀬先輩!練習、やり終えましたよ!!」
いつの間にか、高坂さんたちは私の出した練習メニューを息を切らしながらもやり通した。
驚いたことに、2日続けてバテて座り込んでしまっていた小泉さんも疲れた表情を見せつつもやり遂げていたのだ。
「苦しくないの?難しいなら、もうおしまいにしなさい」
「いいえ!終わりません!!私たちはまだまだいけます!!!」
高坂さんはそう言い切ると、他の子たちもそれに同調するかのように頷いた。
ふと、私は不思議に思った。
何故、彼女たちはここまで頑張ろうとするのか?自分の力量を知りながらも、何故、無謀な事に挑戦していこうとしていくのかを。
今の私では、計り知れない考えがあるのだと感じた私は聞いてみた。
「どうして、あなたたちはそこまでしてやろうと思っているの?」
「やりたいからです!」
私の質問に対して、高坂さんはきっぱりと簡単そうに答えた。けど、その表情は真剣さがあり、自信と勇気とで覆われていた。
「やり続けてもうまく行かなくなってしまうかもしれないのよ?それに毎日無理して、激しい運動をするなんて、ただ体を痛めつけることにしかならないわよ」
「それはやってみなければわかりません!私たちはまだ、ちゃんとしたライブを行ってはいませんが、うまく行くように感じます!確かに、毎朝早く起きて、練習をして体中のあちこちがとても痛い……今でも痛いところが何か所もあります。でも!それでも、毎日こうやってみんなと練習していくことで、自分が変わって行っていることが実感できるんです!少しずつ変わっていくことで、いつかは大きなことを変える力になれると信じて、私は……いえ、私たちは頑張り続けるんです!!!!」
力強い言葉が雲1つない青空に木魂した。
やりたいだけ……そんな気持ちが彼女たちをここまで強く押しているの?
痛みで辛い体に鞭を打ってでも頑張ろうとする気持ちは、そんな簡単な事で動いてしまうものなの?
『
ふと、誰かの声が聞こえたような気がした。
振り向いてみると、そこには先輩と滝さんの2人しかいなかった。男の人の声だったからどちらかと思ったが、話したような素振りも気配も無かった。けど、この言葉は前にも聞いたことが……
………あっ!!
私は先輩をもう一度見た。
腕を組み、仁王立ちで立ち尽くしているその姿は
「はっ………!!」
私の中にある閃きが走って行った。
それは今まで考えもしなかったこと……とても単純な事だった…………
「ごめんなさい高坂さん、私、やらなければいけないことがあるから、これでおしまいにするわ………」
「えっ……?」
「明日またここに来るから、その時までちゃんと体を整えておきなさい!」
「は、はいっ!!!」
私は荷物を片手にそのまま走り去ろうとした。
その去り際に、先輩の横を通り抜けようとした時………………
「ありがとう…………
そう言い残して、その場を走り去った。
―
――
―――
――――
「はぁ………はぁ…………はぁ……………」
私は屋上から生徒会室までの道のりを走り抜けていた。
普段は、走っている生徒を取り締まる側にある私がこんなことをしては示しが付かないと感じているけど、今だけは見逃してもらいたい………この考えだけは、早く書き留めておきたかった…………これが私が考えた最高の企画なのだと感じられるものなのだから…………
(バンッ!!)
生徒会室のドアを強く開けて中に入って荷物を置き、私の机の上に置いておいた昨日の書類を手にした。
すぐに、その書類の中にある不必要な点を削除し始める。次第に、書類の至るところが黒インクペンによって黒く染め上がり、元々、どういうものだったのかが自分でも理解することができないほどになってしまっていた。
そして残った言葉に、新たに付け足していく言葉を選び出して書き出していく。
スピーチ原稿と企画内容の書類を合わせたら10枚近くあったものが、たった、2枚になってしまった。だが、この2枚の中に私が伝えたいことが詰まっている。
亜里沙…………これが私のやりたいことよ……………だから、見守っててね………………
私は作り上げたその書類を持って、理事長のところに走って行った。
今度こそ………今度こそ……………今度こそ上手く行くに違いない!
そう確信した私は自然と笑みがこぼれ出していた。
「はぁ…………はぁ…………はぁ………着いたわ………」
理事長室まで来た時には、息が上がってしまっていた。どうしても早く見てもらいたいという思いが強くなって、辛いことなんて感じもしなかったわ。これが高坂さんの言う、やりたいという気持ちなのかもしれないわね……今なら、少しだけわかるような気がするわ。
息を整えて、扉を開こうとドアノブに手をかけた時だった………………
「なんでですか!?なんでそうしなくてはいけないのですか!!!?」
扉の向こう側から希の声が聞こえてきた。
どうして希がここに居るのかわからないけど、理事長と何かを話していることだけは聞いての通り理解することができる。一体何を話しているのかしら…………?
そう思い、扉を少し開けて耳を澄ませて聞いてみると、その全容が見えてきた……………
「東條さん、これはあなたにしか出来ないことなの。どうか、あなたの口から言ってもらいたいのだけど………」
「どうしてです?理事長から直接言ってはくれないのですか!?」
「私が直接言えばどうなるか解るでしょう?」
「それは!!………ですが、その責務を私が背負えと言うのですか?そんなの辛すぎますよ!!」
「でも、言わなければ同じことを何度も繰り返してしまいますよ?ずっと、絢瀬さんと居るあなたは気付いているのではないですか?
「えっ……………」
私は理事長の言った言葉に耳を疑った。
無駄?………私のやっていることが
私はもう一度、耳を澄ませて聞いてみた…………
「無駄だなんて…………そんな言い方は酷すぎますよ!!!」
「では東條さん、あなたは絢瀬さんがこれまでに作った書類をすべて見ましたか?」
「………………はい……………」
「あなたはその内容に納得していましたか?」
「………………い、いいえ…………………」
「それであなたは絢瀬さんに助言を与えたりしましたか?」
「…………………………いいえ………………………」
「東條さん、一応言っておきますが、今までの書類は生徒会からの一案として出されていたものです。それなのに、絢瀬さんは生徒会のメンバーにすら話を通さずに私にこうして企画を出しに来るのですよ?しかも、出されてくる企画はほとんど同じような内容しか書かれていない。そうした
「それは………………とても辛いことだと御推察します……………」
「その通りです。ですから、お願いしているのです。生徒会名義で出された企画なのですから、生徒会で処理してもらわないと困るのです。そうでしょう、副会長さん?」
「……………はい…………」
………は……あは…………あははは…………魅力が無い…………………私の……………私の今まで作ってきたものが…………………すべて無駄………………そ、それじゃあ……………私がやってきたことって何?……………この何年もの間やってきたことは無意味だったの?…………………生徒会に入って…………会長になって……………学校のために様々な事をして!!…………………それらもすべて無駄だったと言うの?……………私の力じゃ………学校1つすら守ることができないの?…………………どんなに努力しても目的に到達することができないの………………あの時と同じように……………………
………………
(バンッ!!!!!!)
絵里は書類を扉に叩きつけた。その拍子でわずかに開いていたドアが閉まり、大きな音が校舎内に響き渡る。それと同時に、絵里がその場を立ち去る大きな足音も響きわったのだった。
絵里は己の無力さと深い絶望を抱きながらその場を走り去ったのだった。
(ピキッ…………パキッ…………)
―
――
―――
――――
[ 理事長室 ]
(バンッ!!!!!!)
「「!!!?」」
扉が勢いよく閉まったことに驚きの表情を見せる希といずみ。自分たちの会話を誰かが聞いていたのではないかと感じた希は扉を開いて確認しに出た。だが、そこには誰1人として存在はしなかった…………………………絵里が捨て去って行った書類以外は……………
希はその書類を拾い上げると、ここに居た人物が誰であるかを察した。
希は表情を青くしながらこの場を立ち去っていた絵里を探しに駆けだしていったのだった。
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
絢瀬編第8話です。
まず初めに言わせていただきます。
次回はもっと悪化します。
以上です。
批判覚悟で投稿しております故、そうした意見も受け入れるつもりなのでよろしくお願いします。
今回の曲は、
同人PCゲーム出身『ひぐらしのなく頃に解』のサウンドトラックより
海老スパ/『utu』
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