蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第178話


自重しない彼女たち

 

「着いたにゃぁ~!!」

 

 お天と様が頭上てっぺんに着いた頃、ちょうど俺たちは真姫の親父さんが所有しているという別荘に辿り着いた。

 電車を降りて駅から徒歩で平原を歩き、山を登ること数十分、全員無事に来ることができた。俺自身は体力には自信があったから難なく行けたし、凛なんて別荘が見えた途端走って行くくらいだから問題はなさそうに見える。

 ただ、問題なのは………

 

「り、りんちゃぁ~ん……ひ、ひろくぅ~ん……は、はやいよぉ………」

「おいおいおい、てめェらだらしねェなぁ~? この夏までにスタミナをみっちり鍛えたやったと言うのに、この程度で根を上げるとはだらしねェんじゃねェかぁ~?」

 

 俺から数百メートル離れた下り坂を見降ろすと、8人が表情を歪ませ、いかにも苦しそうな様子で登って来ようとしていたんだ。

 

「特に、海未と絵里はなぁ~にやってんだ。お前らが一番体力あるって言うのに、そのザマかよ? お前らだけ別メニューで鍛え直させようか?」

「う……うぅ……め、面目ないです……」

「ご、ごめん……何にも言い返せないわ……」

 

 この程度で息を上げてしまっていることに驚いているのか、嘆いているのか、めずらしくしおらしい返事がやってくる。海未なんか、顔を上げることさえも苦のようでずっと足もとばかりに目がいっている。情けないなぁ~、と上から傍観する俺は溜息混じりに呆れていた。

 

 

……というか、もっと深刻そうなのが彼女たちの後に続いていて……

 

 

「おーい、兄弟。生きてるかぁー?」

「ぜぇ……ぜぇ……なんとか、な………」

 

 穂乃果たちの集団からかなり離れたところで、ふらふらしながら歩く蒼一が何故かそこにいる。蒼一も俺と同じく先頭を走るものだと考えていたのに、途中から急にダウンし始めてこのありさまだ。強靱な肉体を持っているはずの蒼一があんなふうになるだなんて……

 

……まあ、理由は知っているのだがな……

 

 

「お前ら人がいないからって電車内でお盛んなことをするとはいい度胸だぜ。洋子がいたらバッチリ撮られていたところだぜ!」

「そんなこと言ってもぉ……真姫ちゃんが蒼君をとるのがいけないんだよぉ~……」

「はぁ……? 人のせいにしないでよ穂乃果! 蒼一は私のところに来たから手厚く迎えてあげただけ……だからやさしく介抱してあげただけよ……」

「ち、違うよぉ~……蒼くんを介抱するのは、ことりのお仕事なんだよ……か、勝手にとったらダメなんだからぁ……」

 

 息を切らしながら必死に反論することかよ……。

 

 あー……つまりな、ここにいるハチャメチャドエロ8人組がバカもエリートも揃いに揃って蒼一とまぐわっている。俺は眼を合わせないように伏せていたから何していたかはわからねェけど、俺がよく見るあっち系の動画みたいな展開になったのは言うまでもない。

 電車内で蒼一に警告していた矢先に、精魂を根こそぎ持って行かれちまうとはご苦労なこった。蒼一がああなるまでやり続けたと考えると苦笑いしか出てこなくなってくるわ……。

 

 

「ねぇねぇ、弘くん。“お盛ん”ってどういう意味なの?」

「凛。キミは知らなくていいんだ。俺はな、凛には純粋のままでいてほしいんだ」

「ん~? どういうことなのかわからないけど、弘くんがそう言うのなら止めておくにゃぁ……」

 

 そうだ、それでいい。知る必要はない。こんな痴態集団に凛まで加わったら取り返しのつかないことになりそうだからな。

―――てか、もしそうなったら凛はいったい誰を相手にするつもりなんだ? 蒼一……いや、ワンチャンあるかと思うがアイツが拒否しそうだし、他の男………もしそうだとしたら、要注意だな……悪いヤツが付かないようにしてやらねェと……。

 

 凛のことを思うとそう決心させられてしまうのだった。

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 別荘内 ]

 

 

「ほら、鍵を開けたから入りましょ」

 

 別荘の扉の鍵を解錠した真姫は、扉を開いて俺たちを中に案内してくれた。真姫が用意してくれた別荘は全体を材木のみで作り上げたログハウスで、よくアメリカの映画に出てくる湖畔に面しているヤツによく似ていた。外見自体かなり大きめなつくりで、室内も予想通りに広々としている。以前、夏合宿で使わせてもらったところよりかは狭く思えるが、部屋数とかを見る限りでは左程変わらないみたいだ。

 相変わらず西木野家はとんでもないモノばかりを見せつけてくるな。海に山に別荘があって、他にもあるんじゃないのかと思っちまう。

 

 

「うわぁ~! 暖炉があるぅ~!」

「ほんとにゃー! すっごーい!!」

 

 レンガでできた大きな暖炉を目にした穂乃果と凛が、初めて見るんじゃないかってくらい興味津々になっていた。

 暖炉があるこの客間は空間に余裕がある開けたところだ。多分、この家の中でも一番広いところなのかもしれない。板床の上に赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれて、その上には何人もが座れるようにと見るに高級そうなソファーと椅子が置かれてあり、花陽たちがくつろいでいた。

 

「見てみて! これって煙突に繋がってるみたいだよ!」

「わあぁ! ぴかぴかにされててとっても綺麗になってる! それにちょっとだけ声が反響しているみたいで面白いにゃぁ♪」

「ウチの使用人にお願いしているからね。使った後、煙突の中が(スス)だらけだとサンタさんが入りにくくなって困っちゃうからね」

 

 

 

『…………………ん?』

 

 

 

 一瞬、場の空気がおかしくなったように感じた。

……ん~と、ちょっとちゃんと聞こえなかったんだが……今サンタって言わなかった? 真姫がサンタって……え?

 

 俺が目を丸くしていると、不思議そうな顔で真姫を見ていた穂乃果が口を開いた。

 

 

「真姫ちゃん、サンタさんがいるって……?」

「サンタさんがどうしたの?」

「いやぁ……真姫ちゃんの口からサンタさんの話が出てくるなんて思わなかったから……」

「別に普通じゃない。クリスマスになったらみんなのところにもやってくるでしょ? 今時だと煙突が付いてる家って少ないからサンタさんも困っちゃうだろうから、毎年クリスマスになったら家族みんなでこの別荘に来てサンタさんをお迎えするのよ。まだ一度もその姿を見たことないけど、私の欲しかったものを綺麗な紙で包んで暖炉の前に置いてくれるのよ」

 

 

 

『……………。』

 

 

 

 

 コヤツ……本気(ガチ)で信じ込んでいるぞ……!!!

 

 この時代、この歳になってもまだサンタがいるって信じているってどんだけ純粋なんだよッ……!! 俺なんか小学校入った頃に、親がサンタしていたのを見てサンタはいないと世界の心理を目の当たりにしたと言うのに……。

 

「素敵! ことりも煙突からサンタさんが来てくれるの見てみたい!」

「でっしょ~! サンタさんが見れたついでにお話とかしてみたいわ! 北方での生活はどうなのか、なんて!」

「わかるぅ~! ことりはね、サンタさんの衣服はどんな生地を使ってるのか知りたいの! あとあと、できたらトナカイさんに触りたいの~♪」

 

 あ、こっちにも(自称)純粋さんがいらっしゃったな。脳内はドが付くほどの濃厚ピンクなのにピュアと呼べることがすごいわ……

 

 

 

「(弘くん……あまりそう言うこと言っちゃうと、ね……?)」

 

 こ、こいつ……直接脳内に……ッ!! いつの間にか俺の思考を読みとっていたと言うのか! お、恐ろしいヤツ……!

 

「(どうしよう……真姫ちゃんがまだサンタさんのことを信じてるよぉ……ことりちゃんもあんな感じだし、穂乃果わかんないよぉ……)」

「(落ち着くのです穂乃果。ここは2人を傷つけないように真実はみんなの胸の中に仕舞っておくのです……)」

「(賢明ね海未。それでいきましょう)」

「(真姫ちゃんがサンタをねぇ~……ぷふっ、まだまだおこちゃまね♪)」

「(にこっち! それ以上はアカンで!)」

「(真姫ちゃんのピュアな心を壊さないであげて!!)」

「(その一言で人生が狂っちゃったら大変だにゃ!!)」

「(……ファ○チキください)」

 

 真姫とことりを除いたメンバーが思考を飛ばしあっている……! 真姫に聞かれないようにしてあげているんだが、なんだよこのニュータイプ的会話は! なんか電流みたいなのが頭に入ってきて、みんなの思考が読める……! もしかしたら、時が見えるんじゃないのララァ!! てか、誰だ!! ファミ○キ注文したヤツっ!!

 

 だが、これで全員に真姫に教えてはいけないという意志疎通だけはできたはずだ。あとは、軽く受け流すか………

 

 

 

「サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことは、たわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいい話だが、それでも、俺がいつまでサンタなんていう想像上の赤服おじいs「オイ、バカやめろォ!!!」うごっ!!?」

 

 ソファーでくつろきながら口走る蒼一の腹に思いっきりグーパンしてやった。

 何やってんだよ蒼一ィィィ!!! せっかくみんなの意見がまとまっていたのに、よりにもよって涼宮ハ○ヒの冒頭長文を空で音読するんじゃねェよ!! あんな地味でへんちょこりんなやれやれ野郎には興味はありませんからぁ!! 超絶ボインなはわわでたわわなJKをご所望なんじゃぁー!!

 

「ど、どうしたのよ明弘!?」

「いや~、蚊が飛んでいたから殺そうかと思ったら運悪く兄弟の腹に止まっていたんだよ~。それでつい力んじゃったんだぜ★」

「そ、そう……」

 

 突発的なことに驚いていた真姫もなんとか理解を示してくれたようで一安心だ。ふぅ……まったく人騒がせなヤツだぜ……。

 

 

「おーい、蒼く~ん? あっ、ダメだ、気絶しちゃってる……」

「Wow! 思いっきりやり過ぎちゃったんだぜ★」

 

 わぁ……よく見てみたら、白目引ん剥きながら口から泡吹いていやがる……。真姫のためとはいえ、これはさすがにやり過ぎた感があるな……すまん、蒼一。

 

 

 

「仕方ない、部屋に連れて行って休ませるとするか」

『(ガタッ!!!)』

「……兄弟は俺が持って行くから、てめぇらはここにいろ……!!」

『(……しゅん)』

 

 分かりやすい反応だなぁオイ! しかもまた器用に脳波で伝えてきやがって、もう普通に喋れよ! いやっ、やっぱ喋るな。絶対五月蠅くなる。やかましい。

 無防備になっちまった蒼一を野放しにしておいたら、電車での二の舞になりかねんしな、ここは俺がなんとかするっきゃない。第一、俺のせいでもあるんだし……

 

「コレを置いてきたら今後の話をするからそこで待ってろよ~」

 

 そう言い残して、蒼一を床に引き摺りながら2階の部屋に置いてきた。

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「――というわけで、緊急会議はじめっぞ~」

 

 蒼一を除いた全員をさっきの広間に集めさせた俺は、次期ラブライブの話をし始めようとしていた。出来ることなら蒼一にも聞かせたかったが……まあ、自業自得だと思って割り切ってもらいたいな。

 

 そんな話し合いの口火を切りだしたのは、いつものようにコイツで――

 

「ねえ弘君。話って一体どんなことなの?」

「まあ、今から説明するからじっとしていてくれよ穂乃果。まあ何の打ち合わせも無しに合宿になったわけなんだが、今度のラブライブに向けて必要なことを考える時間にしたいと思っている」

「えぇっ!? 合宿中は体力が無くなるまで蒼くんとイチャイチャできる期間だって思ってたのに~!!」

「だぁ~れがそんなアホみたいなことをするか、このバカ鳥。んなことのために合宿してるんじゃねェーんだよ。下山したら全員身籠ってました~なんておとぎ話みたいな展開になるのだけは勘弁しろよな?」

「それって、蒼君との既成事実を作れるってことだよね!! 早速ヤるしかないよね!!!?」

「だからそういうのを止めろと言ってんだよ、ドアホがぁ!!!! 少しそっち方面の話を考えるんじゃない!!」

 

……ったく、何だってんだコイツらは……。隙あらば蒼一に襲いかかって行きそうなんだが……危なすぎて頭がおかしくなりそうだ……。

 

「落ち着きなさい、2人とも。今はそのことを考える時間じゃないわよ。特に、穂乃果はリーダーなんだからしっかりと聞くようにしないさいよ」

「はーい、絵里ちゃん」

 

 お、ありがてぇ。絵里の一声で穂乃果とことりが静かになったわ。やっぱし先輩の威厳ってヤツは未だに健在のようでみんなをまとめるのには苦ではないようだ。他のヤツらとは違うなぁ、少し見る目を変えてみてもいいかもしれんな。

 

 

 

「……それと、蒼一のことは夜にみんなでじっくり話し合いましょうか」

『はーい』

「――おい待てコラ」

 

 やっぱダメだ。どうあがいても蒼一ラヴァーズの一員になっちまったら元生徒会長でさえもこの様だ。せっかく人が再評価しようかと思ってたところを徒労にさせるとは……まったくやれやれだぜ……。

 

 

 

「んで、話を戻させてもらうが――もう次期ラブライブの出場要件はみんな把握しているな?」

「もちろんよ! そこは部長であるこのにこが、キッチリ叩きこませたからバッチリよ!」

「ソイツァ助かるわ。じゃあ、そこんとこは省くわ」

 

ラブライブの出場要件とは、前回大会のとほぼ同様だ。

 

 

・楽曲及びダンスは既存のものではなく新たに作り未発表のものに限る。

 

 

 大まかに掻い摘んでみるとこの内容がすぐ目に留まる。コピーユニットだけではダメだとするふるいにかける手段は前回と変わらんな。見る側としても、どっかのアイドルのコピーをわざわざ大会で見たいとは思わないし、やろうとしても本家と比べられてしまうのはやってる側からしても辛いものだ。

 だがそうした意味で、こうした規制はアイドルたちを奮い立たせるにはちょうどよい発破となったわ。こっちも前回よりももっとすごいのを見せつけてやると強気になるわ。

 

「エントリー期限は来月10月末だそうだが……どうだ、いけるか?」

「新しい詩の方でしたらすでに何点か考えてはいます。ただ、今回は明確なテーマが決まってないもので……」

「確かに海未の言う通り、テーマがないとどうすればいいのかわからないからね。私もまだ作曲にとりかかれてないわ」

「ことりも同じかなぁ。いつもだったらこの3人で相談してから作っていたんだけど、まだなんだぁ……」

「焦らなくたっていいさ、時間はたっぷりあるんだしよ。この後、この山ん中で練習しようかと思ってたんだが、お前らはここで相談でもしてたらどうだ?」

「そうですね……。今考えれば何か思い付きそうですし……お言葉に甘えましょうか」

「賛成。ことりもいいわよね?」

「もちろんいいよ。早くできた方がみんなも楽だもんね!」

「早くできてくれたらそれに越したことは無いぜ。エントリーにはPVを送るか、公式が行っているサイトを使ってライブ配信を行うかの2択がある。とりあえず、一曲だけでも完成にこぎつけさせるようにしておかないとな」

 

 前回と違うところと言えばここだろう。スクールアイドルとして最低限のことができるようにとエントリー方法のハードルを上げてきた。順位による出場枠を手にすることは無くなり、地方ごとに参加校全てが同じ舞台に立つことができる仕様になった。だがそれは、同時に実力がなければ勝つことのできないちょっとしたサドンデスマッチみたいなものだ。

 大会の順位決めがどうなるかはまだわかっちゃいないが、ファン層からの強い支持がなければ勝てないと言うのは目に見えた話だ。そうなると、大会本戦が始まる前にいかにしてファンの心を掴むのか。そのためには、多くのライブを行うことや新曲をつくってアピールすることができるのかが問われてくる。つまり、力の無い者は出られない、とする恐ろしいメッセージも込められていると言うわけだ。

 しかもこんな時期に、だ。大会本戦が行われるのは――12月の末。加えて、大会決勝が行われるのは――2月の末。偶然にも3年生の受験や卒業に沿ったスケジュールになっている。実力と余裕がある、自他共に認められる存在でなければ勝てない、と言うわけだ。

 

 そしてこれは、俺たちにものしかかってくる問題でもある………。

 

 

 

「あと、絵里と希、にこにとっては最後の大会でもある。そのことをよく理解しておいてくれ」

『―――!!!』

 

 俺がそう言うと、余裕の笑みを浮かばせていたみんなの表情が固くなった。当事者である絵里たちは尚更だ。やはり動揺するのだろう。何やかんや言って、この9人はずっと一緒で同じ目標に向かってきた仲間なんだ。その別れが近いことを実感したらどうなるのかはわかってはいた。

 

 だが―――

 

「今ここで言うべきじゃないかもだが、いずれ向き合わなくちゃならんことだ。お前たちにとって悔いの残らない大会にするんだな」

 

 

 この事実と向き合うことが俺たちに突き付けられた課題なのかもしれない。

 始まりがあれば終わりもある……蒼一ならきっとあの時みたいに同じ口調で言うのかもしれないな……。

 

 

 

 

 

 

 

「――うん。わかった! それじゃあ、このラブライブ出場は私たちμ’sの最高の思い出にすればいいんだね!」

『――――っ!』

 

 ほ、穂乃果……!

 

 なんだ、この力がみなぎってくるような言葉は……? それも笑顔だとっ……?! このプレッシャーの中でどうしてかそんなに笑っていられるのか不思議だった。

 

「穂乃果はわかっていたよ。絵里ちゃんから生徒会長の職を引き継いだ時からすっと、私たちはずっと同じままではいられないんだって。いつかこんな日が来るんだって、薄々感じていたんだ。μ’sだって同じ。私たちは高校生でスクールアイドルなんだもん、時間は無限大じゃない。()()()()()()()()()()()()()……きっと蒼君だったらこう言うんじゃないかな? だから……穂乃果はね、少しでも楽しい時間を過ごせたらいいなって思ってるの。変、かな?」

「――――ッ?!」

 

 穂乃果、お前……! 同じだ……穂乃果が口にしたあの言葉が蒼一と全く同じであることに俺は衝撃を受けた。いや、そんなバカな……あの穂乃果からそんなことを耳にするとは思いもしなかった。それになんだ、今までとは違ったオーラを感じられる。アイツ、俺の知らない間にここまで成長していやがったと言うのか……!!

 

 穂乃果の言葉に衝撃を受けたのは俺だけじゃない。ここにいる全員が同じように身を震わせ、胸を締め付けられていた。

 

 

 

「変じゃないわよ。それが穂乃果の思いなら私は尊重するわ」

「……絵里ちゃん!」

 

 厳粛な空気の中、不思議に絵里だけは朗らかな表情を浮かばせて言った。

 

「私も穂乃果に生徒会長の職を託そうとした時から、いつかこんな日が来るんだろうなって感じてたわ。私たち3年生が音ノ木坂の生徒でいられるのもあと半年近く、その間にいったい何ができるんだろうって考えていたわ。それでね、考えついたのが、みんなと楽しい時間を今まで以上につくっていきたいってことだったの。だから、ラブライブの話が来た時は嬉しかった。みんなと切磋琢磨して、自分を高めていこうとしていた前回大会の時がとても楽しいと感じていたの。それをもう一度、学校生活の最後まで味わうことができると考えたら居ても立ってもいられなくなっちゃって、それで今回の合宿をしようって決めたのよ。私のわがままなのかもしれないけど、もっとみんなと一緒にいたい、思い出をつくりたい気持ちは穂乃果と同じよ」

 

 胸の内を開くように絵里は穂乃果に、みんなに向けて言葉を紡いだ。それがなんともやさしく、俺の心も和やかにさせてくれるのだ。

 

「エリチの言う通りや。ウチらみんながこうしていられる時間が少なく感じるほど、もっといっぱい楽しみたくなるって思うんよ」

「でも、にこたちに遠慮なんてしなくていいんだからね。いつも通りに、みんなでにっこにっこにーできるくらいはしゃいでるくらいがちょうどいいのよ」

「いや~さすがににこっちのそれはやりたくないなぁ~」

「なんでよっ!!」

 

 希もにこにも不安な様子は無く屈託のない笑みを綻ばせていた。一瞬、笑い飛ばして消し去っているようにも思えたがそうではないのだろう。アイツらはすでに受け入れているのだろう、この瞬間が永遠ではないことを。だからこそ、ああやって笑っていられるのだろう。

 

 その想いは穂乃果たちに伝わるだろうか?

 

 ただその不安は杞憂だったらしく、穂乃果たちの表情もまた朗らかなモノだった。

 すると、急に穂乃果は絵里に抱きつきだしたのだ。

 

「うん! それじゃあ、今回の合宿はいっぱい頑張らないとだね! 穂乃果も絵里ちゃんたちともっともっとたくさんの思い出をつくっていきたいもん!」

「もう穂乃果ったら、調子がいいんだから。でもありがとね、そう言ってくれて」

 

 呆れながらも無邪気な子供のように抱きつく穂乃果に、絵里は笑みが浮かばせてその頭をやさしく撫でた。まるで子供をあやすかのようで、眺めるだけで朗らかにさせられる。

 

「まったく、遊びに来たわけじゃないのですがね……」

「ことりはいいと思うよ。遊んでいる中でたくさんのアイデアが浮かんできそうだし♪」

「なら善は急げね。すぐに取り掛かりましょう」

 

 そんな2人を見てなのか、どうやら制作組の3人のやる気も高まっているようだ。この調子を崩すわけにはいかない。こちらも行動に移さなくちゃいけないな。

 

「そういうことだから、さっさと練習を始めるぞ。さっきも話したように制作組はここで新曲の作りに携わって、他の面々は俺と一緒に山ん中でやるからな。ラブライブに向けて全力でやるぞ!」

 

 こう号令をかけて全員の気持ちを鼓舞させていく。こう言うのは最初が肝心、いいスタートダッシュがかけられるようにしていくことも大事なことだ。キツイ練習でもやる気次第では乗り越えてしまうヤツらだからできるだけたくさん鼓舞させていくことも練習の一部なんだ。

 とりあえずは、新曲ができるまでにみんなの身体を鍛えさせておかないとだな。俺らは海未たちを残して外に行かせた。一方、海未たちは3人揃って2階に向かおうとして、階段を登りだしていた。

 

 

 

 ん? アイツらどうしてこの広間を使わないんだ? ピアノだってあるし、ゆったりとした空間だからここの方がやりやすいだろうに……第一、さっき見てきたが2階には個室ばかりで窮屈だと思うのに……

 

 

「なあ、この広間を使えよ。2階でやるよりはここの方が考えはまとまりやすいだろう?」

 

 こう言うと3人の足取りはピタリと止まった―――が、こちらに振り向こうとはしなかった。どういうことだ……? と不可解に思っていると、そう言えば2階には………

 

 

 

「あ――――」

 

 

 それを思い出した時には、止まっていた3人の足が急に駆け脚へと変わり、2階になだれ込んで行こうとしたのだ!

 

 

「蒼くんのところに一番乗りするのはことりだもんねっ!」

「何を言っているんですか! どう考えても私が先に決まっているじゃないですか!!」

「ふざけないで! 蒼一を癒してあげられるのは、この真姫ちゃんだけなんだからぁ!!」

 

「だああぁぁぁあああ!!! やっぱしそう言う魂胆かよチクショーメがぁ!!! オイ、待てやコラァ―――!!!」

 

 

 いくら互いの気持ちが通じ合ったとしても、バカなマネをするのは天地がひっくりかえっても変わらないようだ……まったく、やれやれなんだぜ……

 

 

(次回へ続く)




どうも、うp主です。

とんとん行こうとしていたらとんでもない方向に向かってそうで自分でも怖いです()
ラブライブが9周年迎えている間、俺は一体何を書いているんだと書いてて白目になってます。この子たちは本当にラブライブを目指そうとしているんだろうか…?

とりあえず、やらせます。無理にでも目指させるようにするんで、次回もよろしくお願いします。

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