蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第210話


宴の前に。

 

「さー! というわけで、イェイ! 開催目前に控えましたアキバハロウィンフェス! テレビの前のみんな~はっちゃけてるか~い!?」

 

 弾けた口調で話だすテレビ局の女性リポーターがイベントステージ上でカメラを回して取材をし始めた。その女性は、色が派手な衣装と個性的な眼鏡をしており、見た目も十分弾けている。そんな彼女を目的……でもはなく、取材を受ける出演者を一目見ようと会場には多くの人がやってきていた。

その出演者の中に、μ’sから穂乃果、にこ、凛の3人が含まれていた。

 

 この3人が選ばれたいきさつというのは、前日のことだった———

 

 

『明日、イベント会場で事前インタビューがあるからここから代表者3人を選びたいんだけど、お前たちの中から行けるヤツはいるか?』

 

 取材!? 唐突に蒼一の口から言われたことに驚くμ's。これに一番強く反応したのは、穂乃果とにこだった。彼女たちが何を思って反応したかは知らないが、いち早く出たいと宣言したのはまずこの2人だ。

 他に出たいやつはいるか? と尋ね聞くも、海未と真姫は曲作りに、ことりと花陽は衣装づくりに残らなくちゃいけない。テーマは決まってなくても、すぐ作れるようにと万全を期す構えだからだ。絵里も希もやることがあったため、消去法でいくと———

 

『えっ? 凛が出るのぉ!?』

『まあ、そうなるわな』

『一時期とはいえ、リーダーやっとったし適任やね』

『凛、頑張ってきてくださいね』

『やだにゃぁああああ!!!』

 

 

 

 ——と、そんな経緯があって彼女たち3人がやってきたのである。会場まで来るのに嫌々言っていた凛だが、いざ会場入りしてステージ上に立つと、目を輝かせて辺りを見回しだした。

 

「わぁー! 凛たち、こんな広いところでライブするんだね! なんだかとってもワクワクしてきたにゃぁー♪」

 

 この凛の一変した態度に、感情のブレ具合が半端ないわね……、とにこはぼやいた。やっぱり子供なんだわ、とはしゃぐ凛を眺めながらも、にこもここに立つ高揚感に見舞われており気持ちを抑えるのに必死だった。

 一方、穂乃果は誰かを探すように辺りをキョロキョロと見回していた。

 

「蒼一はここには来ないわよ、穂乃果」

「……っ! そ、そんなことはわかってるよ、にこちゃん!」

 

 胸の内を読まれたような鋭い指摘に、一瞬ビクつくも若干慌てた様子で切り返した。先日の彼からの説明に、当日はステージ上に立つことはしないで事前に収録した映像を流すことになっている。俺たちはまた打ち合わせで呼ばれているからお前たちだけに任せるよ。と言づけていた。

 その時は大丈夫と言えた穂乃果ではあったが、取材される順番が近付くにつれて不安になってくる。それで心細くなって、いるはずもない蒼一を探してしまったわけだ。

 

「——やっほー! はっちゃけてる~?」

「わわっ……!」

 

 薮から棒に、ならぬマイクを突き出したリポーターが突然あらわれたものだから驚いてしまう。

 

「ライブに向けての意気込みをどーぞ!」

「え、えぇっと……せ、精一杯がんばります!」

 

 これが穂乃果のできる精一杯だった。せっかく取材用にと考えてきたセリフも、このリポーターの気迫とテンションによってすっ飛んでしまい、ありふれたコメントしか残せなかった。

で、そのリポーターはというと、軽いフットワークでそのまま凛の方に向かった。

 

「よぉ~し! そこの君にも聞いちゃうぞー!」

「ライブ、頑張るにゃ!」

「あ! かわい~~~♪」

 

 マイクを向けられた凛は、いつもと変わらぬ様子でネコのポーズをとりながら答えた。その仕草がリポーターの胸をときめかせたのか、つい凛の顔を頬ずりしてしまう。凛の愛くるしさは天性の賜物なのだろう、会場の視線が彼女に注がれるほど魅力に富んでいた。

 

 

 

——一方、この会場の近くで、

 

「ほぉぅ……頬ずりか……俺の許可なく……へぇ………」

 

 とただならぬ嫉妬心をぶつけてくるヤツがいたというのは内緒だ———

 

 

 

 

「あ! それじゃあ、私も。にっこにっこn——」

「さあ、というわけで、人気急上昇中のスクールアイドル、音ノ木坂学院のμ’sでした~!」

 

 そして、にこはスルーされた。

 

 

「そしてそして~! なんと! 今回のライブにはA-RISEも参戦だぁ~!!」

 

 そう言って出てきたのはテレビモニターだ。そこに映し出されていたのはもちろん彼女たち、A-RISEだ。彼女たちも事前に収録した映像を流す形式をとったらしい。もっとも、本物が出るとなれば会場騒然となるのは目に見えていたからだ。

 しかし、映像であっても会場から沸き起こる熱気はすさまじかった。さすがは人気NO.1アイドルと言える。

 

『この度はお招きありがとうございます。私たちは常日頃から新しいものを取り入れ、日々進化し続けています。このハロウィンフェスでも自分たちのイメージをいい意味で壊していけるものにしてみたいです!』

 

 英玲奈とあんじゅを両隣に据えながらツバサは堂々とした口ぶりで話をする。さすがに慣れた口調で話すので穂乃果は憧れの眼差しを向ける。

 

『当日までまだ時間がありますが、多くの人に楽しんでもらえるよう最高のパフォーマンスでお迎えさせていただきます。ぜひ、見に来てくださいね!』

 

 ——と最後に手を振ってツバサたちの映像は終わった。毅然とした態度を終始崩すことなく、力のある言葉で観衆を熱狂させた。さすがはトップアイドルと言えよう。この時点ですでにA-RISEとの差が広がってしまっていることに穂乃果たちは焦りを抱き始めていた。

 

「……っ、悔しいわね。もう負けた感じがして」

 

 取材中は笑顔を絶やさないでいようと思っていたにこも顔をしかめてしまう。同時に、凛と穂乃果にも不安が伝播するのだった。嫌な空気が漂うとする中、リポーターのテンションがかなり上がった声が吹き込んでくる。

 

「そして! なんとなんとなんとぉー!! 今回のイベントにはなんとぉー!! あの超大物ゲストが登場することが決定したぁー!! みんなも心待ちにした、あの2人組だぁー!!!!!」

 

 甲高い声を張り上げながら合図を送り、また観衆の視線がテレビモニターに釘付けになった。蒼君たちだ! 事前に話を聞かされていた穂乃果たちはすぐ察知することができた。だが、彼らがどんな姿で登場するかまでは聞かされていなかったので、胸をワクワクさせながら待った。

 

 

 

「……って、アレ? 映像出ないですか……? えー……もうしばらくお待ちくださいね」

 

 合図を送っても一向に映像が切り替わらないことにリポーターはスタッフに確認を急がせた。

 

「なんだろう、トラブルでも起きたかにゃ?」

 

 凛が首をかしげながら様子をうかがった。こういうトラブルって本番とかだとよくあることだよね、と穂乃果が頷いているとにこが、何縁起でもないこと言うのよ。私たちの時にも起こったら最悪じゃないのよ! となじった。

 穂乃果は、悪意があったわけじゃないと口をとがらせていると、会場のスピーカーから雑音と共に何かが聞こえだした。

 

 

 

 

『——どうやら、直接行かねばならないようだな』

『仕方あるまいて。これもまた一興、楽しまねば損と言うヤツさ』

 

 

 

 どこからともなく会場に響く声。集まった観衆たちはこの不思議な声にざわつきだした。リポーターやスタッフたちの方が騒がしくなっている様子を見る限り予期しなかったことなのだろう。

 

「ええっ! こ、これって……!」

「この声って……?」

「ま、まさか……!」

 

 ただこの声を知っている彼女たちは降ってくるその声の主がどこから現れるのかと辺りを見回す。すると、ステージを見下ろす人影が2つ、彼女たちの上に見えた。

 

『あっ……!!!』

 

 彼女たちは一斉に声を上げると、その2つの影は跳びあがり風音を切りながらステージ上に着地する。

 シュタッ——と華麗に降り立った2人は、全身が漆黒のマントに包まれ影というのにふさわしい出で立ちだった。両腕を広げマントを広げ、おもむろにひるがえすと彼らの姿がハッキリと見えるようになる。

 マントの下は、足首にまで伸びた漆黒のタキシードを身に着け、手首の裾や襟元には赤黒い模様を見せる不気味な様相である。さらに下には黒地のズボンと金色模様が入ったチョッキ、膝にまで伸ばしたブーツとどれも闇に溶け込むように黒々しかった。

 その姿は、中世貴族を彷彿させられる立派な出で立ちであり、背筋を凍らせる恐怖に似たものがある。会場に集まった観衆は、この姿が吸血鬼なのだと理解するに時間を要さなかった。

 同時に、この2人の吸血鬼がどこの誰なのかを、彼らが顔を覆う仮面を見て確信を抱いた。

 

「——久方ぶり、とでも言わせていただこうか」

 

 蒼天の青が刻まれた仮面の男がゆっくりとお辞儀をした。同じく金色に輝く仮面の男も(こうべ)を垂れて言葉を紡ぐ。

 

「我が名は、エオス。暁を呼ぶ者———」

 

 ひらりはらりと手を動かし、その先を観衆に向ける。

 

「我が名は、アポロ。始まりを告げる者———」

 

 諸手を広げ、荘厳に告げ知らせる。

 彼らが言葉を発する合間、誰も声を上げられなかった。みな彼らの一挙一動を、固唾を呑んで見上げるのだ。そして、観衆の口が解放される合図が発せられる———

 

 

『我らは、RISER———みな、待たせたな』

 

 彼ら彼女らにこの言葉を耳にしだすと、一斉に絶叫の如く声々を張り上げる。割れんばかりの歓声に会場が揺れ動く。衝動が周辺にそびえ立つビル群にまで反響してしまうほどのものだった。

 RISERの登場は誰もが予想だにしなかったハプニングだった。だが、この瞬間に立ち会えた者たちにとってはこれほどまでにないほどの感動でしかないだろう。長く人前に立つことがなかった彼らをこうして目に焼き付けられることの喜びをただただ噛み締めるのだ。

 

「キミたちの熱い声援に感謝する。今日この場に立てたこと、このイベントに参加することができたこと。このすべてに携わってくださった関係者の方々に、感謝を」

 

 マイクをとり挨拶を執り行うアポロ。彼が言葉を発する最中は熱狂する声援も止まり、静聴しだす。彼の声を聞き逃さないためだ。

 

「今回、俺たちがこのイベントに参加するのは、来るラブライブに向けての宣伝と本格的な活動再開を大々的に宣言することも兼ねたものだ。もちろん、この大きなイベントを盛り上げるためでもあるぜ!」

 

 高らかに上がる腕からガッツポーズをとるエオス。彼の言葉が再び会場に興奮の渦を巻き起こした。

 

「ハロウィンフェスってことで、俺たちもそれに合わせた衣装を着させてもらったぜ。見ての通り、ヴァンパイアだ。ドラキュラ伯爵、と言ってもいいな。これを着てライブをやるつもりだからみんな期待して待っててくれよな!」

「そして、このイベントに来れて最高によかったと言って帰れるように、俺たちも他の参加者に負けないくらいのライブパフォーマンスで応えて見せる。今テレビを見ているキミたちの参加も心待ちにしている。会場にて、再び会おう———」

 

 アポロが宣言し終えると、ステージ上に白い煙幕が立ち籠りだす。どこから出てきたのかわからないその煙が数十秒に渡ってすべてを覆ったが、煙が晴れた頃には彼らの姿が無くなっていた。彼らがいたことがまるで幻のように思えたが、その姿を目にしていた者たちが感じた興奮が冷めないことが何よりの証拠だった。

 そして、彼らに再び会えることに心が燃え上がるのだった。

 

 

「………やってくれたじゃない……!!」

 

 にこは悔し気に歯ぎしりしながらも、激しく脈動する胸を掴んでは放せなかった。これほどまでに強力な印象付けをさせられては手も足も出ない。これが本当の実力なんだと、深々と実感させられるのだった。

 

「蒼君……かっこいい……!」

「ヤバいにゃぁ……あんな弘くんを見ちゃったら、凛……っ!」

 

 彼らの新たな姿を見た穂乃果と凛は胸を高鳴らせて見惚れてしまう。早く帰って彼らに会いたい! とする気持ちで心も感情もいっぱいになってしまっていたのだ。

 

「……そう言えば、蒼一たちの衣装はいったい誰が作ったのかしら……?」

 

 目を細めたにこは、まさかと思いながらあの子のことを思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「うん、そうだよ! あの衣装はね、ことりがつくりましたぁ~♪」

 

 部室に帰った彼女たちを前に、ことりは満面の笑みを浮かべて言った。これになんとなく察していたにこは、やっぱりねとした態度をとる。蒼一たちが着ていた衣装に親近感と言うか、馴染みを抱いていたので早くから勘付いてはいた。これまでにずっとことりの作った衣装で活動してきていたのだからわかるのも当然だろう。

 

「ふ~ん、だから昨日蒼一たちが新曲を披露するって言った時に反応しなかったのは、すでに知っていたからなのね?」

「うん。実は、結構前から聞かされててみんなのライブ衣装を作る傍らでみんなに内緒でこっそり作ってたんだ~」

「にこたちの衣装を作りながらって……アンタ、やっぱりすごいわよね……」

 

 ことりが嬉々した表情を浮かべて話すので、にこは若干引き気味になる。それもそのはず、ことりはこの一か月の間に10着以上の衣装を手掛けているからだ。にこや花陽などに手伝ってもらってたりもするがほぼ1人でこなしており、どれも本格的で見事に仕上がっている。ことりの腕はいつしかプロに近いレベルにまで彼女の実力は伸び進んでいたのだ。

 

「さすがだよ、ことりちゃん! ことりちゃんの作ってくれた衣装のおかげで蒼君がいつもの数十倍もカッコよく見えたよ!」

「わかるわかるぅ! 凛も弘くんのカッコイイ姿を見た時、胸がすっごくドキドキしちゃった~♪ ちょっと悪そうな感じに見えて、あれで迫られたら凛もう何もできなくなっちゃうかも~~~♪」

 

 彼らの姿を最前で見ていた穂乃果と凛は、乙女らしい黄色い歓声を上げた。ミステリアス感満載のシュッとした大人な姿は誰の目に映っても魅力的に思えてしまう。男性的な妖艶さと言うべきか、彼女たちを虜にしてしまう力があそこにいた彼らにあったのだ。

 

「会場でやってたところをネット中継で見させてもらったけど、あれはずるいわよね。心をくすぐられたわ」

「ええなぁ~あの謎に満ちた感じウチにはたまらんわ~。いっそのことさらわれたいわ~♪」

「う、うらやましいです……花陽も、蒼一にぃの姿を生で見たかったですぅ……」

「あんな恰好をして……破廉恥ですっ……! あれに迫られたら襲ってもらいたくなるじゃないですか……♡」

「……あぁっ、もうだめだわ。今すぐ蒼一のところに行って抱かれてくるわ。むしろ抱いて! 私の血液を全部吸い取られて蒼一と同じヴァンパイアになりたい! そして、不死となった私たちは紅い満月の夜の中で永遠の愛を誓いあいたいわ……♡」

『あ”……???』

 

 若干、頭のネジが緩んだ子は置いておいて、彼の姿がここにいるみんなを魅了したのは言うまでもなかった。最近は、かなりおっとりとした雰囲気を出している彼が、ここまで変貌して見せたことは彼女たちに深い刺激を与えた。普段のイメージとは違った姿を見せるだけで興奮の度合いが変わるのか、とにこは関心を示した。

 

「……あっ! これだわ!」

 

 何を思いついたか、にこは膝を叩いて言った。どうしたの、にこちゃん? と穂乃果が尋ねると、ふと降りてきた名案に企みある表情を浮かばせた。

 

「イメチェンよ! イメチェン! にこたちも蒼一たちにならって今までのイメージを一変させることをするのよ! そうしたら強烈なインパクトを与えること間違いないにこ!」

「イメチェンって、いったいどんなことをするつもりなのかしら?」

「ふっふっふ、そこはにこに任せなさい!」

 

 小さな胸を叩いて自信満々でいるにこに絵里たちは心配の色を浮かばせるほかなかった。

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。
ようやく落ち着きを取り戻していい流れで書くことができてます。やっぱり原作通りになるとオリジナルより考えがうまく運ぶようです……

そんなわけで、今回久しぶりに蒼一と明弘をRISERとして登場させました。個人的にまだ彼らがどのくらいの影響力を持っているのかと言うところまではちゃんと明確にはさせてはいませんが、絶大なものだと思っています。一応、スーパーアイドル的な立ち位置ですからね……。
せっかくRISERが普通に登場させることができるのですから関連した話をたくさん出せたらいいなぁと思ってたりしています。
ではまた、次回もよろしくお願いいたします。

今回の曲は、
GACKT/『Metamorphoze』

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