蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第199話


この思いは?

 

 日が沈み、路地に街灯が照らし出される。夜の暗闇が空から降りてきて辺りを暗く包み込み始める。明弘が凛の家を立ち去ったのもちょうど同じ頃だった。

 

 酷く心を(けな)され塞ぎ込んでしまった凛に会いに行くために彼はその場所に立った。彼は彼女を目の前にすると、彼女の抱えるその果てしのない心の痛みに胸打たれた。彼女からすべてを奪い去られてしまったかのような、見るに堪えない姿に全身が震えた。赦さない、と虚弱(きょじゃく)化させた相手のことを思い、恨みを(つの)らせた。

 

けれども、彼は恨む以上に凛のことを気にかけた。彼は彼女に勇気を与えようと生の感情を発し、言葉として送り届けた。これは彼がその場で思いついたことではない。彼女と短くとも長い時間の中で過ごしてきた日々の中から生まれた言葉。彼の彼女に対しての思いがその言葉に詰められているようであった。

この言葉を耳にした凛ははばかることなく彼に抱きつき、大粒の涙をこぼして胸に突き刺さった苦痛を癒した。

 

 これが彼女を救うという結果をもたらすことになるとは知らず……。

 

 

 

「――まだ、ぬくもりが……」

 

 岐路に立つ明弘。その数十分前までこの腕の中には凛の小さな身体が収まっていたことを思い出す。ほっそりと伸びた腕に肉感が少なくまるで骨に触れているような華奢な肢体。加えて、虚弱化した彼女の心が表面化されていたことで、あらためて凛のか弱さを知ることとなった。

 それは同時に、凛のことを守っていきたいとする思いが彼の中で湧き起ろうとしていたのだ。ただ彼は、その思いが何なのかわからなかった。彼が今まで生きていた中で初めて感じていることだろうこの気持ち。最近それが顕著に表れてきていることを認知しているが理解ができていない。これが何であるかわからず悶々と時を遊ばせた。

 

 そうしてわかってくることは2つあった。

 1つは、凛とともにいるとその感情が生まれやすいということ。もう1つは、凛から離れるとモヤモヤした感情が生まれてくるということだ。

 互いに鍵を握るのが、凛という存在であることは間違いない。これだけは確信している。問題は、その感情というのは何なのかと言うことだけだった。

 だからと言うわけではないが、今回、明弘が凛の家に足を運んだのもそれが1つの理由となっていた。結局、その答えを見つけることはできなかったものの、帰り際に見た彼女の表情に明るい笑顔が灯った様子が彼にとっては何よりの成果であった。

 

「答えは、いずれわかるかもしれない……」

 

 穏やかな表情を浮かばせる明弘はそう小さくつぶやいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――その様子じゃ、凛のほうは大丈夫みたいだったようだな」

「――――っ!」

 

 突然、暗闇の中から声を掛けられ身を強張らせた。どこから聞こえてきたのか見当がつかず、辺りを見回していると、前方からカツカツと地面を鳴らす足音が聞こえてくる。視線を前に戻し、目を凝らすと街灯にチラリと人影が映りこんだ。そのままゆっくりと灯りが影を照らしていくと、彼は目の前の存在に驚きを示した。

 

 

「きょ、兄弟!?」

 

 なぜここにいるんだと言わんがばかりの驚愕な様子を彼は視線上にいる男、蒼一に向けて言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「そう驚くことじゃないだろう」

 

 蒼一は平然とした様相で言ってくる。

 そうは言うがな、暗がりからいきなり出てこられたら誰だって驚くに決まっているじゃないか! しかもコイツは、物音何一つ立てずに接近してくるステレススキルのようなもの発動してくるんだからたまったもんじゃない。

 しかし、何で蒼一がこんなところにいるんだ? 家からも離れているのにどうしてこんな……ん? なんだ、その服装は……?

 近くに寄って初めて気が付いたんだが、蒼一が膝まで隠れるほど長い黒のロングコートに身を包ませているんだ。昼間はそんなもの着込んでなかったはず……。一旦戻って着替えたのだろうか? だとしたら何のために……? そうなると、蒼一が何のために出かけていたのかが気になってくる。

 

「なあ、どっかに出歩いてたのか?」

「ん、ああ、ちょっとした()()をしにな」

「ふ~ん、()()、な……」

 

 まぶたを薄めて、微笑を浮かばせた。そんな蒼一の顔がやや不気味に思えてくるのと、発した言葉に引っ掛かりを覚える。ただの散歩でそんな笑いを見せるだろうか? あんな顔をしている時は、大抵、腹の虫が治まった時だ。とどのつまり、何かを仕留めてきたのだろう……。その相手は……まあ、なんとなく察しが付く。

 

「……あまり派手なことをするんじゃないぞ?」

「何がだ?」

「それは……いや、何でもない……」

 

 変に詳細を聞くのはやめよう。何か触れちゃいけないものに関わろうとしている気がしてならない。蒼一のことだ、その辺はちゃんとしていると思うから表沙汰になることはないはず……。

 

 

 

「それで、凛のほうはどうだ?」

 

 逸れた話を戻して聞いてくる。

 

「大丈夫さ。手間かけたが凛は必ず立ち直れるはずさ」

「そうか。それはよかった」

 

 安心している素振りを見せてはいるものの、安堵の表情を浮かばせているようには思えない。まるでこうなることを想定していたかのようだ。

 ただ、蒼一の出す想定は意外なことによく当たっていることが多い。予知能力が高いからなのだろう、今回も同じ様に未来予知していたに違いないとあの冷静な面構えを見て思う。

 

「というか、わざわざそのことのためにここまで来たのか?」

「俺も凜のことが心配で来たんだ。もし、お前ができなかったら俺が代わりに出て行こうかとさえ思ってたくらいなんだから」

「……兄弟ならやりかねねぇな……」

 

 冗談で言ってそうにも思えない言い方だな。現に、蒼一は過去に8人もの悩める少女たちを助けてきた実績みたいなもんがある。いわばもうプロみたいなもんさ。そんな経験豊富な蒼一が出て行けば、俺なんか必要ないじゃないかとさえ考えちまうほどだ。

 

「だが俺は、明弘が出て行って正解だったな。凛も明弘になら心穏やかに接しただろうし、明弘に対してだからうまくやれたんだろうな」

「ん? 何言ってるんだ? 別に、俺じゃなくても兄弟がやっても同じだろう?」

「……お前、それ本気で言ってんのか?」

 

 蒼一は急に怪訝そうな顔を浮かばせた。

 

「明弘。お前は、凛の気持ちを考えたことはあるのか?」

「あ? いきなり何を言い出すんだ?」

「ちゃんと答えろ。お前は凛の気持ちがわかるのかって?」

 

 唐突に何を言い出すのかと思いきや、凛の気持ちがわかるかって……? わからないさ。わかりたくたってわかることができないのが人の気持ちってもんだろうに。そんなこと、蒼一だったらよくわかっているはず……なのに、なぜそんなことを俺に?

 

「無茶言うなよ。凛の気持ちがわかれば、こんなにも苦労することはないだろう?」

「確かにな。普通だったら相手の気持ちなんてわかるもんじゃない。だが、お前はあの時、凛のところに行くことを何ひとつ躊躇することなく行ったじゃないか。あれは、お前の気持ち云々だけじゃなく、他にも確信的なところがあったからなんじゃないか?」

「……!」

 

 蒼一の言葉に一瞬、目が見開いた。なんとも、気付かされたと言った方が正しいかもしれない。確かに、あの時の俺は自分自身の感情とともに確信的な情報が頭の中に入り込んできたように感じたんだ。何故だかわからねぇ……けどあの時、確かに俺はこう確信していたんだ。

 

 凛が俺のことを待っているんだ、って―――!

 

 だが、どうしてだ? どうして俺はあの時そう思ってたんだ? それじゃあ、まるで根拠のない確信と同じじゃないか。普段の俺だったら、そんな曖昧なもので心が左右されるはずがない。だとしたら、何故動けたんだ、俺は!?

 

「ほんとのところ、実は気付いてるんじゃないのか? お前の凛に対する気持ちをさ」

「俺の、気持ちだと……?」

「俺たちは曖昧な感情では動かされない。だが、同じような感情がどこかで合致した時、初めて心が揺れて動き出す。かつて俺がアイツらを助けた時と同じように」

 

 蒼一はかつてのことを思い起こすかのように話した。あの時、苦しむアイツらを蒼一は身を挺してまで助け出した。その原動力はいったいどこから生み出されたものだったのか。蒼一はどんな気持ちでアイツらと向き合っていったのか。その一部始終を俺は見届けていた。だからこそ知っている。その原動力となっていたものを……。

 

「誰かを助けたい、その気持ちはかつての俺と今のお前とは同じはずだ。そして、それ以上のものが俺にもあったように、お前にもあるはずだろう?」

「なんだ、それは……?」

「単純な話さ。人を好きになるという感情だ」

「……っ?!」

 

 す、き……だと……?

 突然告げられたのは思いがけない言葉だった……。ある意味、俺とは一切かけ離れたもののように感じていたからなおさら驚きを隠せなかった。

 

「……ハッ、何を言うかと思えば……まさか、そんなことあるわけ……」

 

 ありえない――、その言葉に対し俺は否定にかかろうとしたが、とっさに声をつぐんでしまう。喉に何かが引っ掛かったみたいに急に声を出せなくなった。まるで、誰かに止められているかのような思いだ。

 

「あるわけがない――なんてお前の口からは言えないはずだ。お前も薄々気付いてたんだろう、そのことについては」

「……な、なにをバカなことを……! 俺が凛のことを好きだなんて……!」

「嘘を言うな。お前は凛のことが好きなんだ、自分では気付いてないかもしれないけどな。お前は凛と接する時、他の女子とは明らかに違った態度をとっていた。親しみを込めるような気持ちで、それも今まで見たことがないくらいにな」

「お……おいおい、冗談はよしてくれよ。どうしてそんなことが言える? そもそも俺は、いたって普通に他の子と同じように接していたんだ、ありえんさ」

「ありえない、か……。そこまで否定するというのなら……なら、どうして合宿の時、凛と2人で一緒にいたんだ?」

「それは……り、凛が行こうって言ったから……」

「違うな。それはお前が連れて行ったからだ。しかも、2回もだ。海での合宿だけじゃなく、山中での合宿でもお前は凛と2人で出かけて行ったじゃないか――それも夜中に」

「っ?!」

 

 蒼一の放った言葉に、ギョッと目が見開いた!

 

「なっ、何故そんなことまで知ってる!? あの時、蒼一はあそこにいなかったじゃないか!!」

「希が教えてくれたのさ。凛がひとりでに出かけて行って明弘に会いに行ってたってさ」

 

 の、希か……! 隠れるようにして行ったと思ったのにアイツには見通されていたというのか!?

 

「何を動揺している? 別に、知られても困ることじゃないだろう? いつもの明弘なら、な?」

「……ッ!!」

 

 動揺だとっ……!? ま、まさか……この俺が動揺しているだって……! それこそありえないことだ。俺がたった1人のことで動揺など……ッ!!

 

 ふと、頭が垂れて視線が足元に落ちた。するとどうだ、俺の足が一歩、後退しているじゃないか! ひょっとして、今のやり取りの中で自然となったというのか!? この俺が!!?

 わ、わからない……俺は今まで女性のことでこんなに心乱すことがあっただろうか? 恐怖したことはあった。心を躍らせることもあった……。だが何なんだ、この焼け焦げるように熱い胸の高鳴りは……! 心臓の鼓動が治まらねぇ……!!

 

「頭は嘘つきでも、心と身体は嘘をつけないようだな」

 

 蒼一の冷静な声がだんだん耳鳴りのように聞こえてくる。嫌味なのかとさえ感じちまうのが無性に腹が立ってくる。クソっ、何だってんだ!

 

「よくもまあ、そんなのでハーレムを築こうだなんて言えたもんだ。ハッキリと言えないのは、ただのヘタレだな」

「だっ……! 誰がヘタレだって言うんだ?!」

「ああ、お前だ明弘。凛から散々多くのアプローチを受けながら何一つ気付きもしないで受け流している。お前に好意があって、その事実を突きつけられても知らん顔しようとしている。でも、凛を助けたい、救いたいという気持ちは誰にも負けない、負けられないと心を燃やしているというのに自分の感情を素直に受け止められないでいるようなヤツをヘタレと言わないで何って言ったらいいんだ!?」

「な……! な、な……!!」

「いい加減気付け! 今の凛にはお前が必要なんだってことを! お前が凛の拠り所になってあげなきゃ、今度は心が完全に壊れるぞ!」

「じゃあどうしろって言うんだ?! 女は好きだ! だが、1人の女を愛することなんざ俺はやったことがねぇ! 知らねぇんだよ!! 蒼一の言う好きってもんが全然わからねぇんだよ!!」

 

 迫りくる蒼一の圧に頭がおかしくなりそうになった俺は、爆発するような思いで叫んだ。

 わっかんねぇんだよ! 誰かのことを本気で好きになったことのない俺が、恋愛なんてしたことのない俺がわかれっていう方がおかしいんだ! この、胸の内に高まっている感情でさえも理解できないというのにどうして答えられるって言うんだよ!!

 

「じゃあ、お前にとって凛は何だ? いつもそばにいてくれた凛のことをお前はどう思っていやがるんだ!?」

「凛は……! り、凛は………お、俺の……おれの……!」

 

 瞬間、何故か俺の思考が止まった。あれほどまでにうるさく回り続けていたのに、凛のことをあらためて聞かれたら急に止まりやがった! まるですっぽ抜けたかのような感じの真っ白になるような感覚に近いやつに陥ってしまってる。

 

 言葉が、見つからない……ただ、そこにあるのは………

 

 

「――ふん、全くダメだな。そんなんで凛のことを任せられんな。もういい、あとは俺がやっておく。凛は俺が支えてやるさ。アイツらと同じく、ずっと、な―――」

「!」

 

 蒼一が俺の横を通り過ぎようとした。

 

 ずっと……? それってまさか……蒼一、お前は……! 凛もか? 凛もそうするつもりなのか?! そ、それは……ソイツァ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――弘くん―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ、だめだそんなの!!! おめぇに凛は渡さねぇ!! 凛は……凛は、俺が何とかする! あれは、俺の女だ! 手を出してみやがれ、誰であろうと容赦しねぇ!! 惚れた女を守り、幸せにすんのが男の務め! この俺の役目だッ!!!」

 

 

 

 動いた。とっさに、身体が反応しだして俺は蒼一の肩をつかんでいた。

 無意識だった。突然、頭の中で悲しい声が聞こえて、それが発端で声を荒げてしまった。怒りのまま感情が口からこぼれ出てきたみたいで途切れ途切れな話をしてしまっている。なのに、口に出した途端、胸の内で渦巻いていたモヤが晴れてきたみたいに清々しかく思えた。

 

 

「――ふん、最初からそう言っていればいいものを」

 

 蒼一は振り向き様に、薄ら笑みを浮かばせて言う。

 

「異性に対して強欲にもなるその気持ち、それが好きってことなんだよ」

「!!」

 

 な、に……?! 俺は今、凛のことを……!

 蒼一に諭されて急に身体が熱くなった。動機が早くなり、血液が熱されて体温がだんだん熱くなってくる。恥ずかしい気持ちとは違う、心ときめくような感情が走り回った。

 空振るように口走った言葉の数々を拾い集めていくと、嫌でもその答えに導き出されていく。

 

 そう、か……俺は、惚れていたのか……凛のことが好きだったのか……

 

 心にすっぽりと穴ができるような脱力感があると同時に、それを埋めてくれる安心感を抱く。なんとなくだが、今まで感じていた違和感がようやく取り除かれた気分だ。

 

「どうだ、凛に対する気持ちが少しはわかるようになったんじゃないか?」

「……そうだな。おかげで目が覚めたわ……それに俺がアイツにしてやれることもわかってきた気がするぜ……」

「まったく、気付くのが遅いんだよ。しかしおかしな話だ、穂乃果たちのことで俺に活を入れたお前が、自分の恋愛ごとには無知だとはな」

「それを言うなし。相手にアドバイスはできるが自分じゃよくわからんもんさ」

「ふっ、確かにな」

 

 蒼一が朗らかな顔を見せだすと、張りつめていた空気もいつしか柔らかくなる。俺の心もだんだんと落ち着きを取り戻してきていて安堵を感じてくるようになる。

 しかし、まさかこんな時に自分の本心と向き合うことになるとはな……もしや、蒼一はそれを見越して俺に会いに来たっていうのか? だとしたら……むぅ、やはりすごいやつだと感心ばかりしちまう。

 

「それで、凛にはどうふうに告るつもりなんだ?」

「ばっ……! おまっ、ドストレートすぎやしないか?!」

「もう回りくどい言い方したってしかたないだろう? 第一、俺はお前たち2人のことを案じて言ってるだけなんだからな」

「と、とは言うけどさ……そんなの俺の勝手だろう!?」

「そうか。なら、特に言っておくことはなさそうだな」

 

 蒼一はこれ以上何を言うつもりだったのか、少し気になるところだが聞かないことの方が最善に思えてくるな。

 

「それと、これをお前に渡しておく」

 

 そういうと、一枚の紙を取り出して俺に渡してきた。何か書かれているみたいだが何なんだろうか?

 

「それは今度披露するライブ曲の新しい方の歌詞だ」

「歌詞って……! まさか、蒼一が!?」

「いいや、それは海未が……違うな、あいつらが考えた凛へ向けた歌詞だ」

「凛に向けた? ということは、これを凛に歌わせるってことか?」

「つまりはそういうことだ」

 

 紙に書かれた新しい方の歌詞に目を通して見れば、確かに全体的に凛のことを(うた)った内容に書き直されている。それも前のと比べたら明らかに出来がいい。これをステージで凛が歌うのだと考えたら、きっと素晴らしいものになるに違いないと確信を抱けた。

 

「いいじゃないか……! 早速これを凛に知らせなくちゃな―――!」

「まあ待て。今日のところはそっとしてやれ」

「何故? こんなにいいものを渡してやったら喜ぶだろうよ!」

「そんなのわかっているさ。俺が言いたいのは、今日はいろいろあったんだし心の整理くらいしてやれってことだよ。お前も含めてな」

「お、俺も!?」

「当たり前だ。まさか、今の状態で凛に会いに行こうと思ってたのか? 凛に対する気持ちが変わって間もないのに、まともに話ができるのか?」

 

 ぐっ……言われてみれば確かに……今、凛と会ったら俺自身が持ちそうもない気がして仕方ない。こういうことには小心者なんだとつくづく実感させられるんだが、ちょっと情けなく思う。

 

「今日できなくても明日言ってやるといい。来ればの話だが……」

「必ず来るさ。いや、来なくたって俺はコイツを凛のところに届けてやるさ」

「ああ、その意気でいい。ここまで来たのなら後ろ向きになる必要なんかない。いけるところまで突っ走ってみせるのが、男ってもんなんだろ?」

 

 蒼一の力強く、頼もしい言葉に、つい笑いが出てきた。蒼一もわかるようになってきたじゃないか―――いや、違うか。アイツは俺よりも多くを知っている。守らなくちゃいけないものを背負ったことがアイツを強くさせたんだろう。

 だからこそ、蒼一の言葉には意味があり、俺が感化されるわけだ。

 

「―――ったりめぇだ! 男が決めたことはなにがなんでもやり通す。それがいい男ってもんだ」

 

 胸を強く打ち鳴らして俺自身の決意を固める。やると決めたからには、もう一歩も引くこともしねぇ、弱音を吐くつもりもねぇ……ただ、俺が敷く道を突き進んでいく。これが俺の生き様なんだよ!

 

 

 

――――凛

 

 

 彼女のことを思うと、また顔が熱くなりそうになるのだった。

 

 

 

 

(次回へ続く)




どうも、うp主です。

皆さん、あけましておめでとうございます。今年もこの作品とよろしくお願いいたします。


…とまあ、正月ムードはもう過ぎ去って始業式ムードになり替わっている頃ですが、お久しぶりです。年末年始は忙しいことの連続でしたので最新話ができるのがかなり遅くなりました。すみません……
今回の話で、ようやく明弘の気持ちというものが固まったようです。この後、彼は
凛に対してどのようなアプローチをかけるのか、気になるところですね。話も大詰め、どんなエンディングが待っているのやら……



そして、報告なのですが……


自分、今年から人の上に立つ立場になりまして、現在の職場から移動することになりました。ゆえに、昨年よりもかなり多忙な年となるため、こうやって投稿していく時間が取れなくなると思われます。年始からそのための準備を整えていたため、執筆どころではないほどでした。
もし、この状態が続くとなると投稿頻度もかなりキツくなることが目に見えてくるわけです。難しいところではありますが、少しずつ話を進めていけたらと考えております。
すみませんが、よろしくお願いいたします。


それでは、また次回。

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