蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第186話


まったくもってウソばっかり!!

 

 

 

「ハァ―――ハァ――――ハァ――――!!」

 

 アキバの街を駆け抜ける小さな影があった。人の中をかいくぐり、家と家との隙間をするりと抜けて颯爽と走り抜けていく。荒々しい息遣いをしながらも何かに追われているようで脚を止めるわけにはいかなかった。

 

 

「はやく……はやく逃げなくちゃ―――!!」

 

 目まぐるしく流れる景色を気にせずに彼女は口をこぼす。学校帰りの制服とチャームポイントの赤いリボンで結んだツインテ―ルを風になびかせる彼女―――μ'sの矢澤にこは、できる限りの力を振りしぼるのだった。

 

 

 

 

 その原因が自身の行いのせいであることも知りながら………

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

―――その少し前

 

 

 

[ 矢澤家 ]

 

 

「せんせー、あそぶー」

「せんせ~、こころとも遊んでほしいですぅ~」

「こ~ら! 先生が困ってるじゃないの! 申し訳ありません宗方先生」

「い、いや、謝る必要なんかないよ……こころちゃん」

 

 とても申し訳なさそうに頭を下げて謝ってくる、にこの妹のこころちゃん。若干11歳の幼女に謝られると、7歳年上である俺の方が申し訳ない気持ちになってしまう。小学五年生のまだまだ幼いこの子が、大人顔負けの謝り方をするのだから俺自身動揺せざるを得ない状況だ。

 穂乃果よりも上手な謝り方をしているところは感心できるのだが……

 

 

 

 

 さて、なぜ俺が矢澤家にお邪魔しているのかと言うと―――にこから頼まれたというのが理由だ。何やら俺たちに内緒でバイトをしていたらしく、その用事で行かなければならないからと妹たちの世話を頼まれたわけだ。こういうのは以前にもあったことだし、そう言うことならと快く引き受けた。俺も最近ここに顔を出してないからそう言う意味ではいい機会だと都合を合わせたわけだ。

 

 

「ここあはお姉ちゃんと遊びましょうか!」

「はーい!」

「それじゃあ、俺は虎太郎とかな?」

「おー」

 

 俺に気を遣ってくれたのか、こころちゃんがここあちゃんの世話をしてくれて負担を減らしてくれた。おかげで虎太郎くんに専念できるようになるのだが、やはり面倒見がいい子だなぁと感心する。家族思いのところも姉であるにことよく似ているのは姉妹だからなんだろうと思ってしまう。

 

「悪いな、こころちゃん。俺が頼まれたことなのにやってくれちゃって」

「いいんですよ。いつもはお姉様の代わりに私がここあと虎太郎の世話をしているんですから。それに、今日は宗方先生が来てくださったのですから大助かりですよ!」

 

 そう善意に満ちた綺麗な表情で話してくると、見た目は子供でも中身は大人だなぁと重ねて感心する。にこも相当苦労したんだなぁと1人で頑張る姿が目に浮かんできそうだ。

 

「せんせ~トランプ~」

「ん、トランプか。なにして遊ぶんだ?」

「でっかいとうをたてる~」

「トランプタワーか。よっしゃ、そんなら平らなところでやろうか」

「お~」

 

 のったりとした口調で返事してくると気が抜けちまうな。おまけに鼻水まで垂らしてさ、ちゃんとかまないと肌荒れしてしまうからティッシュで拭いてあげる。こころちゃんたちの方を見るとクマのぬいぐるみを持ち出しておままごとをしているようだ。小学生の女の子ならよくやる遊びだし、穂乃果たちもここあちゃんくらいの頃にも人形も持ち出してああやって遊んでいたっけな。

 こころちゃんたちが遊んでいる様子を眺めていると、つい昔のことを懐かしんだりと安心した気持ちにさせられる。この子たちの無邪気な笑い声を聞き、様子を眺めているだけで気持ちが安らいで感じる。いつもアイツらに振り回されているからあまり深く考えることをしなくて済むってのも大きくって、頭の疲れをとっているみたいだ。

 今日くらいは一切のことを忘れてこの子たちの面倒を見ることにするか。

 

 

「あの、宗方先生。最近のお姉様のご様子はどうでしょうか? 何か変わったことがありましたか?」

「ん~そうだなぁ……。特に変わったことは無いが、以前よりも元気がありあまって手を焼いちゃってるところかな?」

「そうでしたか、それは聞いて安心しました。近頃、お姉様の御機嫌がよかったので気になってたんですよ。もしかしたら、宗方先生とお会いして元気になったんだと思うと納得しました!」

「あはは、そうか……」

 

 確かにね、元気はありあまってるんだわ……いろいろと……。まだこころちゃんたちには話してないが、恋人関係になったんだってことや、それ以上のことをしたとかあったからな。内面的な成長がたくさんあったが、何よりもこの関係が大きな要因となっているのだろうが、果たして話してもいいのだろうかと悩んでしまう……。

 

 

「そう言えば! 夏休みの時にですね、()()()お姉様のライブをしている映像を見ました! センターで踊るお姉様はとってもキラキラしてて、カッコよくって、かわいくって! さすが、スーパーアイドルだと思いました!」

 

 

 スーパーアイドルとか…どうせにこからの入れ知恵みたいなもんだろう。もしかしたら、夏色の話をしているのだろうか? 今後を見据えた意味での起用だったが予想以上に反響もきたし、務めてくれたにこも今までにないくらい満足した様子だったから印象に残っている。にこはあれをちゃんとこの子たちにも見せていたんだな。自慢したくなるのも分かる気がする。

 

 

「―――ん? そう言えば、にこのライブを見たのはそれが初めてだって言わなかったか?」

「はい、そうですよ。のーとぱそこん、というもので見させていただきました!」

「他のヤツは見なかったのか? にこが踊ってるのはまだたくさんあるんだが」

「ほ、ほんとうですかっ?! 私! 見てみたいです!!」

 

 急にこころちゃんの目の色が変わったみたいで前のめりに聞いてきたから少し慌ててしまった。同時に、どういうことなんだと疑問を浮かばせて眉をひそめた。

 にこが自分のアイドルしている姿をこの子たちに見せないなんてありえるか? 家族思いのにこのことだから真っ先に伝えたい相手だろうに今の今まで伝えていなかったって言うのか? それこそおかしい話だ。だとしたら、どうして……?

 にこがどんな思いで、どういう訳だったのか勘ぐってしまう。

 

「まあ待ってくれ……。その映像は今すぐには出せないが、こころちゃんたちにちゃんと見せてあげることを約束するよ」

「あ、ありがとうございます!! スーパーアイドルのお姉様のお姿をたくさん見られるだなんて感激ですぅ!!」

「その代わりに、だ。ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「はいっ!! なんなりとお聞かせください!!」

 

 目の色を変えるどころか動作も機敏になりすぎているような……? まあ、いいや。今のこころちゃんの言ったことが本当なら、とそこから憶測させた話を切り出した。

 

「なあ、こころちゃんはにこがアイドルをやってるってことをいつから知っているんだ?」

「そうですね……確か2年ほど前だったと思います。()()()()()()()()()()としてデビューしたと聞かされまして、それから昼間は学校で、夕方からレッスンがあるとおっしゃってました。それに今が一番忙しい時期だからと帰りが少し遅くなってますが、私たちは平気です!」

「事務所専属アイドルね……」

 

 何ともにこらしいというか、俺たちだったらすぐにわかってしまいそうな嘘をよくもまあ……。だが、それを今も信じ込んでいるこの子たちを見る限りじゃ、かなり徹底した嘘をついていたことが伺える。

 

「こころちゃんはにこからアイドル活動のことについて何か聞かされていない?」

「アイドル活動ですか……? ん~、お姉様がデビューしたての時は何人かのグループをしていたそうですが、すぐお1人になられたみたいで……どうやら事務所の方針で別々に活動することになったと聞かされました」

 

 別々の活動、か……。にこが音ノ木坂でスクールアイドルをし始めた時のことを指しているんだろう。以前聞いた、始めた頃は何人かいたが、にことの温度差で辞めてしまった話を言っているに違いない。それから2年もソロ活動と称して騙し続けてきたというのか……嘘とは言えなくなってしまったんだろう。にこのことを本当のアイドルだと信じ切っていたこころちゃんたちの期待を裏切れなかったのも含めて……。

 本当のアイドルになれれば、と考えていたのだろうが、なることもできずに燻ってしまったのは言うまでもない。だが、スクールアイドルとして成功している今ならちゃんと話してもいいのでは、と思ってしまうのは無粋だろうか? 現に、にこはμ'sの一員としてちゃんとステージに立っているし、ラブライブの中でもかなり注目を受けている。誰から見ても恥ずかしくない状態なのだが……。

 

 だとしたら、こころちゃんたちはにこのことを……!

 

 

「ちなみになんだが、μ’sってのは知ってるかい?」

「みゅぅず? ああ、知ってますよ! お姉様と一緒にライブの映像に出ていた人たち!」

「おお、ちゃんと知っていたか」

 

 それなら話がしやすい。てっきり知らないものだと思い込んでいたからな。

 

 

「あれですよね。お姉様のバックダンサーのみなさんですよね!」

「…………ん?」

 

 あれ? ちょっと待って……。今変なふうに聞こえたんだけど気のせいか?

 

「……ごめん、もう一度言ってもらえないか?」

「えっ? バックダンサーさんのことですか?」

「う、うん、それそれ……。どういうふうににこから聞かされているんだ?」

「えっとですね……μ’sさんはスーパーアイドル矢澤にこのバックダンサーで、お姉様の指導を受けてアイドルを目指していらっしゃる方々ですよね!」

「………う~……ん……?」

 

 こう言う時、いったいどんな顔をしたらいいのかわからなくなる。こころちゃんは至ってまともに、それも本当のことのようにはしゃいで言うのだから余計に難しい。同時に、にこのヤツが想像以上にでたらめな嘘を吐いてしまっていたという事実に頭を酷く悩ませられた。

 

「……こころちゃんは他にμ'sのことについて聞かされていたりしているかい?」

「そうですね……あっ! お姉様が私たちに見せてくれた写真があるんですよ!」

「へ、へぇ~……ソイツは気になるなぁ……」

 

 引きつった声で返すと、こころちゃんは戸棚から1つの写真立てを持ってきて俺に見せてくれた。

 

「じゃぁ~ん! これがお姉様とμ’sさんの写真です!」

「こ、これは……!」

 

 ハガキサイズの写真に写っていたのは学園祭でのライブ後に全員で撮ったものだった。一見普通に見えるのだが、明らかにおかしな点が2つ目に映り込んでくるのだ。

 

 なんだ、この雑コラみたいな仕上がりの合成写真は……

 

 よく見ると、真ん中に立っているはずの穂乃果がにこに入れ替わっている……しかも顔だけ。それもあまりにも雑な仕上がりでにこの顔には穂乃果の髪が、穂乃果の顔にはにこの髪が重なって見えるような状態だ。

 よくもまあこれをこころちゃんたちに見せて騙せたものだ。しかし、にこがこれを持って必死に弁舌している様子を浮かべるとなんだか悲しく思えてきた。

 

「お姉様はすごいですよね! おっきなライブとかも行って、集まってくださったファンのみんなを笑顔にしてくれるんだそうです! やっぱり、私たちのスーパーアイドルのお姉様はすごいです!!」

 

 こころちゃんは目をキラキラと輝かせて羨望の眼差しになる。多分、俺がどう言い聞かせてもこれはテコでも考えを曲げることは無いだろう。純粋と言うか、素直と言うか、にこの影響にたっぷり染まってしまったこの姉妹たちをどうしたらよいものか……また悩み事が増えてしまった。

 

 

「どうしましたか? 頭痛いのですか?」

「いや、ちょっと悩み事がな……」

「悩み事ですか。確かに、宗方先生はとってもご苦労されてますからね、大変ですよね……」

「いやあ、こころちゃんが心配するほどのことじゃないよ」

「いいえ! 宗方先生が悩んでいらっしゃるのはお姉様のことですよね!?」

「あ、あぁ……。確かにそうだが……」

「あぁ……やっぱりそうでしたか……」

 

 なんだ? 急に、こころちゃんが声を荒げて話して来るだなんて……。にこのことで何か思うところがあるのだろうかと勘繰ってみようとしていた矢先、ギョッとさせられるようなことを聞かされる。

 

 

「宗方先生はお姉様の婚約者ですからね、スーパーアイドルのお姉様にお会いすることはあっても公然とお付き合いすることは難しいですものね……いつどこにマスコミやら、パパラッチがいるかわかりませんからね! ちゃんとお忍びしなくちゃいけ―――」

「―――って、おいおいおい!! 婚約者!? 何のことだよそれ!?」

「決まってるじゃないですか! お姉様とはご結婚することを前提にお付き合いされているのですよね? すでに婚約の契約もされたと聞いているのですが……」

「ちょっ……!!! 俺は何も聞かされてないんだけど!? 初めて聞いたよ!!」

「えぇっ?! そうなんですか! 宗方先生はお姉様とお付き合いしていると以前おっしゃってましたよね?」

 

 そんなこと言ったっけなぁ……覚えてないんだけど、コレどうしたらいいんだよ!?

いきなり何言われると思ったら婚約の話!? にこのヤツ、いったいどんなことを吹きこんだんだ? おかげで今なんて返したらいいのかわからないんだけど!!

 

 だ、だが、付き合っていること自体は間違いじゃないから言っても構わないよな……?

 

「つ、付き合ってはいるが、婚約まではまだ……」

「そう、でしたか……」

 

 何だかとても残念そうに肩を落としてしょんぼりしているんだが……間違ったことは言ってないよな? 逆に俺が大きな溜息吐いて肩を落としたい気分だよ……。

 

 

 

「―――あっ、でもこれからはご結婚までのお付き合いをするんですもんね!」

「いや違うからああぁぁぁ!!」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいんですよ~。宗方先生がお姉様とご結婚してくださるのはとてもうれしく思っているんです。だって、私たちの家族になってくださるんですもんね♪」

「いや、そう言うことでもなくってだなぁ!!」

「ママも喜んでましたから安心して下さい♪」

「全然安心できないんだけどおおおぉぉぉ!!!?」

 

 ヤバイ……どう切り出してもこころちゃんには全部肯定的に捉えられてしまう……。しかも、気付かぬうちに家族公認の付き合いと婚約になろうとしているんだが!? 俺はまったく話を聞いちゃいないし、にこからも聞かされていない!

 

 まさか……にこのヤツ、これもまた嘘で塗り固めようとしているのか……そうはいくかっての!!

 

 俺はすぐさまにこに連絡を取ろうとするんだが、何故か留守番電話状態になってしまい繋がらない。何度かけても同じだ。メッセージを飛ばしても既読が付かないし、何をしているんだか……。

 

 

 

 そう頭を悩ませている矢先――――

 

 

 

 

 

ピンポーン―――♪

 

 

 

 玄関のチャイムが鳴ったのだ。

 

 それにこころちゃんが、はーいと返事して玄関に向かい扉を開けた。するとそこには――――

 

 

 

「わぁっ! にこちゃんのちっさいの!」

 

 聞き慣れたハツラツとした声が俺の耳を通ったので、俺も玄関に向かった。そしたら、玄関先に穂乃果たちμ’s全員が立っていたのだ。もちろん、にこも。何故か捕まえられているんだがな……

 

 

 

「ああっ!! バックダンサーのみなさん!!」

 

『バック、ダンサー……?』

 

 

 あ~あ……言っちゃった……。

 こころちゃんのそれを耳にしたμ'sの面々は首を傾げたり、眉をひそめたりと表情は様々。だが、どれもあまり良い様子ではないことは確かだし、言われる以前から何だか虫の居所が悪そうな?

 

 

 一方のにこは、真姫とエリチカに両腕を捕まえられながら髪が濡れてしまうほどの滂沱の汗を流し、困惑の表情を浮かばせていた。これはどうあがいてもダメな気がしてならない――、そう思わせられる瞬間であった。

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うpです。

夏も終わりを告げる9月に入りましたね。こちらは社会人ですから夏休みと言ったような連休もあるわけでもなく、ただただ夏の暑さに堪えてばかりでした。

とはまあ、残りの4ヵ月もしっかり投稿していきたいと願うばかりです。


ちなみに、こころちゃんににこと蒼一が付きあっているって話をしていたのは外伝にて書かれていますので、出来る人は探してみてください。


次回もよろしくお願いいたします。

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