[ 音ノ木坂学院・正門前 ]
学園祭当日―――
女子の声しか聞こえなかった校舎に老若男女の声が響き渡ってお祭り騒ぎだ。音ノ木坂にとっては年に数回ある一大イベントなのだから盛り上がるのは当然のことだし、俺もこんな盛んにごった返したところに身を埋めるのが割と好きだったりするのさ。
祭り定番の鉄板焼きの屋台に射的などの遊技場、お化け屋敷やクラスや部活による公演などなど、実に文化祭らしいじゃないかと思ってしまう。ウチの大学と比べりゃあ規模もクオリティも違うけどよ、代わりにみんな女子なんだというだけでもうオールオッケーなのさ。やっぱり学校の華は女に限るぜ♪
「おい、また変な目付きで生徒たちを見るんじゃねぇよ」
浮ついた眼差しを送りまくっていたのがバレたのか、一緒に来た蒼一に突かれる。
「いいじゃねぇかよ、別に。いつも見ているアイツらの頑張っている姿を見守って何が悪いんだ?」
「いつからお前はあの子たちの保護者になったんだ? 隙あらば練習時間を抜け出して会話したり、休日にデートとかしてるんだろ?」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ。だいたい、俺はデートには誘ってないぜ。道端でばったり会って近くのカフェでおしゃべりしてるだけだってよ」
「世間様から見ればそれがデートってヤツなんだよ」
「まあ、硬いこと言うもんじゃねぇよ。そういう兄弟だって、穂乃果たちとはどうなんだよ?」
「な、なにがだよ……」
「最近はさらに女を増してきたじゃないかよ、あの8人。あのガサツな穂乃果ですら、近頃この俺の目を唸らせるほどの魅力がでてきたじゃないか。いったい、どれだけ仕込んだのか知らねぇがな」
「……うっさい」
「そこん所を世間様が見たらどんな反応をするのか楽しみで仕方ねぇなぁ~♪」
「だぁ――っ! それ以上言うんじゃねぇよ!!」
髪を掻きむしって渋い顔で言いやがるなぁ。あの様子だと思ってた以上にやりこんでるのかもな。兄弟の方から誘うのか……いや、ああ見えても自分からはしないヤツだからな。大方、誘った方が兄弟を本気にさせちまったのか、だな。
しっかし、近頃のアイツらの女っぷりは本当に凄まじいものだぜ。夏休み前なんか童顔みてぇな
これで悪い虫がつかなけりゃあいいんだけどな……。
「ほら明弘、行くぞ――」
「おう――」
ま、余計なこと考えないで遊びまくるとしますかな♪
―
――
―――
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敷地内に足を踏み入れるとすぐ目につくのが校舎まで続く屋台の一団だ。ここでは主に部活動のグループが出店していて見るからにおいしそうなモノがずらりと並んでいる。遠目から見たら神社の屋台にしか見えん光景だ。
その中で目に付いたのは、ソフトボール部がやっているたこ焼き屋だ。鉄板の上にはこんがり焼けたキツネ色のたこ焼きが盛りだくさん! 見てるだけでも
「あっ、明弘さんに蒼一さん! 来てくれたんですね!」
「ども~♪」
「あぁ、ちゃんと来たよ。
「ん――?」
部員の1人が俺たちに気付いて声をかけてくれたんだが、蒼一の言葉が気になるなぁ……。
「はいっ、とってもいい感じに焼けてますよ! 蒼一さんのご指導の甲斐あって以前よりもおいしくできるようになりましたよ!」
「それはよかった。やっぱりおいしいものを作ると嬉しくなるからね」
ほぉぅ、そゆことね。
「そういうわけで食べてみてくださいよ! 一番最初に食べてもらいたかったんですから!」
「―――だってよ、明弘」
「バカ。お前にだろうが」
総菜トレイにぎっしり詰められたたこ焼き2舟を手渡された。ソースたっぷり、かつお節に青のりも豪快に散らされ、濃厚なマヨネーズも振りかけられている。ここで出すにはコスパが悪そうな見た目だが……うまいんだよなぁ。
「おいしいよ。これなら誰にも文句は言わないよ」
「やったぁ――っ!! 蒼一さんにそう言ってもらえて感激ですっ!!」
「確かに、文句なしの一品だな。これでケチ付けるのがいたら俺がなんとかしてやるぜ?」
「今日はそう言うのはなしだぞ?」
「わかってるって。冗談だよ」
こうも言えるのは、頬っぺたが緩んでしまうほどのうまいもんだと豪語できるからだ。頑張って作った彼女たちを傷つけるような輩がいたらブッ飛ばしてやりてぇ気分になるのは俺にとっちゃぁ当然のことなのさ。けど、蒼一の言うように今日ここで一悶着起こせばそれこそ迷惑になる。精々今はそんなことが起こらないことをただ祈るしかなさそうだ。
「しっかしうまいもんだなぁ」
頬張ってしまうほど食欲が進み、気が付けばすべてを食べ終えてしまっていた。これはもうひとついけそうな気もするなぁ、と思いつつも腹を満たすには早過ぎるとぐっとこらえた。
「ごちそうさま。文句なしの出来だな」
「本当ですか!? 蒼一さんたちのお墨付きなら大繁盛間違いなしです!」
「はははっ、大袈裟だな。だが、学校全体の売上最上位を狙えそうなのは間違いなさそうだ」
「はいっ! 見事一番を獲れるよう集客も頑張りますね!!」
食べ終わった容器はゴミ箱に捨ててくださいね――、と言われて屋台横に設置されたゴミ箱に空になった容器を入れて、他のところを回ってくると言って屋台を後にした。
「さっきのソフトボールの子たちの呑み込み具合は良かったか?」
「そうだな……できる子がいたから手順だけを、な。それとレシピも」
「やっぱな。こういう深みのある味付けするのは兄弟くらいしかいないと思ってたぜ。ちなみに、隠し味は醤油か?」
「いや、白ダシだな。俺が作る時も入れてるアレだ」
「あぁ、通りで」
知らないところでそんなことをしてたのか兄弟は。あの子たちとのやりとりで確信してたが、やはり料理好きの血が騒いじまったのかな? と言うことは、まさか……
「まさか、ここにある屋台の料理の監修とかしてないよな……?」
「ん、したぞ。時間なったし」
「マジかよ……」
いくら時間があったからって3、4店舗はあるだろうに……しかもライブのこともあるのに、よく時間を作れたよな……。そこの段取りの良さはさすがと素直に称賛できるんだよな。
「そう言えば、この前のことはどうなんだ。ちゃんとうまくやってるのか?」
「うまくって、どういうことだ?」
「凛だよ、凛。凛に逃げられた後、謝ったのかって話だよ」
「あぁ……そういうことか……」
ちょっと真剣な目付きで言われたから何だと思ったが、なんだそのことか……。思えば凛のあの際どい姿を指摘したら急にブッ飛ばされちまったんだよなぁ。別に悪いと思ったわけじゃねぇし、ああいうのはさすがにまずいだろうという親切からのものであってだな……
「はぁ……その様子じゃ、まだなんだな……」
「ま、まだだったらどうなるんだよ……?」
「別に。ただライブに影響が出ないか気になっただけさ」
「こんな些細なことで影響なんて出るわけないだろう? ああ見えても凛はしっかりしてるんだから問題ないだろう」
「……そういうことじゃないんだがな……」
なんだ? 兄弟のヤツ、少し疲れた顔してさ。何かあったのだろうか?
さてアイツらのところに行ってみるか――、とソースで汚れた口元をティッシュで拭きながら蒼一が言う。俺も特に行くところもなかったから付いていくことを決めるのだ。
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――
―――
――――
ホント、今日の兄弟はモテるよな――
ついさっきまで、校舎内に入った途端に女子たちが詰め寄って来ては握手だったり一緒に写真を撮ったりと忙しい状態が続いた。奥に進めば進むほど人はおおくなるばかりだ。中には、音ノ木坂の女子たちだけじゃなく他校の女子たちもチラホラと見てとれる。俺の方にもドッと押し寄せては来たけども蒼一ほどではない。
まったく、女子たちに囲まれるだなんて……とんだ御褒美だな。とうとう俺の魅力も音ノ木坂だけでは収まりきらなかったようだ。これを機に他校へ足を踏み入れてもいいのではなかろうか……!
「まーた、変なことを考えちゃいないだろうな?」
「いやぁ~やっぱ女子に好かれるのって最高だよなぁ~♪」
「……やっぱし、くだらないことだったな……」
溜息吐いて呆れた様子を伺わせる蒼一。さっきの人だかりに疲れているのか、表情がたるんで見えていた。
しかしだ、蒼一にはわからんだろうよ、大量の女子に囲まれて押し込まれていく喜びってヤツをよ。合法的にお触りができるし、女子らしい甘い香りも堪能できる。俺にはもったいない――いや充分過ぎてテンションMAXだぜ!!
蒼一は……まあ、アイツらがいるからなぁ。もし、知らない女子が言い寄ってきたらどんなことが待ち受けていることだろうかな?ハハっ、考えたくねぇわな。
――とまあ、色々と考えていたら次の目的地に着いたわけだ。
ここは広報部の展示場だ。
広報部、と言っても実質活動しているのは洋子だけで他のメンバーは幽霊部員みたいな形らしい。辺りを見回しても部員らしき生徒が見えないところを見ると、ここは洋子の独壇場ってなわけか。
その展示されている写真を見てみると、学校行事や委員会や部活などから集められた活き活きとした写真が展示されており、もちろんμ’sのこともちゃんと載ってある。しかしまあ、その力の入れ具合は他とは比べものにならないほどで、教室1つ使って特設コーナーを設けているくらいだ。穂乃果たち3人で行ったライブからμ’s9人の初めてのライブ。3ユニットごとに行った地方ライブやラブライブでの写真が盛りだくさんで、それに添えて書かれてある記事はベタ褒めに近いほどの講評を掲載している。さすがはμ’sのホームページのブログ担当、言葉使いがうまい。これらを眺めるだけであの時のことを沸々と思い起こさせられるんだから素直にすげぇと言いたくなる!
「……んで、なんで俺たちのが別にあるんだよ……」
ちょっと横を向いてみれば、そこには俺と蒼一の写真がずらりと掲載されていやがる。いったいどういうことなんだよ、と呆れてしまうほど多くあり、しかも学園祭でコスして踊ったのも含まれている。
「いやぁ~大人気ですよ、お2方~」
スッと背後から忍び寄るように表れた洋子は、何とも言えぬ嬉しさを含めた顔を見せてくる。
「いやいや、どうして俺たちの写真で特集が組まれているのさ?!」
「だってですよ、お2方はμ’sの指導者ですからこうやって公表しなければいけないじゃないですか~。いくらμ’sの認知度が高まったからと言って、お2方のことを知らない人もいますし、それにファンから反感喰らうのも嫌でしょう?」
「やっぱし、嫌われちゃってるのか、俺たちはよぉ?」
「女子校に年上男子が2人もいるんですから嫉妬やらなんやらが付き纏ってしまうのは仕方がないのですがね。おまけに、メンバーに毒牙を突き付けられているんじゃないかって話も出てますしね」
「実際そうなんだから仕方ないんだけどな。なあ兄弟?」
「う~ん……そこは何とも言えないんだよな……」
蒼一に話を振ると、やはり眉を潜ませる苦い表情を浮かばせている。メンバー8人と付き合っているという前代未聞レベルの事案を現在進行形で行っているのだから何とも言えねぇ。おまけに、あの様子じゃあ更なる進展もあったみたいだし、ファンから刺されるんじゃないかって不安もある。
「で、今回の展示は、できるだけ蒼一さんと明弘さんのことを知ってもらうことをコンセプトにしているんですよ。μ’sにはお2方の存在が欠かせないんだと、そう実感させられるようにするのが狙いなんです」
ふ~ん、洋子も洋子でそれなりの考えがあってのことだったのか。なるほど、そういうことなら全部洋子に任せてもいいんじゃないかと思うところだ。
「あぁ、ちなみに今回はメンバーブロマイドというものを作りましてね、それを物販として用意したのですが……見てみますか?」
「ん? そんなのも用意したのか?」
「そろそろ公式のグッズも用意してもいいかと思いましてね。A-RISEも他のスクールアイドルも行っているそうですし、盗撮モノの非公認モノが出回るよりも先手を打たねばと思いましてね」
「さすがだな。それでどういうものがあるんだ?」
それはですね――、と言ってフォトブックを取り出すと、いい感じに撮れてる穂乃果たちの写真が何枚もある。洋子が言うには、種類は全部で30種類、全員集合と各メンバーでそれぞれ三種類となっていて一枚の値段も100円と割安だ。
「それで……俺たちの写真はどのくらい刷ってるんだ?」
「どきっ……! い、いやぁ、なんのことでしょうねぇ~……」
「とぼけるなよ。穂乃果たちついででまた売ってるんだろう?」
「あはは……バレてましたか……」
蒼一の指摘にひきつった顔になりながら見せたのは俺たちの写真が入ったフォトブック。それも種類だけでも穂乃果たち以上にあるし、いつどこで撮ったのかわからない
「女子人気が高いお2方ですのでそれなりの収益はあると見込んでの出品でしたが、いやはや思ってた以上の売れ行きですよ。ウチだけじゃなく他校からの要請もあってμ’sの倍以上の売り上げが……」
「……まあ、そこまでは予想していたけどな……。しかし、アイツらよりも収益が高いと言うのは何とも言い難いところがあるな」
「俺は別に深くは問題視しねぇよ。これで俺の知名度が上がってくれりゃあ他校からもモテモテになること間違いなしだろ!」
「いやぁ……一番人気は蒼一さんの方なので……」
「うそぉっ?!」
俺よりも蒼一の方が上なのかよ!? てっきり俺かと思ってたのに、これじゃあ俺の学校跨いでのハーレムが……ッ!! ロミオか! やっぱり昨日のロミオのアレがすごかったのか!! くぅっ……俺ももっとかっこいいところを見せないと人気がァァァ……!!
「まーた変なことを考えてそうですね……」
「いつものことだろう」
俺のハーレム計画の更なる促進を誓う、そんなひとコマだった。
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
音ノ木坂の学園祭も始まりましたね。ここから各学年とメンバーたちのやりとりを見ていきたいけど、どこまで書けるか心配なんだぜ…。
来月辺りにはそろそろ第二期を始めたいなぁ…(希望的観測
では、次回もよろしくお願いいたします。
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない