蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第193話


代理リーダー凛

 

 

「―――と言うことだから、今度のファッションショーの参加が正式に決まったわけだが―――」

 

 μ’s全員を集めた毎日恒例の練習前の全体会議。そこで蒼一は例の件について話を切り出してはその詳細について説明しだした。集まったメンバーは彼の言葉に聞き入りどんなライブを作っていくのかと思い描いていた。彼女たちにとっては初めてとなる企業側からのオファー。毎度、初めてのことに挑戦していく彼女たちはラブライブに向けて着々と力を蓄えている。今回の話も彼女たちの成長に繋がるよい経験になるはずだろうと指導者である蒼一も考えていた。

 

「日程は来週の祝日に間違いなさそうだ。先方からの話だと、ライブと言っても基本は主催者側から提供される衣装を着ることになっているから、衣装がよく魅せることをしてほしいと言うことだそうで、こちらもそれに合わせて過度な動きはせず必要最低限の動きのみのライブにしようかと思う」

「必要最低限ね。まあ、にことにこの着る衣装を煌びやかに見せるにはじっくり見てもらわないといけないからね」

 

 自信満々に言いだすにこ。理解はしているのだろうがいつもながらのドヤつく言い方に、別ににこちゃんだけの話じゃないでしょ、と真姫に呆れられてしまう。

 

「まあまあそう言わないの。ちなみに、ライブの時に着る衣装は決まってるのかしら?」

「ああ、主催者側から提示されたのがタキシードとウェディングドレスだ」

「ウェディングドレスだとぉ―――!?」

「明弘、うるさい」

「あっ――す、すまねえ……い、いやぁ~ウェディングドレスかぁ~いいよねぇ~」

 

 蒼一の口から“ウェディングドレス”の言葉に跳ね上がるようにして明弘が反応しだした。それを蒼一は諌めると、ハッとなり目を泳がせてつぶやくのだ。どうも先日の夢のことが後を引いているのだろう。おまけに昨日廊下で出会った少女のことも重なって今日は一段と落ち着きに欠けていた。

 

「―――で、その組み合わせってなると結婚を意識させたものなのかしら? 少し時期が違う気がするんだけど……」

「そこは真姫の言う通りなんだけど、ジューンブライドみたいなのは意識してないだとよ。結婚もそうだがウェディングドレスを着ることは女の子の憧れなんだと。主催者の雑誌では毎月1回はウェディング特集をやっているみたいで、若い頃から結婚とかを意識させたいんだって狙いがあるんだとか」

「わあぁ、そう言うの良いよね! 穂乃果も憧れるよ~特に、“結婚”は!」

「そうだね~ことりも“結婚”についてはとぉ~~~~っても気になっちゃうなぁ~~~?」

「……どうしてこっちを見る? なぁ、どうしてだ?」

 

 穂乃果とことりからの意味ありげな視線を感じた蒼一は、やや引きつった顔になる。彼女たちはと言うと、もぉ~わかってるくせにぃ~、ことりの口から直接教えちゃってもいいんだよ? と色付いた雰囲気で迫ってくるので早々にストップをかけた。

 

「そうなりますと誰がどの衣装を着ることになるのかが大事ですね。私たち2年は先にもおっしゃったように修学旅行で余裕がありません。ここは3年か1年のみなさんにお譲りいたします」

 

 と話しだす海未。自分たちが修学旅行の関係でライブ前日まで留守にしているから参加自体危ぶまれていることを理解しての発言だ。本番で迷惑をかけてはならないとした配慮が伺われた。

 

「一応、いずみさんには海未たちが早めに帰れるようにとお願いしているがどうなってもぶっつけ本番になりそうだ。海未たちには悪いが今回はバックアップに回ってくれないか?」

「もちろん、承知のうえでお話いたしましたので構いませんよ」

「む~、穂乃果もウェディングドレス着たかったなぁ~」

「あ~ぁ、ことりと蒼くんとの結婚式が遠退いちゃった……」

「……さあ、話を進めようか―――」

 

 ことりのそれにもう慣れてしまったのか、蒼一は彼女の声に反応することなくみんなにむかって話をし続けた。一方のことりはと言うと、あぁん♡塩対応を決めてことりのことを放置しちゃうんだね! 放置プレイなんだね!! とあまりにも拗れた様子でいるのだ。蒼一の判断は正しい。おまけに、穂乃果たちでさえも呆れているのか反応を示さず、ただジッと堪えるように蒼一に耳を傾けるのだった。

 

 

「―――あと、いずみさんから聞いたんだがエリチカと希は穂乃果たちがいない間、生徒会の代理をするんだって?」

「ええ、ほんの一週間程度だけどね。生徒会を抜けてから一か月くらいだけど感覚は覚えているから大丈夫よ」

「ウチは今もちょくちょく顔を出しているから問題ないで。けど、ウチらが戻っても役員の空きが多いんよ」

「そう言えばそうだったな。生徒会役員の大半が2年生になっちまったんだもんな。1年生は?」

「それがまだちゃんと決まってないんだよ。穂乃果たちが立候補した時から足りなくって、だから今も1年生の子に誰か来てもらえないかって頼んでいるんだけど、うまくいかないんだよね……」

 

 悩ましそうに現生徒会長である穂乃果が呟く。当然と言えば当然だろう。今年度の1年生は廃校危機の影響で1クラス分しか入学して来なかったのだ。それに誰もが生徒会に興味があるわけでもなく、むしろこう言う事態があった分入りたくないと思うのが当然なのだ。

 

 そんな中、蒼一が一声、彼女にかけた―――

 

 

 

「真姫、作曲はもう済ませているんだよな?」

「え? ええ、当然よ。書きためていたモノもあるし、ラブライブ予選のことを考えなければ今のところは……って、まさか……」

「ああ、そのまさかだ。生徒会に入ってくれないか?」

「ゔえぇぇえええっ!!!?」

 

 あまりにも唐突すぎることに真姫は素っ頓狂な驚嘆の声を上げた。それは他のメンバーも動揺の反応だった。

 

「そ、蒼一! あなた正気なの?!」

「正気さ。こういうことは真姫しかいないと思ったからな」

「それでも、いくらなんでも唐突過ぎだわ! だいたい、私が生徒会に入ったからって何ができるのよ!」

「まずは書記かな? みんなの意見を整理してまとめ、ひとつの手段を考じて助言する。真姫の瞬時の判断と洞察力は高く買っているんだよ?」

「だ、だからっていくら蒼一でもそれは……」

 

 蒼一から高く評価されて嬉しい反面、やはり難しいと顔をしかめた。

 すると蒼一が立ち上がり彼女の近くによると、よく聞くんだ真姫、と呟いてから耳元で小さく何かを喋り出した。次の瞬間、急に真姫は目を真ん丸く開き顔を真っ赤にさせて蒼一を見上げたのだ。それはホントなの? と何かを確認するように尋ねると、それは真姫次第だよ、とやさしく微笑んだ。そしたら真姫は、一瞬だけ考えるとすぐ前を向き穂乃果たちにこう返した。

 

 

 

「――穂乃果、私、生徒会に入ることに決めたわ」

 

 この真姫の回答にまた一斉に驚く。が、穂乃果はそんな真姫のことを歓迎するかのように、ありがとう! 早速入れる準備をするね! と前向きな反応を示した。

 このあまりにも呆気ない手の平返しを目の当たりにした全員はしばらく唖然とした様子であった。いったい何を真姫に言い聞かせたのか? 明弘が蒼一に尋ねると、なに、生徒会に入ってあわよくば生徒会長にでもなったら何でも出来るんだぞ?って話をしただけさ――、と微笑しながら言う。こう言う蒼一にある程度の察しがついた明弘は小さな溜息を吐きながら、やることがえげつないな…、と揶揄するように言うが、人と身体(モノ)は使い様ってね、と何気ないふりで言い返した。

 彼が何を言い聞かせたのか。それは彼女の表情から零れ出る妖艶な笑みが物語っている。

 

 

「―――と言うわけで、活動は実質1年生中心だな。その間だが、穂乃果に代わるリーダーを決めたいんだが……凛、頼めるか?」

「にゃ? にゃにゃにゃ!!? も、もしかして凛がリーダーやるのぉ!?」

「ああそうだ。適役だと思ってな」

「えっ、えっ、ええええぇぇぇええええ!!! む、無理だよぉおおお!!!! 凛はリーダーに向いてないよ~!!! 真姫ちゃんがやってよ~~~!!!」

「聞いてなかった? 私は生徒会に入るのよ。リーダーを務める時間はないわ」

「だったらにこちゃんやってよ! 部長なんだし決まりだよね!」

「何言ってるのよ。私だって進路のことがあって忙しいのよ」

「にこちゃんが進路?! 赤点ばっかなのに卒業できるの!?」

「うっさいわね! これでもちゃんと成績を修めているんだからね!」

 

 凛は信じがたい目でにこのことを見つめるが事実だ。絵里と希が大学入試のための準備をしているのと同じようににこも将来のことを見据え始めていた。現状、にこは進学を希望しているわけでもなく、加えて経済的状況からそのまま就職しようかと悩んでいるところなのだ。本来ならにこが引き受けてもいい構えを示していたがこう言うわけで引き受けられないのだ。

 

 

「凛ちゃん……もしかして、嫌なの?」

 

 苦悶しているように見えた凛に幼馴染の花陽が声を掛けた。

 

「ううん、嫌ってわけじゃないんだけど……凛には向いてないよ……」

 

 なんだか歯切れの悪そうな回答だ。やりたい気持ちがありそうでないような、そんな曖昧な答えはみんなだけじゃなく凛自身にも迷わせた。

 

「意外だね、凛ちゃんならすぐ引き受けるかと思ったよ」

 

 驚いた様子で穂乃果が言う。言葉よりも行動が先に出るところが似ている穂乃果と凛。穂乃果がリーダーになることを躊躇わなかったように凛も同じになるものと考えていた。だからこそ、考えに齟齬(そご)が生じて出た言葉なのだ。

 

「凛ちゃん、結構引っ込み思案なところがあるから」

「特に、自分のことになるとね」

 

 2人はみんなが知らないであろう凛の性格について話をした。幼馴染である花陽とクラスメイトである真姫はメンバーの中でも凛と過ごした時間が長い。そのため、凛が今どんな気持ちでいるのか大方想像がついていた。

 

「凛。いきなり言われて戸惑っているかもしれないけど、みんな凛が適任だと思ってるのよ。凛ならみんなを引っ張っていける力があるわ。私が保証するから」

「絵里ちゃん……! でも凛、やっぱりまだ……」

 

 頼れる先輩である絵里から褒められて少し目を輝かせてみたが、心の状態はすぐには切り替わろうとしなかった。だが、あともう少し……あともう少しで凛の心は動こうとしていると感じ取れる。そのためにはもう一声を掛けてあげなければならなかった。

 この時、彼女たちの考えがひとりの男に向けられた。すると、彼女たちの考えを察したのか、彼が口を開いた。

 

 

「―――俺はいいと思うぜ」

 

 きたっ―――! 彼女たちは心の中で叫んだ。腕組みしながら深く椅子に腰付けるひょうきんな彼――明弘が口にするのを待っていた。

 するとどうだろう、それまで難色を示していた凛の表情に好転が生じ始めていた。凛は驚いた様子で明弘を見て何か言いたげな様子でいたが、彼が何かを話しそうな雰囲気だったので耳を傾けた。

 

「俺は凛ならできるって思ってる。何、リーダーと言ってもそんなに大したことはしないさ。穂乃果を見ろよ。バカだがリーダーをちゃんと務めているじゃないか。それにいざとなったら俺が助けてやるから心配すんな」

 

 胸に手を置きながら明弘は堂々とした喋りをした。それが凛の心の中に、すっと入り込んでいき少しホッとしたような安心感が見られた。それにちょっと照れくさそうに頬を赤く染めたりして……。

 

「う、うん……弘くんがそう言うのなら、凛、やってみようかな……?」

 

 凛は少し考えて、ようやく答えを出した。恐る恐ると慎重になりながらも凛は彼の言葉に自信を持ち、一歩前に踏みだしたのだ。

 

「凛ちゃん……!」

「凛……!」

 

 凛がやる気を見せてくれたことを目にした花陽は、まるで自分のことのように喜んだ。親友思いの幼馴染のやさしさがあふれ出ているようだ。真姫も安心した様子でホッと一息ついており、彼女も悩む凛のことを心配していたことが伺える。

 

「それじゃあ、代理リーダーは凛で決まりだな。頼んだよ」

「う、うん……まかせるにゃあ!」

 

 まだぎこちない返事だが凛の目からやる気が見えた。蒼一もそんな凛を見て小さく頷いた。

 

「よし。とりあえず、大事なことだけは話せたな。あと―――ことり」

「はいっ♪ もう、蒼くんが早く呼んでくれないから待ちくたびれちゃったよ~」

「いや、多分今お前が考えていることはしないから。修学旅行に行く前に言っておきたいことがあってな……」

「結婚? 婚姻届? もしかして、母子手帳が必要なの?」

「誰がそんなこと頼むかよ!! つうか、母子手帳って何だよ?!」

「えっ……それ、聞いちゃう……?///」

「……やっぱ聞かんわ。絶対嘘だろうし……」

「わはあぁぁああん!! 蒼くんが冷たいよおおぉぉおおお!!!」

「だーかーらー! いい加減にしろって!! ……はぁ……衣装のことだよ。()()()のな」

「!」

 

 瞬間、ことりの目に鋭さが入った。すると、騒ぎ立てていたのが急に大人しくなり蒼一のことをジッと見つめ出した。このあまりにも温度差が異なることりの様子に蒼一以外のみんなが驚いていた。

 

「やっと素直に聞く姿勢になったか」

「だって、蒼くんのために衣装を作るんだもん、真剣にならないはずがないよ。それで作るのは何でもいいんだよね?」

「ああ。とびっきり派手なのを頼むよ」

「ふふふ、それじゃあことり張りきって作っちゃうからね♪」

 

 そう言うと、ことりは陽気な笑みを浮かばせて喜んでいた。蒼一がことりに頼んでいるものとは? これまでのことを遡って考えると彼女たちはいつしか彼が言ったことを思い出した。

 尽かさず、にこが聞きに出た。

 

「蒼一! まさか、今度のハロウィーンの!?」

「さぁてな。それは今度のライブが終わった後に話をするさ」

 

 にこの問いに含んだ様子で返す蒼一はどこか楽しげであった。そんな彼の顔を眺める彼女たちの顔もまた自然と綻ぶのだった。

 

 

 

「―――さてと、これにて今日の会議は終了だ。これから練習を始めるがその前に何か伝えたいことはあるか?」

「はいはーい! 蒼くん、ことりのお願いを聞いてくれるかなぁ?」

「なんだ?」

「蒼くんの言ってた衣装を作るのにちょっと材料が足りなくって……だから、これから買い物をお願いしたいんだけど……」

「そうか、なら俺が―――いや。凛、代わりに行ってくれるか?」

「えっ、ええっ!? ど、どうして凛が!?」

「リーダーやるって決まったがまだ頭が追い付いてないだろ? それにほら、今も少し上の空な感じだったし」

「そ、そそそそんなことないよ!! り、凛は全然平気だもん!!」

「ほら、そう言うところだよ。買い物ついでに外の空気吸って気持ちを落ち着かせていきな」

「で、でも……」

「凛ちゃん、行って来てくれるかなぁ?」

 

 ことりは目に涙浮かべて切ない様子で凛に懇願を求めた―――つまり、“おねがい”だ。

 

「にゃにゃっ!!? こ、ことりちゃん……! そ、そんなに見つめられたらことわれないにゃぁ~……」

「じゃあ決まりだね♪ それじゃあ、メモとお金を渡すね。でも、ひとりだけだとちょっと心配だなぁ~。誰か凛ちゃんと一緒に付いて行ってくれないかあなぁ~?」

「なら、明弘。お前、行って来いよ」

「にゃっ――!!?」

「あ、俺?」

「そうだよ。ことりが注文する量は半端ないぞ? 華奢な凛に持たせるには心許ないし、付いて行ってやれよ」

「あーまあ確かにな」

「いっ、いいよ! り、凛はひとりでもできるもん!」

「そう言わないの。凛ちゃんはこの数のモノを1人で買いに行ってくれるの?」

 

 そう言ってことりは、自分が購入してもらいたいものをリストアップしたメモを手渡した。渡されたメモを両手で掴んで品目を目で追いかけてみるが、どれも聞いたことの無いようなモノばかりですでにパンク寸前……おまけに、量もかなりあってようやく1人で出来るか、といった具合だ。が、ちょうど2人で行けばどうにかなりそうな量だった。

 

「ほぉ~確かにこれじゃあ凛だけに任せるには心許ねぇなあ。よっしゃ、そんならやってやろうじゃんか!」

 

 ことりのメモをみて納得した明弘は快く引き受けだした。一方の凛は顔を熱くさせてかなりの動揺を見せていた。

 

「そんじゃ、ちょっくら買い物に行ってきますかな――ほら、凛も行くぞ~」

「――って! え、えええぇぇぇええええ!!!? ちょっとまってにゃぁ―――!!!」

 

 動揺収まらないまま、明弘に手を掴まれ引っ張られるように外出していったのだった。そんな様子をことりは微笑ましそうにして見送っていった。

 

 

 

 その傍らで蒼一も事の成り行きを見守るように眺めるのであった。

 

 

 

(次回へ続く)




どうもうp主です。

一筋縄ではいかない凛ちゃんをなんとかその気にさせることができんした。凛ちゃんがこのあとちゃんと出来るかが心配になります。



次回もよろしくお願いいたします。

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