[ 西木野家別荘・広間 ]
「てめぇらはぁぁぁ、“自重”って言葉を知らんのかぁぁぁ!!!!?」
俺は激怒した。ことり、海未、真姫が俺の忠告を無視して、蒼一に襲いかかっていたからだ。1度や2度ならず3度も同じことを繰り返すこの3バカたちに我慢の限界だった。再び広間で正座させ、今度は蒼一も交えてどうしてやろうかと判断しようとしていた。
「わかってはいるんです……! ですがっ、蒼一が近くにいると言うのに逢えないだなんて……逢いたくて逢いたくてたまらなく、この身体の震えが止まらなかったのです……!」
「お前のはもはや禁断症状だ。俺からすればそっちの方に震えが止まらんわ!」
ものすごく真剣そうに言葉を並び立てて来るが、言っていることはやや狂気染みているぞ……。自分も相手にも厳しいはずのあの海未が、まさかここまでダメになってしまうとは想像もつかなかった。というか、これだけ性格が変わると身震いしてくるわ……
「私は関係ないわよ! 蒼一が私を呼んでいるみたいだったから窓から飛んでまでも駆け付けようとしていただけなのよ!」
「おーい、ちょっと待て……まさかお前、鍵を開けたんじゃなくってわざわざ窓から飛び降りて侵入したってことか?」
「ええそうよ。蒼一が呼んでいるのよ、愛のためなら当然じゃない♪」
「ウッソだろお前ッ?! つうか、愛怖ッ!! そして、何故そこで愛ッ!?」
妖げな微笑を浮かばせながら、さらっと今の言葉を口にする真姫から背筋を震わせる悪寒のようなモノを感じさせられる。てっきり身体的余裕がある海未たちがそう言うことをするものかと思っていたが、まさかこうだとはな……。恋は盲目って言うが、自分の劣った能力さえも目を瞑ってこなしてしまうのかよ、コイツの愛ってヤツは……?
「ことりは―――」
「よし、お前は隔離決定な」
「ひどいよっ?! まだ何も言ってないのにぃ!!」
「何も言わなくたってお前のヤバさは十分伝わってるし、ついさっきまで何をしでかしていたのかとか聞きたくないわ」
「そんなぁ~!みんなが練習に出ていった後すぐに扉を開けて蒼くんのところに行って、蒼くんの横で添い寝したり、カッチカチな硬い身体のあちこちを触ったり、蒼くんの新鮮な下着を手にとったりしかしてないんだからね!」
「やっぱ聞きたくないことばかりが乱立してるじゃないかぁー!! 思ってた通りヤバかったよ!!」
「ちょっと待て! 俺の下着って何だ?! 最近、家から俺の下着が無くなっているんだが、まさか……!?」
「そ、そんなのことりは知りませんよ~」
絶対知ってる……! コイツ、絶対知ってると言う顔しやがってる……!! ことりはとうとう蒼一の家に侵入して下着泥棒までするようになっちまったのかよ……もはや犯罪レベル……いや、以前からそうだったわ……。
「ん? そう言えば、扉を開けたって言ったよな? お前に鍵を渡した覚えは無いんだが?」
「? 何言ってるの弘くん。こんな扉に鍵なんていらないよ? だってこじ開ければ簡単だもん」
「………やっぱお前、即刻隔離決定な」
「ひ、ひどいよぉ~~~!!!」
何がひどいだよ! だからやってることが犯罪なんだってば! コソ泥とかそう言う類じゃなくって、銀行強盗レベルの凶悪犯罪者並に怖いことをサラッと言いやがったからな!! 泣き喚こうが関係ねェ、もはや医者に診せても匙を投げるレベルにまでになったお前を放っておけるかよ! どこかに繋いでおかなくちゃ……
三者三様、揃いも揃ってバカばっかで呆れてものが言えねェ……。ほら、穂乃果たちだってドン引きしちゃってるぞ! いくらなんでもやりすぎたんだよお前たちは!!
怒りと呆れが収まりきらない内に、コイツらをどうにかしないといけないと急遽、μ’s臨時会議を設けることになるのだった。
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「―――ってなわけで、嵐の後の静けさみたいになっちまったなぁ」
「そりゃあ全員を追い出すように仕向けたんだから当然だろうに」
閑散とする部屋の中で俺と蒼一は留まっていた。
つい先行った会議の結果、穂乃果が提案したグループ別にして活動させるのが通って、現在それぞれのグループに分かれて行動しているのだと思われる。こうすることで制作組3人を引き離すこともできるし、付き添うメンバーが見張っててくれるだろうから、かなりいい案だと考えている。よもや、こんなところでグループ活動が活かせるとは思いもしなかったが……。
だがこれでアイツらの作業が捗ってくれたらいいのだが、期待できるかは不安である。別荘にいてもあんまし作業進行度は左程と言わざるを得ない程度でしかなかった。蒼一と引き離したことで集中してやってくれるのか、逆効果になってしまうのか、それが心配でならなかったのだ。
「そう難しい顔するなよ。安心しろ、アイツらならちゃんとやってくれるさ」
「あん? どうしてそんなことが言えるんだ?」
「お前がそう言うのも分からんでもないが、俺はアイツらをかってるんだ。今までたくさんのものを作ってくれたし、これからもそうだと信じている」
ふと見つめた蒼一の表情からかなりの自信が感じられ、俺も呼応するかのようにそう感じさせられる。これまでのことを思い返せば確かにその通りかもしれない。ただ、今のアイツらにそれだけの力があるのかということが脳裏を過るのだ。
「もしも、アイツらがうまくいかない時には、発破をかけなくちゃならねぇがな」
「発破? んなもんあんのか?」
アイツらを奮起させる手段ってあったのかと疑問に感じていたが、蒼一は、そん時のお楽しみにということで、と流される。
「そんなことより、今回のラブライブの話をじっくり聞かせて貰おうじゃないか。俺たちRISERの出演も兼ねた予定をすべて教えてくれないか?」
「そうだな。今んとこはそっちに関することだけじっくり考えようや」
それはそれ、これはこれと割り切り、この時間は俺たちがしなくちゃいけないことに費やすことにした。ラブライブの期限もまだまだ先にある。急かさなくたっていいモノを確実に作り上げることが大事だと切りかえた。
「そんじゃあ、さっきアイツらに話したことを繰り返して説明するぜ―――!」
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[ 山間部・高原 ]
「わあぁ~! すっごく広い原っぱだよ!!」
歩いてきた山道を抜けて、一面に広がる緑一色の高原を目にした穂乃果は全力で駆けて行った。その後を追いかけるようにして、ことりと花陽もこの光景に嬉々した表情を浮かばせるのだった。
「穂乃果ちゃ~ん、そんなに早く駆けたら転んじゃうよー?」
「平気平気♪ このくらいでは転ばないから心配しなくてもいいよ、ことりちゃん! 花陽ちゃんもはやくこっちに来てみてよー!」
「元気だなぁ、穂乃果ちゃん。たくさん歩いたはずなのに、まだあんなに力があるなんてすごいよぉ」
2人の心配をよそに駆け回る穂乃果。ことりと花陽はちょっぴり不安に感じながらも、元気いっぱいな彼女を見てどこか安心を覚えるのだった。
そんな穂乃果を先頭にして山道を歩いた
「ことりちゃぁ~ん! ここならいい考えが浮かびそうじゃない?」
「そうだねぇ~。うん、何かいい感じのが浮かんできそうな気がするよ」
「よかった~気に入ってもらえて」
最初は上々、とめずらしく計画を練って行動しようとしている穂乃果の気分は高まっていた。ラブライブにまた出場するという新たな目標と、それに向かって行こうとする気持ちの表れをみんなに示したことでリーダーとしての自覚が高まっていた。これまで自分勝手に行動してきた今までの彼女とは違っていると、無自覚ながらも成長しているのだった。
「あっ……! 今、何かいいイメージが浮かんできそうなの!」
「おお! なになに、どんなのができそうなの?」
「ダメだよ、穂乃果。そんなに焦らせちゃ」
「あぁ、ごめんごめん。ことりちゃんの新しい衣装がどんなのか早く知りたくって!」
胸の高鳴りが止まらない穂乃果はつい急かしてしまって花陽に注意されてしまう。だが、新作の衣装がどのようなものなのかを早く知りたい気持ちは誰もが同じなのだ。とりわけ穂乃果はことりと一緒にいることが多いので、これまでの新しい衣装のイメージが浮かんだ時には、傍で聞いていたのだ。ただ専門的な用語をことりは口にするので半ば理解できていないところもあるものの、穂乃果なりにどんなものかと想像を膨らませては楽しんでいた。そのため、今もこうして純粋な瞳を煌めかせて、わくわくさせるのだった。
そのことりはと言うと、頭上に電流が流れ落ちてきたかのような直感が頭に入り込み、新たなイメージを浮かばせ口にした。
「……草だよ……」
「「え?」」
「そうだよ、草だよ! 草を使った衣装を作ればいいんだよ!!」
「「く、くさ……?」」
突然口走った言葉を耳にした穂乃果と花陽は、一瞬ぽかんとした。何だかよくわからないけど、きっとすごいものだよね?――、と理解し辛そうな様子で穂乃果は幼馴染を見ていた。
ただそのことりはと言うと……
「私、この草原を見て思っちゃったの! こんなに綺麗な緑の草を使った服を着たらきっと素敵だよねって! この糸みたいに長細い草がちょうどいい感じだし、風に揺れたらいい感じだと思うんだよね~♪」
「くさ……? えっ、草???」
「そうだ! いっそのこと、布じゃなくって全部草や葉っぱで作ってみるのもいいかも! 自然のゆったりとした姿できっと気に入っちゃうと思うよ!」
「は、葉っぱ?! 私、葉っぱを身体中に付けちゃうの?!」
「そうだよ花陽ちゃん! 花陽ちゃんのイメージカラーの緑一色で作っちゃうからね! 大自然に覆われた女神の花陽ちゃん……! うん、すっごくイイ感じ!! やろう、やろうよ!!」
「えっ、えええぇぇぇ!!!? そ、そそそなんの着れないですぅぅぅ!!! 恥ずかしすぎますぅぅぅ!!!」
新作のアイデア(?)が舞い下りたことりは酔ったみたいな勢いで口走り、花陽にそのイメージを無理矢理くっ付けて納得しようとした。もちろん花陽は猛烈に嫌がってしまう。彼女が抱いたイメージでは葉っぱや草で身体を覆っただけでその他身に纏うものがない。つまり、傍から見れば裸ではないかと思いこみ紅潮させたのだ。
さすがの穂乃果も同じようなイメージを浮かばせてしまい、かなり――いや、とても嫌がる顔をした。でも、今のことりを止めるには難しく、嫌だと言っても無理矢理着せてしまうのが目に見えていた。では、どうしたらいいんだろうと悩むと、ハッといいことを思い付いてことりに言い寄った。
「こ、ことりちゃん……! そ、そのイメージだと、ことりちゃんが衣装を完成し終えたら草とか葉っぱとか枯れちゃって大変なことになっちゃうよ!」
「あっ……!!!! そ、そうだぁ……忘れてたぁ……」
咄嗟に放った言葉で気付かされたことりは、それまでの勢いが消失し、ぺたんと座り込んでしまった。あまりにも単純なのにそれに気付けなかったことへの浅はかな自分にひどく落ち込んでしまう。
「ふぇ~ん……全然イメージが浮かばないよぉ……だめだぁ、ことりには何も考えられないよぉ……」
「こ、ことりちゃん!? 大丈夫? しっかりして!」
「ほ、穂乃果ちゃぁ~ん……」
落ち込むとともに弱気になってしまったことりは、心配する穂乃果に慰めてもらいたそうに泣きついた。あまり見せることのない姿に穂乃果と花陽はどうしたらと困惑するばかりだ。
「ほ、ほら、ことりちゃん。向こうにとっても綺麗なお花畑を見つけたんだけど、そっちに行って気分を変えてみない?」
「お花畑……?」
花陽はことりを元気付けようと、平原からちょっと先で見つけた花畑を指さした。それは平原の緑色に負けないくらい綺麗で美しい花々が咲き誇っており、目にやさしく映りだすのだ。ことりも顔を上げて花々を見て、表情が明るく好転しだした。ことりの顔を見た穂乃果もちょっぴり安堵の表情を浮かばせるのだった。
「――そうだ!! お花を衣装にすれば―――!!」
「「却下―――!!」」
「ふえぇぇぇん……!! そうくぅ~~~ん、たすけてぇ~~~!!」
――だが、新作の衣装が出来上がりは難航しそうだ。
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――
―――
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[ 山間部・河川 ]
「……って、なんで川の近くなのよ……」
「仕方ないでしょ。他のところだとみんなに出くわしちゃって、グループ分けした意味がないじゃない」
「だからって、わざわざ別荘から離れて外でテントを張るまでしなくてもいいじゃないのよ……!」
「文句言わないの。これも真姫のためなんだから」
不満そうに口を零すにこに納得させようとする絵里。そして、テントの中で必死に真っ白な譜面と向き合っている真姫。彼女たち
「川のせせらぎに、木々がさざめく音が心地いいわね~♪」
この場所を選んだのはもちろん絵里だ。全体練習の際、この場所がチラッと目に留まったここの印象が強く残っていたために選んだのだ。実際訪れると彼女の望んでいた通りの環境で、川のせせらぎを聞くと集中力が上がるからと決めたのだ。
「うぅっ……さっき川に飛び込んだことを思い出しちゃうわ……。寒気もしてきた……」
ただ、にこにとってはさっき川に落ちてしまった嫌な思い出が過り青ざめてしまう。
「にこ。真姫はどんな感じなの?」
「あー、そう言えばテントの中に入ってからは様子を見てなかったわ」
今真姫がどうしているのかなんて絵里に言われるまで気が付かなかった。テントを張ってからは焚火の準備で枝などを集めていたためにそこまで気が回らなかったのだ。それに前提条件として、邪魔したら悪いと思うところもあったりしたからだ。
それじゃあ――、とにこは服についた汚れを叩き落とすとテントに向かい真姫の様子を伺おうとしたのだ。
「真姫ちゃ~ん、作曲の調子はどぉ~?」
入口を覆う幕をめくり上げて中に入るにこは、こちらに背を向けて女の子座りしている真姫を見つけた。ぴんっと伸びた背筋から見えるその
ただ、どんな曲になっているのかをちょこっとだけ見てみたくて真姫の背中から顔を出すと、作業中であろう譜面紙に視線を落とした。
が、しかし―――
「えっ……? 何も書かれてないじゃない」
期待を抱いたにこの目に映ったのは、五線譜に何も書かれていない真っ白な譜面紙だった。どういうことなの? と頭の上に疑問符を浮かばせるほど困っていると、真姫がにこの名前を呼びながらゆっくり顔を回してきた。そしたら真姫は、目に涙を浮かばせながらひどく寂しそうな表情をして言ってくるのだ。
「に、にこちゃぁぁぁん……そういちが……蒼一がいなくてさびしいよぉ……」
「えぇっ?! とっ、とっとっと……ふにゃぁ?!」
突然、真姫はにこの胸に向かって頭から抱きつきだした! 真姫に押されたにこは抱きつかれたまま尻もち付いてしまう。
「こ、こら真姫ッ! いったいどうしたって言うのよ?!」
状況が読めずに驚くにこは肩を叩きながら尋ねた。すると真姫は、悲嘆に暮れるくしゃれた顔を上げて不安な様子を匂わせながら泣き付いた。
「うっ……っぅ……にこちゃぁん。さびしいの……わたし、さびしいの……そういちがいないと、しんじゃいそうなのよぉ……」
「……ぅあぁっ!! 何が死んじゃいそうよ、アンタちゃんと生きてるじゃないのよ……! バカ言ってないでさっさと離れなさいよ……!!」
「やぁだぁ! にこちゃんがいいの! いまはにこちゃんがいいの!!」
「赤ちゃんかッ!!!」
かなりめんどくさそうな状態に見えたので、にこは振り払うとしたのだが、当の真姫が駄々をこね始めてしまい服を引っ張って離れようとしなかった。蒼一と無理矢理引き離されたことで精神的不安定になったのか、知能も退行して幼児のような行動をとるようになっている。
この真姫の変化に気付いたにこだが、早くここから逃げ出したい一心であった。だが、真姫がそうさせてはくれないため、やむを得ず相手をすることに……。
「……ったく……、ほ~ら真姫ちゃ~ん、にこにーですよ~? お手手放すいい子にしてたら抱っこしてあげますよ~?」
「わあぁぁ、にこちゃん……! うん、わかった! いいこする!」
突発的に幼児をあやすやり方をとってみると、晴れやかな表情となったことに驚愕した。それもにこの言った通りに服から手を放してくれたのだ。
しめた、これで離れられる――、と喜んだモノの、本当に幼児のようなキラキラと輝くかわいらしい瞳を向けられて胸をグッと射抜かれ気持ちが留まった。クリッとしたつぶらな瞳を直視したにこは思わず心をときめかせ頬を紅くさせた。
「(なっ……なんてかわいさなの……!)」
予想だにもしなかった真姫のもうひとつの姿を目にしたにこの気持ちは一気に緩んだ。いつも目にしている才色兼備で生意気な彼女が、無垢で愛くるしい小動物のようで全く別人の姿になったことは、にこには毒――いや、にこにとってはまたとなかった。今こそぎゃふんと言わせてやる――! と言ったモノではなく、ただ単純に愛でたかったのだ。
奇妙な縁でかなり仲良くなっていた2人なのだが、お互いにぶつかり合うことが多い仲である。が、同じくらいお互いのことを信頼し合ってたし、かわいく思っているところがあった。恋愛とまではいかないが、それくらいにお互いのことが好きでもあった。
で、あるからして、この状況と言うのはにこにとっては絶好の機会。合法的に真姫を愛でられるかもしれないと興奮してきている。
「にこちゃん、だっこ!」
「うっ……! ま、任せなさい。にこが抱き締めてあげるからね~」
「わぁ~い! えへへ、にこちゃんにだっこ~♪ ぎゅぅーってして?」
「いいわよ~それっ! ぎゅ~~~!」
「きゃぁ~~~!! にこちゃんだいすきっ♪」
「ッ――――!!!!」
その刹那、にこの心が打ち抜かれた。幼児退行した真姫の突然の愛の言葉に限界だったのだ。見た目は女子高生、中身は幼児といったギャップだけでなく、普段では絶対に聞けないであろう素直な言葉に昇天し掛けてしまう。それほどにまで、真姫の放った言葉は強かった。
「あ~ん、もう真姫ちゃんかわいすぎぃ~♡ それじゃあ今度はよしよしもしてあげちゃうわよ~♪」
「キャッキャッ♪ にこちゃんにあたまなでてもらったぁ~! うれしぃ~♪」
にこの硬い表情も幼児化した真姫によって蕩け落ちてしまう。彼女の仕草や行動のすべてがにこを虜にさせてしまい、見るからにだらしのない姿になってしまう。真姫とのやりとりが楽しくなり、まるで自分の妹達と興じているみたいな心地にさせてくれたのだ。
もう、作曲など本来の目的を忘れ、にこは真姫とのお遊びに興じた。疲弊していたにこにとっての癒しが目の前に存在しているから仕方のないことなのだ。もう、自分では自分を抑えきれない。真面目なにこをこうまでさせた真姫の破壊力の凄まじさを感じるばかりであった。
「―――なに、やってるの……これ?」
遅れて様子を見に来た絵里は、2人のやりとりを青ざめた様子で、そっと外に出て辺りの散策に移るのだった。
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―――
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[ 山岳部 ]
「―――希! 凛! ちゃんと付いてきていますか?!」
「大丈夫やで! このくらいへっちゃらや!」
「うぇええええええぇぇぇ!!!!? ちょ、ちょっと待つにゃぁぁああああ!!!!!」
風が強まるに伴い気温も下がりだしていた。山を登り始めてから一時間と少し、彼女たち
海未を先頭に別荘の裏手にそびえる山に登るのだが、まさか登山をするとは思ってもみない2人には酷な話だ。ただ希は、その場のノリというヤツなのか早くも順応して海未と呼吸を合わせて登っていたが、状況さえも理解できない凛にとっては過酷な状況であった。
「どうしましたか凛? 頂上にはまだまだありますよ」
「そうじゃないよ! どうして凛たちは山を登ってるの!?」
「ふふふ、わかりませんか? 山が私たちを待っているからですよ!!」
「無茶苦茶だにゃぁ!!!?」
山から下る強い風に煽られ、今に滑り落ちてしまいそうにある凛は絶叫するしかなかった。先行く海未に話をしても聞く耳もたないどころか、話さえも噛み合っていないように思えた。
こうなったら頼りになるのは希ちゃんしかいない――! と希を引き止めた。
「ねぇ、希ちゃんも何か言って止めてよぉ!!」
「ごめん凛ちゃん……ウチも何度も止めているんやけど、全然止まらんのや……」
「そ、そんなぁ……このままだと本当に頂上に登っちゃうことになるよ! 凛、嫌だよ!!」
「ウチだって嫌や。けど、あの海未ちゃんを見て止められると思う?」
すると希は、静かに、と唇に指を立てるので言う通りにした。そしたら海未の方から何やら奇妙な呻き声のようなモノが聞こえてくる。凛はお化けでもいるのかと身震いしながらも、ゆっくり近付いて聞きとりやすいところまできた。そして、それを耳にした―――
「煩悩退散心頭滅却煩悩退散心頭滅却煩悩退散心頭滅却煩悩退散心頭滅却煩悩退散心頭滅却煩悩退散心頭滅却……」
「――ってぇぇっ!! こわすぎるにゃぁぁぁ!! 念仏みたいに何か呟いているみたいだにゃぁ!!!?」
「そうなんよ。なんだか修行僧みたいなことしとるんよ……それがさっきから聞こえてきて、どう声をかけたらええのかわからんよ……」
疲れた様子で話す希の表情はとても疲れきっており、それを察した凛からごめんと口が零れた。凛も希も今の海未を止めることはできそうもない。さて、どうしたものだろうかと頭を抱える。
「蒼くんがいたらなんとかしてくれそうなんだけどなぁ……」
一抹な希望を口にするがそれでは海未を離れさせた意味がない。としたら自分たちでなんとかしなければならないのかと思うと頭を悩ませるのだった。
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
一週間ぶりの投稿です。
なんかみんな楽しいことになってますねぇ…(遠い目
カミーユがシロッコの精神攻撃で精神崩壊したみたいな凄惨なことになってるんですが、これどうにかなるのだろうか…?
と、とにかく、この子たちが元に戻れるように善処はしておきます…
次回もよろしくお願いします。
今回の曲は
YO-KING/『遠い匂い』
更新速度は早い方が助かりますか?
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遅くても問題ない