蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第147話





崩れる時は、割と脆いものだ…

 

[ 高坂家 ]

 

 

『…ごめんね』

 

 

 

 その夜、穂乃果はメールを送った。

 

 宛先は、ことり。

 

 昼間に言い争うかのように喧嘩し、すれ違ってしまった親友に向けての謝罪の文。本来ならば、直接伝えなくてはいけなかった。せめて、その声で伝えるべきなのだと。

 だが、いまの彼女には困難極まりないことだった。感情に揺さぶられる勢いで、ことりと話してしまえば、要らぬ事まで聞こうとして刺激させてしまう。それで彼女を不快にさせてしまうだろうし、無論穂乃果も不快な気持ちになり、言い争ってしまう。どう転んでも話し合いでは、何の活路も見出せないのだと判断した穂乃果のせめてもの気持ちだった。

 

「いまさら謝ったって……もう……」

 

 暗い部屋の中で送った謝罪文を眺め、虚無感を抱く。こんなのを送っても何も変わらないのに…と。手元から離れてしまう親友のことを思うと、やるせない気持ちでいっぱいになる。もっと早く気付いてあげればよかった、相談に乗ってあげればよかった、と。たられば仮定を脳内で何度も巡らせるが、仮定は仮定、現実でないし、過ぎてしまったことだ。もう、取り返しのつかないことだと、彼女は理解していた。

 それでも、もし取り戻せるのであればと、何度も後悔し続ける。

 

 

「ことりちゃん……蒼君……」

 

 彼女はもうひとつ気付かなかったことがあった。蒼一が風邪で倒れていることを。

 つい先日、彼女が倒れたその日に彼は来た。彼女を見舞うのが主な目的で訪れ、言葉通り彼女を大いに励まし、慰めた。彼が慰めてくれていた時は、いまみたいに苦しい気持ちにはならなかった。むしろ、すべてを忘れて甘えていられた。

 

 けれど、いまその彼はここにはいない。加えて風邪をひいて寝込んでいることを明弘から聞かされた時、それは自分のせいなのだと思いこんだ。風邪を引く原因があるとすれば、彼女といたこと。彼女と寄り添ったことで、うつってしまったと考えてもおかしくなかった。実際、彼は病に犯されたに唇を重ね、直接身体に取り込んでいる。十分に可能性はあった。

 

 ただそれは、彼が勝手にやったことで、彼女によるものではない。だが彼女は、そうすることを止められなかった責任を感じており、そもそも風邪などひかなければと自責する。

 彼の夢を奪ってしまっただけでなく、その身体をも蝕んでしまったことに、耐え難い責めを抱くのだった。

 

 

「私のせいだ……私が、もっとしっかりしていたら、こんなことには……」

 

 親友として、仲間として、μ’sのリーダーとして、彼の恋人として、引け目を感じてしまう。そうして、すべての責任をひとりで抱え込むのだが、彼女にはあまりにも大きすぎた。耐えきれるはずもなく、彼女は解放されようと逃れの道に突き進んでいこうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、破滅の道とは知らずに――――

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

[ 音ノ木坂学院 ]

 

 

 翌日――――

 

 ことりの留学話から一夜明け、彼女たちμ’sはそれぞれの理由を抱き集う。普段ならば、練習を行うために来るはず。だが、先日のことがあっては、練習に身が入らないのは明白だった。そうした意味も含めて決めねばならなかった、今後の方針を―――

 

 

「みんな、集まったわね」

 

 屋上に集まった彼女たちは、絵里の声に耳を傾ける。普段とは異なる、すんとした落ち着きと冷静さが彼女の真剣さを現しており、誰もが目を背けられずにあった。

 

「明弘、いいかしら?」

 

 絵里は傍に立っている明弘に相槌を送ると、首を縦にして頷く。それは、彼女にこの場をとり仕切らせる合図だった。

 本来ならば、指導者の1人である彼が取り仕切るべきところ。なのに、彼はこうした大事な時に、何の手立てを考えられずにいた。蒼一がいないいま、彼女たちを取りまとめるには、明弘の力は必要不可欠。だが、幼馴染たちからの度重なる衝撃に負い目も感じ、思考が追い付かなくなっていた。

 

 そのため、絵里が代わりにとり行おうとするのだった。

 

 絵里は再びみんなに視線を向けると、一度大きく深呼吸をする。彼女の言葉が今後の活動を左右させる、そうした重責が圧し掛かってくると、彼女は自分を落ち着かせる。生徒会長として、廃校を阻止しようと奔走し続けてきたあの頃よりも、多分厳しい立場にあるのだろう。しかし、蒼一が築き上げてきたこのグループを守りたい、という一心に彼女は勇気を振り絞った。

 

「それじゃあ、今後の活動について話をするわ―――」

 

 彼女は、ハッキリと遠くまで聞こえる声で話をする。もちろん、その声に、ここに集まる明弘と洋子を含めた彼女たち10人の耳に入ってくる。

 

 

 だがここに、ことりの姿はなかった―――

 

 

「みんな、ラブライブのことで引き摺っていると思うけど、まだ廃校が阻止されたわけじゃないわ。次の学校説明会でのライブでしっかりアピールをして、入学希望者を募らせるわよ」

 

 現状把握。彼女のもっともらしい話だ。

 落ち込んでいる彼女たちに、一度μ’sの本来の目的に立ち帰らせ、自分たちがやらねばならないことを思い起こさせた。確かに、現状ではまだ廃校になるリスクがある。阻止には、やはりμ’sの力は必須。学校のアイドルとして広報することで人を引き寄せるのは、現代では当たり前の手法だ。

 これはかつて、穂乃果が言いだしたことだ。

 

 

「そして、もうひとつ。このライブで、ことりのお別れ会も含めたことをしたいの」

 

 なに、と明弘は微かに呟いた。彼女たちのほとんどは、それに大きなリアクションをとる様子はないが、彼には初耳だった。大方、彼と穂乃果、洋子がいない時に、彼女たちの間で話しあったのだろう。

 

「もちろん、このことはことりにも伝えるつもりよ」

「思いっきり賑やかのにして、門出を祝うにゃ!」

「はしゃぎすぎないの!」

「わわっ、にこちゃんなにするの!?」

「手加減はしたつもりよ」

 

 にこと凛はいつものように騒ぎ、それを彼女たちは微笑みながら眺める中、穂乃果はずっと俯いたまま沈黙する。それは明弘も同様だった。

 

 彼女たちは、明弘がいない間も、自分たちがことりにしてあげられることはあるか模索し続けていた。それも、最高のやり方で見送ることを。誰も悲しくないはずもない。特に、海未がそうだ。幼馴染のひとりである海未が、彼女たちと一緒になって考えている。内心、穏やかではないはず。

 それでも、ことりのためにと、自我を律して見送ろうとしている。彼女が見せる姿に、彼は眩しく見えた。

 

 それじゃあ俺は何をやっているんだ? みんなが必死になって、悲しみを抑えて考えているのに、俺はいったい……

 

 彼は、心の中で呟く。焦りとは違う、もっと嫌な感情を抱きながら。それは、彼にとっても、彼女たちにとってもよくない感情だった。

 

 そんな時だ。

 

 

 

「まだ、落ち込んでいるのですか?」

 

 先程から、ずっと沈黙し続ける穂乃果を心配した海未が声をかけた。その声に、全員が反応し、視線を集中させた。というのも、彼女はμ’sのリーダーであり、ことりの幼馴染。この話を知らなかった彼女に、了承を得ようと促したのだ。

 

 

 だが、その瞬間、違和感がここ一帯に広がった。

 それに早く気付いたのは、明弘だった。と言うのも、彼には、意見の隔たりのようなモノを感じたからだ。話し合いに参加していた彼女たちは、ことりが留学することに賛成している、と彼は受け取った。

 

 では、穂乃果はどうだ?

 幼馴染であることりが留学することを聞いた昨日、彼女は激しい拒絶反応を示した。絶対に離れたくない、と訴えていた。だとしたら、いまの感情は賛成か反対か、どちらにあるだろうか?

 

 それは、言わずとわかっていることだった。だが、悲しいかな。それに気付いているのは、彼のみだったのだ。

 

 

「明るくいきましょう。これが、()()()()()()()()()になるんだから」

 

 穂乃果の異変を察したのか、気分を入れ替えようと明るい声を出す。が、それは言ってはならないことだと、明弘は勘付き、目の色を変えた。

 

 

 

「……私がもう少し周りを見ていれば、こんなことにはならなかった」

 

 まずい…、そう口にした時には、すでに遅かった。

 

「そ、そんなに自分を責めなくても……」

「私が何もしなければ、こんなことにはならなかった!!」

 

 花陽は、自責する穂乃果を慰めようとするも、跳ね退けられる。穂乃果は自身に責任を感じていた。それも、測り知れないほどに。

 

「少し落ち着け、穂乃果……。お前が激情してもなにも変わりはしな――――」

「わかってるよ! でも、私が失敗したからこんなことになっちゃった! もっと周りのことをわかっていれば、こんなことにはならなかった!!」

 

 明弘の声も、跳ね退けられる。

 彼は、彼女に現状を打開する案を考えようと持ちかけようとしていた。流れが一方に傾くのであれば、それに抗うための一矢を放つことが、彼の使命なのだと直感した。だから、穂乃果の気持ちを少しばかりか理解している彼が手を差し伸べようとした。

 

 けれど、それは遅かったのかもしれない。彼女は、周りを拒絶しだしていた。いまの彼女には、何も聞こえなかった。

 

 

「アンタねぇ……!」

「そうやって、全部自分のせいにするのは傲慢よ!」

「でも!!」

「それをここで言って何になるの? 何も始まらないし、誰も良い思いをしない」

 

 にこと絵里はそんな穂乃果に声を上げる。さらに絵里は、言い聞かせるように穂乃果に迫った。

 

 絵里の言うことはもっともだ。一度決まったことを、とやかく言うのはよくない。いまここで言っても、この場の空気が悪くなるだけだし、何も変わりはしない。もっとものことだとも。

 

 

 だがしかし、それを絵里が言うことに、いささか疑念があった。

 あの絵里が、だ。廃校の話が囁かれた時から必死に抗い続けてきたあの絵里が、こんなにも簡単に受け入れてしまったことに、明弘は疑念を抱く。もし、あの時の絵里がそこにいたとすれば、必死に喰らい付いていたことだろう。

 

 多分、彼は彼女のそうしたところをわずかに期待していたのかもしれない。自分ではなく、彼女が正しい方向を見出してくれるものと、そう思いこんでいたのだろう。だが、それは大きな間違いだった。(はなは)だしい思いこみだ。そんな都合のいい考えを持っているはずもない。第一、彼は絵里ではないからだ。

 

 

「ラブライブだって、まだ次があるわ」

「そうよ! 次も出場して、今度こそは優勝してみせるんだから! 落ち込んでいる暇なんて無いわよ!」

 

 次があると、真姫が穂乃果を励まそうとし、にこもそれに乗っかってやる気を見せた。

 

 

 しかし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出場してどうするの?」

 

 

『……え……?』

 

 

 何か、決定的な何かが、彼女たちの間に生じた。

 

 穂乃果が放ったその言葉は、彼女たちに強烈な衝撃を与えた。その一言が、何かを運命付けたかのようにも聞こえたのだ。

 

 

「出場して、優勝してどうなるの? しても意味ないじゃん」

「ほの、か……」

 

 暗く、淀んだ声が彼女たちに臨む。

 

「それに、無理だよ。優勝するにはA-RISEを越えなくちゃいけないんだよ。みんな見たじゃん、あのすごいライブを……。いくら頑張ったって、できっこないじゃん」

 

 何もかも投げ出したかのような無責任な言葉。もうどうでもいい、そんな様にも捉えられるその言葉に怒りを覚える者がいた。

 

「アンタ……それ、本気で言ってる……? 本気で言ってるなら、許さないわよ……」

 

 にこだ。

 誰よりもアイドルが大好きで、誰よりもアイドルになりたいと願い、誰よりもアイドルへの情熱が強い彼女だ。彼女にとって、穂乃果の言葉は聞き捨てならないものだった。

 

 

「許さないって言ってるでしょ!!」

「だめっ!!」

 

 何も言わず、ただ黙りこむ穂乃果に激怒した。穂乃果の胸ぐらを掴みかかろうとするが、寸前で真姫に抑えられる。にこの気持ちも分からなくない。けれど、ここで穂乃果を傷つけるようなことがあれば、それこそ取り返しがつかないことだった。

 

「話しなさいよ!! にこはね! アンタが本気だと思ったから、本気でアイドルをやりたいんだと思ったからμ’sに入ったのよ! にこに出来なかったことをやってくれると信じて、ここに賭けようと思ったのよ!! それを……ここで諦めるの?! こんなことくらいで、やる気を無くすの?!」

 

 にこは溜まっている感情のすべてを曝け出した。彼女のこのμ’sにいた数カ月の思いだけではない、彼女がアイドルになろうと決意したその年月分もの思いをすべて込めて、穂乃果に言い放ったのだ。

 一旦、激情に駆られてしまえば、そうならざるを得ないのは仕方のないこと。だが、この時にこは、とんでもないミスを口にしてしまう。

 

 

 それに気が付き滂沱の汗を流す明弘。だが、彼が言う前に、黙り込んでいた穂乃果が叫んだ。

 

 

「こんなこと……? こんなことって、なに……? ことりちゃんがいなくなっちゃうのが、こんなことなの……? 酷いよ、酷いよね……? ことりちゃんは私の親友だし、にこちゃんのお友達、μ’sの仲間なんだよ? それを簡単に諦めるなんてどうしてできるの? 離れ離れになって、もう逢えなくなっちゃうのに、どうしてそんなことが言えるの!? もう一生逢えないかもしれないのに、こんなことって言いきっちゃうの?! できないよ、そんなこと!! それが、みんなの気持ちなの…? みんな、ことりちゃんにいなくなってほしいの……?」

「ち、違うわよ……私はそんなつもりで言ったわけじゃ……」

「じゃあ、どうしてことりちゃんを止めないの!!? 止められたよね……? 私じゃなくても止められたよね? みんなが言えば、きっとことりちゃんも気持ちを変えてくれるって思わなかったの? どうして、そうしてくれなかったの!!?」

 

 穂乃果の逆鱗は凄まじいものだった。荒々しいほどの剣幕を見せる彼女に、激怒するにこも思わず血の気を引いてしまう。突然、穂乃果が怒りだした、というわけじゃない。彼女はずっと、ことりのことを考えていた。彼女にとって、ことりがいなくなることほど悲しいことは無いし、彼女のいないμ’sなど考えられなかった。だから、にこが故意で言ったのではないが、咄嗟に出たその言葉が許せなかった。

 

 そして、穂乃果の言葉が酷く胸に突き刺さり、苦しむ少女が。

 

 

 さすがにまずいと感じたのか、明弘は思考を巡らせた。穂乃果のあの一言で、彼女たちの間は崩壊寸前になってしまった。この状況を打破するための方策を必死に思い付こうとする。だが、こういう時に限って脳は回転しない。どうしたらいい、どうしたらいい、と同道巡りを繰り返し一歩も進まない。

 いまの彼は、俯いたままで何もしない石像と何ら変わらなかった。

 

 

 

 

 

 そんな時だった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、穂乃果はどうすればいいと思ったの? そして、これからどうしたいの?」

 

 酷く落ち着いた、絵里の声が一帯に広がる。激情する穂乃果とは対照的に。

 この声が彼女たちの声を一度かき消した。これに対しての返答が、本当の意味で彼女たちのこれからを示しているように思えたからだ。

 

 穂乃果は再び沈黙する。

 

 

 何を考えているのだろうか……。いま穂乃果の頭の中では、何が考えているのだろうか、とそればかりを気にしている。彼女たちは息を呑んだ。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめます」

 

 

 

 

 一言。すべてが白に変わってしまう、淡白な一言が吐き出された。

 

 

 

 

 

 

『……え……?』

 

 誰もが自分の耳を疑った。雑音のような、聞き続けたくない音が耳に障ったように思えた。何かの間違いだ、そう思った矢先、穂乃果がもう一度言い放った。

 

 

 

 

 

「やめます。私、スクールアイドル、やめます」

 

『――――ッ!!!?』

 

 

 銃弾に撃たれるような衝撃が彼女たちを駆け巡った。彼女たちはみな、目を見開き、愕然とした様子で穂乃果を見た。

 しかめた表情――けれど、何もかもが嫌になったような死んだ目がすべてを物語っているように見えたのだ。彼女に問いかけた絵里は、顔面蒼白になり、いまにも膝を崩して倒れそうになる。結果的に、穂乃果に決断させてしまったことに自責の念を抱いてしまった。

 他のメンバーたちも穂乃果の口にしたことに反論したかったが、自らを振り返ってみて、それを言える立場にあるのか、と自問した。答えは、そろってNOだ。彼女たちは、穂乃果の気持ちを考えていなかった。少なくとも、穂乃果を加えて今回の話を進めるべきだった。けど、しなかった。結局、彼女たちは彼女たちが完成させた道に穂乃果を誘おうとしたにすぎない。それが穂乃果の望んでないものであったとしても、もうできてしまったからと、どこかで諦めていたのだ。

 そんな彼女たちだ、言えるはずもなく、ただ黙ってしまうばかりだった。

 

 

 

 けれど、ただ1人だけ、穂乃果の前に立った。

 

 

「穂乃果……お前、それでいいのか?」

「……弘君」

 

 

 明弘だ。

 彼は、絵里たちの話に参加していない。限りなく穂乃果に近い立場にあった。だから、こうして面と向かって離そうとできるのだ。

 

 

「お前は、そう簡単に諦めるのかよ……お前たちが築き上げてきたものを一瞬で壊せるものかよ?!」

 

 明弘は怒っていた。いや、怒らないはずがなかった。何せ、スクールアイドルをやりたいと言い出したのは、この穂乃果であり、明弘たちに協力してと言ってきたのもこの穂乃果だったからだ。いい加減で、我儘に突き通して来た彼女が、こんな時でさえも突き通そうとしていることに我慢ならなかった。

 

「蒼一が、ここまでお前のためにやってきたというのに、そのお前が蒼一の気持ちを踏みにじるつもりなのか?!」

 

 最初は黙っていた穂乃果も、あの言葉を聞いてしまえば反応せざるを得ない。穂乃果にとって、ことりと同等に大事に思っている蒼一のことであれば……

 

「弘君には関係ないよ!! 弘君が私と蒼君のことに口を挿まないで!! 私は、もうどうでもよくなったの! スクールアイドルとか、ラブライブとか、学校のこととか……!!」

 

 彼女は本気だった。その口からラブライブのことだけでなく、この学校のことさえも諦めていることに誰もが驚愕した。明弘は堪らず頭から血管が浮き出るほどに血が上りだす。いまにも、穂乃果を殴り飛ばしてしまいそうだ。

 

 

「―――蒼一のこともか?」

 

 穂乃果の言葉に付け足すかのように、明弘は口にする。これは、彼からの最終勧告だ。答えによってはどうなることかわかったものじゃない。彼はギロリと鋭い瞳を向け、その答えを待った。

 

 穂乃果は一瞬、躊躇う様子を伺わせたが、その死んだ目は決まっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう、どうでもいいんだよ!!」

 

 

――これが、穂乃果の出した答えだった。すべてを、本当に投げ捨てた彼女の言葉だった。

 

 

 その一瞬のことだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァーーーーン!!!!

 

 

 

―――鋭く、乾いた音が、空に残響した

 

 

 

「……ぁ……あぅぁ……」

 

 穂乃果は、その時、何が起きたのかわからなかった。無論、そこにいた彼女たちもだ。ただ快音が飛び、穂乃果の呻く声が漏れ、その頬が赤く腫れていた。

 

 

 そう、明弘は、その手で穂乃果の頬を叩いたのだ。

 

 

 彼は以前と鋭い目つきを崩さなかった。逆に、さらに険しく彼女を睨みつけ、蔑むかのように見たのだった。そして、こう吐き捨てた。

 

 

「だったらやめちまえ!! 何もかもをだ!! お前がそんなヤツだったとは思いもしなかった! 見損なったぞ!! お前ならば、アイツのためにと思っていたのだが、それすらも簡単に切り捨てやがるんだな、お前はっ!! 蒼一も、いまのお前の姿を見たら失望するだろうな!!!」

 

 彼の怒りは頂点を越えていた。彼は、穂乃果の小馬鹿にする態度が気に入らなかっただけでなく、恋人である蒼一のことさえも蔑ろにしたことに腹が立って仕方がなかったのだ。かつて、彼女でなければ蒼一を救えないと考えていた彼は、いまからその考えを改めるのだった。

 

 穂乃果は、やっと痛みを感じてきたのか、腫れた頬を手で押さえじわりと涙を浮かばせ始めた。それだけではない、彼が突き刺した言葉が穂乃果に深刻な傷を負わせたのだ。自分の犯してしまったことに気付いた彼女は、その場に崩れ、呆然と虚空を眺めるしかなかった。

 

 

「やっていられんな……俺は降りるぞ……」

 

 彼は絶望する穂乃果を横目に、この場を去った。誰も彼を止めようとしなかった。いや、止められなかった。こんなことになり、心が崩れてしまった彼女たちに彼を止める術など無かったのだ。それよりも、自分たちの方を心配しなければならない、そんな状態なのだ。

 

 

 いまのμ’sは、精神的支柱である蒼一が不在。穂乃果は意気消沈。最大の助け手であった明弘もいなくなった。事実上、μ’sの存続自体が危ぶまれる状況に陥ってしまった。

 かつて、あんなにも結束が硬く、躍進的な活動を見せてきた新星たちは、巨大な障壁を前に墜落する。ひとつひとつは個性的な輝きを見せる宝石のようだったが、束ねることができなかった。それらを通し、束ねさせる紐のような存在に寄りすがっていたにすぎない。紐に通されていれば、衝撃が加わってもバラバラにはならない。が、それが無くなってしまった時、どうなるのか知っている。

 

 

 床に落とされた宝石たちは、バラバラに飛び散る。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 彼女たちもまた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 バラバラになった………

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。

さあ、ちょっとシリアスが濃くなってきましたねぇ…病んでないので、さらなる問題は起こらないはず……なんですけどね……。

これからどうなっていくのか?
蒼一はいつになったら戻ってくるのか?


というか、アニメ本編のセリフがうる覚え過ぎてて、これであってるのかわからん!



気になるところはいろいろありそうですわ。



次回もよろしくお願いします。



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