「コンセプトストーリーを含ませたライブねぇ……」
「どうかなぁ、蒼君……?」
「……いいな、面白そうじゃないか。やってみなよ」
「……! うんっ! ありがとう!」
穂乃果から数枚の資料を受け取った蒼一はその内容を良しとして承認した。彼が指摘して翌日のことである。
「ほっほぉ~ヒロインを主軸に海賊と魔法使いの3グループが登場していくのか。なかなか面白そうじゃん?」
「そうなんだよ、弘君! 昨日、あれからみんなでいろいろ考えてみてね、やっぱり私たちらしくいこうって思ったの! それでね、ハロウィンだから何かの仮装をしてやるって言ったら一気に決まっていったんだ!」
「へぇ~昨日あんだけ迷走し続けてたのによくここにたどり着いたもんだなぁ。俺はできなくって根を上げるんじゃないかって思ってたわ」
「もぉ~弘君ってばひどくない!? 穂乃果たちだってやる時はやれるんだよ!」
明弘に冷やかされてムスッと頬を膨らませる穂乃果。ただ昨日の様子を目撃している明弘からするとそう思われても仕方ない気もする。
しかし、実際こうやって結果を出してきたのだから褒めてやってもいいだろう。
「からかうのもそのくらいにしとけ明弘。なあ、穂乃果。この企画はすぐ仕上げるつもりなんだろ? だったら早くエリチカたちに伝えてやった方がいいんじゃないか?」
「あ! そうだよねっ! それじゃあ、すぐ絵里ちゃんたちに伝えに行ってくるね!」
そう言い残すと、穂乃果はダッと駆けだして絵里たちが待つところに向かって行くのだった。
「はぁ~……相変わらず騒がしいやつだよなぁ。悪いことじゃないが、もうちょっと静かにできないんかねぇ?」
「何言ってんだ。穂乃果にそんな加減ができると思ったか?」
「確かに。興奮状態のアイツにはできねぇ芸当だったかもな」
毎日が全力全開の穂乃果を抑えられる術があるのならぜひともご教授願いたいものだと、明弘は呆れ笑いを浮かべる。
「しっかし、本当に兄弟の言ったとおりになっちまったなァ。もしかして、本当にできるとわかってたのか?」
「まさか。ただ、これまでの様子を見てきてそう直感しただけさ」
「直感ねぇ……まあ、俺もアイツらならやれるんじゃないかって、心の中では思ってたさ。だが、まさか言った翌日に答えを出してくるとは思ってもみなかった。アイツらの成長っぷりはなかなかにすごいもんじゃないか?」
明弘が驚くのも無理もない。素人同然だった彼女たちの成長は傍から見れば驚異的なものに違いなかった。それを間近で見ていた明弘は、今の彼女たちに不可能はないのではと思い始めていた。
「いつか、アイツらは俺たちを越えるんじゃないか?」
「……それはわからんぞ」
「けどよぉ、アイツらの実力なら普通でやってもA-RISEといい勝負ができるんだぜ? 全国のスクールアイドルとくらべても見劣りしない実力を備えてやがる。そんな力があるんだぜアイツらには!」
「いくら力を付けたからって、最終的には客の判断がモノを言うんだ。わかるだろ? いくらパフォーマンスが優れてても、客の応援がなければ切り落とされる。客がμ’sのことを好きになれる、そんなスクールアイドルを目指してほしんだよ、俺は」
蒼一はこれまで経験し積み重ねたことを思い返しながら語った。当然、この意味については明弘も重々承知しているため言い返すことはなかった。彼らのライブでのコンセプトにも、客を喜ばせることがあったからなのだろう。
「そこまで言い切れるのならさ、俺たちのライブではとんでもなく派手なことを計画してくれているのか?」
「ああ、もちろんだとも。派手に派手を重ねたみんながあっと驚くようなライブを演出させてやるよ」
「たはっ! そうさ、そういうのを待ってたのさ! いいねぇ~そんなの聞いたらさ、身体が疼いちまうな!」
蒼一の自信たっぷりな返答に、明弘は腕を組みながらひょうきんな笑いを起こした。楽しいことばかりを考える明弘にとってこの話はまたとないもので、顔がニヤついてしまうのもうなずける。それはまるで、新しいおもちゃを手に入れた子供のような姿でもあった。
「まずは目の前にあるライブを片付けることだ。俺たちもだが、穂乃果たちもやり遂げられるかだな。それができなくちゃ明弘の言う俺たちを越えるだなんて無理だぞ」
「な~に言ってんだ。そんなの決まってんじゃんか。心配しなくたってやってくれるんだから、俺たちはドンと構えてりゃいいんだよ。そういう兄弟だって何にも心配してないだろ?」
「ああ、そうだな」
小さく頬を引き上げて微笑を浮かべて返す蒼一。その顔を見ても心配している様子はまったくない。彼女たちならやり遂げられるという確信が目に見えているように感じた。
後顧の憂いのない彼らは自分たちのライブに向けての準備を進めていくのだった。
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ライブ当日―――
アキバのメインストリートに多くの人が行き交う歩行者天国が起こると同時に始まったハロウィンフェス。これから土日祝日を挟んでの数日間、この街全体でイベントが行われ続けるのだ。
「兄弟! 穂乃果たちの受付も完了していたみたいだぜ!」
「どうやら間に合ったようだな。当然だが俺たちのもちゃんとできているのを確認したんだよな?」
「ったりめぇよ! なんてったって、俺たちは一番初めにやったんだから無いわけがねぇ」
「ならよかった」
μ’sが期日通りにできたことを確認できたからか安堵の表情を浮かべる蒼一。運営から今日この日までにと約束されてたのだが、ギリギリになってようやくのことだった。口では心配してないとは言うが、やはり気になってしまうのは
「あぁ、そうそう。アイツらはUDXのメインステージを使わないで、メインストリート側でライブをするってなってたぜ」
「メインストリートで?」
「何かしらの考えがあってだろうよ。そういやぁ、ヒデコたちヒフミ組がここ数日の間に作業しているのを見てたからきっと面白いことでも考えてんだろうよ」
ヒフミ組と言えば、これまでμ'sのライブをバックアップしてくれた一般生徒たちの集団のことだ。機材の設置や背景セットの作成まで何でもこなすので蒼一も毎度頼りにしていた。そんな彼女たちが動いているとなると何か大掛かりなことをするのだろうと考えが巡る。
「なるほどな。なら、なおさら安心して見ていられるということか」
「かかっ! そういうこったな!」
たとえ自分たちがいなくても彼女たちなら大丈夫だという確信が付くと2人は出店に繰り出す。フェスと言うだけあって見かけない出店がちらほらと出しており、既存の店ではここぞとばかりにセールを開催していたのだ。
ちなみに蒼一たちは、模型店でセールにかけられたフィギュアを目的としていた。
「あ、そういやぁ、面白い名前が出演者に入っていたぜ」
「なんだよ、俺の知り合いでもいたのか?」
「はっはっは! そうかもしれないな。聞いて驚くなよ……なんと、あの765プロのアイドルが来てるぜ」
「なにっ……?」
落ち着いたまぶたが急に細みを出して鋭くなった。765プロ、それは今の蒼一にとって意に介す存在となっていたものだ。
「まさか、”彼女”がいるのか?」
「そのまさか、だ。”四条貴音”がいるぜ」
「……マジか……」
蒼一は眉をひそませ困った表情になる。
765プロと言えば新生のアイドルプロダクションだ。影響力はまだ微々たるものではあるが、着実に力を付けている実力派である。
そこのアイドル、四条貴音とは以前ファッションショーで顔を見合わせていた。彼女は蒼一らに興味を抱いていた様子で自らの名刺を手渡すなど一般人では考えられない厚遇を受けていたのだ。
蒼一が悩む理由はもうひとつあった。それは、彼女が蒼一らのことをRISERであるのでは、と思わせる口ぶりをしたからだ。バレるはずもないのにどうして勘付かれたのか、と警戒してしまうのだ。
「しかも、俺たちと同じ最終日に出てくるらしい。もしかしたら鉢合わせるってことよ」
「う~ん……あまり乗る気がしないな……あの子、俺たちの正体に気付いてるかもしれない……」
「マジでか!? だとしたら参ったなぁ……。けど、控室が同じだったらあの子からは避けられないぜ?」
「当然だろうな……ただ確証はないしバレてはいないはず……」
「そう信じるしかなさそうだな」
深い溜息を吐いて肩を落とす2人。今年に入ってからと言うもの周囲の人たちが彼らの正体を気付いたり、疑ったりすることが増えている。知られないことで活動してきただけに悩みが深くなるのだ。
「まあ、今考えることじゃないし、そん時になってどうしようかしねぇといけねぇんだがな。ここは気楽にいこうじゃんか」
「あ、あぁ……俺としては隠し通したいんだが……」
「いいんじゃないか? たとえバレたとしても口にしなけりゃいいことだし」
「それも……そうか」
深入りせずその時の風に任せる、とばかりに明弘は店舗に向かって行こうとする。少しは緊張を持ってほしいものだと思ってしまう蒼一ではあるが、彼を見ると緩んでしまう。その気楽さがうらやましいな、と呆れた吐息がこぼれるのだった。
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
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