第21話
【前回までのあらすじ】
真姫に不快な思いをさせてしまったと後悔する蒼一。
蒼一を傷つけてしまったと思っている真姫。
そんな2人がはじまりの場所で相対することに!!
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(~~~♪~~~♪~~~~♪)
たどたどしいピアノの音色が音楽室中に響き渡る。
久しぶりに弾いているからまだ慣れないところが色々とあったが、演奏できない程度ではない。一音だけのメロディとコードだけは弾けるようだった。
「これだけできれば十分だ」
俺はこの演奏に全神経を注いだ。
「すぅ~~~・・・・・・」
(~~~~~~♪~~~~~~♪)
〔雨降る 街並み それを彩る傘たちは
どんな想いの人を 包んでるのだろう
寂しさ 切なさ 誰かが今日も感じてる
今は小さいけど 力になりたいんだ
大きな空に広げよう 心の傘を
悲しみの雨に濡れる人を包みこみたい
一人で泣かないで いつも側にいるよ
大きな傘のように すべてを受けとめてゆこう〕
(~~~♪~~~~~♪~~♪・・・・)
「・・・すぅ~~・・・はぁ~~~・・・・」
本当に久しぶりに弾いたという実感が湧いてきた。今はまだこれくらいしか弾くことはできないが、練習を積み重ねていけばもっと広いジャンルの曲も弾けるのかもしれないな。
弾き語りを終えたこの教室に、また静寂が訪れた。
やれやれ、これだけ待っても来ないのか・・・しょうがねぇ、今日はあきらめて練習に行くか・・・
俺は立ち上がり、鍵盤に蓋をしてその場を立ち去ろうとする。黒板から右側に位置する扉から出るため、取っ手に手を伸ばして、横にスライドさせた。
「ん?」
外を出てみると、その横に見慣れた顔がそこにあった。
「真姫!?」
「蒼・・・一・・・・」
真姫の目からいくつものしずくがこぼれ出ていた。
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[ 蒼一が演奏をしていた頃 ]
「・・・・・蒼一・・・!!」
蒼一がピアノを弾きながら歌っていた。
「どう・・・して・・・・?」
今、この時、この瞬間、どうして蒼一がここにいてピアノを弾き、歌っているのか全く理解することができなかった。ただ一つだけ理解することができるとしたら・・・・
「きれいな音色・・・・」
メロディ自身に物足りなさは感じたものの、コードははっきりしておりどういった曲なのかを理解することができた。また、蒼一の口から出る、低くもきれいな高音域を出す渋い声に驚いた。低く渋い声を出す人は大抵きれいな高音域を出すことはおろか、声量が低く聞こえずらくなる欠点があるもののそんなのお構いなしに歌っていることにすごいと感じていた。
そうなのね、蒼一はこういう歌い方をしているのね。初めて聴いた蒼一の歌は心に響くものがあった。それは前に蒼一が語ってくれた曲と共に詩が心に響いて、感動を引き起こしていた。
言葉が・・・私の内に入ってくる・・・・
(つぅーーー・・・・・・・)
目から一筋のしずくがこぼれおちた。
そうか・・・そうなのね・・・・私は・・・・
誰かに慰めてもらいたかったんだ
この数年間、ずっと哀しみを背負いながら過ごしていた。それもたった一人で・・・。
私は誰かにこの哀しみを話そうとも、共有しようとも思わなかった。それは自分が巻き起こしてしまったことだったから。私自身で何とかしなければならないことだったから。
でも、そうじゃない。本当は知ってもらいたかった。分かち合いたかった。慰めてほしかった。この気持ちを伝えたかったの。そう、ただそれだけだったの・・・・
「真姫!?」
気付かないうちに演奏は終わっており、そして、私の隣には彼が立っていた。
「蒼・・・一・・・・」
涙がぼろぼろ出ているままの顔で振り返ったから、蒼一は驚いた表情をしている。
私はすぐにハンカチで顔を拭いた。
「おい、どうしたんだ?」
蒼一が心配そうに聞いてくれた。
「へ、平気よ。ただ、蒼一の歌に感動をしただけよ」
そう言うと、蒼一はとても優しい顔をしてくれた。
「そうか、俺の演奏で感動してくれたのか・・・・ありがとう」
「お、お礼を言われるようなことはしていないわよ」
「いや、俺にとってはありがたいことなんだ。俺の歌で誰かが感動してくれることがとてもうれしいんだ」
その思いは分からないわけではない。私も自分が演奏した曲で誰かを感動させることができるとうれしい気持ちになれる。誰かの役に立ったんだと、自分を誇らしく思えちゃうんだから。
「それでだな、真姫。ちょっと中に入って来てくれないか?」
「構わないけど、何?」
「ちょっと、話したことがあるんだ」
そう言うと、蒼一は教室の中に入っていった。私もそれに続くように入っていく。一番前の席の近くに持ち物を置いて、お互いの体が向かい合う形になった。
すると蒼一は・・・・
「・・・・・この前はすまなかった」
「えっ?」
「俺が無神経だったばかりに不快な気持ちにさせるようなことを聞いてさ・・・・あの後、ずっと気になっていたんだ。真姫が悲しい思いをしているんじゃないかって・・・」
「あ、あれは違うの・・・!あの時は、唐突に言われたから何て答えればいいのかわからなかっただけなの」
「そう・・・だったのか・・・?」
「そうなの。私こそごめんなさい、蒼一をそこまで心配させるようなことを言ってしまって・・・」
「俺はいいんだ、真姫が何でも無いのならそれでいいんだ」
「蒼一・・・・」
真剣な表情をしていた蒼一は私の一言を聞いた瞬間、安堵した表情になった。そこまで心配してくれていたの?私は驚きを隠せなかった。
蒼一になら・・・話してもいいかも・・・・
そんな思いが湧きあがって来た。
「蒼一、あのね・・・」
「なんだ?」
「その・・・この前の質問、今答えてもいい?」
「えっ!?でも真姫それは・・・」
「大丈夫、平気よ」
「それなら構わないが・・・」
「なら答えるわね」
私がなぜあの表情で演奏していたのか、その思いを今この人に・・・・・
「私ね・・・怖かったの。演奏することがとても怖かったの」
「えっ・・・」
「意外だって思うでしょ?でも、そうなの。私は演奏する時になると、いつもあることを思い出しちゃうのよ」
「あること?それは一体・・・」
「そう、それはね・・・・・
・・・・・
「!!!」
蒼一の顔は驚きの表情に変わっていた。当たり前だもの、突然こんな話を持ち出して来たのだからそうなるのは仕方ないことだと思う。
それでも、私は話すことを止めなかった。
「まだ小さかった頃に事故があって、私が巻き込まれそうになったことがあったの。それに巻き込まれていたら今の私はいなかったわ。けど、それを止めてくれたのがその人なの。幸いにも命に別状は無かったし、体にも傷一つ存在しなかったそうなの。・・・・けど、その人は大ケガを負ったわ・・・・路面が血の海になるほど出血していて、すぐに救急隊によって病院に運ばれていったけど・・・彼は助からなかったそうなの・・・・」
「・・・・・」
「変な話よね、私はあの時に死ぬ運命であったのに、死んだのは私ではなく彼だった・・・・私がもっと注意していればああなることは無かったのに・・・・私はそんな自分が嫌いになったわ。それまでやり続けていたピアノも辞めたわ・・・・弾きたいという気持ちが無かったから・・・・でも、ここ最近、また弾きたいという気持ちが出てきたの。それで弾いて生まれたのがあの曲よ」
「俺が真姫と初めて会った時に聴いたあの曲か」
「ええ、そうよ。私も驚いたわ、どうしてあの曲ができたのかが未だに分からないことだわ。・・・でも、それを作った時も演奏している時もあの事を思い出すの・・・・思い出すと、悲しい気持ちになるの。どうして私が生きてしまったのかって・・・・そんな私が嫌なの・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・これが答えよ、どう?私のこと嫌になるでしょ?」
これが本当の私なの・・・・。
他人の犠牲によって生きている嫌な女でしょ・・・・?
そんな私が笑っていられるなんてありえない話だわ・・・・。
私なんて・・・・そんな・・・・
「違うな真姫、お前は間違っている」
「!?」
な、何を言っているの?!一体何が間違っているというのよ!
「真姫、過去にそんな辛いことがあったなんて、俺は知らなかった。だが、お前が背負っている物は、真姫自身が作りだしたまやかしだ。その人は望んじゃあいないぜ」
「そ、蒼一にあの人の何が分かるのよ!」
「正直、その人がどう思っているかなんて分からない。だがそれは、真姫自身にも言えることだ」
「えっ・・・」
「真姫だってその人とちゃんと話しちゃいないんだろ?それなのにどうしてその人の気持ちが分かるって言うんだ?それは真姫が作りだした虚像にすぎないのさ」
「虚像・・・?」
「そうさ、その幻がお前を蝕んでいたにすぎないんだ。それが自分にああしなければいけない、こうしなければいけないと勝手に思い込ませているんだ。お前自身だって分かっているはずだ、それはその人が思っていることじゃないってことを」
「でも・・・・じゃあ、私はどうすればいいの?あの人からもらった命をどうすればいいのよ!!どうすごせばいいって言うのよ!!!」
「・・・・真姫、その答えは簡単だ」
蒼一は私のすぐ近くまで近づいてきた。
そして・・・・・・
(ぽんっ)
蒼一の右手が私の頭の上に置かれた。
「真姫はただひたすら笑っていればいいのさ。その人の分まで大いに笑っていればいいのさ。哀しむことがその人のためになるんじゃない、真姫の笑顔を多くの人に振りまくことがその人のためになるかもしれないんだ」
私の頭に置かれた右手がやさしく頭を撫で始めた。それは前にも同じような感覚を私は覚えていた。
あぁ・・・・・この感じは前にも・・・・・
『もう大丈夫だよ・・・こわくない・・・こわくない・・・』
あぁ・・・・あの人が・・・・・私に語りかけてくれている・・・・・
「真姫」
蒼一が私に語りかけてくる。私は今にも泣き崩れそうな気持ちをこらえて、その姿を見、耳を傾けた。
『「・・・もう平気だね?」』
「!!?」
一瞬だった、一瞬だけ蒼一とあの人が重なった。同じような情景、同じような感覚、同じような言葉、同じような仕草・・・・・どれも、あの時と同じようだった。
「あっ・・・・あぁ・・・・・」
私はもうだめだった・・・・自分の感情を抑えることができなかった。
私はその場で泣き崩れてしまった。それは、今まで思い続けていたことが間違っていたことやそれまで溜め続けてきた感情があふれ返ったためでもあった。
「真姫!」
蒼一は泣き崩れた私を支えるように腕を取った。私は伸ばしてきた腕をしっかりと握りしめた。膝から下はすでに力を無くしてしまい、握っていないと倒れてしまいそうだった。
「大丈夫か?」
蒼一は心配そうに尋ねてきたが、今の私は声が出せるような状態ではなかった。口を開けば溜まっていた感情が飛び出そうだったから・・・・
(ふるふる)
首を横に振って、大丈夫でないことを示した。
「そうか・・・・」
蒼一は私の状態を悟ったかのように反応を示した。そして、次のように付け足して語った。
「真姫。もし、感情が押し高まって今にも飛び出そうなら全てこの場に吐き出しな。残したままで行くのは辛いだろう・・・・俺が見守ってやるから、思う存分吐き出しな・・・・」
「!!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中でたが外れ、繋がれていた感情があふれんばかりに飛び出ていった。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
空に舞い上がるような高い声が教室中を覆い包んだ。
蒼一はその様子を穏やかな顔で見守ってくれていた。
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真姫が感情を吐き出してからどのくらいが経っただろうか。
教室にある時計を見ると練習開始時刻をとっくに過ぎていた。行くべきだと思うが、目の前にあることが最優先事項だと言えるため、俺はここにいる。真姫は今も下を向いたまま泣いている。叫びはしなくなったもののまだぐずっている。
俺は真姫に今の状態はどうなのか尋ねてみた。
「全部、吐きだせたか?」
(コクッ)
首を縦に振ったようすを見る限りでは大丈夫のように思える。
「もう自分で歩けるか?」
「・・・・平気・・・・ちゃんと、歩ける・・・・」
真姫は足に力を入れてしっかりと立ち上がり、俺を握っていた手を放した。
目と鼻を真っ赤にし、涙で顔の形が変わってしまってはいるものの、なんともすがすがしいような顔をしていた。
「少し元気になったか?」
「うん・・・」
「それは良かった」
大丈夫だということが分かって少しホッとした。
「蒼一・・・」
「なんだ?」
「もう一回だけ、頭をなでて・・・」
「えっ・・・あ、うん・・・」
どういうことなんだろう?まあ、なでるだけならやっても構わないのだが・・・むぅ、わからん。
そんなことを考えながらも右手を頭に乗せてなで始めた。
「~~~っ!」
なんともうれしそうな顔をしているんだろう。
その顔を見ているともう少しやってみたくなるなぁ♪それっ!
「~~~っ!!!!」
ふふっ、少しやりすぎたかな?まあ、いいかな、喜んでいるみたいだし。
「あ、ありがとう・・・」
うつむいたまま返事をする真姫は大分元気になったようで、もう一人でも大丈夫な様子だった。
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――――
「結局のところ、練習には行けず終いだな・・・」
なんやかんや言って、完全下校時間になっていたため、今日は練習を見ることができずに終わってしまった。あははは!こりゃあ、しばかれるな!!!穂乃果に!!!(どこをどうするとは言っていない)
「ごめんなさい、付き合わせちゃって」
俺の横を真姫が申し訳なさそうな顔をして一緒に歩いている。
「別に、真姫が悪いわけじゃねぇし。大体、話しかけ始めたのは俺の方だったし。それに練習を一回くらい休んでも罰は与えられんさ」
「そんなものかしら?」
「そんなもんさ」
俺たちは学校を出て、校門正面の桜並木の通り道を歩いていた。花も散り始め、緑の葉っぱが芽生え始めようとしていた。
「蒼一、ありがとう・・・私の話を聞いてくれて・・・」
「いいさ、聞くことだけなら簡単なことさ。心配するな問題無い」
「そうじゃないわ、あなたは私を助けてくれたわ。感謝しているのよ」
「真姫・・・」
真姫の抱えていた哀しみはとてつもなく大きいものだった。長年の思いがあの瞬間に爆発したのだからな。だが、そのおかげで真姫が救われたのならば俺はうれしく思うのさ。
「それじゃあ、真姫にはもう少しだけ頑張ってもらっちゃおうかなぁ~」
「ええっ!?何よ、急に!!」
「いやぁ~、今度のライブが終わってもまた次のライブがあるかもしれないじゃん?その時にまた作ってもらえないかなぁって思ってさ」
「ゔぇぇぇ!・・・で、でも、蒼一からの頼みなんだからしてあげてもいいかも・・・」
「ほえぇ~、意外とあっさり引き受けてくれるんだな」
「ま、まあね。いいでしょ別に!」
「ふふっ、ありがとな」
真姫からの思ってもみなかった答えに正直驚いているが、うれしく思っている。これで次につなげることができそうだと確信を持てるようになった。
桜並木も終わりに近づき、俺はここから曲がって帰らなければいけなかった・
「それじゃあ、ここでお別れだな」
「蒼一はそっちの方なの?」
「ああ。となると、真姫とは逆方向の道になるのか」
真っ直ぐ来た道から離れるように横道に入っていく。ここでお別れだ。
「蒼一!また明日!!」
俺の背中に向かって、真姫は大きな声でそう言ってきた。
「ああ、また明日だ!!」
右腕を高らかに掲げ、さよならの合図を送る。
また、明日会えるから・・・・
(次回へ続く)
はい、どーもです。
長文を読んで疲れてはいませんか?肩を回して肩こりと首のこりをなんとかしよー!
・・・・という冗談は良しとして、
さて、今回まで(何故か)続いた真姫編がここでいったん完結です。ん?どこからが始まりだったんだって?そりゃあ、真姫ちゃんが出たところから・・・・・
・・・・・長いな・・・・。
ま、まあ、予想してたし!話は長いってことは解ってたし!!!
とまあ、こんな感じで執筆しております。
そんなことより、今日は希の誕生日じゃあないかー!!!
ひゃっはーーーー!!!!盛大にお祝いしてやんよ!!!
・・・ん?なんだい?・・・希から?うん・・・うんうん・・・・え゛っ!!今から執筆しろと!!!!
アッハイ、わかりました・・・・・
連続投稿します。
4時間もあれば書けます。やりますよ、やってみせますよ!!!!
ということで、頑張ります。
今回の曲は、
作中に登場しましたこの曲です。
Suara/『傘』
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