蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第211話


ボケとキチは紙一重

 

 

 

[ 音ノ木坂学院・校庭 ]

 

 にこの提案によってそれぞれ着替え終えた9人は、グラウンドの真ん中に揃い立った。

 

 

 

「蒼君の想いにいつも全力全開のリターンエース! 高坂穂乃果だよっ!!」

 

 ピンクのテニスウェアに白のミニスカートを履き、テニスラケットを豪快にぶんぶん振り回す穂乃果。

 

「魅惑のリボンとダンスで蒼一を心から狂わせるわ! 西木野真姫よ!!」

 

 紫のレオタードで白のリボンをくるくる回しながら華麗に舞う真姫。

 

「剝かないで! まだまだ私は青い果実! 剥いていいのは蒼一にぃだけっ!! 小泉花陽……!!」

 

 色濃く熟したオレンジの着ぐるみでゴロゴロ転がる花陽。

 

「ウチのスパイクで2人の家庭は安心安泰! スピリチュアル東洋の魔女! 東條希!!」

 

 魅惑のボディラインを強調させたバレーボールのユニフォームを着る希。

 

「友達以上、恋愛はそれ以上! 伴侶への未来は確定率100%!! 園田海未ですっ!!」

 

 理系女子そのものな白衣をまとい、普段はかけない眼鏡をしてドヤける海未。

 

「私のシュートより蒼くんからのハートシュートでマークを付けてッ! 蒼くんはことりのおやつ♡ 南ことりッ!!」

 

 ラクロス装備でなぜか表情を上気させて嬌めかしい声を出すことり。

 他にも何か聞こえたが……

 

「かわいさ満点! キュートスプラッシュ! 星空凛!!」

 

 肌寒い日なのに平然と競泳水着を着こなす凛。

 

「全身から弾き出す必殺のピンクポンポン! 絢瀬絵里よっ!!」

 

 全身ピンクと白のチアダンスの恰好とピンクのポンポンを掲げる絵里。

 

「そして私ッ! 不動のセンターッ! 矢澤にこにこ————!!!」

 

 にこは……なぜか、その、剣道着。

 

 

『私たちッ! 部活系アイドル! μ’sですッ!!!』

 

 

 全員揃ってキメているようなんだが……何だか違う。

 一見、それぞれの衣服に合わせたポーズをとって、どこぞの特撮ヒーローモノみたくカッコよくしているはずなのだろうが、傍から見ればシュールすぎた。と言うより、何なんだこの子たちは? と目を白くさせてしまう謎な光景でしかない。

 

 

「……なんか違くないかにゃ?」

 

 寒いひと風が吹いて我に返った凛がテンション低めに言う。

 

「何故ッ!? 私の計画は完璧だったはずなのに……どうして……っ!」

 

 思ってたほど気分が高揚しなかったにこが、膝を崩し愕然した。

 

「メンバー全員バラバラの部活動に所属していたけど、訳あってスクールアイドルをやってます! と言うコンセプトでいこうと思ったのに、いったいどこが間違ってたというの……!?」

 

 防具面を外し、わなわなと震えながら叫ぶにこ。一応、彼女にはきちんとした理由を持って臨んでいたらしいのだが、どこかで耳にした話に思える。

 315プロのことかな? とそっちの事情に詳しい花陽が小声で言っていたが気にしないでおこう。

 

 

「そもそも何で部活系なのよ? 一貫性のないものをやっても意味がないんじゃないの?」

「それに私たちだってスクールアイドル研究部と言うちゃんとした部活をやってるし、これはあまりいい案とは思えないわ」

「うっ……」

 

 にこと同じBiBiメンバーの真姫と絵里から言われて落ち込むにこ。加えて、花陽の衣装はどこの部活のものなのか、ウチの学校に無い部活があるだとかいろいろ口出されてしまい、さすがににこもはち切れだした。

 

「何よッ! これでも考えたんだからね!! と言うか! なんなのよ、アンタらのセリフはッ! なんで蒼一に向けたものになってるのよ! “あなた”と言う“ファン”に向けてのメッセージにするって言ったでしょ!?」

「えっ?! “あなた”って、ずっと”蒼君”のことだと穂乃果は思ってたよ!」

「んなわけないでしょうが!! それを自己紹介にしたら大事故が起きるの間違いなしじゃないのよ!!」

 

 にこは、先の説明が全く異なる意味合いで彼女たちに伝わってしまっていたことがこの違和感の原因だと感じだした。が、根本的に間違っていることに気付くには少し時間がかかることに……

 

「それと、アンタら何さらっと蒼一を我がものにしようとしてんのよ!? 結婚フッ飛ばして家庭を持つなッ!!!」

「何言ってるの、にこちゃん! 愛が届けばなんだってできるよっ!」

「愛で何でも解決と思うんじゃないわよ!」

「違うわよ、穂乃果。ちゃんとした未来予想図を作らなくちゃだめよ。どんな家に住んで、毎日のごはんはどうするのか、仕事は何をしているのか? 子供は何人で、孫は何人で、ひ孫は何n——」

「未来すぎるわよ?! てか、孫は真姫の力でどうにかなるもんじゃないから!!」

「それはもう、家族ぐるみで子作り教育を徹底すればいいだけだし」

「子供に強要すんな!! 怖すぎでしょ?!」

「ダメやで、にこっち。真姫ちゃんの夢を壊すなんて無粋なことしちゃあかんで?」

「希……アンタも同じこと言ってなかったっけ?」

「え~? ウチはただ、一撃で家庭を持つだけやから大丈夫やで♪」

「ど・こ・が!? イッパツ触発の大事件勃発寸前だわ!!」

「やるわね、希。けど、私のこのポンポンは蒼一を虜にできる自信と実証済みなの。負けないわ」

「負けてるわよ! 頭が!!! てか、ポンポンって何なのよ?! 胸か! その二子山のことかァァァ!!!」

「一撃で仕留める……さすがです、希。絵里。ですが、私も園田の跡取りとして負けられません! 掴んでみせます、永遠の伴侶!!」

「海未も対抗意識するなっ!!!」

 

 

 彼女たちのネジが1本……いや、何本も抜け飛んだ話に激高するにこ。ツッコミを入れていけば入れるほど話が深まり、もはや手に負えなくなりつつあった。

 

「ことりは……いや、もう何も言わないわ」

「どうしてッ?!」

「アンタの場合は何も言わなくたってわかるのよ! 行動、発言などなど、もう嫌と言うほど聞かされたし見てきたんだからだいたい予想できるのよ!」

「そんなひどいよ! せっかくみんなが来ている衣装とか持ってきたのにあんまりだよぉ~。あ、ちなみにことりのこのラクロスってね、なんかあの名前が似てるからついこれにしてみたんだ~♪ そう、s———」

「言わせないわよッ!!!?」

「まだ何も言ってないよ!?」

 

 ことりがしゃべろうとするよりも早く遮るにこ。察しのいい人ならことりが次に何を言おうとしているのかすぐにわかるがここでは割愛させていただこう。

 と言った感じにイメチェン計画として始めたはいいが、見事に腰折れしてしまった。なんでこうもウチのメンバーたちはバカばっかなのかしら……とにこは頭を抱えて唸るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 カシャッ———

 

 

「カシャ……?」

 

 突然、シャッターが切られた音が聞こえ、にこはハッとなって見回した。すると、後ろにカメラを持ち、レンズをにこたちに向けたまま微動だにしない少女が立っていた。

 

「あ」

『あ』

 

 カメラから顔を放した少女は自分を見だした彼女たちに、ニコリと一笑するとあのおちゃらけた声で言うのだ。

 

「どもー! いいネタ、ありがとうございますぅ~♪」

『よ、洋子(ちゃん)!?』

 

 颯爽と現れた広報部部長、島田洋子を前に彼女たちは驚愕を示した。その間に洋子は、これはいいものを見つけた、とばかりにシャッターを連射に切りだした。

 

「ちょっ!! 何アンタ撮ってんのよ!?」

「何って、そりゃあこんなにいい被写体を前にカメラ女子の心が昂らない訳ないじゃないですか~! いいですねぇ~μ’sの新しい衣装ですか~?」

「言わないわよ! と言うか、いつからいたのよ!?」

「さあ~? いつからなんでしょうね~? あっ、ちゃ~んと動画も撮っておきましたから蒼一さんと明弘さんに見せてきますねぇ~♪」

『待ってッッッ!!!!!!!!!』

 

 カメラを向けられ狼狽するだけだった彼女たちも洋子のその言葉に驚愕する。さっきのを蒼一と明弘に見られる!? そう思うと恥じらいを捨て口走っていた彼女たちも冷静にならざるを得ない。彼女たちは全力で洋子を止めようと駆けだそうとするが……

 

「あっ……! こ、これじゃあ動きづらいよぉ……!」

「下から風がスース―入ってきてスカートがめくれちゃう……!」

「い、衣装が大きくって、動けないですぅ……!」

「はぁ……はぁ……お、重い……こ、これじゃあ、走れな、い……」

 

 身に着けた衣装が足かせとなってしまい追いかけられないとんだ誤算を招いてしまった。彼女たちが歯噛みしている間に洋子の姿は消えており、冷たい風だけが残された彼女たちに吹き付けてくるのだった。

 

「……やめましょう」

 

 冷静なトーンで絵里が言うと、彼女たちも続き結局お開きになった。

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「あ~あ、なんか思ってたのと違ってたね」

「新しさを感じられると思ってたのですが、見当違いだったのでしょうか?」

「と言うかさ、途中から趣旨も変わってたじゃない? そっからすでにアウトだったと思うわよ!」

 

 着替え終えた彼女たちは再び部室に戻ると次なる方策を考えていた。にこ自身、これはうまくいくと自信があったのだろうが穂乃果たちにうまく伝わらなかったことや、暴走しかけたことでご破算になってしまったのは言うまでもない。

 

「とは言ってもね。これまでの趣旨を変えたところでA-RISE以上のインパクトを見せられるとは思えないわ。もっと違うことを考えなくちゃいけないわね」

「ぐぬぬぬ……」

 

 冷静に分析する絵里に納得する彼女たち。提案者であるにこは悔しそうにするが、事実であることを否めないので強く反論できなかった。ではどうするのか? 行き詰まりそうだった話し合いに希が提案の声を上げる。

 

「カードのお告げや……取り巻く環境を変換せよ、やって」

 

 お得意のタロット占いで”CHANGE”のカードを引き当てた希はそれを見せながら言った。

 

「それってどういう意味かにゃ?」

「ウチらの今取り巻いている環境を一変させる必要があるみたいやね。それでいて新しいことにチャレンジしてみるっていう意味でもあるやん」

「一変させるって言ってもねぇ、部室を片付けして模様替えするとか? 練習場所を変えるとか?」

「それなら今までだってやってきたし、新しいことじゃないわ。もっと変わったことをしなくちゃ……」

「せやったら、ウチがええ考えを教えたるで~」

「なになに希ちゃん! 何かあるの!」

 

 希が提案する内容に興味津々になる穂乃果だが、微笑を浮かばせる希ににこたちは不安を覚えた。

 

「ふっふっふ、それはなぁ……人格入れ替えやん♪」

『人格、入れ替え……!!』

 

 突拍子もない言葉に彼女たちはざわついた。

 

「人格入れ替えって、どういうことよ……?」

「わからないけど面白そうじゃない。とりあえず、やってみましょうか」

 

 希の趣旨はわからないがやってみなくちゃわからないと絵里が受け入れると順々にやろうと思うようになった。

 

「人格入れ替えって、誰でもいいの?」

「ええんやないの? 特に誰が誰をやるって決めとらんし早い者勝ちやん?」

「だったら私! 蒼君やるー!」

「あ! ずるいよ穂乃果ちゃん! ことりも蒼くんにしようかって思ってたのにぃ~!」

「ちょっとぉ! 私を差し置いて蒼一をやろうだなんてありえないわ! 私がやるんだから!」

「いやっ、なんで蒼一を選択肢にいれてるのよー!?」

 

 誰でもいいと言われ、穂乃果は迷うことなく蒼一を希望した。それに並ぶようにことりと真姫も続きちょっとした混迷に見舞われた。

 

「だってにこちゃん、蒼君になれるんだよ? それって蒼君を自分のモノにできるチャンスだと思わないかなぁ! かなぁ!」

「何サラッと怖いこと言ってんのよ! 怖すぎて肩が震えてきたわ!」

「違うよ、にこちゃん! 蒼くんを自分の思い通りに言わせるんだよ! あ~んなことやこ~んなことまで言うことができるんだから最高だと思わない!?」

「思わん!! てか、蒼一を演じているだけで中身はことりのまんまなんだから何も変わらないでしょうに!!」

「違うわよ、にこちゃん。蒼一がどんな言葉を口にするのかを想像するだけで興奮するじゃない? 私は蒼一と同棲していた経験してるから何を口にしていたのも熟知しているから完璧に演じられるわ。特に、夜のお供には最適で——」

「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉ!!! 真昼間から何言ってんの真姫ちゃあああああんんんんん!!!!??」

 

 トチ狂った言葉を平然と並び立てられる3人に、にこの背中から滂沱の汗があふれ出る。特に、さっきからこの真姫の発言はどれを取っても爆弾でしかなく手に負えなくなっている。早く何とかしないと……。

 

 そんな彼女たちの戯れをよそ目に、希は凛に声をかける。

 

「ねぇ、凛ちゃん。凛ちゃんは、明弘にならへんの?」

「え、ええぇっ!? の、希ちゃん! 何言ってるの!?」

「だって、凛ちゃんも彼女さんなんやし、少しくらい思うところがあるんやないかなぁ~と思ってなぁ。で、そこのところはどうなん?」

 

 凛からしてみれば、突然言われては驚きで狼狽を見せてしまうのは当然だった。しかし、そんな反応すらも希はおもしろそうに観察し、妹分の初心な姿を見つめるのだった。

 凛は希からの問いに、なんと答えようかと悩みに悩み、何度も唸りを上げてしまう。それなのに、希は早く早くと催促を入れるので凛は困りながらも頭に浮かんだことを口にする。

 

「えっ、えっとね……り、凛はね……弘くんには、なりたくないなぁ……」

「え? 意外やなぁ、凛ちゃんも弘くんになってあーんなことや、こーんなことを言ってもらいたいって思わへんの?」

「お、思いたくないってわけじゃないよ!? で、でもね……いくら凛がそう言ったからってね、凛は弘くんにはなれないもん。凛は凛で、弘くんは弘くんなんだもん」

 

 意外だなぁ……と聞いた本人である希も思わず目を丸くして聞き入ってしまう。凛が大人びた考えを持っていたことに驚きを隠せない。

 

「それにね、凛はやっぱり弘くんの口から聞きたいもん。弘くんの言葉って、とってもわかりやすくって凛の胸に真っすぐ伝わってくるんだ。難しい言葉もあったりするけど、弘くんは凛のためにわかりやすく伝えてくれるんだ。心がこもってるんだ。そんなやさしい弘くんのとこまでなれないもん……」

 

 そう話してくれる凛は、少し残念そうに笑った。少なからず凛も明弘になりたい思いはあるのだと感じられる。だが、やはり本人でないと感じられないことがあるということをこの凛は理解していた。これには希だけじゃなく、聞いていたμ’s全員にも響いた。

 

「………入れ替えは、私たちμ’sだけにしましょうね」

 

 絵里の意見に彼女たちは異論を出さなかった。

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。

今回もありがとうございました。
回を増すごとに彼女たちのキチっぷりが増幅しているように思えるのはどうしてなんだろうか……?いや、もう怖い怖い……()
これからもっと恐ろしい感じになっていくんだろうと思うと背筋が凍りますね。書く側なのに!!!

と言った感じで、次回も彼女たちの頭のネジが飛んだ話を見ていってください。

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