蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第192話


イメチェン

 

 

 ど、どうしよう……大変なことになっちゃったにゃぁ………

 

 部室の席に腰掛ける凛は肩身狭そうな状態にあった。彼女を取り巻きから雑踏に近い声が投げ交わされるが、どうも自分から口出せるような状況じゃない。何せそれは凛自身について言われていることだったからだ。

 

 

 

「やっぱり、凛ちゃんはかわいいのがいいよ! 絶対それがいい!」

「私も凛ちゃんがかわいくなれることがいいと思います! だって、凛ちゃんってばこんなにかわいいんだもん!!」

「うんうん、ことりが作った衣装でもっとかわいくさせちゃうんだからそれでいいよね!」

 

 女の子としてのかわいさを引き出そうとする穂乃果、花陽、ことりのPrintempsの3人。

 

「いいや、凛に足りないのは色気よ! 子供染みた姿からの脱却で生まれるギャップが男心を擽るのよ!」

「だとしたらクールでセクシーなのがいいわよねぇ。となると、ちょっと濃い目の服装にしてみようかしら。素肌ができるだけ見えているのもいいかもね♪」

「お化粧もちゃんとしなくちゃだめよ。凛ってばそういうのに全然(うと)いんだからこれを機にたくさん仕込んでいかなくっちゃ」

 

 女性としての魅力を引き出そうとするにこ、絵里、真姫のBiBiの3人。

 

「いいえ、凛はそのままで充分です。下手に手を加えては凛の良さが損なってしまいます」

「そうやで。いろんな服装や化粧で塗り固めるよりありのままの姿を見せた方が素敵やん♪」

 

 あくまで自然体の姿を推していく海未、希のlily whiteの2人。

 この3つの意見に挟まれるようにしているのが凛なわけで、それも自分のことについて言われているから余計に口出ししにくい。しかも、言われ慣れていない『かわいい』という言葉が何度も凛の頭の上を横行するのだから恥ずかしくって赤面してしまう。今すぐにでも窓の外に飛び出て素足のまま駆けだしたい気持ちだ。

 

 

 も、もう、勘弁してほしいにゃぁ………

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

 ことの発端は十数分前に遡る―――

 

 

『り、凛ちゃんの好きな人が明弘(弘くん)―――!!!!??』

「こっ、声が大きいにゃあ―――!!!!」

 

 まだ蒼一と明弘が来てない音ノ木坂学院のスクールアイドル研究部の部室にて、μ’s全員が真姫に呼び出されたと思いきや間髪入れずに彼女が昨日のことを話したのだ。これを聞いた2年生、3年生たちは異口同音に驚きの声を上げて凛を見た。彼女たちもまさかこのような話を部活前に聞かされるとは思ってもみず、みんなの反応は当然のモノとなる。

 

「私は認めないわよ。凛があんなヤツのことを好きだなんて」

 

 真っ先に否定的な言葉を漏らす真姫。そもそも真姫は明弘のことを快く思っておらず昨日からずっと悩み続けていた。明弘といてもロクなことがないことを説いても凛は一向に否定し自分の気持ちを優先させた。だから、今日ここでみんなの意見を聞いて凛の考えを改めさせようとしたのだ。

 

「凛が明弘のことをねぇ……正直、にこも真姫ちゃんと同意見かな。あんな女ったらしのどこがいいのやら私にはわからないわ」

「別に不純異性行為をしてるわけでもないし、私が生徒会にいた時から生徒たちからの評価も人気も高いわ。まあ口が悪いってとこはあるけど根はいい人よ」

「異性との交流があるのはいいのですがこの学校だけじゃなく他校にも手を出しているそうで、私自身もあまりよくは思いません」

「そうかなぁ? 弘くんああ見えてもすっごく真面目でやさしいんだよ。たくさん勘違いされると思うけど悪くはないんだよ」

 

 みんなの明弘への評価はまちまち。いいも悪いもと言った半々な意見が出揃っていき煮詰まるものかと思う中、待っていた穂乃果が希に向かって、ねぇ、希ちゃんはどう思うの? と聞きだした。そしたら希は困ることなく、やさしく微笑むようにして返した。

 

「ウチはどっちでもエエと思う。明弘がみんなから見ていい人悪い人って決めつけられてもそれは凛ちゃんには関係の無い話。大事なのは凛ちゃんの気持ちやで。凛ちゃんが明弘のどんなところを好きになったんかわからんけど、ウチらには凛ちゃんの恋を邪魔する理由は無いはずやで」

 

 希がこう話すとみんな一斉に黙った。自分たちが話していることが無意味なのだとわかってのことだろう、強く反対していた真姫でさえ唇を閉ざした。

 真姫たちが黙るのを見届けると、希は今度は凛に向かって微笑みだした。

 

「凛ちゃん。凛ちゃんにとって明弘はもう大事な人なんやろ?」

 

 ちょっぴり驚き、照れ出して目線を合わせなかったがそれでも凛は、うん、と小さく頷いてくれる。

 

「せやったら、凛ちゃんが思ったことをしたらエエ。凛ちゃんがしたいことをしたらエエんよ」

 

 包み込むような囁きで凛の気持ちに寄り添ってくれるので少し安心した様子になる。そこに穂乃果が前のめりに話してくる。

 

「凛ちゃん! 穂乃果、応援してるよ! 前から凛ちゃんと弘君はどこか似ているところがあるなぁ~って感じてたからもしかしたらって思ってたの。だから凛ちゃんが弘君のことを好きだって言ってくれて穂乃果嬉しいよ!」

「穂乃果ちゃん……! で、でもでも、凛がこんなこといったら弘くん困っちゃうんじゃないかなぁ……それに、凛は弘くんが求めているようなかわいい女の子じゃないよ。髪の毛短いし、ガサツだし、男の子っぽく見えちゃってるし……」

 

 穂乃果から矢のような勢いで応援されて少し戸惑ったが素直に嬉しくなる一方、我に返ったみたいに自分を卑屈に言い始めた。自分の容姿をそこまで嫌っているのか、声がだんだん弱く、表情も暗くなっていくのがわかるほどだ。彼女をそうまでさせるのはいったい何なのだろうか―――?

 

 

 

 

「凛ちゃん――――!!」

 

 目覚ましのような、どっと来る声に身体がビクつき、ハッとさせられる。視線を上げると顔を熱く必死そうな様子の花陽が凛に話しかけていた。

 

「凛ちゃんはかわいいよ! 男の子なんかじゃないよ! だってだってっ、凛ちゃんこんなにかわいいんだよ!? 弘くんのことが好きになることは立派な女の子だってことの証拠だもん! 凛ちゃんはとってもかわいい女の子! 弘くんだって凛ちゃんのことをそう思ってくれてるよ!」

「かよちん……! ありがとうにゃぁ!」

 

 花陽の口から怒涛の勢いで言葉が走り出た。それがあまりにも必死で言うものだから、聞いてる凛は耳まで赤くなるほど照れるが親友から言われてとても嬉しかった。暗く俯きがちだった顔も徐々に起き上がり、まだ少し不安そうだけれども晴れやかに微笑む凛がそこにいた。

 

 

 

 

 

「よーし! それじゃあ、凛ちゃんの恋が実るためにどんなことができるか今から作戦会議だ―――!」

 

 

 いい流れができたかなぁ、と思った矢先、穂乃果がまた突拍子のないことを口にして盛りあがる。これには凛も大いに戸惑いだすのだが、意外なことに他のメンバーたちが次々に穂乃果の意見に賛同。真姫たち反対派だったメンバーも改心して凛のためになるのならと加わり実質メンバー全員が賛同することに。

 

「それじゃあまずは、弘君にもっとアピールするためにはどうしたらいいのか考えよう―――!!」

 

 

 

 そして冒頭に至るのである。

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 滝明弘が部室に訪れたのはそれから四半時経った頃だ。大学の講義をまたしてもすっぽかしていたことを大学職員からこっぴどく叱られ放課後に補講を受けるハメになっていたのだ。

 大学に入っておよそ半年、未だに90分も硬い椅子に座ってお経のように延々と垂れ流れるえらーい教授の言葉を聞かされる毎日は地獄のように彼には思える。そもそも勉強自体が嫌いな性分であるため長続きはしないのは当然のこと。自分のためになる講義ならともかく、社会人になっても使うことが一切ないであろう講義など受ける必要はねぇ! と吹っ切れた思いで欠席。図書館のパソコン室に閉じこもっていたところを見つかってこの始末。相方の宗方蒼一には、またかと呆れた様子で頭を抱え、これから先どうなることやらと彼の将来を心配した。

 

 こうした経緯があったがなんとか来ることができた明弘。蒼一はかねてより取り進めようとしていたファッションショーについての説明を受けるために外出中。ということで、今日は明弘のみでμ'sの活動を見ることとなった。

 

 

 

「おい―――っす!! お前たちぃ元気にやってるか―――あれ……?」

 

 部室に入って目にしたのは閑散としたありさま。人ひとりいない状況に開口一番の元気な挨拶も無駄になる。なんだよ~、と反応を貰えないことに残念そうに肩を落とすも、まあこの時間なら屋上にいるだろう、と切り替えていこうとする。

 

「あんまりしつこいと女にモテないからなぁ~」

 

 荷物をテーブルに置いて、ぐぐっと背伸びしてから、よしっと決める。明弘はゆっくりとした足取りで部室を出て屋上に向かうために廊下に出た。蒼一もいないし特にこれこれやるようにという指示もないからあまり急ぐ必要もないと感じているのでブラブラと身体を揺らしながら前に進んだ。

 

 廊下の角に差し掛かったその時、急に人影が彼の前に現れた。咄嗟に横に逸れようと動く明弘だが、こちらが動くよりも相手側の方が早かったみたいで彼の懐に飛び込むようにぶつかってしまった。

 

「きゃっ―――!」

 

 小動物のような細い悲鳴をあげてその子はその場で尻もちをついた。その子の方に勢いがあったからなのだろう対する明弘への反動は少なくわずかに身体がぶれる程度だったからだ。

 

「おおっと! ごめんよ―――ッ!?」

 

 ぶつかったその子の様子を伺おうと視線を下ろしたその時、突如彼の脳裏に電流が走る!

 

 なっ……だ、誰なんだこの子は―――ッ!?

 

 その子を眼に捉えた瞬間、彼の胸がギュッと掴まれるような衝動に駆られる。凝視する先のその子―――背は明らかに小さく、明弘の胸辺りまでのおよそ150cmの小柄な少女。ぺたんと女の子座りでいる彼女の脚先には、肌の色が薄っすらと見える黒タイツがあり、腰から花びらが開いたようなふんわりとかわいらしい黒のスカートを着飾っている。上は細かく波打つような縦ひだがあしらわれた清楚感あふれる純白色のブラウスで、胸元には淡いピンクのリボンがつけられその子の可憐さを惹き立てていた。

 何より彼の心をときめかせたのは彼女の顔。()()()()()()()()に眉にかかる程度の前髪から黒水晶を転がしたようなつぶらな瞳。色白な肌にリンゴのような紅い頬っぺたと桜色に艶めく小さな唇。これらのパーツが小顔の中で整えられているのだ。どこからどう見ても完璧な美少女。これが明弘の性癖にモロ直撃し、彼がこれまで見てきたどの少女よりも美しく可憐な姿をしていた。

 彼の心は自然と彼女に惹かれていく。

 

 

「きみ―――いや、お嬢さん。お怪我はないかい?」

 

 背筋をピンと伸ばし普段声に出さないであろう声質――いわゆるイケボでその子に接し始める明弘。手を指し伸ばしいかにも紳士のようなたち振る舞いをしてみせようとする構えだが、本心は彼女にいい目で見られたいがための演技に他ならない。ただ、演技と言っても彼は本気のようでなかなかに真剣な様子でいるのだった。

 

 

「……ぁ……わ………!」

 

 へたり座る彼女は彼の顔と差し伸べられた手を交互に目をやるがどうしたらいいのだろうと少し戸惑う様子を伺わせた。すると明弘が、そんなところでずっと座ってると綺麗な服が汚れてしまうよ、と促すので彼女はおもむろになりながらも彼の手をとり立ち上がった。

 

……っ! や、やわらけぇ……それに手がちっちゃい……! 肌も綺麗だし滑らかな感触……! はぁぁぁ……ヤバイ、か弱過ぎんだろこの子……!

 

 彼女の感触を知ってしまった彼の心は落ち着かない。口から心臓が飛び出てきそうなほど激しい動機に見まわれ感情の整理が追い付かないでいる。加えて語彙力も低下する。自分自身でもどうしたらいいのかわかんないほどおかしくなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――で、そんな2人の様子を遠くから眺めてニヤ付く視線らがあった。

 

 

「ふっふっふ、明弘ってばめっちゃ戸惑っとるやん。あんな顔するの初めてかもしれんなぁ♪」

「めずらしい表情をするものですね……あんな様子を見たのは私も初めてですよ」

「ふ~ん、アイツもそれなりの感情はあるみたいなのね。でも、もし襲いかかることがあったら即ぶっ飛ばすわ」

「ま、真姫ちゃん、落ち着いてぇ……!」

 

 その子が来た廊下の奥から顔を覗かせるのは、希と海未、真姫に花陽の4人だ。先程から2人のやりとりを離れたところで眺めており、おもしろそうにニヤ付かせたり、心配そうに目を配っている。ただ今のところは明弘が初めて見せるであろう戸惑いと紅潮する様子を眺めているだけで前者な気持ちで視線を送ることが現状と言ったところだろう。

 

 ところで、なぜこの4人があの2人のことを見ているのだろうか? その答えは至って簡単なことだった。

 

 

 

「明弘は目の前にいる子が誰なのかわかっとるんかなぁ~?」

「あの様子ではまったく気付いてはいないようですよ」

「でも、普段では考えられないような姿をしているからわからないのも当然よ」

「うんうん。さすがことりちゃんのメイクとコーディネートだよね。私もあそこまで別人のような姿になるだなんて思ってもみなかったもん! とってもかわいいよね―――()()()()♪」

 

 

 なんと驚くことに、今明弘と対面している少女が凛だと花陽は言う。しかし、凛は短髪で少しボーイッシュな雰囲気のある元気少女だ。なのに、明弘と対面しているのは長髪でどこからどう見てもしおらしい美少女なのだ。その変わり様にはメンバーの誰もが目を見張ったことだろう。

 

「しかし、よく凛はあの格好になることを引き受けましたね。私だったら恥ずかしすぎて飛び降りてしまいそうです!」

「そんな大袈裟な……凛ちゃんがああして請け負ったんはことりちゃんのおかげ……かもしれんなぁ……」

「何よ希、そんな釈然としないような喋りをしちゃって……まさか、ことりが何か吹き込んだわけ?」

「いやぁ~ことりちゃん、最初はホットパンツを穿かせようかって話をしとったんやけど、急にスカートを穿かせてな。続いて凛ちゃんの髪色にあったウィッグを取り出して被せて……そこからずるずるとことりちゃん好みの服に変わっていって……」

「……気が付いたらあんな別人みたいな姿に変わってたと……? ことり、前から思ってたけどここまで来ると恐ろしすぎるわ……」

 

 口々にことりの手腕に身震いする3人。どうやら、ことりが凛のことをもっとかわいらしくさせて明弘にアピールしてみようとしたらしいのだ。その結果、凛はこんなにかわいい姿に変貌を遂げるのであるが、自分の姿を見た凛は思わず飛び出て行ってしまい、偶然にも明弘にぶつかって現在に至ると言うのだ。多分、どこかでことりが高笑いしているかもしれない……そう思うと末恐ろしく思える。

 一方、花陽は1人違った考えを口にした。

 

「凛ちゃん……スカートが苦手だったからようやく自分から穿くようになったのかなって思ったけど違ったんだ……」

「……え? 花陽ちゃん、いまなんて言うた―――?」

 

 花陽の言葉に希は違和感を覚えた。

 

 

『わっ……、わたっ、り……! りにゃあああぁぁああああぁぁぁあああ!!!!』

 

 彼女たちが思考を回している一方で、凛たちの方に動きがあった。突如、凛は大きな叫び声をあげてその場から真っ先に走り去ってしまったのだ。傍にいた明弘はその行動を見るなり、待ってくれと懇願するもその声は彼女に届くことは無く空虚に終わってしまった。

 

「り、凛ちゃん?!」

「およっ?! これは追い駆けんとあかんよ!」

「凛は私と花陽がなんとかするから!」

「わかりました。頼みましたよ!」

 

 駆けだした凛の後を追うように真姫と花陽が走っていった。海未と希はゆっくり歩き、その場で呆然と立ち尽くしている明弘の許に来た。

 

「明弘~こないなところで何しとるん?」

 

 まるで何も知らなかったような素振りで話をする希。あからさますぎますよ! と海未が小声で口を挿むが当の明弘はぼぉーっとしたままで返事をしてこない。こちらに気付いてないのでしょうか? と今度は海未が彼の肩に手を掛け揺らして聞いた。

 

「――――っ! あ、あぁ、なんだ海未か。それに希も……」

 

 やっと反応してくれたが心ここにあらずな返事が来る。ハッキリしないことが苦手な海未は、気の無い返事ですね、少しはしゃきっとしたらどうなんです? と軽くしかりつけた。彼は苦笑いしながら申し訳なさそうに、いやぁ~悪いねェ~、とお気楽な声で言うのだ。だが、それでもいつもとは違う様子でいるのでさすがに心配になってしまう。

 すると、なぁ、と今度は明弘の方から声を掛けてきた。なんですか? と海未が応えると胸に思っていたことを吐き出すようなことを口にしだした。

 

 

「海未、希……俺ぁ見つけちまったかもしんねぇわ……」

「な、何がです……?」

「ウェディングドレスを着た美女さ……間違いねェ、あの子こそ俺が探し求めていた運命の女だぜ!! 」

「「あ~……」」

 

 多分明弘は本気で言っているのだろう、彼の語る言葉に嘘偽りがないことを目の当たりにした2人はこれから先どうなることやらと彼のことよりも、勢い良く駆けて行った 彼女のことを心配してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方―――

 

 

「凛ちゃん―――!」

「凛―――!」

 

 駆けだした凛にやっと追い付いた2人は息を切らしながら彼女の丸まった背中を見ていた。2人と違って体力がある凛は疲れてはいない。では、どうして凛は肩で大きく息を吸っているのだろうか。花陽が近付いてみた。

 

「凛ちゃん……」

 

 親友の声を聞いてか、少しは落ち着きだしたみたいでゆっくりと花陽の方を向きだした。耳まで真っ赤に紅潮した顔が彼女たちに向けられた。笑っているのかそれとも泣いているのか……どちらとも言えない中間の表情に見つめられて2人はどこから声を掛けようかと迷った。

 

「……かよちん……」

 

 凛の口から花陽を呼ぶ声を聞いた。花陽は不安になる気持ちを抑えて返事をした。

 

「どうしよう……ひ、弘くんからたくさん『かわいい』って言われちゃったよぉ……凛、こんなにたくさん言われたの初めてだよぉ……///」

「り、凛ちゃん……?」

「ひ、弘くんが、り、凛の顔の近くにまで来て………! わ、わああぁぁぁ!!! だめだめだめぇ―――!!! 思い出したら、凛、弘くんのこと、もっと好きになっちゃうかも……///」

 

 頭から白い蒸気が立ち上りそうなほど顔を熱くさせる凛は、さっきのことを思い返してあたふたと狼狽する。凛にとってこんなにも彼から求められたのは初めてのこと。故にか、さっきから胸の高鳴りが抑えきれなくなっている幸せ辛さを味わっているところだった。

 

 

「……もう、意味わかんない……」

 

 そんな凛を眺める真姫は髪をいじりながら溜息混じりに口漏らすのだった。

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

ロング凛ちゃんが見たかった……ただこの一言に尽きる話でした。いや、冗談で書いたってわけではなくこれもまた大事な話だったので……まあ、自分の趣味が含んでたりするんですけどね。いつか公式絵で拝めることを期待したいものです。

と言うわけで、今回の話が結末に向けてどんな作用を引き起こすのか、お楽しみにしてください。


今回の曲は、
DALI /『ムーンライト伝説』

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