[ 音ノ木坂学院・屋上 ]
よく晴れた週末を迎えることができた俺たちは、ライブ前の最後の調整を始めていた。
今日は待ちに待ったにこのソロステージ。この日のために、にこと俺たちは最高のモノを準備した。
屋上に突如置くことになったステージは、9人がようやく乗れるほどの小さなモノ。今回はにこだけがこのステージに立つ予定なので大きさには申し分はない。
ステージの外観は花陽が担当した。にこに最高のライブをさせたい、とピンクを基調にとびっきり派手に、そしてかわいいステージを作り上げた。それだけじゃない。にこが作詞した詩を基に海未と真姫が楽曲を提供したり、ことりがにこにしか着れない衣装を作るなどμ’s全員が彼女のために働いて出たのだ。彼女たちに対して当然感謝の気持ちを伝えるが、まだ素直になりきれてないためどこかかぎこちない。けど、表には出なかったが泣いて喜んでいる姿が傍から見てもよくわかるのは俺も含めて、みんなも理解していそうだった。
すべての準備は整った。あとは、こころちゃんたちが来るだけだ。
屋上全体を見回すように眺めていると、用意された衣装に包まれたにこが俺の前に立った。
「そ、蒼一……どうかしら?」
「ほぉ~これはまた……!」
おどおどとした様子でいるにこの身体には、明るいピンクのワンピースでできた衣装が纏われていた。肩のフリルやふわっと広がるスカートなど着飾るすべてがことりの自信作と言わしめる最高の出来として仕上がっていた。胸の前の小さな翼と背中の大きな翼がメルヘンチックなのもアイツらしい仕様だ。
「さすがとしか言いようのないかわいさだな」
「も、もう……そう言われちゃうと照れちゃうんだからぁ」
「ふふっ、髪型も少し変えたみたいだな」
「そうなのよ。ことりがパーマをかけてくれてね、いつもとは違った感じで少し新鮮な気分よ」
「確かにな。俺が見てきた中でも最高にかわいく映ってるからな。ずっと眺めていたくなっちゃうほどに」
「ふ、ふぇええっ!!? そ、蒼一ってばっ! か、からかわないでってばぁ!!」
「からかっちゃいないさ。こんなにかわいいにこを見れたのが嬉しくって堪らないだけさ」
「――――っっっ、もぅ……/////」
にこは顔を真っ赤に紅潮させて顔を逸らす。
俺が口にした通り、今日のにこは格別のかわいさに満ちている。自慢のツインテ―ルにパーマをかけたおかげかふわっと乱れた感じがステージ衣装と合わさって見惚れてしまう。化粧も薄くしているのだろう、温かみのある肌色が白く透き通った美しさをかけ持ったのだ。頭の上からつま先にかけてまでの全身がとても愛らしく感じ、このまま抱きしめたくなる衝動にさえ駆られてしまう。
まるで、魔法にかけられてしまったかのような愛おしさが胸の内から溢れんばかりでいるのだ。
「こころちゃんたち、喜んでくれるだろうよ」
「……そう、かしら?」
「当り前さ。憧れのアイドル姿のにこを目の前で見ることができるんだ。それだけじゃない、今まで見たことのないにこを見て、胸をときめかせないヤツなんているわけがない。ましてや、にこの一番のファンが黙っているはずもないさ」
「……うん。そう言ってもらえると自信が出てきたわ」
まだ頬の紅さが抜けてない顔から綻び笑む表情が見えた。アイドルとしてのにこが誰よりも真っ先に伝えたかったあの子たちへようやく果たすことができるのだ。嬉しくなってしまうのは言うまでもないさ。
もうそろそろかと思い時計を確認すると、ちょうどこころちゃんたちが学校に来る時間になっていた。彼女たちを迎え入れる役目を担っている俺はすぐに行かなければならない状態だった。
「それじゃあ、俺はこころちゃんたちを迎えに行ってくるから、最後の調整をしてもらえよ」
去り際に、にこの小さくて丸い頭を一撫でしてから行こうとした―――
「待って――――っ!!」
――にこに止められるまでは。
どうしたのかと、脚を止めて振りかえろうとした瞬間、俺の背中に張り付くようににこが抱きついてきた。これはいったいどうしたことか、と思いつつ彼女の名を呼んでみるが返して来ない。顔も押し付けるのか、背中に一定感覚で熱が伝わってくるのだった。
しょうがないと諦めてしばらくそのまま様子見しておくとようやくにこは俺から離れてくれた。振り返ると満足しきった顔をするので息を呑んだ。
「ありがとね―――ライブ前にどうしても蒼一を感じていたかったのよ。おかげで、にこは元気いっぱいよ!」
穏やかに笑う彼女の顔を見てはもう何も言えまい。理由は何となく察してエールを送ってから俺はこの場から一旦後にするのだった。
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――
―――
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[ 音ノ木坂学院・正門 ]
少し駆け脚になって正門に向かうと、門の傍にポツンと立つ3人の小柄な姿が目に入る。
「おーい、こころちゃん! ここあちゃん! 虎太郎くん!」
3人仲良く手を繋いでいるのが、遠くから見てもそれがにこの妹弟だと判断することができ、すぐさま声をかけた。
「あっ! 宗方先生!」
こころちゃんは俺の顔を見るなり花を開かせるような満面の笑みを浮かばせると嬉々した声を上げた。ここあちゃんも虎太郎くんも俺を捉えるとこころちゃんの手から離れてよちよちよぎこちない足取りで俺に近付いては腰に抱き付いてくる。
「わーい! 宗方先生が迎えに来てくれたよぉ!」
「きたぁ~」
「あはは、出迎えありがとう……って俺が言われる方なんだけどな……。てか、虎太郎君、鼻水が俺のズボンに……」
「もう、ここあ! 虎太郎! 宗方先生に迷惑をかけるんじゃありません!」
2人の後を追うように近付くこころちゃんの頬っぺたが丸々と餅のように膨らんでて、ちょっと不満そうな顔をしていた。
「なんだ、こころちゃんも抱きつきたかったのか?」
「………ッ!! ちっ、ちがいますってばぁ!! わ、私はただ、2人が宗方先生の邪魔をしてると思って言っただけであって……」
俺の言ったことにどうしてか全力で否定に掛かるこころちゃんだが、途中から口をもごもごさせてうまく聞き取れなかった。その慌て様、したいのに遠慮しているところや、装わないようにしているところとかにこの性格を垣間見させられた気分でなんだか微笑ましい。少し前のかなりのツンデレを含んだにこみたいだ。
「それじゃあ、こっちの準備も整ったみたいだから、会場に向かうとしようか。さあ、手を握って一緒にいくよ」
「「は~~い!」」
そう言って真っ先に両手に飛び付いたのは、ここあちゃんと虎太郎くんだ。2人ともギュッと掴んでは放さないぞと言わんがばかりの様子であった。
一方のこころちゃんはと言うと、一歩遅れた様子で少しばかりか残念そうな表情を浮かばせていた。
「こころちゃんもいいかい?」
「あっ……はい……」
「そう? それならおんぶでもしようか?」
「おんっ!?! いっ、いいえいいえ!! そうしていただかなくても結構です!! 私は歩いていきますから結構です!!」
突然、声を荒げるこころちゃんに、そうかと言って校舎へ進んだ。
無理しなくたっていいのになと、こころちゃんが我慢している様子を傍から見ながら思うのであった。
ただ途中で、少し手が空いたのでそこに手を掛けるかと聞いたら、若干恥ずかしそうにしながらも手を伸ばして掴んでくれた。変なところで気を立てるのは、やはりにこの妹だなとしみじみ思うのであった。
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――
―――
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[ 音ノ木坂学院・屋上特設ステージ ]
3人をステージ前に連れて来ると目をキラキラと輝かせていた。初めて見るステージに興奮しているのだろう、特に興味津々な虎太郎くんはステージの装飾に触ろうと手を伸ばすもここあちゃんに止められている。でも、ここあちゃんも触りたそうなもどかしい顔をしているのを見て、ライブ前の掴みは上々と言った感じだ。
あとは、ライブを行うにこ次第だ―――。
「さあ、ライブが始まるぞ―――」
そろそろ開演することを3人に告げると、ちょうど同じタイミングでステージに動きがあった。正面の大きなハートが描かれた幕が上がり、そこからピンクのハイヒールで床を鳴らし静々と歩み寄るにこが姿を現した。
煌びやかな衣装で着飾ったにこを下から見上げると、さっきとは違った雰囲気を感じて胸が動かされる。乳白な肌色に宝石の輝きを放つつぶらな瞳。ルビーみたいに紅く潤った唇。あらためて気付かされる艶やかな美貌に再び見惚れてしまいそうになる。気持ちが大きく高ぶりだすんだ。
そんなにこの姿を見たこころちゃんたち3人は、口をぱっかり大きく開けて、アイドルに変身した姉を羨望の眼差しで眺めていた。この瞬間をどれほど待望していたことだろう。こころちゃんたちはアイドルとしてのにこをようやく見れたことに言葉にし尽くせない喜びを露わにするのだった。
それはまた、ステージに立つにこも同じ気持ちなのやもしれない。
こほん―――と軽く咳払いしてマイクを握ると、魅力満点の笑みを浮かばせて話しだした。
「こころ、ここあ、虎太郎。今日は私、矢澤にこのオンリーライブに来てくれてありがとう! ずっと、私のこの姿をみんなに見せたかった……でもそれが今日、ようやく叶ったわ。だからね、今日は今まで見せられなかった分、最ッ高の笑顔になれる“まほう”をかけてあげるからね!」
胸の内に絡まった紐をひとつひとつ解くように言葉を紡ぐと、マイクをステッキ代わりのように俺たちに向けて唱えるのだ。にこの言う、“まほうのじゅもん”を。
「にっこにっこにー♪ さあ! みんなに笑顔を届けるスーパーアイドル矢澤にこにーの歌を聞いてください!『まほうつかいはじめました!』」
にこの合図に合わせて曲が鳴り始めると、にこは歌いだした。にこが自ら考えた詩を海未が整えた言葉を歌に乗せる。真姫が与えてくれた曲調で奏でだす。にこが動けばことりが作った衣装がふわりと揺れて見ている者を魅了してくれる。
そして何より、あの笑顔だ。
太陽のように照り輝くあたたかな笑顔が自然と喜びを湧かせてくれるんだ。横を振り向けば、ほら、こころちゃんたちも笑顔の花を咲かせている。にこのかける“えがおのまほう”が俺たちを包み込んだに違いない。
あぁ。にこがあんなに嬉しそうにライブをしているのは、初めてかもしれないな―――。
にこが本当に大切な人たちに向けたライブは、この一曲を歌いきって終わりを迎える。とても短いライブだったかもしれないが、時間さえ忘れてしまいそうな濃密な一時だったことは間違いなかった。現に、こころちゃんたちが大きな拍手を送り、感動を露わにさせているんだ。今回のライブは大成功であると言っても支障は無いだろう。
「お姉様ステキです!!」
「とってもかわいかったですよ!!」
「カッコいい~」
「みんなありがとね!」
全力を出し切った後のにこの表情は明るかった。自分でも納得のいくものを披露することができたのだろう。こころちゃんたちをこんなに喜ばせることができたんだから満足してもいいかもな。
「温かい声援をもらってなんだけど、私からみんなに伝えなくちゃいけないことがあるの」
突然、3人からの声援を止めると、にこはあらたまった様子で切り出した。にこの真剣な様子を感じ取ったのか、こころちゃんたちは背筋を伸ばしてにこの言葉を待っていた。
………にこ、とうとう話すのか……!
いつかキチンと本当のことを話してやらないといけないな――と、この間相談したばかり。それを今ここで話をするのかと俺も聞く姿勢になっていた。
3人の視線を受けるにこは、一瞬怖気そうに身を強張らせていたが、グッと気持ちを抑えているようで硬く立った。
がんばれよ、にこ―――!
そう胸中で口にすると、にこは目をつぶり一度大きな深呼吸をしてから目を開いた。ジッと前だけを見据える真剣な眼差し。話す覚悟ができているようだと感じ取る。
そして、にこは口を開いた。
「実はね、スーパーアイドルは今日でおしまい……ううん、私はこころたちの言うスーパーアイドルじゃないの」
にこ………っ!!
ついに口にしたその言葉に俺は神経を尖らせた。今にこは、こころちゃんたちにずっと嘘を吐いてきたってことを告白し始めたのだ。それがどういう意味をもたらすのか、緊迫し始めてきたな。
もちろん、こころちゃんたちにとっては衝撃的なはず。3人は一瞬時が止まったみたいに身体が固まらせているみたいだった。驚愕という言葉が今、3人の中で渦巻き始める……が、それを単純に理解できるのだろうか、とも不安になる。
「アイドルじゃないって……どういうことですか、お姉様……?」
初めに、ここあちゃんがにこに問いかけだした。まだ理解に追い付いていけないのか声を震わせていた。
「ごめんね。にこね、ここあたちに嘘を吐いてたの」
「………う、そ……?」
「にこは事務所専属のアイドルになっていない。テレビの出演の話も、たくさんのライブを行ってきたって言うのも違うの。私は、μ'sって言うスクールアイドルグループの一員。リーダーでも何でもないただのごく普通の学生なのよ」
「えぇっ、そんな………」
「……おねえちゃん………」
「で、でも……μ’sさんは確か、アイドルを目指していらっしゃるバックダンサー……」
「ううん、それも違うの。μ'sはね、私のあるべき姿を教えてくれた大事な場所。大切な仲間たち。私が本当のアイドルになるための大切なことを教えてくれるところなのよ」
にこの告白を受けて、ここあちゃんと虎太郎くんの表情が曇りだした。それもそのはずだ、いきなり憧れていたお姉ちゃんが何でもない人だったという事実を突き付けられたんだ。小学生と幼児の2人には理解しろと言うには酷なことかもしれなかった。
「こころ。ここあ。虎太郎。今までずっと黙っててごめんなさい……。私、3人の言うスーパーアイドルにはなれなかったの……」
話をしていくほどに喉が震えだして、涙を含ませたような声になっていた。最後の方はもう感極まっていて見るに辛そうで、こちらに顔を見せることさえもいたたまれなさそうに深く頭を下げた。
「お姉様……」
深く頭を下げるにこにかけてあげる言葉が見つからないここあちゃん。多分、にこのあんな姿を見るは初めてなのかもしれない。にこのことだ、家族の前では弱いところを一切見せなかったはず。だからこそ、どうしたらいいのかわからないはずなのだ。
俺が声を掛けてやりたいのは山々だが、これはにことこころちゃんたち家族の問題。俺みたいな部外者は口をはさめるわけもなかったのだ。
だが、このままじゃ悪くなる一方だった。
その時だった――――
「―――知っていました」
『―――?!』
突然耳にした予想外な言葉に驚愕した。同時に、それを口にしたのを見ると更なる驚愕を打ち付けられる。
「………こ、こころ……?」
そう、突如言い放たれた言葉を口にしたのは、こころちゃんに間違いなかった。しかしそれはいったいどういう意味を持っているのだろうか? 俺もにこも彼女を見つめ出した。
するとこころちゃんは、少し申し訳なさそうに表情を落としながら口にしだす。
「ごめんなさい、お姉様。実はもう、お姉様が事務所専属のアイドルでないことも、μ’sさんというバックダンサーに指導をなさっていることも違うってことも。本当は、μ'sというスクールアイドルのグループで活動していることも知っていました」
いや、待て待て! いったいどういうことなんだ!?
次々と出てくるこころちゃんの告白に俺の頭が追い付かなくなりそうだ。こころちゃんは何も知らなかったはず……。話を最初に振った時も無知であるという振舞いをしていたというのに、どうして……?
「実はですね、クラスの友達に教えられたのです。μ'sさんのことを。そこでお姉様のことも知っちゃいまして……ずっと、黙っててごめんなさい」
「どうして……? わかっていたのに、どうして……?」
気掛かりに感じたにこは尋ねると、こころちゃんは顔を少し俯かせて話し始めた。
「お姉様は私のアイドルだからです。お父様が亡くなって泣き続けていた私に元気と笑顔を下さり、励ましてくれたのはお姉様なのです。お姉様は、アイドルはみんなに元気と笑顔を届けるすごい人なんだと私に教えてくださいました。あの時のお姉様は本当にアイドルでした。私はそんなお姉様が大好きです」
続けて、
「お姉様はまた、アイドルはアイドルのことを信じ続けてくれるファンがいて初めて、アイドルでいられると言っておりました。ですから私は、お姉様がいつでもどこでもアイドルでい続けられるようにと、お姉様の話してくださった言葉を全部信じ続けていたんです。だって私は、お姉様のファンですから!」
こころちゃんの言葉に胸を打ち付けられるような思いにさせられる。まさかこころちゃんがそんなふうに思っていただなんて思いもしなかったからだ。しかも、にこの親父さんが亡くなったのは結構前のことだ。つまりその時からずっとなのか?
ふと、にこの方を見上げると今にも泣き崩れてしまいそうな顔でこころちゃんのことを見つめていた。にこにとっては思いがけないことかもしれないが、それは多分いい意味なのだと信じたい。
そして最後に、こころちゃんはにこのことをまっすぐ見つめるようにして、こう話したのだ。
「お姉様は、何があってもどんなことがあっても、私たちにとってのスーパーアイドルなんです!!」
どしっと胸に打ち付けられる強烈な言葉がにこに、そして俺にも突き刺さった。何と言う安心する言葉だろうか。どんなことがあろうとも信じ続けてくれるファンがいてくれることほどアイドルにとって嬉しいことは無い。
「こ……こ、こころぉ……っ!!」
にこはこころちゃんの言葉に思わず泣き崩れてしまう。今まで付いてきた嘘を告白するにこにとっては辛い時間だったはずが、今ので完璧に救われたように思える。
アイドルでいたかった―――アイドルでなければならなかった―――という一種の呪縛に縛られていたにこが、ようやく解放の時を迎えるんだ。アイツにとってこれほど嬉しいことは絶対と言えるくらいにないだろう。
「……お姉様、私も信じます。お姉様は私のスーパーアイドルですって!」
「……スーパーアイドル……」
「………っ!! こ、ここあ……っ、虎太郎……っ!! ありがとう……ありがとう………っ!!」
感極まったにこはステージから飛び降りて、愛する3妹弟をその手で強く抱きしめた。
「私は……っ! アンタたちのアイドルでい続けるって約束する……! だから、ずっと見守ってよね……!」
『うん!』
深く抱きしめ合う4人から目に見えない強い絆を感させられる。これが家族愛と言うヤツなのだろうか。見ててとても美しく、羨ましく思えてしまう。
この光景を見てなのか、舞台裏からもすすり泣く声が微かに聞こえてくる。どうやらアイツらにもにこを思うこころちゃんたちの気持ちが通じたのやもしれない。
「よかったな、にこ。ちゃんと伝えられて」
「……蒼一。うん、よかった……よかった……」
気持ちに安堵が芽生え始めたのか、涙こぼしながらも穏やかな表情を浮かばせている。よっぽど嬉しかったんだろう、普段は見せない涙を人目はばかることなく流していた。
「お姉様はこれからどうなさるのですか?」
「そうね、これからはμ'sの一員としてアイドルを続けるわ。もちろん、目標は変わらないわ。みんなを笑顔にさせる宇宙ナンバーワンアイドルとして活動していくわ!」
「わあぁ! それって、お姉様のライブがまた見られるってことですよね!」
「そうよ! 私たちのライブがまたあったら今度は招待するからね!」
『やったぁ!』
ふふっ、にこのライブが見れるだけであんなにはしゃいじゃって。見れることの嬉しさがよく伝わってくるさ。そうなるとこっちも頑張らなくっちゃな。こころちゃんたちにも喜ばせられるようなライブを作っていかないと、指導者としての腕の見せ所だな。
「ところでこころちゃん、ここあちゃん、虎太郎くん。早速だけど、にこがセンターを務めるμ'sのライブ、見てみたいと思わないか?」
「ええっ!? い、いいんですか!!?」
「ちょ、ちょっとぉ! そんなの聞いてないわよ!?」
「当たり前だ、ちょうど今思いついたばかりだ」
「そんなドヤ顔しながら言わなくていいから!!」
「けど、にこだって見てもらいたいって思ってるんじゃないのか? にこの唯一のセンター曲を、一番のファンに見てもらいたいって気持ちは?」
「そ、それは……まあ、確かにあるけど……」
「それじゃあ、決まりだな」
『やったぁー!!』
「だ、だからやるって決まったわけじゃないでしょー!!?」
にこの叫びを無視しながら話を進めていくと、ステージ裏で見守っていた穂乃果たちが顔を出して言うのだ。
「にこちゃん! やろうよ、ライブ!」
「こんなに素敵なファンを前にして、たった1曲だけを披露して帰らせるわけにはいきませんよ」
「にこちゃんの妹ちゃんたちにもっともっと楽しんでもらわないと、だよね♪」
「せっかくステージができているのにライブができないなんて凛は嫌だにゃぁー!」
「そうよ、μ's全員が揃ってるのにμ'sの曲を一度も披露しないのはダメよ」
「妹ちゃんたちにももっとμ'sのことを知ってもらいたいからね」
「μ'sのことを知ってもらうためには、まずはライブを見てもらわなくっちゃね♪」
「せやで。にこっちも遠慮せえへんで一緒にやって楽しんでいってもらおうやん」
「あ、アンタたち……!」
穂乃果たちの気持ちは1つだ。μ'sとして今やるべきことが何であるのかをみんな悟っているんだろう。それをにこがわからないはずがない。
「お姉様……!」
「お姉様!」
「おねえちゃん……」
にこに抱きしめられる3人からの羨望の眼差しが傾けられている。これだけの期待を一身に受けたにこがそれに応えないはずもない。
「よぉし! それじゃあ、みんなの期待に応えてにこにーのスペシャルなライブ、もう少しだけ延長よ!」
ふぅ、まあ予定どおりってとこかな? 穂乃果たちもその気になってくれたみたいだし、ちょうどいいな。
「それじゃあ、始めちゃうわよぉ~!!」
涙を拭ったにこの表情から明るい笑顔が取り戻っていた。そうだ、それでいい。にこはその笑顔でみんなを喜ばせるんだ。
俺たちのスーパーアイドルさん。
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
今週初めにスク感。今日は新アプリ、スクスタの配信日でいろいろと忙しい週ですね。こんなにもラブライブに没頭できる時間が出来るのは久しぶりやもしれません。これを機に彼女たちからたくさんの力をもらいたいものです。
というわけで、にこ回を回収いたしました。
アニメとは違った感じのラストになりましたが、個人的にはこっちの方が好きなので書きました。ホント、個人的な趣向です。にことこころちゃんたち矢澤家の絆がもっと深まればいいなぁ~なんて。
さて、次回は脱線してとあるキャラの話をしようか、それともフラグ回収をしようか悩んでいるところです。どちらにせよオリジナル話なので一から考えていこうかと。
ではでは、次回をお楽しみに。
今回の曲は、
矢澤にこ/『まほうつかいはじめました』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない