蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第177話


同じ星が見たい
自分の周辺敵だらけ


 

 

 のどかだな―――

 

 電車に揺られて小一時間、ただ何もすることがなく窓の外を眺めては、澄みきった青空と照りつける日差しに心を休ませていた。日頃の疲れが溜まっていたのだろうか、ジッと座っているだけでついウトウトして眠りこけてしまいそうになる。そういえば、こんなにもぼぉーっとした時間を過ごすのも久方振りかもしれない。毎日が忙しかった夏のことを思い出せば嫌でもそう感じずにはいられない。

 そして、あれから時は過ぎ、季節も巡って秋の足音を感じられるように。視界にチラつく紅くなりつつある樹木たちが秋の訪れを予兆させていた。

 

 

「兄弟、いいか――?」

 

 長く席を立ってどこかへと行っていた明弘が横並びになって腰掛けてきた。何か芳しくない顔をしてきてたので、何かあったのだろうと身構える。

 明弘は言う。

 

「ついさっき、真田のおっちゃんと話をしてきた」

「会長と?」

 

 明弘の言う真田のおっちゃんは、ラブライブ実行委員会の会長のことだ。俺たちがRISERとして活動していた数年前から交流があり、今もRISERの活動再開に向けてバックアップをしてくれていた。

 そんな会長と明弘が話をするとはどういうことなんだろうか? 自然と姿勢が前に出る。

 

「気になってたんだ、どうしてこのタイミングでラブライブの発表をしたのかをさ。もっと早くすればいいモノを半端な時期に出すもんじゃねェって苦言を言おうかと思ってたんだ」

 

 膝に肘を立てると身体を猫背にして、立てた腕に頬杖をつきながら言う。

 

「そしたら、あっちの方でもいろいろと問題があったみたいでな、その処理に追われていたらしいんだ」

「問題だと? 俺たちが知らない間にか」

「だな。おっちゃんは口外厳禁だと言っていたが……どうやら小木曽の件が関わっているらしい」

「……ッ!! あの野郎が……!?」

 

 忘れもしないあの男。俺たちをどん底に突き落とし、μ’sと音ノ木坂学院までも陥れようとした憎いヤツ……! ソイツの名前を聞くだけでも吐き気が出てきそうだ。

 

「ヤツがやってきたことの背後にラブライブ実行委員会が本当に関わっていないのかって、極秘にまた捜査が入ったそうだ。あの赤坂さんが関わっているところまでは掴んでいるが、どんなことを調べたのかまではわからんようだ。そこは赤坂さんに直接聞けばいい話だが……」

「……だが、どうしたんだ?」

「あまりいい話じゃないらしい。どうも、ヤツが関わっていたのはかなり深刻なモノだったと言うのが、ヤツの息が掛かったところから分かったそうだ。その因果関係も徹底的に洗ったみたいだ」

「……で、結果は?」

「……白だ。ラブライブ実行委員会自体には何の害は無かったそうだ。問題は、ヤツとヤツが関わっていたところだけだったってわけ。それで警察からのお許しも出てようやく再開に漕ぎ着けたってわけだ」

「そうか、ならよかった……」

 

 何も無いと言うことを聞いて、内心かなりホッとしている。これで何かあってはこちらとしても問題でしかなかったからだ。

 

「それと、おっちゃんが言ってたぜ―――RISERとしての出演依頼がよ」

「本当か?! いつになりそうなんだ?」

「ソイツについては近々に連絡がくるみたいだ。それまではこっちの方を進めねェとな」

 

 そうか、RISERとしての活動が本格的にできるわけか。一年の活動休止を経て、先月のスクフェスで活動再開を宣言してから何の連絡もなかったが、ようやくってわけか! 今から楽しみでうずうずしてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは置いといて、だ。なあ、兄弟……俺たちはいったいどこに行こうとしているんだ?」

 

 急に明弘は神妙な様子で俺に問いかけてくる。

 だが、それについて応えることはできない。なぜならば……俺もまったく知らないのだ!

 

 

 今回、次期ラブライブにむけて急遽合宿に行くことを提案したエリチカを中心に、どこで何をするのかなど具体的な計画が練られていたはず……。しかし、その一切の内容は俺たち2人には全く知らされていない。しかも、行く日程を教えられたのはつい先日の夜なのだ。おかげで何の準備も整えられることもできないまま出掛ける羽目になり、まるで意味がわからん状況にいたのだ。

 

「し、しかもよぉ……今日の朝方にいずみさんに連絡を入れて合宿の許可は得ているのか聞いたんだけどよぉ……なんか、絵里が言ったその直後に申請が済まされて許可が下りちまってたんだよぉ! ど、どう思うよ……?」

「ど、どうって……」

「もしかしたら、アイツら、俺たちをハメようとしているんじゃないのか……?」

「いや、そんなことがあるはずが………ありうるかも……」

「そうだろ!? アイツら、俺らにどんなことをしてくるのかわかったもんじゃない。絶対ヤベェことを考えているに違いねェ……!」

 

 ヤベェ事って一体何なんだよ……前回の合宿の時も、そりゃあいろいろとマズイことはあったが……まさか、そんなことが……?!

 

 

「……兄弟、皮だけになってもちゃんと回収してやるからな……」

「何俺が死ぬこと前提で話しちゃってるの?! 勝手に殺さないでくれないか!?」

「いや、絶対に死ぬね……! アイツら、兄弟の精魂すべてを吸いとっていく魂胆やもしれないぞ? マジでそうなったら俺だって止めることはできやしねェからよ、覚悟した方がいいぜ……」

「なんだよ、まるでアイツらがサキュバスかなんかみたいな淫魔みたいな言い方だな。そんなことが起こるはずが…………」

「……な? 無いなんて言えねェだろ? と言うか、兄弟が仕込んだんだから責任はとれよ」

 

 

 あっ……死んだな、これ……。明弘の言葉に諭されて、早速生きる活力を失い掛けそうになる……。否定できない……この数週間でアイツらのもうひとつの顔を曝け出させてしまったから、すでに言い逃れができない。それに、今のアイツらなら本気でやりかねないから、いつどこで襲われるか知れたもんじゃない。

 

 し、しかもだ……この電車、よくよく景色を見回して見ると街と呼ばれているところからかなり離れたところを走ってる気もしなくもない。おまけに、乗車している人が全くいない。辺りも家とか田んぼとか人が住んでいるような気配の無い山奥に向かってるし……もしかして、隔離されかけてる!?

 これらの状況を深く鑑みてもどうあがいても逃げられないという状況。こ、ここはみんなを置いて1人逃げるのも手かもしれない………ん、メールか?

 

 スマホが振動して、メールの受信が来たことを確認して開いてみると……

 

 

 

 

 

 

 

『ことりたちのことを頼みますね。でないと……わかりますよね?

 

 

 

 

 

 

―――いずみ』

 

 

 

「――――ッ!!?」

 

 

 きょ、脅迫かよッ!! この人、俺のことを脅迫しかけてきたぞ!? 親として教育者として非常にいけないことだと思うし、つうかどうしてこのタイミングで送ってくるの? エスパーか? それとも盗聴でもされてるの!?

 い、いずれにしても、逆らったら危険な気もするから止めよう……。俺、結構ヤバいことに手を染めちゃってるからどのことについて指摘されてるのかさっぱりわからん。下手な行動はとれねェ……

 

「だ、だが……あとどのくらいで着くかどうかくらいは聞いてもいいよな?」

 

 そう思い立つと立ち上がって周りを見回した。俺の座席を中心にμ’sの9人が囲むようにして座り、ぐっすり眠っている。いいのか、こんなに寝ちまってもさ? 俺たちは場所を知らされてないのに、乗り過ごしとか起こしても責任を負えないぞ?

 

 さて、誰に聞くべきか……。無難に考えて真姫に聞こうと思い立つ。今回の合宿場所は真姫の別荘だと言うことだけは耳にしていたので、当然真姫に聞けば確実にわかることかもしれないからだ。

 

 ということで、眠っている真姫に近付き起こそうと肩に触れようとした。

 

 

 

 

 

――その瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガバッ―――――!!

 

 

「………なっ?!」

「……うふふっ、捕まえた♡」

 

 俺の指先が真姫の肩に触れようとするよりも早く、真姫の手が俺の腕を掴み出したのだ! 俊敏な動きに驚くと言うよりも、お前起きていたのかよ! という驚きの方が断然強かった。

 

「真姫っ! お前、いつから……?!」

「いつからって。私は乗車してからずっと起きていたわよ」

「起きて……ッ?! いや、目を瞑っていたし、眠っていなかったのかよ!?」

「何言ってるのよ。寝ちゃってたらこのチャンスを逃しちゃうところだったじゃない♪」

「チャ、チャンス……!?」

 

 ハッとした俺は、背後から異様な視線を感じ取り振り返ると、ジッと俺のことを凝視する穂乃果たちがそこに立っていたのだ。

 

「むぅ~、真姫ちゃんだけずるいぃ~! 何で蒼君は穂乃果のところに来てくれなかったの!!」

「穂乃果!? お前たち、寝ていたんじゃないのか!?」

「寝るなんてできないよ! だって、寝ちゃったら蒼君が寝るタイミングがわからないもん!」

「……は?」

「蒼くんが寝たらその間にいろんなことをしようかなぁって考えてたの。でも、一向に寝てくれないからことりはちょっぴり眠たかったなぁ~」

「……そのまま寝ちまえばよかったのに……」

「だから、眠って蒼一がこないかずっと待っていたのですよ。なのに……」

「ふふんっ♪ 残念だったわね、海未。蒼一はやっぱり私のことが好きみたいね♪」

 

 真姫は悪戯な笑みを浮かばせると、急に俺の首を掴むと強く引っぱられ、顔を真姫の胸に押し付けられた! 咄嗟のことで状況判断が難しく、うまく動けない! おまけに、顔に当たる柔らかな感触に息苦しくなってくる!

 もごもごとうごめいていると、背後から穂乃果たちの驚愕する声が聞こえてきて、海未なんか発狂しそうな声で叫んでいやがった。

 

「んなっ!? なななな、何やっているんですか真姫ッ!?!?」

「あら、見て分からないの? 休ませてあげてるのよ。蒼一はこうしてあげると喜ぶのよ♪」

 

 いや勝手に決め付けるな! 誰がそんなこと言ったんだ!? と口にして言い返そうとするが口は押さえつけられてうまく開かず、もごもごとした声が出るだけだ。頭もあんまり動かないし、

 

「あぁんっ♡ もう、蒼一ってばそんなに動かないで、くすぐったいじゃないの♪ そんなに私の胸が恋しいのならいつだっていいのよ? 何なら毎日できるように私の家に来てもいいのよ。今なら別荘に婚姻届もあるから、すぐ受理できるようにパパに頼んであげられるからね♡」

 

 おいぃぃぃいいい!!! 何言ってんだお前はぁぁぁぁ!!!? 勝手に押し付けてきたからこうなっちまってるんだろうがぁ!! つうか、婚姻届とか聞いてないんだけど!? こんなことで西木野家の力を行使してくるんじゃないよ!!

 

「それはだめぇぇぇ!! いくら真姫ちゃんでもそれだけは穂乃果も許さないんだからね!!」

 

 おぉ! いいぞ穂乃果! そのまま真姫のことを跳ねのけてしまえ!!

 

 

「蒼君は穂乃果のおっぱいの方が好きなんだよ!!」

 

 

 

………って、何言ってんだお前は!!? 援護するどころか背後から狙い撃っちゃってるじゃないか!!

 

「何言っちゃってるのよ2人とも。蒼一は私の胸の方が好きに決まってるじゃない? この豊満な胸に埋められるのが男のロマンらしいのよ♪」

 

 誰もそんなゲスいロマンなんか抱いちゃいねェよ!! つうか、エリチカも撃ってくるのかよ!! お前はまともなことを言ってくれると信じていたのに、信じた俺がバカだったわ!!!

 

「もう、みんな! 蒼くんが嫌がってるよ!」

 

 ことり……! お前………いや、んなわけない。コイツは………

 

 

 

 

「蒼くんはことりのおっぱいの方が好きなんだってば! 赤ちゃんみたいにチューチュー吸ってくれたんだよ? これだけの愛情表現をしてくれたのはことりにだけなんだから、蒼くんはお腹いっぱいになるまでことりのおっぱいを吸ってくれてもいいんだよ?」

 

 うぉいぃぃぃ!!! なんちゅう爆弾発言しやがるんだテメェはああぁぁぁぁ!!? 背後から弾丸どころか大砲一発喰らわせてきて消し炭にしようとしやがってるじゃないかぁ!!!

 

……って、なんだか雲行きが怪しくなってきたような……

 

 

 

「蒼一!! なら今から私がおっぱいをあげるからこれで満足しちゃいなさいよ!! 真姫ちゃんのマシュマロおっぱいに溺れちゃいなさい!!!!」

「ふごっ!!? んなっ、なにをっ……!!? やっ、なにたくし上げてんだぁぁぁぁ!!!?」

「今ここで直接吸いなさい!! もしかしたら私の中に母性が湧きあがってミルクが出てくるかもしれないからぁ!!!!」

「いや出ねェだろう?! お前医者志望のくせにその仕組みを理解してないのかよ!!!」

「い・い・か・ら・吸・い・な・さ・い!!! 拒否権は無いわよ!!」

「いいや拒否させてもらうね……! って、だからなに服をたくし上げようとしちゃってるの?! 仮にもここは電車内だぞ! 人が来たらどうするんだよ!!?」

「大丈夫よ。この電車はウチがまるまる一本買い取らせてもらったから私たち以外誰も乗り合わせないし、目的地以外の場所には決して止まったりしないんだから。ほら、蒼一が満足しきるまでヤっちゃいましょ♪」

「だから西木野家怖すぎだろ?! やることがいちいちえげつなさすぎるだろ!! この合宿にどんだけ力入れてるんだよ!!!」

「蒼一が婚姻届にサインして、西木野の性を取るまで私は諦めないから……! そもそも蒼一は宗方家の二男坊なんだからウチに嫁いでも本家には問題なんだから西木野の性を守りなさいよ! ウチは裕福だし、将来病院長になれるかもしれないのよ? そして、こんな超絶美人な娘と結婚出来るんですから、これほどの良物件は他には存在しないわよ……?」

「すばらしい自己アピールなのに、ただの押し売りにしか聞こえないんだけど!? ちょっと強引過ぎるぞ……!!」

 

 ツッコミ入れることさえも疲れてしまうくらい大変なことになっちまって、もういろいろとくたびれてきたぞ! だが、ここで手を抜いたらホントにヤバいことになるし、真姫から離れても背後から迫ってくる妖艶な雰囲気を漂わせる彼女たちを相手しなくちゃならないと言う試練にも立ち会わなくちゃならないとか、マジで最悪何だが!!!

 

 こ、ここは冷静に考えて……明弘! 明弘の力が必要なんだ!! 頼む、助けてくれ!!!

 

 

「……俺は何も見てない。何も見ない。何も聞こえない。何も知らない。俺はただ寝ているだけ。俺は……」

 

 だぁあああぁぁぁ!!! 使えねェ!!!! 座席の上で人間バイブレーターみたいに震えまくって俺からの救難信号を完璧に拒絶していやがるよ!! マジでふざけるんじゃないよ!!!

 

 

「これはもう……決めてもらうしかないね……」

「うん……やっぱりそうしないとことりは……」

「ここでハッキリと決めてもらいませんと……」

「誰が一番、蒼一に寵愛されるのか……」

「蒼一にぃに一番求められるのか……」

「ちょうど、誰もおらん見たいやし……」

「いいんじゃない。そのための合宿なんだから……」

 

 

……う、う~ん……ほ、他7人のとんでもない声が聞こえてきたような……? 明弘じゃないが、耳を塞いで聞きたくない姿勢になりたいわ! 誰かもう助けてくれよ!!!!

 

 

 

 

『いざ――――!!!!』

 

 もしかして……!!! ふ、服を脱いでいやがるッ!!! 上半身に来ていたであろうシャツが床に投げ出されているのが狭い視界の中でも見つけることができたぞ!!

……ってぇっ!?! ふ、複数の手が俺の身体をベタベタと触り始めやがるッ!!!! くっそっ!! 手がタコの触手みたいに四肢に絡み付きやがって、一瞬で身体の自由が奪われちまった!!!

 

 

 あ、やばっ……え、あっ……ぉ、まずっ……わっ、おわああぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!?!?

 

 

 

 

 後の話だが、この山岳地域一帯に電車の警笛のような断末魔が轟いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅー……すぅー………ん~、もう食べられないにゃぁ……すぅー……」

 

 

 ちなみに、ここに参加していなかった凛はと言うと、座席のソファーに身体を丸めさせてグッスリ眠っていたそうだ。

 

 

(次回へ続く)




 ドウモ、うp主です。

 夏が近づくにつれて気温が高くなって汗ばむのが最近の悩みです。水分補給大事だということもわかる日々ですわ。

 そんなわけで今回から秋合宿がスタートしました。かなり無理やり感があるところですが、まあそこはご愛嬌と言うことで……
 前回の夏合宿編のことを覚えていらっしゃる読者ならわかると思います、今後の展開が……。蒼一が皮だけになるんじゃないかと心配になってきた……

 さて、どんなことが待ち受けているのか……次回をお楽しみに。


 今回の曲は、
angela/『蒼い春』

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