冷たい風が顔に当たって身体がブルブル震えてくる。朝から少し寒いなぁって思ったから制服の上にコートを着てみたけどまだ寒く感じちゃう。息をはぁーって吐くと白く湯気みたいになってお空に飛んで行く。それが何だか楽しくって、ついやりすぎちゃって風邪をひきそうになったなぁ……。
でも、凛にとっては楽しい思い出。今も前と変わらずにたくさん息を吐いて白い湯気をお空に飛ばしているよ。かよちんは凛と一緒にやってくれるけど、真姫ちゃんはちょっと嫌そうでやってくれない。真姫ちゃんもやってみたら楽しくなるよって誘うんだけどやってくれない。どうしたら真姫ちゃんも一緒にやってくれるのかなぁって考えちゃうのが、凛の最近の悩みなんだ―――
「ほ~ん。真姫のヤツ、これのおもしろさってのが全然わかっちゃいないようだなぁ~。これは布教活動を推し進めなくちゃいけないようだぜ」
「うんうん! 真姫ちゃんにもこの楽しさを教えてあげるにゃー!」
―――と言うことを弘くんと話してた……
……って、えええぇえぇぇええ……!!!? どうしてこうなっちゃってるんだろう!!!?
ことりちゃんから買い物のお願いをされちゃって断れなかったからすることになったけど、弘くんが一緒に付いてくるって聞いてないよ~~~!!! さっきから胸がドキドキしちゃってて飛び出てきそうだよ! き、聞こえてないよね? 聞かれてたら恥ずかしいよぉ……!
「―――てか、凛。顔が赤いじゃぁねぇか? 具合でも悪いのか?」
「ふぇっ!? う、ううん、そんなことないよ!」
「だがよぉ、耳まで赤くしちゃってさ……ほら、額なんて……」
「―――ッ!!!」
弘くん、凛の顔を見ているだけかと思ったら、急におでこに手を当ててきてきたの! わっ、わわわっ?! 弘くんの硬い手の感触と温もりを感じちゃって……! り、凛は……凛は……!!
「うおっ?! 急に熱くなってきたじゃないか!? こいつぁ病院に行った方がいいんじゃねぇか?」
「いっ……いいもん! だ、大丈夫だから! それより早く買い物にいこうよ! ね!?」
「あ、あぁ。確かに早くしねぇと日が暮れちまうもんな。とっと終わらせなくちゃな」
「そうだよ、そうだよ! 早く終わらせて帰ろうよ!」
……あっ、危なかったぁ……あれをずっとやられてたら、凛、絶対変な顔しちゃってたよ……! もしかしたら、もうそんな顔しちゃってたかも! わぁ~~~……そう考えちゃうととっても恥ずかしいよぉ……
最近、弘くんのことばっかり考えちゃってる自分がいるの。意識してるつもりはないよ。でも、無意識に弘くんのことが頭に浮かんできて……。なんでだろう、なんでだろう……考えるだけなのに胸が苦しくなるし、落ち着かない。なんだかいつもの凛じゃないみたいで変な感じがするの。凛、変なのかなぁ……?
凛が弘くんのことを好きなんだって気付いてからいろいろおかしくなっている気がする。学校に行くのがあまり好きじゃなかったのに、今は楽しみになってる。かよちんや真姫ちゃんたちとμ’sで活動することも楽しいよ。でもね、凛はそれ以上に弘くんに会えることが楽しみで仕方なくなっているの。弘くんと一緒にいるととっても楽しいし、落ち着いちゃう。逆に一緒にいないとなんだか寂しくって、さっきみたいに考え込んじゃったりするの。
かよちんに相談してみたら、それは恋だよ! って話してたけど、恋ってこんなに辛いものなの……? 1人でいるのがこんなに寂しく思えちゃうのが恋せいなの? 凛にはよくわからないや……
でもね、辛いだけじゃないんだよ。今こうして弘くんと2人だけでいる時がとっても楽しい。前よりも弘くんのことを好きだって思えるようになってる。むず痒くってどうしようもない気持ちなんだけど、嬉しいって気持ちが溢れ出て来るの。
だからね、今とっても嬉しいんだ―――!
「お~い。早くしないと置いてっちまうぞ~?」
「えっ、ちょっ……ちょっと待ってよー!」
少し地面を見るように俯いて考え事をしていたから、弘くんが凛よりも何歩も先に進んでいたことに気付かなかった。慌てて弘くんの横に並ぼうと駆け寄ってみるけど、まだちょっと凛の顔が変になってたりしないか気になって隠れるように並んだ。
だって、頬っぺたがゆるゆるで赤くなった顔を見せるのがとっても恥ずかしかったんだもん。
―
――
―――
――――
ことりちゃんから渡されたメモにあるお店に着くとすぐ買い物を始めたの。一枚の紙にずらりと書かれた買う物の名前をひとつひとつ確認しながら買い物カゴの中に入れてお会計を済ませちゃう。ひとつ終わったら別のお店へ行って、同じようにメモにあるのを確認してお会計。それをあと2、3回繰り返してようやく終わったんだ。気が付けば両手が袋でいっぱいに! 弘くんと分けっこしてやっと持ち運べる量で、確かに凛ひとりだけじゃ無理だにゃぁ……。
ことりちゃんはこれをひとりで買いに行こうとしたのかなぁ? さすがに一気に持てるわけでもないし、う~ん……あっ! もしかしたら蒼くんと一緒に買いに行こうとしたのかな? ことりちゃんのことだもん、絶対に買い物とか言ってデートしに行くに決まってるよ! だって、2人っきりになれる絶好の………あ………。
「~~~~~~~!!!」
も、もももももしかしてっ! い、いいいいま、ひひひ弘くんとこうしているのって……で、デート?! 凛、弘くんとデートしちゃってるのぉ!!?
頭の中でそれが過って急に顔がかあぁっと熱くなった。熱くって、とても熱くって焼け焦げちゃいそうなくらいだよぉ……!
よく考えてみたら確かにそうだよ。真姫ちゃん言ってたもん。デートは好きな人と2人っきりになってお出かけすることだって……。だったら凛が置かれているこの状況がそうなんじゃないかなぁ!? 大好きな弘くんと一緒にお出かけだなんて…………あぁぁぁ……そう考えただけで恥ずかしさが倍増しちゃいそうだよぉ……。
「おいおいどうしたんだよ? そんなところでうずくまってちゃぁ、ことりからの頼み事は終わんねぇぞ?」
恥ずかしくってしゃがみこんでいた凛のことを、心配そうに声を掛けてくれた。こうも言われたら、じっとしているわけにもいかないから立ち上がって、大丈夫だよ、と言ってゆっくり歩きだした。でも、弘くんの顔を見るとまだ顔が熱くなったり、胸がドキドキしちゃったりするからまともに見ることができない。見るのが嫌になったわけじゃないのに見ることができない、このとっても変な感じにイライラしちゃう。
凛は、こんなもどかしい自分がキライだ。
「ん、凛。さっきから浮かない顔ばかりしてるみてぇだが?」
「えっ? あっ、ううん、なんでもないよ! なんでも!」
「なんでもないって……やっぱ見てて変だぞ? 気分が悪いんなら近くで休める場所でも探すんだが?」
「だ、だから大丈夫だって!! ……ごめんね、急に大きな声出して……」
「いや、いいんだ。凛が大丈夫って言うんならさ、俺もこれ以上とやくかく言うつもりはないさ」
「あっ………」
言い終える寸前の弘くんの表情がとても悲しそうに思えて、胸がズキズキして痛かった。弘くんは凛のことを心配してくれて言ってくれたのに、凛はひどいこと言っちゃったよ……。
好きとか嫌だとか恥ずかしいとか、いろんな思いが凛の中に入ってきて、自分でもどうしたいのかわからないくらい余裕がなくなっちゃって……それで弘くんに当たっちゃった……。うぅ……弘くん、凛のこと嫌いになったかもしれないよ……。こんなに面倒なことばかりしちゃう凛なんて………
ぽんっ―――――
「―――んにゃっ……!?」
瞬間、凛の頭に何かが触れたような感じがしたの。凛は驚いちゃって、一瞬目を瞑っちゃったんだけど、ゆっくり目を開けてみたら弘くんが凛の頭を撫でてくれていたの!
「ひ……弘くん……!?」
「―――はぁ……まったく、そんな顔されたらさ、気にすんなって言われても心配しちまうじゃないか?」
「にゃ、にゃぁ………」
突然撫でられちゃったからびっくりしちゃって、思わず上ずった声が出ちゃった! うわあぁぁっ!! ま、また、弘くんの前で恥ずかしいところを見せちゃった……! もうこれで何度目なの!? こんなに恥ずかしい凛の姿を見られたら、もう死んじゃうよぉ……!
「ふぅ―――何にこだわってるのかわからんけどさ、もうちょい気楽に行こうじゃんか、凛」
「………うぅ………」
「らしくないじゃないか。前は穂乃果みたいに結構大はしゃぎしまくってたのに、今は花陽みたいにおどおどしちゃってさ。あの元気ハツラツな凛はどこへいっちまったんだい?」
そ、それは……弘くんのことを意識しちゃってるからだよ……! って、凛は胸の中で叫んじゃうけど、そんなの恥ずかしくって言えるわけないよ! もしそんなこと言ったら、凛が弘くんのことを好きなんだってことがバレちゃうよ! そんなの絶対ぜったいに、ダメなんだからぁ!!
頭の中ではこんなにギャーギャー叫んじゃってるのに、肝心の口も、喉も全然言うことを聞いてくれない。言いたいこともちゃんと言えなくって、喉と胸の間に溜まっているみたいですっごく苦しい。なんでなの? どうしてこんなに苦しいの? 辛いよ……辛すぎて泣いちゃいそうだよ………
「――――凛」
「………っ!」
弘くんが呼んでいる声が不思議とよく聞こえて顔が上がった。そしたら、弘くんが凛の頭をまた撫でてくれていた。ゆっくりと、やさしく、ちょっとぎこちなくって、でもあったかい―――ゴツゴツとした弘くんの硬い手の平が凛に触れていると、なんだか気持ちが落ち着いてくる。胸の苦しいのが、すぅーっと抜けて行くみたいで気持ちがだんだん晴れてきた。それがなんだかとっても不思議だった。
「何か、困ったことでもあるのか? もし何かあるんだったらいつでも相談に乗るぜ?」
心配そうに凛のことを見つめる弘くん。いつの間にかお互いの顔がかなり近いところにまで来ちゃってた。また胸がドキドキする……でも、辛くは無かった。やさしく笑ってくれる弘くんの顔が目の前にいて撫でてくれていたから何も辛く感じなかったのかもしれない。
今この瞬間だけ、今日一番落ち着いているのかも……。もしかして、言えるか? 言っちゃってもいいのか? 今言えたらとってもスッキリした気持ちになれるかもしれない………うん……うんっ……! い、言おう……言っちゃおう……! 弘くんに、凛のこの気持ちを伝えるにゃぁ―――!!
「……あっ……あのっ! あ、あのね、弘くん!」
「なんだい、凛?」
唇がすっごく震えちゃって言葉がもごもごしちゃってる。そんな凛のことを弘くんはやさしく見守ってくれている。すっごく恥ずかしい……! ……でも……それでも、それでも凛は! 凛は言わなくっちゃ! 弘くんに! 凛のこの気持ちを――――!
「ひ、弘くん。凛ね、凛はね! 弘くんに伝えたいことが――――!」
―
――
―――
――――
「――――?! り、凛―――!」
いっ、言えた………凛、ちゃんと言うことができたよ………!
聞いてくれた弘くんは、とっても驚いた顔をしちゃって凛のことを目を真ん丸にしちゃって見ているよ。凛、頑張ったよ………!
「凛、おまえ――――!」
ちゃんと……、ちゃんと、言えたんだよ………!
「―――そんなに、
………
「そうかそうか。確かに初めてのことだし、みんなをまとめるってなると大変だよな。凛がずっと悩んでいたのはそう言うことだったんだな」
「………うっ、うん。そ、そう、なんだ………」
慰めの言葉を弘くんからもらいつつ、凛は身体から力が抜けたみたいに気持ちがぐったりしてる。
勇気を振り絞って口に出したことは弘くんのことじゃなくって、さっきみんなと話してた
がっくし。気持ちがまた落ち込んじゃうや。
「なるほどな。んで、具体的にはどういうとこを悩んでるんだい?」
「え? な、悩み?」
「そうさ。これから代理リーダーになるのにあたってさ、どんなことを悩んでるのか、それを俺が知っておかなくっちゃアドバイスができないだろ?」
「あ、あぁ……。うん、そうだよね。せっかく弘くんに相談してもらえるんだもん、ちゃんと言わなくっちゃね!」
逃げるように、ふっと頭に浮かんだことを言ったんだけど、具体的にどうしたらいいのかってあまり考えてなかった。と言うか、考えずに言っちゃったから凛も何を言ったらいいのかわからなかった。
どうしよう……と、とりあえず、何か言って会話を続けないと……!
「あっ、あのね! 凛は具体的に何をしたらいいのかなぁ~って、思って……」
「あーそうだなぁ……。練習の時にみんなの前に出てリズムをとったり、全員のダンスを見てタイミングが合ってるか、間違ってないかを指示出しをすることじゃね?」
「リズム……う~ん、凛はリズムとるの苦手だし、みんなのダンスを見ることも難しいよぉ……」
「リズムに関しちゃあ最悪は真姫に頼んでみるのもいいな。けど、ダンスだったらいけるんじゃないか? 凛は他の誰よりもダンスがうまいし覚えるのも早い。みんなのダンスを頭に入れるのは大変だろうが、今回やるのは難しいもんじゃないから最初にやるものとしてはいいと思うぜ?」
「そうなの? だったら、凛、できるかもしれないにゃぁ!」
「はっはっは! ソイツァよかった!」
会話は続かないかなぁって思ってたけど、弘くんと話してると不思議と話が盛り上がってくる。おかげで凛の気持ちも盛り上がってきたにゃ! いろんなこと考えちゃうけど、やっぱり弘くんと2人で話をするのが好きだし、嬉しそうに笑っているのを見ちゃうとついついこっちも嬉しくなっちゃうんだ。凛って単純だなぁ~って自分でもそう思っちゃうけど、やっぱり凛はこういうのが性に合ってる気がする。くよくよしないようになりたいって、強く思えるようになってきた。
―
――
―――
――――
最後のお店で買い物を済ませた凛たちは、物がたっくさん詰まった袋を両手にぶら下げて帰りの準備をし始めた。最初の買い物からずっと手には袋があって、お店に寄っていく度に増えていく袋と手に掛かってくる重さにそろそろ疲れを感じちゃう。もう早く帰ってごろごろしたいにゃぁ~って考えながらちょっとだけ足早に歩きだした。
「弘く~ん! 早く早くぅ~!」
何歩か前に出てから後ろを振り返り、疲れた腕を上げて声を掛けてみた。
「そんなに急がなくたっていいじゃんか。も少しゆっくり行こうや」
弘くんは相変わらずな様子で余裕を見せるかのように返してきた。むぅ~凛は疲れているのに~少しは凛の気持ちにもなってほしいにゃー! あの言い方にはちょっとムスッと頬っぺたを膨らませちゃう。まったく拗ねちゃいたくなるんだから!
弘くんの無神経さに溜息が出そう。凛だけでも先に帰っちゃうんだから! って、前を向こうとした時、キラキラっとしたものが目に入ってきた。なんだろなんだろう? って、それが見えた方に顔を向けたらピタリと足が止まっちゃった。
わぁ……! と思わず声を出ちゃうその先に、お花みたいに真っ白で綺麗なウェディングドレスがたくさんの光に包まれてショーケースの中に飾られていたんだ!
光が反射してキラキラ輝かせている宝石に、触るととってもフワフワで滑らかだろうなぁって思えちゃう生地。まるで真っ白なバラの花びらを1枚1枚取って付けたみたいに華やかで、これを着る人は絶対綺麗なんだろうなぁって想像しちゃう。
すごいなぁ……! もう一度上から下を全部見て圧巻の声出てくる。前にかよちんが、ウェディングドレスは女の子の憧れなんだって嬉しそうに話してくれていた。その時の凛にはよくわからなかったけど、今だったらその意味がわかるような気がする。こんなにすごいのを見せられたら誰だって憧れたくなっちゃうよ!
……でも、凛には着れないや。だって凛は、こんなに綺麗なドレスを着れるほどかわいくないし、そもそも女の子っぽくないもん。凛が着ても絶対に似合わないよ……。
「ほぉ、こりゃまた豪勢なドレスじゃんかよ」
立ち止まってた凛の後ろから弘くんが言った。
「いいねぇ~俺の理想としていた花嫁が着るに相応しいモンだ! いつの日にか、こんなドレスを着たヤツとウェディングロードを歩きたいもんだなぁ~」
声を弾ませてまじまじと同じドレスを見上げている弘くん。なんだかとっても嬉しそうな、自分の世界に入り込んでいるみたいで顔をニヤつかせていた。多分、この前話していた夢のことなんだろうなぁ。ずっとそのことばかりを気にしているみたいだったし、そうなんじゃないかなぁ?
「いや待てよ。あん時廊下ですれ違ったあの子に着てもらいたいもんだなぁ。あんな見事にかわいらしい子にこそコイツが似合うんじゃねぇかなぁ?」
一瞬、弘くんの言葉にドキッとしちゃった。だってあの時、弘くんが会ったのは凛なんだもん。ことりちゃんにお化粧とかしてもらってちょっと別人っぽくなってたけど、あれは凛なんだよ! もしそんなことがバレちゃったら大変だよぉ……! 絶対、全然違うってなって幻滅させちゃうんだから……!
そのことが気になりだしちゃって、無意識に身体を縮めちゃう。
「そういやぁ、今度のライブでセンターを務めるのがこういうドレスを着るって話だったなぁ―――つうことで、がんばれよ凛!」
「にゃっ?!! な、なんで凛なの!!?」
「何驚いてるのさ? センターを務めるのってリーダーがやることだろ? 穂乃果がいない間の代理リーダーである凛が務めるのが当然だろう」
「え、えええぇぇぇええええ!!!? そ、そんなの聞いてないし、無理だよおおおぉぉぉ!!!」
凛がセンターでウェディングドレスを着るだなんて初めて聞かされたよ! 弘くんのさっきの話の中にも出てこなかったし、なんでさらっと言っちゃうのかなぁ!? ああっ、突然そんなこと言われたから気持ちが全然落ち着かなくなっちゃってるよ!
「おいおい、そんなにビビることか? 心配いらねぇだろ、凛になら着こなせるだろう?」
「心配しかしてないよ! だ、だって、ウェディングドレスだよ? とっても綺麗でかわいい女の子が着る服なんだよ? それをかわいくない凛が着るだなんて………」
「―――は? 何言ってんだ凛は? お前がかわいくないだなんて、そんなこと誰が言ったんだよ?」
「え……? で、でも、凛は……」
「どっからどう見ても年頃のかわいい女の子じゃないか。そんな子がウェディングドレスが似合わないわけないだろう?」
「………っ!」
冗談を含んでいない本気な口調で言っている……凛のことをまっすぐ見つめて話してくれる弘くんから嘘を吐いているようには思えなかった。真剣に話をしようとする時の弘くんはいつもこんな感じ。調子のいい声色に変えることがなくって、誰の耳にもよく聞こえる声色で聞かせてくる。普段とのギャップで驚かされるんだけど、こんな真面目な弘くんに言われたらとっても照れくさくなっちゃう。むぅ、また顔が熱くなってくるよぉ……。
「……あ、ありがとう……にゃぁ……///」
頬筋が緩んで口がもごもごしちゃうから唇を少し尖がらせて話しちゃう。けど、やっぱり“かわいい女の子”って弘くんに言われたのがキテて、ついとろけた口調になっちゃう。そんなにハッキリ言われちゃうと困っちゃう……でも、嬉しいのが止まらなくって……はぁぁ、胸がバクバクしてすっごくうるさいよぉ………!
「凛、やって見せてくれないか? 凛のウェディング姿が見てみたいんだ」
「!!」
そ、そんなこと言われちゃったら……凛、断ること出来ないよ……/// だ、大好きな弘くんが、そ、そんなに着て欲しいって言うんだもん……こ、今回だけ特別に着ちゃっても、いいよね……?
いいのかなぁ? やってもいいのかなぁ? 凛の中でどうしようどうしようって悩んだ結果、弘くんのためにってことならいいかな? って思うようになって、
「……うん。凛、やってみるよ……!」
ちょっとだけ、頑張ってみようかなって思うようになった。
「おお! そうかそうか! ソイツァよかったぜ!」
弘くんはとっても嬉しそうに言ってくれるから、凛も釣られてなんだか嬉しくなっちゃう。弘くんが喜んでくれるんだもん、凛も頑張らなくっちゃってなれるんだよ。
「そんなら俺も凛のために頑張らねぇとな。つうわけで、早速帰って演出でも考えるとすっか!」
「えっ、もうちょっとゆっくりするんじゃなかったの?」
「何言ってんだ。凛の花嫁姿が見られるって言うのにゆっくりなんざしてられねぇだろ? ハハッ、ちゃんと最高のステージに仕上げてやるんだから期待しておけよ?」
そう言っている弘くんは本当に楽しそうな感じだった。凛のことなのに頑張ろうとしてくれるだなんて、胸が熱くなるくらい嬉しかった。やっぱり言ってよかったって思えるようになってくるんだ。
でも、まだ凛の本当の気持ちを伝えられていない。いつかちゃんと、凛の気持ちを伝えられたらいいなって少し恥ずかしながら思っちゃうの。
「ふふふっ、じゃあ行こ!」
おかげで凛のテンションはとっても高くなったの! とっても嬉しすぎちゃって、疲れも忘れて軽いステップを踏んでみたりしちゃうの! 胸の中でモヤモヤしていた気持ちも今はすっごく気分がよくって平気な感じ。弘くんと2人っきりだったのがちょっと不安だったけど、やっぱり弘くんと一緒にいられてよかったって思ってる。
「……また、次があったら弘くんと一緒に……」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、別に!」
また、そんな日が来てくれたら嬉しいなぁって凛は思っちゃうのでした。
「(……そういやぁ、さっきの店に蒼一と穂乃果が映った写真が飾られてあったような……? いや、見間違いかもな。だって、まさかアイツらがウェディングドレスとタキシードを着てツーショットしていただなんて、アイツらがいる前では口が裂けても言えねェからなぁ……)」
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
凛ちゃんと明弘が2人っきりになる話を書くのは何と1年ぶりなんだそうで、今までそういう話を書いてこなかったのかと振り返って反省したいところです。
ただ、この話の中ではそれが出来なかった分、目一杯2人の話を書いていけたらと思っています。
ちなみに、最後の明弘が言っていた写真と言うのは、3年前に書いた穂乃果生誕の話に出てきたあの店のことです。わからなかったら思いだす程度に読み返してみて下さい。
次回もよろしくお願いいたします。
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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