蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第202話


高貴で謎のお嬢様?

 

 ファッションショーが終わって間もない時のことだ。

 自宅のリビングでくつろごうかと思っていた俺の前に悩ましきものが置かれてある。

 

「さて、どうしたものかな……」

 

 テーブルの上に頬杖ついて深い溜息が漏れ出てくる。

 緊張感に駆られる日々を送り、やっと一息つけるかと思っていた矢先にはいつも新たな問題は起きてしまう。まるで、俺に休むなと誰かに悪戯されているのではないかと勘違いしてしまうほど高い頻度だ。その度に疲労した頭を回転させているが、今回は一筋縄ではいかなさそうだ。

 

「おいーっす! 兄弟いるかー!?」

 

 騒がしいほどにうるさいのがやってきやがった。

 リビングの扉を壊しそうな勢いで開けて入ってきた明弘の第一声がこれだ。何の前触れもなく、ただニカニカとアホっぽい笑いで来るから腹が立ってくる。

 

「……で、何の用だ? デート帰りの自慢話でもしに来たのか?」

「んなっ!? そ、そんなわけねぇーだろぉ……!」

「そうか。てっきり、凛に新しく買ったカチューシャに胸を高鳴らせすぎて苦悶してるのかと思ったわ」

「そうそう、明るいイエローのカチューシャが凛によく似あっててな、はしゃいだら取れちゃうからってずっともじもじしてると言う普段とのギャップがもうたまらん……! まったく、凛のヤツはどれだけ俺を悶えさせれば気が済むんだ……って、何で兄弟がそのことを?」

「買ったからさ、俺が。ライブで頑張った礼としてな」

「なん、だと……?!」

 

 どこぞの死神代行みたいな驚愕の顔になるなよ……。

 ちなみに、明弘が指す凛のカチューシャと言うのは、さっきも触れたように俺が買ってあげたものだ。前回のライブは凛がμ‘sのリーダーとしてみんなをまとめてくれたおかげで成功できたと言っても過言じゃない。

 カチューシャは頑張ってくれたそのご褒美として買ってあげたもの。俺自身、凛には何もしてやれなかった節があったためで気休めかもしれんが埋め合わせとして与えたんだ。

 実際、喜んでくれたし、明弘にも好評だったみたいだし、まずまずといったところか……。

 

「兄弟……いい、センスだ……」

「死にかけのリキッド・オセロットみたいなポーズをとるのやめぇい」

 

 過剰すぎる反応を見せてくるなコイツ……。

 

 あのライブの直後、明弘は凛に告白をしたそうだ。結果は言わずと知れたこと、練習が終わると凛と2人だけで帰る時間が多くなった。明弘にとって初めての彼女だというので、ようやく彼女いない歴=年齢にならずに済んだ! と嬉しそうに息巻いていた。凛もまた明弘と付き合えて毎日が嬉しそうだし、以前よりも女の子らしさが増してるようにも思える変化もあった。

 あのライブ以降、世間の目が2人に注視され様々な反響を呼んでいるが、あの2人の関係は並大抵のことでは引き裂かれないだろう。女好きの遊び人であるのに明弘と言うヤツは、意外にも一途な性格で凛を恋人に据えて以降めっきり好色に耽ることはなくなった。

 そんな律儀なところが今の関係を深めているのだろうな。

 

「いや~さすが兄弟、女を磨かせるのに長けていやがる。危うく気絶しちまいそうだったぜ……!」

「あっそ」

 

 ただ、あまりにも浮かれすぎてて違った意味で困ったことになっている。恋も詰めすぎれば辛くなるのだからほどほどに、と言ってやりたい。

 

 

「そんでさ兄弟、何思い悩んだ顔をしていやがったんだ?」

「いやな、ちょっと俺だけじゃどうしよもないことが起こっちまってさ」

「なに? 兄弟にしてはえらく弱気な感じじゃん? いったい、どんなことが起きたっていうのかよ?」

 

 ちょうどよく相談にのると助け手を出してきたから即受けた。

 

「明弘にも聞いてほしい案件だ、これを見てほしい」

「なんだそりゃ?」

 

 首をかしげる明弘に悩ましい小さな一枚の紙を手渡す。

 すると、それを見るなり明弘の顔色がガラリと変わった。浮ついていた遊び人の顔がいくつもの修羅を乗り越えてきた真剣な表情となっていた。

 

「……お、おい……これをどこで手に入れたんだ……?」

「この前のライブの時だ。その際に手渡された」

「手渡された!? おいおい、そんなバカな! なんせこれは———!」

 

 

 

 驚愕と焦燥の表情を浮かび上がらせた原因のその紙は、あの時、彼女から手渡された————

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 ファッションショー当日———

 

 

「ごきげんよう———」

 

 ステージに上がっていった凛たちを見送った俺の前に現れたその女性は前触れもなく挨拶を交わしてきた。反射的に俺もすぐに返事をしたのだが、やけに丁寧な言い方をするなと不思議に感じていた。

 女性の姿をあらためて見上げると、白銀の長髪が壮麗な美しい輝きを放たせて揺れていた。めずらしい色だと感心すると同時にどこかで見たことがある髪だと脳裏で囁かれる。

 

「また、お会いいたしましたね、宗方蒼一」

「っ———! ま、まさか———!」

 

 滑らかに流動する言葉遣い。歌うような抑揚のある口調。それに、俺のことを苗字と名前の両方を含めて話す人物に覚えがある。再び、彼女の顔を凝視すると、鋭い眼先をやんわりとつぶして微笑みかけてくる。

 美麗な笑み——一度見たら忘れられない超越した領域の美女の微笑みが俺の記憶をよみがえらせた。

 

「……タカネ、さん。なのですか……?」

「ふふっ、いかにもです。あなたと同じ釜の飯を共についばみえた者。よもや、このような場所で再び相まみえんこととなるとは、(まこと)不思議なものです」

 

 彼女——タカネさんは指で口物を押え、くすりと愛嬌のある笑みを浮かばせた。その仕草は以前と全く同じで変わらない。見間違えるわけがなかったのだ。

 

「しかし、どうしてここに? キミも参加者なのか?」

「おっしゃる通り、(わたくし)もこの、ふぁっしょんしょーなるものに参加させていただきました。(わたくし)は人前にて自らの姿を晒すことを生業(なりわい)のひとつとしております故、この度も皆々様のご協力を仰いで参った次第なのです」

「なるほどな、そういうことだったのか。しかし、姿を晒すことを生業にって、タカネさんはモデルなのかい?」

「もでる……? いえ、(わたくし)は“あいどる”と言うものを演じております」

「アイドル?!」

 

 彼女の口から出たその言葉に目を光らせた。

 アイドル――スクールアイドルとは別の自らの職としてのものを示す。そして、誰もが憧れる存在となれるもの。

 タカネさんが口にしたのが、まさにそれのことを指しているに違いない。これまでの会話や状況を鑑みるなり嘘を吐いているようには思えなかった。

 

「うふっ、唐突な話故にあなた様を悩ませてしまいましたね」

「い、いや……。でも、驚いたのは確かだ。何せ、本当のアイドルと話をするのは初めてだからな」

(わたくし)は、あいどると言ってもまだ日の浅い若輩者。(わたくし)はまだ、世に流れるうら若き乙女たちと何ら変わりない存在なのです」

「そんなわけないだろう。キミの様相はどこから見ても普通の人よりも輝いて見える。いくら経験が浅くたって、人前に自分を出すことをしている人は姿かたちが他よりも抜きんでてくるものだ。タカネさんもその一人に含まれるさ」

 

 これを聞くと、タカネさんはきょとんとした顔になった。そしてすぐ、頬を揺らすような笑みをこぼして言うのだ。

 

「ふふっ、それはお褒めいただいていると考えてよろしいのですね?」

「褒める以外になにがあります? キミの容姿を批判するだなんてことは俺にはできないさ」

「そう言っていただけるとは、(まこと)、感謝の極みです。ありがとう、宗方蒼一」

 

 目元をやんわりと細め、口端を伸ばして嬉しそうに微笑んだ。こうやって笑って見せる時もタカネさんから出る不思議なオーラが目にとまる。まだ彼女のことをろくに知らないままだが、他の人とは一風変わっている人であるとあらためて認識させられた。

 

 ふと、彼女はこのショーに出たのかが気になり問いかけた。

 

「タカネさんはもう出終わったのかい?」

「はい、かなり前になりますが(わたくし)の役目は果たされました」

「そうだったのか……いや、申し訳ないのだけど、俺は見てなかったわ……」

「ふふっ。いえ、そのようにかしこまらなくても構いませんよ。宗方蒼一、あなたにはやるべきことがあったに違いありません。(わたくし)のことよりその方があなた様には大事なことでしたでしょう」

 

 タカネさんは何も残念そうな様子も見せず、ただ笑って済ませた。自分の晴れ舞台を見てもらえなかったというのにその落ち着き様……自分を売り込まなければならない普通の参加者なら見てもらえなかったことに落胆するものだが、彼女にはその素振りが見当たらない。

 まるで興味がないのか、それとも余程の自信を持ち合わせているのか……。いずれにせよ、彼女の器の大きさを感じざるを得ない瞬間だった。

 

 

「そろそろ、ですね―――」

 

 何かを待っていたかのようにタカネさんはモニターを見上げた。

 モニターの向こう側ではちょうど凛たちがステージに登場しだしていた。ようやくアイツらの出番がやってきたようだ。

 今日のメインはなんと言っても凛のウェディングドレス姿だ。きらびやかな衣装に身を包ませ、弾けんばかりの愛くるしさがモニター越しからでもよくわかる。気取ろうとしなかった凛が今日、この瞬間に変わるのだ。誰もが羨む女の子に生まれ変わるんだと。

 その自信に満ちた表情を浮かべる姿に影からエールを送るのだった。

 

 

「凛、美しくなりましたね」

 

 タカネさんが凛を見て確かに口にした。

 

「知っていたのか、凛が来ることを?」

 

 不思議だった。どうしてタカネさんは一目で凛だとわかったのだろうか? いくら凛と顔なじみだからと言ってもすぐにわかるはずがない。それに、ここで登場することを予感しているような素振りがあったことも不思議に感じていた。

 しかし、俺からの問いにタカネさんは含み笑みを浮かばせるだけで、

 

「女性には秘密がたくさんあるものですよ」

 

 憎めない素振りでかわすのだった。

 

「しかし……(まこと)、美しき姿。膨らみかけの牡丹が開花を遂げるような華美な瞬間ですね」

 

 センターステージで、ひとり前に出て歌う姿にうっとりとした様子で見上げていた。当然だとも、今の凛は誰にも負けないかわいさと美しさがある――と自信を持って言えるのだから。

 

「あの子には、本来より人を惹きつける才能がありました。ですが、それに気づいても気づくことなく幾年も抱え込んでいたいたいけな姿に不安を感じておりました。しかし———」

 

 言葉を止めてモニターを仰ぎ見る。ステージ上ではクライマックスに差し掛かろうとしていた彼女たちが立ち、そして……明弘が……。

 

「———ふっ、どうやら開かせたのはあなたがたのようですね」

 

 気付いたらこちらを向いていたタカネさんがまた含んだ笑みを浮かばせて言うのだ。

 買い被りですよ――、と自信もない様子で返すと眼を細くさせていた。

 

「いいえ、あなたがたに間違いありませんよ、宗方蒼一。滝明弘、彼は凛の心に直接働きかけたことは確かです。そしてあなたは、あなたがこれまで培ってきた時間があの子を導く力となっていたはずです。そうではありませんか?」

「………」

 

 投げかけられた意味ありげな言葉に眉がひそむ。俺が培ってきた時間? 言葉そのものをとらえれば確かにその通りかもしれないが、この子の意味するものがそれではないように思えてしまう。一見しても一癖ある彼女だから侮れないとする思いがどこかしらに存在するのだ。

 

「タカネさん、キミはいったい何者なんだ?」

(わたくし)は、取るに足らないただの“あいどる”の端くれ……これ以上は何も申し上げられません」

 

 自分を知られたくないのか口を封じるように人差し指で抑える仕草をとる。

 情報共有を拒絶、か……そう言えば、俺はタカネさんのことを全くと言って知らない。白銀の長髪をなびかせる美女で、凛とは顔なじみ、そして、アイドルであることくらいしか知らない。それに、アイドルであることすらわからないというのに……

 

 

「タカネ――!」

 

 突然、彼女を呼ぶ男の声が聞こえてきた。声のする方に首を回すと、紺色のスーツと黒の眼鏡をびしっと決めたいかにも真面目そうな男性が立っていたのだ。話しぶりや声色の感じからするととても若そうで、俺とさほど変わらないのではないかと思えてしまう。

 そんな彼がタカネさんに近寄って話をしだす。

 

「そろそろ次の現場に行かなくちゃいけない時間だぞ。着替えは済ませたようだし、このまま行こうか」

「もうそのような時間に? (まこと)、時は水流の如く早いものですね」

「余韻に浸っているのもいいけど、もう時間が……」

「お待ちください。(わたくし)には、まだやり残したことがございます」

「えぇっ?! な、何かし忘れたことでもあるのか!?」

「はい……(わたくし)、まだこの近くのらあめんを賞味しておりません。そこのらあめんは他とは違う味わいを見せてくれるとか……これは行かねばなりません」

「行かんでいい! ラーメンはまた今度だ!!」

「そ、そんなっ……?!」

 

 とてつもないショックを受けているな……連れの男性に言われて驚愕な表情になるのを見ると余程好きなんだろうなぁ。未練ありありな様子で落ち込んでいるのがよくわかるのだ。

 同時に、わずかに耳に届く話を(ついば)んでみると、スケジュールに追われる様子が見えてくる。アイドルとしての彼女の存在がより現実味を帯びて俺の認識に飛び込むのだった。

 

 

「お待ちください――」

 

 さあ行こうか、と引っ張っていこうとした連れを前に彼女は止まった。彼女が連れに何かを話をしていると思ったらこちらに寄ってきて何かを見せてきた。

 

「これを、あなた様に」

 

 両手を広げてその上に添えられる一枚の紙。手のひらに収まるくらい均一に整えられた長方形の厚紙。そこには彼女の名前らしきものと所属する会社と住所、電話番号などなどが記載されていたことから、これは名刺なのだと理解した。

 

「これを俺に?」

 

 差し出されたそれは明らかに俺に渡そうとしている。けど、これをもらう意味が俺には理解できなかった。タカネさんたち業界関係者ならともかく、一般の俺なんかがもらっていいものではない気がするのだ。

 

「気が向きましたらそちらに書かれておりますところにご連絡をくださいませ。いつでもあなた様がお出でなさるのをお待ちしております」

 

 気が向いたら、ってどういう風の吹き回しだ? タカネさんは俺に何を期待しているんだか。ただの男がわざわざここにあるところに出向く理由なんて見当たらなかった。

 すると、タカネさんがまた小さく笑って話し出す。

 

「あなた様方の素敵な舞い、それを放るには実に惜しいものです」

「………っ!?」

 

 タカネさんの言葉に、全身がぞわついた。悪寒に襲われた時と同じ震えだ。

 まさかと息を呑んでタカネさんの顔を凝視した。そこには変わらない笑みを浮かばせてはいるが、今は思惑を含んでいるように思える。あの(すみれ)色に光る妖しげな瞳に心を掴まれそうになる。

 

「タカネ……キミは……!」

 

 揺らいだ心をしっかり押さえるように彼女に問うてみる。しかし、彼女は話を逸らす。

 

(わたくし)はあなた様方の舞いをこの目で見たい、ただそれだけです」

 

 そう言うと、タカネさんは俺の手に名刺を握らせると軽く会釈して背を向けた。そして、“プロデューサー”とタカネさんが呼びかける連れの男性とともに去って行ってしまう。

 後に残るのは、静寂のみ……

 

 結局、彼女は俺が求める問いに答えようとはせず、終始謎に満ちた雰囲気を漂わせていた。彼女を知ろうとすることは空を掴むようなもの、そう思わせられる印象だけが胸の中に残った。

 

 そして、手中に収められた一枚の名刺を見て、彼女の片鱗を知る。

 

 

 

 

 

“芸能事務所 765プロダクション”

 

“四条貴音”

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

――その時渡された“名刺”にはそう書かれ、今手元にあるのだった。

 

 

 

「蒼一……これは………」

 

 明弘は大きな溜息と眉間にしわを立て、柄にもなく憂慮した顔になる。デート後の浮かれた様子も一気に醒めてしまうほどのことを思っているのだろう、そう読み取れる。

 

「……そこの芸能事務所のことは調べたのか?」

「かじった程度だが一応な」

「なんなら話が早い。いろいろしょっぱねて話すぞ」

 

 テーブルの向かい側に相対するように座ると、肘を置き指先同士を組ませたゲンドウポーズで話をしだす。

 

「765プロダクションは新生の芸能事務所だ。有名なのは“竜宮小町”っていう女性3人ユニットのアイドルで、他にも何人ものアイドルを抱えている。実績は立ち上げてばかりだから何とも言えないが、“竜宮小町”を筆頭に他のアイドルたちの活躍の場が増えている。このアイドル戦国時代の真っただ中で、徐々に勢力を広げているところだというのは確かだ」

 

 明弘の話に間違いはない。こちらで下調べした際の情報とかみ合っているし、アイドルに詳しい明弘なりの考察も含まれているから安心している。

 

「んで、肝心の“四条貴音”だが……俺にもわからん」

「なに?」

「わからねぇんだよ。あの子の出身地も何が長所なのかすらもわからねぇ。人前に出ても隙を見せることは何一つないミステリアスな存在なんだ」

 

 ミステリアス……確かに、その言葉がしっくりきそうだ。あの子のことを思い返せば、仕草ひとつでさえも普通のようで普通じゃなく、どこか超越しているようにも思えた。

 

「見た目から完璧に出来上がったスタイルを持っていることから最近だとモデルに専念しているが、本業はアイドルだ。奥まった深い声色に、他に類のない歌唱力。あのミステリアスな姿と相まって強い印象だけを植え付ける稀なタイプのアイドルだ。しかし……それがあの時、隣でラーメン食ってたお嬢さんだとはなぁ……世間も狭いもんだ」

「なんだ、覚えていたのか?」

「あったりまえよ! 気になった女はちゃんとリサーチしておくのが俺の性分ってやつよ」

「なるほどな。それ、凛に言ったらどんな反応が来るんだろうかな?」

「お、おいおい、ソイツだけは勘弁してくれよ? 凛のヤツ、俺が他の女を見るたびに嫉妬しだすんだからさ、あまり変なことを言わないでくれよ?」

「ふっ、早速彼女に尻に敷かれるか」

 

 うるせぇやい! とあしらうように返す明弘。話も逸れて凛のことになっていた。さっきの話もそうだが、初めての彼女というものは、やはり明弘でも変えてしまうものなんだとつくづく実感するのだ。

 

「ん? 何で俺は凛のことを話してんだ? 違う違う、今は765プロのことだ! そんでよ兄弟、その名刺をもらったってことは理解してるんだろ?」

「とりあえず、な……」

 

 芸能事務所の名刺——しかも、所属アイドルから直接手渡されることは一生にあるかないかの非常に稀なことだ。それが俺の手の中にあるという意味は……

 

「しかも、“貴音さん”は俺“たち”のことを言っていたんだ。これは俺だけじゃなく、明弘、お前にもかかってくる話なんだぞ?」

「んなこたぁわかってる。それは言わば、向こうからの招待状。一度、その事務所に来いってことになるんだろうよ」

「当然そうなるよな」

「何のために呼ばれるのかわからんが、気が向いたら行ってもいいだろう。だが、これはアイツらには内緒にするんだぜ?」

「当たり前だ。こんなことを話したってアイツらには関係ないことだろうし、その後があっても今は話す時期じゃない」

 

 穂乃果たちはラブライブに向けて走っている最中だ。ちょっとした雑音さえも入れたくないところにこんな話をすれば動揺するのは間違いないだろう。

 

「ともかく、俺たちはいつも通りにやってればいいだけさ。で、気が向いたら一度あっちに顔を出しに行けばいい」

「だな、その方向性にするか」

 

 2人での話がまとまり、ほっと一息吐く。

 

 ただこの一枚の紙が俺にどんな影響を与えることになるのか……それはまだ、先のことになる。

 

 

 

(次回に続く)

 




どうも、うp主です。

お久しぶりです。かなり間をおいての投稿となりました。
新たな環境に移り変わってからどのタイミングで書けるのだろうと試行錯誤しておりましたらこんなに時間をかけてしまうとは……なんとも言えぬものです。

今回の話に登場してきた、四条貴音という人物。こちらは知っている人にならわかる、あの『アイドルマスター』に登場するアイドルです。
このキャラは自分の中でもかなり前から出したいと思ってきただけあって、名前もしっかりさせて登場させることができて感動しています。貴音がこの後、蒼一たちとどのような接触をするのか今後の気になる点となるに違いないでしょう。

では、また次回もよろしくお願いいたします。

今回の曲は、

四条貴音/『フラワーガール』

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