第160話
窓の外を見れば、陽炎がゆらゆら揺れていた。
見るからに灼熱地獄が待ち構えているようで恐ろしい。一歩外に踏み出せば、肌に降り注がれる猛烈な日照りで干からびてしまうだろう。そのため、俺は屋内に避難し、涼んでいるわけだ。
ただジッとして涼んでいるわけではないが……
「エリチカ、この書類はこんなモノでいいか?」
「待ってね……ええ、申し分のない状態よ。さすがね、元生徒会長さん」
「よせ、もう何年も前の話だ。それに俺ができることだって限られてるし」
「十分よ。こうして手伝ってくれるだけで助かるわ」
「せやで。練習に参加せぇへんでウチらのためにやってくれるだけで嬉しいで♪」
トントンと重ねた書類をまとめてエリチカに手渡すと、早速チェックをし承認を受けた。
俺はいま、エリチカたちと共に生徒会の書類整理に追われていた。学校存続が決まったいま、学校のためにエリチカたちが動くのは当然のことだ。ただその量は思っていたよりも多く、他の生徒会役員はいない中でエリチカと希の2人だけにやらせるには忍びなかった。
「しかし、よくもまあこんな書類を押し付けてくれるものだ。いずみさんも少し鬼畜過ぎやしないか?」
「そんなこと言わないの。理事長も同じくらいの書類を捌いてたわよ?」
「……さすが、と言うべきか……そう言われると何も言い返せないな……」
いずみさんの仕事ぶりに息を呑むと、目の前に積まれた書類の束に肩を落とした。およそ手首から肘くらいまであるその書類は、内容自体はほぼ同一と言ってもいいだろう。けれど、そのすべてに目を通して重要なモノとそうでないモノを客観的に分けなければならない。来学期以降の学校方針や校則の新案、各部活動等の報告や予算など明らかに重要なモノはエリチカたちに見てもらわなければならない。あとの大半は目安箱に入った意見書ばかり。生徒たちからの意見も生徒会で処理しなくてはならないのは、どこの学校も同じなのだな。
その中から目についた数枚を手に取り、その内容を読んでみる。
どれどれ……
『学校の購買部を充実して欲しい』
ふむ、それはあるかもな。ここの購買部は勉強に欠かせない文房具や腹を満たすための菓子パンなどが売られている。だが、実際はどれもが種類が足りてないで必要最低限の物しか取り揃えていない。コンビニまでとは言わないがそれなりに充実してると助かるかもな。
他には……
『アルパカ以外にも飼育したいです』
へぇ~、そういやぁ、ウチはアルパカだけを飼ってたんだっけ? 都内でそういったのを飼うこと自体めずらしいが、鶏とかウサギとか一般的な飼育動物にしなかったのはどうしてだ? 俺としては、アルパカに触れ合えることは貴重な体験だと思うが、小動物の1、2種類くらいは増やしてもいいのではないだろうか?
……とまあ、大まかなモノばかりが寄せられているが、生徒が意見を出すことはいいことだ。生徒会だけでは見つけられないことを探し、それを指摘してくれることは助かるだろう。そこから校則を変えたり、環境整備を充実させることものもできるのだから助かるのだ。
他には何があるのだろうか? えっと……
『いつになったら宗方さんと滝さんの写真集が発売されるのですか?』
……ん? なんだ、これ……?
一瞬、目を疑ってしまうような内容を見て、何かの間違いだろうと思っていた。だが、もう一度あらためて見ると間違いじゃなさそうだ……。
い、いかん……嫌な汗が出てきた……。ほ、他にこうしたモノはないよ、な……?
気をあらためて他の意見書を見て落ち着こうじゃないか……
『宗方さんと滝さんの趣味とか好きなこととかわかりますか?』
……なぜそれを生徒会に出すんだよ……
『宗方さんと滝さんは、もう音ノ木坂の一員なのですからプロフィールを全部公開してください!』
……その意見は通らないぞ……! むしろ、どうしてそこにまで至ったのか説明を公開して欲しい……
『蒼君は穂乃果のだから誰にも渡さ――』
穂乃果ァァァァァ!! 何書いてるんじゃぁあああ!! それまったく意見じゃないから! ただの個人的発言でしかないから!! そんなことをわざわざここに出すなよ!!
まさか、アイツがこんなものを送るとはな……んなことを堂々と書くんじゃないよ、まったく。後で注意しておくか……
そしてまた、一枚取り出して見ると……
『安心して下さい。蒼くんはことりのもので―――』
「なんでじゃあぁぁああああ!!?」
目にしたそれがどうも見知ったヤツからの内容文だったので、つい丸めて壁にブン投げてしまった。
というか何が、安心して下さい、だよ! どうして公然と私的なことばかりを書きだすんだよ! そもそもこれは意見じゃない、宣言みたいなものだよ! しかもそれをこんなところにエリチカたちならまだしも、他の役員が見たら一大事だぞおい! ……はぁ、アイツらは狙ってやってるのか……?
「何やってるのよ、蒼一。いきなり大声出したと思ったら、大事な意見書をクシャクシャにしちゃって……」
「すまん……あまりにも的外れな意見だったからついやっちまった……」
一時は驚いた様子を見せたエリチカだったが、いまは眉を引き摺らせてややお怒りの様子。そりゃまあ、作業中にこんなことすれば誰だって怒るのは間違いないのだが……。
「どれどれ? 蒼一は何を見て戸惑っておったんかなぁ~?」
「あっ、み、見るんじゃない!」
「あー……うん。そういうことなんやなぁ……」
「希?」
クシャクシャに投げ飛ばした紙を拾い上げた希は、広げて中を見だした。あまり見てもらいたい内容じゃないから待ったをかけたかったが時すでに遅し、だ。それを見た希は顔を引き摺らせて困った様子を伺わせていた。やっぱり、希からして見てもそういう反応するよな。まったく、ことりのヤツめ……
すると、
「えいっ☆」
「「はぁ?!」」
何を思ったのか、希はその場でその紙を真っ二つに裂いたのだ。
「あはは~ごめんなぁ~、つい手が滑ってもうたわ♪」
「いやいやいや、思いっきり意識してたよね? わざとだよね!?」
「それに、ちゃんと『えいっ』なんて口にして! ほんと、何やってるのよぉ!!」
一見申し訳なさそうな顔をするが、その実はまったく思っちゃいない。むしろ、スッキリしたみたいな笑みを浮かばせて見せるのだから俺とエリチカは躊躇なくツッコミを入れる。
「そーいち♪」
俺たちからのツッコミに何食わぬ顔を見せる希は、さっきよりも頬をあげて、にっこりスマイルを浮かばせた。すると、希が急に俺のことを呼ぶ。それも今まで聞いたことのない言い方で……。
あっ、ヤバイ……直感的に希のそれに危険を察知するのだが、少し遅かったようだ。希は俺に近寄ると俺の肩に手を添えて身体をグッと押し付けだす。座ったままの状態だったから無論動けるはずもない。いったい何をされるのかと、変に身構えてしまう。
「蒼一は何も見なかったんや。ええな?」
「いや、希……現にもう見ちまっ「別に、ことりちゃんが蒼一を1人占めしようとしているのが羨ましくって、つい破いちゃったとかそういうんやないから!」あっ、うん……なんかごめん……」
俺の言葉を遮って早口に話す希は、少し恥ずかしそうに顔を赤らめるのだ。迫ってきた時は剣幕掛かるプレッシャーを放ってきたのに、いまではこう歳相応のかわいらしい乙女な仕草を見せているので、ついこちらも恥じらってしまう。ちょっとした嫉妬からの行動なのかと思うと、ちょいとばかし肝が冷える。
まるで
でもいまはこう、構って欲しそうに撫で声をあげる猫のように甘えてくる。いつかのように牙を向けるわけでもなく、こうして俺に収まってくれているのだからホッとする。
とは言うが、こんなに時分を重ねても彼女のことをすべて理解できない。特に、東條希というミステリアス性を含んだ彼女はな……。だから当分の間は、彼女の気分に振り回されそうだと思いつつ、残りの作業に手を付けるのだった。
「……どういうことなの……?」
―
――
―――
――――
「―――これでよし、っと」
「お、これでおしまいか?」
「えぇ、これで一通りの書類は片付いたわ」
高く積まれた書類もエリチカが最後の一枚と銘打って処理すると、ようやくこの作業に片が付いた。時計を見ると、短い針が1と半分ほど移動しており、やはりそれなりの時間を要していたようだ。それもこれで終わりと思うと、深く息を吐いて肩の力を抜いた。ようやくこの作業から解放されると安堵が表れる。エリチカと希からもそんな表情を見受けられた。
「お疲れ、エリチカ。肩揉むよ」
そう言って俺は、座るエリチカの傍に寄り、彼女の固まった肩を揉みだす。
「んんっ! あぁ、ありがとう蒼一。ちょうど肩が凝っていたのよね」
「だろうと思ったよ。作業してる最中、ずっと肩と首のところを気にしていたもんな。頑張りすぎなんだよ」
「そう、かしら……? 私は別に、そう思ってはいなかったけど……」
「気持ちはそうかもだが、身体はそうも言っていられなさそうだぞ。所々が固くなってて酷い状態だ。特に首筋なんて、ほら」
「んっくぅっ……! いまビリッてきたわ……! すごく効くわねぇ」
「目にも負担かけ過ぎたんだ、こんくらい固くなっててもおかしくはないさ」
そういうものなのかしら、と呟くもエリチカは素直にマッサージを受けてくれた。こうあらためてエリチカの身体に触れてみると、女子高生とは思えないほど上半身が固まっていることに驚く。
それもそのはずで、今回仕上げた書類のほとんどと言っていい量を切り上げたのだ。しかも、学校での重要案件の書類などの処理に追われており、書類に目を通し選別するといった俺の作業とは別格すぎた。いくら俺が手伝ったとは言っても微々たるものでしかない。さすがとしか言いようがなかった。
「んもぉ~ウチだって頑張ったんよ~? ウチのこともちゃんと労って欲しいわ~」
「はいはい、希もよく頑張ったなー」
「なんか全然感情が込もっとらんのやけど?! えりちとの差が激しすぎひん!?」
そんなに驚かれても困るなぁ。第一、希は何かにつけてちょっかいかけてきたし、途中でいなくなってたりしたから何ともいえないのだ。実際手を付けた書類だって全体を見渡してもちょっとしかない。エリチカとの差は歴然なんだよ。
「むぅ~そんなんず~る~い~! ウチも頑張ったんやよ~! もっと褒めてくれてもいいんやで!」
自信満々にドヤ顔を決められてもなぁ、どっから切り出せばいいのやらと頭を悩ませてしまう。かと言って、何もせずに放り投げれば、後で何をされるかわからない……。
仕方ないな、と割り切ると、一旦エリチカの許から離れ、同じく座る希の許に。やっとしてくれる気になったん? と目をキラキラさせて眺めるから、しゃーなしだ、と自分に言い聞かせて行動に移した。
「っ……?! そ、蒼一っ!?」
俺は希の首に腕を回すと、そのまま覆い被さるように抱きしめた。もちろん、頭を包むようにギュッと、な。
抱きしめられて少しの間も無く、希は驚きの声をだした。頭が熱くなってきているのを感じると、大方恥ずかしがっているのだろう。ミステリアスな希もこういうことには疎いようだ。
「希もよく頑張ったなぁ~。お礼として、わしわしじゃなくって、よしよししてあげるな」
「ふえっ?! そ、そんなん急に……! きゅぅぅぅ……///」
狼狽する希をよそに、その後頭部をやさしく、流すように撫でる。言葉通りに、よしよしとやさしくさするつもりで手を動かした。その度に、希は声を出して何かを伝えようとしているが、もごもごと言葉にならないもので霞みのように消えた。
「どうした? 何か言いたいならハッキリいいなよ?」
「あぅ……///」
催促を入れるかのように尋ね聞くと、身体を丸めてしおらしく小さくなった。その様子はまるで、猫や小動物のような愛くるしさを彷彿させるようで、ついいじり倒してしまいたくなる。
「せ、せせせせせせ、せや! は、はよ、この書類を提出せなアカンのやったわ!」
すると希は、何かを思い出したかのように、ガバッと俺を腕で押し退ける。眼をクルクルさせつつも慌てた様子で立ち上がり、目の前の書類の山を抱え出し、覚束ない足取りで歩きだした。
「さささ、先にこれ片付けとくから、あああ、あとは頼んだでー!!」
そそくさと足早になりながら扉を開いて出て行った。両手にあんなにたくさんの書類を抱えてたのに、よくもまあ器用に開けられたものだと感心してしまう。あとは、あの調子で走って行って廊下でズッコケないかと心配するばかりだ。
「―――蒼一」
ビクッと、背中に刺さるような視線を感じて振ると、じぃーっと目を細めて見るエリチカ。眉をつりあげてムスッとした顔をこちらに向けた。
「な、なんだよ?」
「べつに……ただここでそう言うことしないでほしいわ。不純異性行為で訴えるわよ?」
「女子校なのにそんな校則あったのかよ?」
「生徒会長権限で立った今作ったわ」
「なんて理不尽極まりないことを!」
どうやらエリチカはご立腹のようだ。俺が希と慣れ合いをしていたのが不満だったのだろう、その表情に険しさが増していく。あまり眉間にシワを寄せ過ぎると後々大変になるだろうに……。
「……何か私の顔のことで言ったかしら?」
「……い、いや、何も……」
一瞬、俺の心の中を読まれたものかと思って焦ってしまった。エリチカは、そう、と答えるだけで受け流してくれたが、もし知れたらどんなことをされるかわかったもんじゃない。
「……おっと!」
少々焦りが生じて机を揺らし、上に残った書類の一部を床に散らばらせてしまった。しまった、と思いつつしゃがんで手早く書類を拾い上げる。もう何やってるのよ、と困り口調のエリチカも拾うのを手伝ってくれた。
その最中、懐かしい書類を見つける。
「ん、これは……」
「あら、懐かしいわね」
拾い上げた書類をエリチカも見て懐かしむ声をあげた。俺が手にしたその書類と言うのは、スクールアイドル研究部の入部表であった。そこには今の9人全員が入部した証しが書かれていたのだ。
「もうあれから3ヵ月近くになるのか……早いものだな」
「そうね……。あっという間だったわ」
「穂乃果が急にスクールアイドルを始めるだなんて言いだして、そのファーストライブを行うのにも苦労したものだ。やっても見てくれる人はいなくて、アイツらは諦めかけていた……」
「――でも、諦めなかった。あの子たちには、蒼一がいたから頑張れたのよ」
「エリチカ……」
エリチカはそっとしゃがむ俺の両肩に手を添えて顔を出した。
「あの時の私、嫉妬していたのかも。穂乃果たちのことを」
「ん?」
「急に学校に来たアナタは穂乃果たちと一緒になってアイドル活動をしていた。それこそ最初の講堂でのライブは失敗だった。でも、それからのアナタたちはみるみる結果を出して、にこたちも入部した。あの頃の穂乃果たちの顔は、希望にあふれていて眩しかった。
それに引き換え私は酷いものよ。毎日廃校のことで悩まされて、どうにかしなくっちゃって追われる身だったわ。でも、何をやってもうまくいかなかったし、やらなかった方がよかった失敗も何度もあったわ……。だから余計に疎ましかったのかもしれないわね」
「エリチカ……」
「でも……私は変われた。アナタが……蒼一のこの手が私をどん底から引っ張り上げてくれた。私に勇気と希望を与えてくれた。いまの私がいるのは、全部蒼一のおかげよ。ありがとう」
しっとりとした感謝の籠った言葉。しかし、どこか霞んだような声で不安定に震えていた。
ふと、エリチカの方に目を向けると、目元を滲ませ赤くしている顔が映った。
「エリチカ、お前……」
「あぁ、やだ……私ったら……。変ね、急に目元が緩んじゃうなんて……以前のことを思い出すといつもこう……何かの病気なのかしら、ね……?」
そう言うと、指で目を擦って涙を拭きとろうとするのだが、緩んだ目元から滞ることなく涙を零した。まるで、壊れた蛇口みたいに止まらないでいた。
次第にエリチカの顔が涙でくしゃくしゃになる。悲しくって切ない声を小さく漏らしだした。
そんな彼女の姿を見てはいられず、咄嗟に涙で萎れた身体を抱き寄せた。そう、いち……? 姿勢を崩し、床に座らせて俺の胸の中に収まるエリチカが小さく呼んだ。俺は彼女の身体をしっかりと抱えながら答える。
「エリチカ、お前はよく頑張った。お前はちゃんとやり遂げたさ、学校を残したって役目をな」
「っ――――」
「お前は、昔から1人で抱え込みすぎなんだよ。意地張って全部背負っても何の解決にもならない。だが、その意地が学校を救ったんだ。俺がやったんじゃない、エリチカが切望し続けたその意地によって今を築き上げたんだ。闇雲にやったっていい。間違いをしたっていい。すべては今日の日のためにあるものだと思え、そうすれば今までのことが明るく見えるぞ」
「っ~~~! も、もう……泣かせること言わないでよ……おかげで、全然涙が止まらなくなっちゃったじゃないの……!」
「ふっ、すまんな。ほらまた、泣き虫エリチカが出てるぞ?」
「もう、ばかぁ……! ぜんぶ、蒼一のせいなんだからね……! 責任、とりなさいよね……!」
「わかったよ。胸を貸してあげるから、たくさん泣きな。俺が見守ってやるから……」
うん、エリチカは小さく頷いて言った。エリチカは俺の背中に腕を回すと、泣き崩れた顔を俺のシャツにぐっと押し付けた。吹きかかる吐息の熱と湿った感触が哀愁として肌に触れる。苦しくって、ただ悲しくって、我慢し続けてきたものが、どっと押し寄せているはずだ。簡単に晴れるようなものじゃない。小さくすすり泣く声がそれを物語っているかのようだった。
それを眺める俺は声をかけてあげられることもなく、ただゆっくりと丸まった背中を擦ってあげることしかできない。それがエリチカにできることだと、そう思ったからだ。
「蒼一……」
しばらく間が開いた頃、エリチカが声をかけてくる。ちょうど、回してきた腕の力が弱まり押し付けていた顔が見えるようになっていた。ゆっくりと顔を下ろして見てみると、まだ目の辺りを赤くさせている。でも、さっきよりもスッキリした顔立ちをさせている。気持ちが収まった証拠なのだろう、そう思っていると、エリチカが俺を、じっと見上げて言うのだ。
「ねぇ……あの日のこと、覚えてるかしら……?」
「あの、日……?」
「私が、μ’sに入って初めてライブを行った学校説明会の時、その後の桜の木の下でのことよ」
「桜の……」
ふと、その時のことが脳裏によみがえる。確かあれは、夕暮れ時で明弘とこれからのことを話した後のことだ。エリチカがやってきて俺のことを呼びに来たと思いきや、立ち止まって俺に話をしてきた。あかね射す中でエリチカは、俺に感謝を伝えてきた。
それと、もうひとつのことも………
思い返していると、エリチカは自分の胸に手を置いてやさしい表情で俺を見ていた。
「あの時、蒼一に伝えたかったことがもうひとつあったの……。アナタにはぐらかされちゃったけど、あの後でちゃんと伝えることができた……。でもね、もう一度伝えたいの―――」
潤んだ瞳で見つめるその姿はまるで、あの時のようで、あかね色に染まっていた。
「私は蒼一のことが……好き……。ずっと、蒼一のことが好きだったの。アナタとこうして結ばれても、信じられてない私がいるの……。だって蒼一は、私の憧れで、私の
それを聞いた途端、胸が強く高まった。あたたかく、日の光にも似たエリチカの言葉が俺の心を刺し貫いたのだ。
そんなエリチカは、少し照れくさそうで、けど満足したような顔で見上げていた。変わらず瞳には潤いがあり、まだ泣き虫を残しているけれど、いままでにないほどの笑顔を綻ばせていた。こんなに美しい彼女を見て、心を動かさないヤツはいるだろうか? 何物にも代え難いほどに愛おしいエリチカを見て、何も思わないはずもなく、俺はガラスのように透き通り輝く素肌に手を伸ばす。ゆっくり伸ばしたこの手は彼女の頬に触れ、指先にシルクのように柔らかい髪を纏わらせた。
触れて。感じて。あらためて思うのだ―――
「俺も、好きだよ。エリチカ。愛してる」
そう呟くと、目を大きく見開いて、きらりと瞳から光を放った。触れる頬は熱くなり、真っ赤に紅潮する。色白な彼女にはその変化がすぐにわかるほどに。
口を小さく開いて、しばらくジッと見ていた。するとエリチカは嬉々に満ちた笑みを浮かべ、頬に触れる手に身を委ねるようにして―――
「愛してるわ……蒼一」
ハッキリと心に残る言葉を紡ぐのだった。
「そう言えば、私たちってまだちゃんとした告白とかしてなかったわね」
「あぁ、確かに。周りには誰かがいて、邪魔してきたもんな」
「でも今は、誰にも邪魔されない。そして、ちゃんと伝えることができた……今、とっても幸せな気持ちよ」
「そう思ってくれると、俺も嬉しいよ。エリチカの気持ち、ちゃんと受け取ったぞ」
「ありがと。それでね、あの、ね……蒼一……」
「なんだい?」
「もし、なんだけど……蒼一がよければ、なんだけど……キス、して……」
切ない口調で聞いてくる。そんなふうに聞かれると俺も嫌とは言えない。小さく微笑むと冗談交じりにこう応えた。
「不純異性行為じゃなあったのかい、生徒会長さん?」
「もう、イジワルなんだから……今だけは、見逃してあげる」
「ふっ、横暴な会長だな」
「いいのよ、別に。蒼一と、私だけのヒミツだから……」
クスリ、と小さく微笑むとエリチカは、そっと顔を近付けて―――
『んっ―――♡』
俺の唇に重なり、塞がれる。
ふっくらとした柔らかな感触と、口溶けるほどに濃厚な味に酔いしれそうになる。
エリチカの想いを感じ、俺の想いをこの口付けに乗せて何度も送る。愛してる、って気持ちを伝えたくって……。
日が傾いていることも気付かないまま、俺たちはゆっくりと気持ちを通わせるのだった。
(次回へ続く)
ドウモ、あけましておめでとうございます。うp主です。
新年、最初の投稿となりました。
世間は正月だと言って貴重な休みを横臥しておりますが、こちらは早々に仕事で忙しいばかり。
手がかじかむ寒波な季節に外回りはキツイというものです。
そんな事情は川に流して…
さて、いつもと変わらぬイチャイチャっぷりが披露されてますねぇ。
書いててちょっとイラッとしたのは内緒で…
でもまあ、こんなに甘えるエリチカもかわいいので個人的にはアリなんですよね。(だから書いたんだけどね)
今年はこんな甘甘な話をたくさん書いていきたいなぁ~と思う次第です。
それではまた次回をお楽しみに。
今回の曲は、
nao/『ツクモノクキ』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない