[ 2年生教室・メイドカフェ ]
「はあぁぁぁぁぁぁ~~~………」
2年生教室に入った俺たちは穂乃果たちに特別に用意してもらった個室に行き席に着くと、顔面をテーブルに突っ伏して溜息が出てしまう。それを気にしたのか、メイド姿の穂乃果が尋ねてくる。
「何溜息吐いてるの弘君?」
「穂乃果、明弘を心配しても何の得にもなりませんよ」
「海未っ! 何でお前はそんな血の冷てぇことが言えるんだ! 俺はとっても悲しいと言うのにッ!!」
「もう暑苦しいです。ただでさえ残暑で暑いと言うのにやかましくしないでください」
「そんなこと言わないで少しは聞いてあげようよ、海未ちゃん?」
「まったくその通りだぞ穂乃果! 俺はとっても悲しいと言うのに、慰めの言葉すら掛けてくれない冷酷で無慈悲な海未にはホントに困ったものd「何か言いましたか……?」…いえ、なんでもございません園田さん。できることならばこんな下僕の悩みを聞いちゃあくれませんでしょうか? あと、その絞った拳をこちらに向けないでッ!!」
澄まし目なのに鬼面のような形相で威圧をかけてくる海未が怖ッ! ガチで殴りにかかってきそうになったから思わず土下座する勢いで謝っちまったわ。
「仕方がありませんね……少しだけなら聞いてあげますから……」
「お、そうこなくっちゃな! んでだ、俺のハーレム計画何だg「はいお終いです」…はやっ!! まだ何も言ってないんだぞ!?」
「言わなくてもわかります。どうせ、女のことばかりを考えているのでしょう」
「うぐぐっ……! な、何故わかったし……!?」
「はぁ……穂乃果、こういうことだから私はくだらないと言ったのですよ」
「う、うん……なんか、ごめん……」
俺のことを見透かしたみたいに言われて何も言い返せないどころか、穂乃果に哀れみをもった目で見られると言う悲しさ。やめろぉ! そんな目で俺をみるんじゃないぃぃぃ!!!
「まったく、全然懲りないヤツだなお前も」
「くうぅぅっ……きょうだ~いぃ……。リアルハーレムを築いた兄弟なら俺の気持ちはわかってくれるだろう?」
「わかるかよ。てか、それを今ここでそれを引き合いに出すなよ。第一、俺は現状で満足してるんだ。それをさらに望んだらどうなることやら……」
「そうだよ。蒼くんはことりたちの大事な大事な彼氏さんなんだもんね。私たちだけでも多いと思うのに、また増えちゃったら……ね?」
入口からスッと物音立てずに現れたことりは、ティーポットやカップが乗せられたトレイを持って来て言った。にこっと目を細めて笑って見せているが、全身から滲み出る嫌な覇気に背筋が跳ねた。おっとこれはやばいぞぉ……ことりだけじゃなくって、穂乃果や海未からもただならぬ気迫を感じてしまう……。あの冷え切った笑顔で身が凍りそうだ。
「よせ、お前ら。さっきも言ったように俺はお前たちだけで満足しているんだ。それに、面と向かって好きだと言えるのはお前たちだけなんだから」
「蒼君……///」
「蒼一……///」
「やぁ~ん、蒼くんってばだいたぁ~ん♪」
蒼一がくすりと微笑むとことりたちの表情が一気に蕩け出した。大したもんだなぁ、たった一言口にしただけであっという間に従順な姿にさせちまうんだ。あの怖い形相だった海未でさえも女の顔をしやがってる。どういうふうに手懐けたのか知りたいもんだ。
はいどうぞ――、上機嫌になったことりは手にしていたティーセットをテーブルに置き、2人分の紅茶を用意して俺たちの前に出してくれた。熱い湯気を立たせ、リンゴのような甘い上品な香りを嗅ぐわせる深い紅色の紅茶に意識を引き寄せられちまう。カップを片手で持ち上げ、熱された紅茶に息を吹きかけて冷ましてから唇の先端をカップに触れてちょっぴりだけ飲む。
「お、コイツは……!」
湯気も立っているから熱々何だろうと慎重になっていたが、思ってたほど熱くは無く、舌にもやさしい。それに口いっぱいに広がる甘い香りが鼻から抜けるほど強く、なのにしつこくない。飲み心地は最高だ。おまけに、気張っていた神経が風呂に全身を浸からせたみたいに解れて休まっている。紅茶ってこんなにおいしいモノだったのか、と目から鱗な気分だ。
「いい湯加減だな。アップルティー? それにしてはすぅーっと鼻から抜けていく爽快さとやさしい甘さ……ジャスミンハーブとのブレンドかな?」
「当たりぃ! さすが蒼くん、ことりのブレンドティーを当てちゃうなんてすごい♪」
「わかるのか、兄弟?!」
「まあな。リンゴのほのかな香りはすぐにわかるし、口の中に広がる独特の爽快さがジャスミンだと直感したのさ。それに、ことりはジャスミンが好きだからな」
はえぇ……一口飲んだだけでわかっちまうもんなのか? 確かに蒼一は料理が達者だが、食材を言い当てるところまでやれるなんてさすがだなあ。
「蒼君すごーい! 穂乃果はリンゴしか分からなかったのに、やっぱりすごいや!」
「お見事ですね。今の蒼一ならば父が茶道の席で行う利き茶の会に出られそうです」
「いやぁ、園田の親父さんがやるのはもっと複雑だろう。抹茶1つで種類と産地を言い当てる、余程舌が鋭い人でなくちゃ難しいだろ」
「よいではありませんか。それにお父様は蒼一が来てくれることを心待ちにしているんですよ?」
「そうなのか? ふむ……そう言うことなら久しぶりに顔を出そうかな。園田道場に」
「はい、そうこなくては。帰ったらお父様に言付けておきますね」
ふ~ん、園田道場かぁ……。あそこは剣道や日本舞踊とかの家元だからなぁ、茶道があってもおかしくはない。あそこの親父さんも
「クッキーも作ってみたの。よかったら食べて!」
「おっ、動物の形をしたヤツか。どれどれ……おほぉっ! さっぱりとした味でコイツァ紅茶にあうぞ!」
「なるほど、紅茶の味をも落とさない絶妙な甘さ加減がなされている。また腕を上げたなことり」
「えへへ~♪ 蒼くんに喜んでもらえてよかった♪」
蒼一が褒めるからかとても嬉しそうな表情をしている。少しキツネ色に焼けた小さな円状のクッキーはサクッとした触感に控え目な甘さ。口の中でしつこくないから何度食べても飽きることはなさそうだ。
加えてことりのメイドとしての作法は完璧だ。行き過ぎずまた下がりもしない、ちょっと前に踏み出した感じが心にくるものがあって、見ているだけでも安心してしまう。他のみんなとは格段と違ったオーラが強く感じられるんだ。
「さすがは伝説のメイド、ミナリンスキーだぜ。何をやっても完璧すぎて惚れ惚れしちまうぜ」
「ありがと、弘くん。やっぱりあそこでバイト頑張ってよかったなぁ~」
「ホントにな。傍から見ればどこかの専属メイドに見えてしまうからな」
「何言ってるの? ことりは蒼くんだけの専属メイドなんですよ~♪ ご主人様のためなら、ことりは何でもやっちゃいますからね♪」
「ははっ、そりゃあ参ったなあ。恋人からメイドに転職されたら今までのような接し方はできなくなるなあ」
「やぁ~ん、蒼くんのいじわるぅ~。ことりは蒼くんの恋人さんでメイドさんになるの! いつまでもお傍にいますからね♡」
「待ってよことりちゃん! 穂乃果も蒼君の傍にいるメイドさんになるぅー!!」
「わ、私だって、蒼一のお傍にずっといたいです……抜け駆けは許しませんよ!」
「はい、惚気乙」
なんだかコントでも見せられているような会話だなぁ……。相変わらずのイチャイチャっぷりで口の中が甘ったるくなってきやがった。俺もこんなハーレムが作れたら最高なんだろうけど、さすがにここまで濃厚でなくたっていい気もするんだ。はぁ……俺にもそんなヤツがいたらいいのになぁ……。
4人から発せられる何とも言えぬ空気に当てられながらお茶を啜っていると、ここの扉をノックする音が聞こえてきた。失礼します――! と一声かけて入ってきたのは、同じくメイド姿のヒデコだ。穂乃果たちを呼びに来たのか名前を途中まで口にしていたが、俺と目があった瞬間言葉を詰まらせた。なんだぁ、見られて恥ずかしいもんじゃないだろう? とは思いつつも顔を紅潮させるヒデコには関係なさそうだ。
「どうしたの、ヒデコちゃん?」
あ、イチャイチャしてるの止めてる。穂乃果が返事をしてるが、他のみんなも何事もなかったかのような平然とした態度を見せている。手慣れている感があるなあ……処世術くらいは身に付けていると言うことか……。
んで、ヒデコの用件はと言うと―――
「大変だよ穂乃果! 思った以上にお客さんが来て私たちじゃ手に負えなくなっちゃってるの!」
「そうなの!? それじゃあ、今からそっちを手伝うからね!」
「ありがとう! でもね、そのお客さんたちなんだけどあまりにも多過ぎて隣の教室の一部も使って対応してるの。休んでもらってるクラスの人も総動員させてるんだけど対応しきれるか不安で……」
「そんなにですか?! それではひっきりなしに働くことになるじゃないですか!」
「じゃ、じゃあ、ことりが頑張って捌いてみるよ!」
「だめだよ、ことりちゃん! それに穂乃果たちは午後にライブがあるんだからここで無理しないで!」
「で、でも……」
「――それはいけないな。ここは俺に任せてもらってもいいか?」
『えっ―――!?』
カップをテーブルにゆっくり下ろすと、堂々と立ち上がった。
「任せるって……おいおい兄弟、まさか手伝いに行くのかよ?」
「そうするしかないだろう? 聞く話だと非常事態なんだし、ネコの手も借りたいところだろう。だから、ある程度までをサポートさせてもらうさ」
「そ、蒼君……!」
「とは言うがな、一般生徒に交って兄弟が行ってもいいのか? 何か言われそうで怖いんだが……」
「案ずるな。いずみさんからはすでに手伝いを買って出てもいい許可はとっくに出ているんだ。あとは、学校じゃなくってお客の反応次第だがな。ことり! 何かいい衣装は持ち合わせてないか?」
「それなら、昨日のロミオの衣装があるよ! アレだったらすぐに着れるでしょ?」
「確かにな。装飾品を無しにしておけばまず問題ないだろう。よし、それでいくか」
蒼一が段取りを決めると、みんなの表情が急に明るくなり始め出した。蒼一が手伝えば何とかなるだろうと言う期待もあるんだが、何よりもあの衣装で登場するとなれば気分が高まるのは当然か。ヒデコも嬉しそうにしてるし、女子人気はぐんっと伸びそうだ。
「と言うわけだ明弘。場合によっちゃあライブが始まる時まで切り詰めているかもしれないから、もしもの時は頼んだぞ」
「はいはい、そう言うことなら任せとけって。まあなんだ、お前がいればそっちも問題ないはずだろう。何せ、メイドカフェで培った経験があるんだもんな。なあ、
「ははっ、懐かしい響きだな。こうも言われては気張らずにはいられないな」
はにかんだ様子で一笑すると、蒼一はことりたちと一緒にここから出ていくのだった。そして―――
「よく似合ってるぜヒデコ。やっぱりかわいいんだぜ!」
「ふぇにゃあっ―――!!!?」
最後に残ったヒデコにこう言うと、猫みたいな声で叫びながら出ていってしまった。はて、何かまずいことでも言ったかな?
―
――
―――
――――
[ 3年生教室廊下 ]
蒼一とも別れて特にすることが無くなってしまった俺は、そこいらをブラブラと歩きまわっていた。途中途中でウチのカワイイ子ちゃんたちと出くわして、話とかしてたらここまで来ちまったな。確かここには、にこたちがやってるお化け屋敷があったんだったっけ? 今回の学園祭では唯一のお化け屋敷で、さっきの子たちもここの怖さはハンパなかったって言ってたな。いったい、どんなモンを作ったんだろうなぁ。
少し歩くと、壁側に一列の行列ができていた。何の行列なんだと思い前に進むと、先頭が向かう先には例のお化け屋敷が!
「おいおい……かなり本格的じゃないの?」
入口が黒い布で覆われて中からまったく光が見えてこない。むしろ、光が中に吸収されているみたいに真っ暗で何も見えない! トンネル? いや、もしかしたらブラックホールなのかもしれないぞ……一度入ったら出られない黒魔術の匂いがしてくるなあ……。
「なーに、そんなところでボケっと突っ立ってるのよ」
これに気を取られていると、嫌みを含めた感じの声が下から上がってきた。このちょっと
「なんだ、にこか」
「なによぉ、何か文句でもあるわけ?」
「いいや、べつにぃ~」
見下ろすとにこが机に頬杖付いて、ジト目で俺を見上げていたんだ。ムスッと機嫌はあまりよろしそうではなさそうで、俺を見る目はとってもめんどくさそうな様子なのだ。仮にもアイドルなんだからもっと愛想よくしろってんだ!
「愛想よくなくって悪かったわね!」
「いや、まだ口にしてないから!」
「
「あ、やべっ!!」
くっ、なんて勘の鋭いヤツなんだ! それにまた口を滑らせちまった! お前は口が軽いって医者に注意されてたのによぉ!!
「……はぁ……、アンタに何言っても疲れるだけだわ……」
「勝手に睨みつけておいて、まったく失礼なヤツだなオイ!」
威嚇する猫みたいに目を鋭くさせるにこだが、呆れたのかすぐ視線を下ろして深い溜息を吐いた。
「それで、何の用なのよ?」
「あぁ、ブラブラしてたら通りかかったもんでよ、ちょっくら見物しに来たってわけだ。にしても、長い列だなあ、これ全部お化け屋敷のか?」
「その通りよ。想像以上に好評だったらしくってね、口コミが広がってこのありさまよ。来てくれるのは嬉しいけど、おかげで三十分待ちが起こって今は予約制になってしまったわけ」
「へぇ~嬉しい悲鳴ってヤツか、それはお疲れさん」
「ところで蒼一は? 一緒にいるんじゃなかったの?」
「あぁ、ちょっと野暮用でな、別行動してるところだ」
「そう、残念ね……」
蒼一がいないことを知ったとたん、気持ちが沈んでいくのが見てとれた。寂しがる犬みたいで実にわかりやすいもんだ。今蒼一がどこで何をやってるのか言ったら、仕事を放り投げてでも行っちまいそうな勢いだ。
「希と絵里は?」
「希ならちょうど今お客を中で驚かせているところよ。絵里は……生徒会の仕事があるからって生徒会室よ」
「ふぅ~ん、なるほどねぇ……」
にこからの説明の途中に中から悲鳴が上がってくるんだが、どんだけ怖いことをさせているんだと逆に心配になる。それに比べ何で絵里は手伝わないんだろうねぇ? まさか……あぁ、そう言えば絵里ってこういうお化けとか暗いところが苦手なんだって蒼一から聞かされていたなあ。自分のクラスの出し物だと分かっていても苦手なモノは苦手ということか……まあ仕方ないと言ったらそれまでなんだがな。
そう1人で納得しかけていると、にこが軽く触れるみたいに尋ねてきた。
「アンタ、凛のことどうするつもりなの?」
「え? 凛がどうしたって?」
「どうしたもこうしたも、凛がアンタのことで相当怒ってたわよ。話を振ったら威嚇されちゃったし、まったく何やってるのよ」
呆れ口調で話をし、大きな溜息を吐いた。いや、その、何と言うか……にこにまでそう言われると変に落ち込むなぁ……。蒼一にも言われたところなのに重ねて言われると、ヤバいなぁと危機感を抱いてしまう。
そういやぁ、ここ数日間、凛と話をしていないな。と言うか口を聞いてくれないし、深く言えば避けられている。どうも指摘したことを根に持っているようなのだが、言わなけりゃもっと大変なことになってただろうに、それで拗ねられるとは困ったもんだなあ。
「アンタ、今理不尽に怒られてるって思ってないでしょうね?」
「……ッ! そ、そんなことは……ないぜ……」
「わっかりやす。嘘も女の子を扱うのも下手くそね」
「何をっ! 嘘はともかく女子の扱いは慣れてる方だぜ!」
「そうは言うけど、実際凛がああも拗ねている事実からは言い逃れできないわよ」
「ぐぬぬ……」
確かに、いくら女子の扱いには慣れていると自負はできるが、凛のあの反応には正直理解に苦しむ。というか、どうしてか凛に限ってだけ他の女子とは違うんだ。なんかこう、いつも通りにやってもうまくいかないし、違う反応ばかりを見てしまう。今まで経験したことのないことばかりで調子が狂ってしまう。
「アンタがどんだけ女の子の扱いがうまかろうが、怒るところはみんな同じなのよ! だいたい、下着のことを聞くこと自体が間違い。女の子同士で言われても恥ずかしく思っちゃうのに、それを異性に言われた時にはそれ以上に嫌なのよ。ちょっとはデレカシーを持ったらどうなのよ!」
「うっ……なんかすまねぇ……」
「にこに謝っても何の意味もないわよ。さっさと凛に謝ってきなさい!」
ビシッと指を突き立てたにこから矢のような鋭い言葉で戒められ思いっきりたじろいでしまう。こうも徹底的に言われちゃあ何も言い返せねぇ……それに冷静にさせられてからようやくヤベェことを口にしたんだと自覚してくる。
「……わかった。今から行ってくるわ……」
「それでいいのよ、それで。ライブ前に拗れたままでいるとこっちまで迷惑なんだから」
「あぁ、ありがとな、にこ」
「べ、別にアンタのためじゃないわよ。にこはただいつも最高のコンディションでライブがしたいだけなんだから!」
頬を少し紅くさせての唐突なツンデレ口調に思わず顔が緩んじまう。こうして周りをよく見てくれているだけでなく機を遣ってくれるやさしい一面もあるからドヤされても受け入れてしまう。憎めないヤツなのだ。
あっ、そう言えば――、とふと思い出したあのことを話し始めた。
「にこに話しておいた方がいいと思ったんだが……」
「何よ? 手短にお願いするわ。こっちも忙しくなりそうなんだから……」
「まあまあそう言うなって。ついさっきなんだが、穂乃果たちの2年生で行っているメイドカフェにな、蒼一がウェイターを買って出たんだってことをよ「はあぁっ!!? なんでそのことを早く言わないのよ!!」わっ! とっと……」
蒼一のことを話題にあげると餌に喰らいつく魚のように前のめりになって聞いてきた。功を焦ったかのような慌ただしい様子で続きを聞きたそうにしていやがったから興味がそそられるような言い方で伝えてみる。
「まあ落ち着けって。しかもだな、執事服が用意できなかったからって昨日のロミオの衣装を借りてやってるらしいんだぜ。気になるんだったら今のうちに行った方がいいぜ? 何せ、穂乃果たち目当てでやってくる客が多かったからなぁ」
「ぬぁんですってぇ!!? こうしちゃいられないわ、こんなところで座ってる場合じゃないわ!!」
「おいおい、受け付けはクラスの仕事だろうよ。それを投げ出すっつうのはまずいと思うぜ?」
「何言ってるのよ! 蒼一がウェイターをやってるのに黙っていられるわけがないでしょ!? 他の子たちに遅れちゃダメなのよ!!」
うわぁ……公然的にサボりを正当化しようとしている……。あの目を見てみろよ、めらめらと燃え盛る炎のように熱くなってて、もうそのことにしか眼中にないって感じだ。にこも蒼一のことになれば無我夢中になっちまうのか……まあ、わかりきっていたことだけどな。
けど、そんなことを平然と口にしてもいいのだろうか? 言ってる先から誰かに止められそうな……
「うひぃぃぃいいいいっっっ!!!!!?」
「こ~ら~抜け駆けはさせへんで~」
「の、のぞみっ!? ちょっ、こ、こんなところでしないで……っ!!!」
うっひゃぁ~でた、伝家の宝刀希のわしわしMAX! コイツは派手にやるなぁ~。
入口の黒い布の中からヌーっと亡霊のように現れた希は、にこを背後から襲いかかり、胸を鷲掴みしやがった。サイズAAAの貧乳の部類に相当するあの小さな胸のどこに掴むところがあるのだろうかと疑問視するが、そんな答えを悟らせるかのように希は指に力を入れて胸を引っ張り上げる。するとどうだろう、希の指の隙間からは確かに胸の肉が食いこんでおり、確かに胸があるんだとまじまじと見せつけられた。
……てか、あれって肉っていうより皮じゃね? 肌を無理矢理引っ張ってるようにしか見えないし、めちゃくちゃ痛そう……。にこ自身もかなり痛そうに叫んでいるみたいだし……。
「希、さすがにこれ以上はまずい気もするぞ。ライブ前ににこのライフが0になっちまうし、公衆面前でするもんじゃない」
「およ? せやったなぁ~、いや~にこっちの背中を見てるとなんだか無性にわしわししたくなってしまうんよ~」
「ふざけるんじゃないわよ!! 胸が引き千切れるところだったじゃない!!」
「あはは、ごめんな~。でも、胸をわしわししたら少しは大きくなるんやない?」
「余計なお世話よ!! 第一、アンタにこれをやられてもう何年も経ってるけど一向に大きくならないじゃない!! やられ損よ!!」
「あー……ごめんなにこっち……もう胸は成長しないもんな……」
「それこそ余計なお世話よ!!」
顔を真っ赤にして怒るにこに希は何だか楽しそうな笑みを零している。嫌ならばきっぱり断ればいいのにと思うのに、そのにこは何だか満更でもない様子なのが不思議でしかない。これが2人なりの慣れ合いなんだと考えると少しひきつってしまう。俺だったらあの容赦ない希のアレを喰らいたくないわ……。
あーあー廊下でこんなに叫んじゃってさ、みんな元気だね~。
「……って、ああっ!! 今絵里が走って行ったわ! あんのバカ! お化けが怖いからって生徒会室でビクビクして引き籠ってたくせに、こんな時にだけでてくるんじゃないわよ!!」
「えりちずるい! 抜け駆けは赦さへんよ!!」
「おいおいおい!! 2人揃ってどこいくんだよ! 受け付けは?! お化け屋敷はっ!?」
「「あとでっ!!!!」」
わっとする大きな声で返されると、にこと希は人ごみを掻きわけるようにして走って行った絵里の後を追いかけていった。その様子を終始見ていたクラスの人とお客たちは一荒れする嵐を見ていたかのように目を真ん丸にして突っ立っていた。俺自身もその様子に呆気に取られて深い溜め息を吐くばかりだ。
「こりゃあ、大繁盛間違いなさそうだな」
嵐が過ぎ去ったかのような静けさの中で思うのだった。
(次回へ続く)
どうもうp主です。
もう6月に入っちゃいましたね~今年もあと半年と考えると時間が過ぎるのが早く感じてしまいます。
さて、学園祭編も次回で終わらせましょうかな。
予定ではもう数本考えていましたが、進行速度の効率化を考えて削ることにさせていただきました。ただ単に公式SIDとあんまし変わらんのが原因なんですけど…
とにかく、次回が終わり次第もう数本投げてから第二期に突入したいと考えていますので、よろしくお願いします。
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない