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[ ??? ]
― とある者がそこにいた
《・・・・・・》
― その者は、全身を白い布のようなもので覆われており、顔が隠れて見えなかった。
《・・・・・・》
― その者は、見渡す限り真っ白な空間にただ一人立っていた。
― その空間には、少し長めのテーブルとイスが一つずつあり、テーブルの上にはティーカップがこれもワンセットのみしかなかった。
― また、それらもみな真っ白なため、強い光がこの空間に差し込むようなことがあれば、目を開けることが困難となるだろう。
― 唯一、色があると呼べるものは、ティーカップに注がれた赤黒い紅茶のみだった。
《・・・・・・》
― その者は、ティーカップを持ち上げて紅茶を飲んだ。
《・・・・ほぉ、これはいいお茶ですね》
― その者は、その紅茶を大変気に入った様子だった。
― その時に発せられた声は、男の声にも、女の声にも・・・また、幼かったり、老いたようにも聞こえる摩訶不思議なものだった。
《・・・さて、作業に戻るとしますか》
― そう言うと、その者はイスに座り、机に向かった。
― そして、右手を前に出した。
― すると、その手が白く光り出し・・・・一つの分厚い本が姿を現した。
《よっ!おっとっと・・・・また、ページ数が増えたようですね・・・》
― その者は、本を手に取ると体制を少し崩してしまったようだ。
― 無理もない、その本は片手で掴み持つにはあまりにも分厚く、それなりの重さがあったのだ。
《さてさて・・・どのようなことが付け足されたのでしょうか?》
― 早速、本を開いて付け足されたページがあるところを見る。
《ふむふむ、ほぉ~・・・悪漢たちから女の子を助けたのですか。流石ですね》
― その者が見ていたのは、ある男の記録である。
― どうやらその者は、この男のことをとても気に入っているようである。
― その証拠にその本だけに多くの栞を挿んでいるのである。
― その者が持つ、億単位よりも多くの書籍の中で、唯一、栞を挿んでいるのはこの本だけなのだから…
〈ジジ・・・・ジジジジ・・・・・〉
― 突然、その本が小刻みに揺れ始めた。
― そして、本はその者の手から離れ、ゆっくりと中空を飛び、ページをめくりだし始めた。
《おやおや・・・・どうやら、彼はまた自らの運命を変えてしまったのですね・・・》
― その者が発した言葉の意味は全く理解できなかった・・・だが、今目の前で起こっていることについてだけは外見的ではあるものの、理解することができた。
― その本はページをめくることを止めた。
― すると、開いたページにどこから出てきたのかわからない数枚の白い紙がそのページにしっかりと挟まり、貼り付いたのだ。
― さらに、不思議なことが起こった。
〈ザ――――――――――――――――・・・・ザッザ!〉
― 新しく付け足されたページに文字が浮かび上がってきたのだ。
― そして、元からそのように製本されていたかのように出来上がり、その者の手の中にゆっくり落ちてきたのだ。
《ふう・・・まったく、いつ改編がなされるのか分からないから困るのですがねぇ・・・・》
― その者は、大きなため息をついきながらも、新たに付け加えられたそのページに目を注いだ。
《ほおぉ・・・・ようやく始まりを迎えたようですね。それに、女神たちが集い始めたようですね・・・》
― その者は、声を弾ませながら語った。
― しばらくの間、その者は新たに付け加えられた数ページを端から端まで舐め尽すように、何度も読み返した。
― 読み終えると、着ている布の中から真黒なペンを取り出し、メモ帳らしきものに何かを書き出した。
― そこに書かれていたのは・・・・・・
『――運命を狂わす力強まり』
― その者がなぜそのようなことを書いたのだろうか?
― “運命を狂わす”とは、どういう意味なのだろうか?
― 今の私には到底理解することのできないことなのかもしれない・・・・
《・・・おや?お客人ですか?・・・・めずらしいですね、このような場所に迷い込んでしまうとは・・・・》
― その者は、私の存在に気付いたようだ。
― その者は、立ちあがって、私のもとへ歩み寄ってきた。
《お客人、さあ、こちらに来なさい。今は世俗のことを忘れ、私と語り合おうではないか》
― その者は、私の手を取り、テーブルに連れて行こうとした。
《さあどうぞ、ここにお座りなさい》
― その者が手を指し伸ばしたところには、さっきまで無かったはずのイスが置かれてあった。
― 私は疑問を抱きながらもそのイスに座った。
《紹介が遅れました、私はここの管理者【はじめ】と言います。以後、お見知りおきを》
― 【はじめ】というのか・・・ なんだろう・・・とても、懐かしい感じがする・・・・
《キミの名前は?》
― 私はその問いに答えようとした・・・・だが、口を開いたものの自らの名前を思い出せない・・・・
― わすれたのか?
― いや、名前だけではない、私自身が今まで何をしてきたのかすら分からないのだ!
― どう言うことなのだろうか・・・・?
《名前を思い出せない?それは困りましたね・・・・・それでは、この空間内だけのキミの呼び名を考えておこうか》
― それもそうだ、この空間に長居するわけではないが、ずっと、『キミ』と呼ばれると聞いている自分にとってはあまりうれしくない、借り名でも構わないので何かいい名前を頼んだ。
《そうですね・・・・・・・・・・
…では、【アル】と呼びましょう。意味は、“白”という“アルブス”という言葉から取ったものだ》
― 【アル】・・・・これが今の私の名前・・・・・
《では、【アル】。私と語り合おう・・・・・私が気に入るこの男のことについて・・・・》
― 【はじめ】は、イスに座り、その本に書かれている男のことについて語り始めた。
― その男の名前は・・・・・・
『宗方 蒼一』
(次回へ続く)
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